著者
豊國 伸哉
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.362-367, 2009 (Released:2009-10-08)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

目的.アスベストの発がん機構を解明する.方法.アスベスト(UICC: クリソタイル,クロシドライト,アモサイト)の物理化学的な性質を再検討する一方,培養細胞や実験動物個体にアスベストの投与を行い,生物学的性質を詳細に評価した.結果.ラジカル発生の触媒能はアモサイト>クロシドライト>>>クリソタイルであり,それは種々のキレート剤の存在で修飾を受けた.貪食細胞以外に,中皮細胞や腺癌細胞もアスベスト繊維を取り込み,核内にいたることを観察した.supercoiled plasmid DNAを使用して,各アスベストの2本鎖DNA切断能を検討した.鉄含量の高いアモサイトとクロシドライトで2本鎖切断を認め,繰り返し配列部位やG: C塩基間で切断しやすいことが判明した.ラット腹腔内に各アスベスト繊維を投与すると,全アスベスト投与グループで,中皮細胞で酸化ストレス増加を認めるとともに特に脾臓において鉄沈着を認めた.結論.クリソタイル腹腔内投与も中皮腫を発生する事実と考えあわせると,アスベスト発がんにはアスベストに含まれる鉄のみならず,他の機序で発生する過剰鉄も重要な役割を演じていることが示唆され,中皮腫発生の予防標的として期待される.
著者
今井 浩三 中村 卓郎 井上 純一郎 高田 昌彦 山田 泰広 高橋 智 伊川 正人 﨑村 建司 荒木 喜美 八尾 良司 真下 知士 小林 和人 豊國 伸哉 鰐渕 英機 今井田 克己 二口 充 上野 正樹 宮崎 龍彦 神田 浩明 尾藤 晴彦 宮川 剛 高雄 啓三 池田 和隆 虫明 元 清宮 啓之 長田 裕之 旦 慎吾 井本 正哉 川田 学 田原 栄俊 吉田 稔 松浦 正明 牛嶋 大 吉田 進昭
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)『学術研究支援基盤形成』
巻号頁・発行日
2016

①総括支援活動 : 前年度立ち上げたホームページ(HP)に改良を加えて公募の円滑化を進めた。モデル動物作製解析の講習や若手研究者の交流促進を推進する技術講習会を開催した。成果ワークショップを開催し本活動の支援成果をアピールした。②モデル動物作製支援活動 : 相同組換えやゲノム編集など支援課題に応じた最適な胚操作技術を用いて、様々な遺伝子改変マウスおよびラットを的確かつ迅速に作製し、学術性の高い個体レベルの研究推進に資する研究リソースとして提供した。件数は昨年度より大幅に増加した。③病理形態解析支援活動 : 昨年より多い35件の病理形態解析支援を7名の班員で実施した。研究の方向性を決定づける多くの成果が得られた。論文の図の作成にもかかわり、論文が受理されるまで支援を行った。その結果、より高いレベルの科学誌にも受理された。④生理機能解析支援活動 : 疾患モデルマウスの行動解析支援を実施するとともに、諸動物モデルでの規制薬物感受性解析、光遺伝学的in vivo細胞操作、意志決定に関与する脳深部機能解析、等の支援を展開した。⑤分子プロファイリング支援活動 : 依頼化合物の分子プロファイリング316件、阻害剤キット配付86枚、RNA干渉キット配付・siRNAデザイン合成83件、バーコードshRNAライブラリーによる化合物の標的経路探索15件、を実施し、より多くの研究者の利便性を図った。
著者
豊國 伸哉 蒋 麗 胡 茜 永井 裕崇 岡崎 泰昌 赤塚 慎也 山下 依子
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.562-567, 2011 (Released:2011-06-24)
参考文献数
36
被引用文献数
2 5 2

Several types of fibrous stone called asbestos have been an unexpected cause of human cancer in the history. This form of mineral is considered precious in that they are heat-, friction-, and acid-resistant, are obtained easily from mines, and can be modified to any form with many industrial merits. However, it became evident that the inspiration of asbestos causes a rare cancer called malignant mesothelioma. Because of the long incubation period, the peak year for malignant mesothelioma is expected to be 2025 in Japan. Thus, it is necessary to elucidate the mechanisms of asbestos-induced mesothelial carcinogenesis. In this review, we summarize the cutting edge results of our 5-year project funded by a MEXT grant, in which local iron deposition and the characteristics of mesothelial cells are the key issues.
著者
豊國 伸哉
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ゲノム情報の変化は発がん過程で重要な役割を果たしている。本研究においては、培養細胞や個体各臓器の細胞のゲノム配列において、紫外線・放射線あるいは鉄を介した酸化ストレスによってDNA塩基への傷害が起こりやすい部位をアレイ技術の応用により網羅的に同定し、その法則性を見いだすことを目的とした。これまでに、私たちは鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)腹腔内投与による腎発がんモデルを開発し、その病態に酸化ストレスが関与すること、主要な標的遺伝子にCDKN2Aがん抑制遺伝子やptprz1遺伝子などがあることを示し、ゲノムに酸化ストレスに対して欠損・増幅しやすい領域があることを報告した。今年度は遺伝解析より新たにalninoacylase-1にがん抑制遺伝子としての作用があることを見いだした。昨年度に引き続き、モノクローナル抗体で修飾塩基を含むDNA断片を免疫沈降する技術とマイクロアレイ技術を組み合わせることにより、ゲノム内の酸化ストレスに対する脆弱部位を網羅的に解析した。Fe-NTA腹腔内投与による腎癌モデル初期において代表的な酸化修飾塩基である8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)に対するモノクローナル抗体を使用した実験を反復した。対照のラット腎臓ならびにFe-NTA投与3時間後の腎臓からゲノムDNAを抽出し、制限酵素BmgT120Iで切断後,DNA断片の免疫沈降を行い,8-OHdGを含むDNA断片を回収した。DNA断片を蛍光色素でラベルした後CCGHのアレイにハイブリダイゼーションし解析を行った。すると、8-OHdGは非遺伝子領域に高密度に分布し、遺伝子領域には相対的に低密度に分布することが判明した。ゲノムの遺伝子密度と8-OHdGの存在頻度に有意な負の相関を認めた。分布のパターンそのものは対照と酸化ストレスのかかった状態でほとんど差が見られなかった。CDKN2A部位では酸化ストレス時に8-OHdGの増加を認めた。
著者
豊國 伸哉
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.362-367, 2009
被引用文献数
4

<b>目的</b>.アスベストの発がん機構を解明する.<b>方法</b>.アスベスト(UICC: クリソタイル,クロシドライト,アモサイト)の物理化学的な性質を再検討する一方,培養細胞や実験動物個体にアスベストの投与を行い,生物学的性質を詳細に評価した.<b>結果</b>.ラジカル発生の触媒能はアモサイト>クロシドライト>>>クリソタイルであり,それは種々のキレート剤の存在で修飾を受けた.貪食細胞以外に,中皮細胞や腺癌細胞もアスベスト繊維を取り込み,核内にいたることを観察した.supercoiled plasmid DNAを使用して,各アスベストの2本鎖DNA切断能を検討した.鉄含量の高いアモサイトとクロシドライトで2本鎖切断を認め,繰り返し配列部位やG: C塩基間で切断しやすいことが判明した.ラット腹腔内に各アスベスト繊維を投与すると,全アスベスト投与グループで,中皮細胞で酸化ストレス増加を認めるとともに特に脾臓において鉄沈着を認めた.<b>結論</b>.クリソタイル腹腔内投与も中皮腫を発生する事実と考えあわせると,アスベスト発がんにはアスベストに含まれる鉄のみならず,他の機序で発生する過剰鉄も重要な役割を演じていることが示唆され,中皮腫発生の予防標的として期待される.<br>
著者
豊國 伸哉
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1044, 2013 (Released:2013-08-14)

1981年以降,日本人死因の第1位はがんである。喫煙や特定の感染症が発がんリスクとして同定された。しかし,産業・経済を重視するあまり,リスク評価が十分になされず,ナノマテリアルが社会に多量に持ち込まれ,がんの原因となったことも忘れてはならない。それが繊維状鉱物のアスベストであり白石綿・青石綿・茶石綿が使用された。日本では2006年に禁止となったが,アジアの諸国やロシアなどでは今も使用されている。日本の中皮腫発生ピークは2025年で今後40年間に10万人以上の方が中皮腫で死亡すると試算されている。ラットを使用して上記3種の石綿で,腹腔内10mg投与により中皮腫発がん実験を行った。2年の経過でほぼ全動物に中皮腫が発生した。石綿投与に伴い,同部の中皮細胞や貪食細胞に著明な鉄沈着を認め,Fenton反応促進性のニトリロ三酢酸の追加投与でどの石綿でも中皮腫発生が早くなった。93%の腫瘍でCdkn2A/2Bのホモ欠損を認めた。アスベスト発がんでは局所の過剰鉄病態が重要なことが示唆された。このような背景のもと,すでに中皮腫の危険性の報告のあった多層カーボンナノチューブ(CNT)の評価を行った。CNTは軽量・高強度で熱伝導性が高く導体・半導体になることからすでに電池・液晶パネルのマテリアルとして使用されているが,形状は石綿に酷似している。直径が15/50/115/150nmのCNTを使用し中皮細胞毒性実験と上記と同様のラットを使用した発がん実験を行った。中皮細胞への毒性と発がん性はほぼ一致し,50nmの発がん性が最も高かった。Cdkn2A/2Bのホモ欠損をほぼ全例で認めた。このことは,剛性が高い50nm直径のCNTは特に注意して扱うべきことを示唆している。一方,石綿はendocytosisで中皮細胞に取り込まれるが,CNTは突き刺さり入ることも明らかになった。ヒトで体腔に繊維が到達することはそう簡単ではないと考えられるが,ますます長寿化が進む現在,十分なリスク評価が必要と考えられる。
著者
大槻 剛巳 中野 孝司 長谷川 誠紀 岡田 守人 辻村 亨 関戸 好孝 豊國 伸哉 西本 寛 福岡 和也 田中 文啓 熊谷 直子 前田 恵 松崎 秀紀 李 順姫 西村 泰光
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.543-552, 2011 (Released:2011-06-24)
参考文献数
73
被引用文献数
1

The research project entitled “Comprehensive approach on asbestos-related diseases” supported by the “Special Coordination Funds for Promoting Science and Technology (H18-1-3-3-1)” began in 2006 and was completed at the end of the Japanese fiscal year of 2010. This project included four parts; (1) malignant mesothelioma (MM) cases and specimen registration, (2) development of procedures for the early diagnosis of MM, (3) commencement of clinical investigations including multimodal approaches, and (4) basic research comprising three components; (i) cellular and molecular characterization of mesothelioma cells, (ii) immunological effects of asbestos, and (iii) elucidation of asbestos-induced carcinogenesis using animal models. In this special issue of the Japanese Journal of Hygiene, we briefly introduce the achievements of our project. The second and third parts and the third component of the fourth part are described in other manuscripts written by Professors Fukuoka, Hasegawa, and Toyokuni. In this manuscript, we introduce a brief summary of the first part “MM cases and specimen registration”, the first component of the fourth part “Cellular and molecular characterization of mesothelioma cells” and the second component of the fourth part “Immunological effects of asbestos”. In addition, a previous special issue presented by the Study Group of Fibrous and Particulate Substances (SGFPS) (chaired by Professor Otsuki, Kawasaki Medical School, Japan) for the Japanese Society of Hygiene and published in Environmental Health and Preventive Medicine Volume 13, 2008, included reviews of the aforementioned first component of the fourth part of the project. Taken together, our project led medical investigations regarding asbestos and MM progress and contributed towards the care and examination of patients with asbestos-related diseases during these five years. Further investigations are required to facilitate the development of preventive measures and the cure of asbestos-related diseases, particularly in Japan, where asbestos-related diseases are predicted to increase in the next 10 to 20 years.
著者
日合 弘 賀本 敏行 豊國 伸哉 福本 学 石本 秋稔 鶴山 竜昭 阿不江 ぱ塔爾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本助成金を受けて、計画の大部分を達成するとともに、著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系 SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA、genomicDNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/K pumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contigを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRI系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。