著者
横山 智 高橋 眞一 丹羽 孝仁 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.291-308, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
38
被引用文献数
2

本研究は,ラオス北部の盆地に位置するラオ族が設立した2村において,人口動態と水田所有の変化を3世代にわたって明らかにした.1970年代以降,政府の政策により高地から低地への移住が進められたが,研究対象地域では新しく水田を造成する土地は限られていた.したがって,高地から移住してきた住民であるクム族の多くは,水田を得ることができず,高地に住んでいた時と同様に自給自足的な焼畑農業を継続していた.1970年代以降の水田所有の変化を追跡したところ,水田を入手する一般的な方法は,離村した住民から水田を購入することであり,多くの住民は,その機会を待ちながら,水田の購入資金を準備するために都市へ出稼ぎに行くことが常態化するようになった.このような低地の盆地農村における高地からの移住者は,水田の少ない盆地にとどまるか,都市に移住するかの選択を迫られており,また高地と都市との移住の中継点として盆地農村が機能している.
著者
穐丸 武臣 丹羽 孝 勅使 千鶴
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-78, 2007-06-23

本研究は幼稚園と保育所の保育教材として導入されている「伝承遊び」の実施状況と保育者の認識について、郵送法によるアンケートの全国調査を分析したものである。調査対象は全都道府県の都市部とそれ以外の市町村から多段階抽出法によって幼稚園568ヵ園、保育所590ヵ所、合計1158ヵ所を抽出した。回収数は651ヵ所、回収率は約56%であった。その結果、日本ではほぼ全て(99%)の幼稚園・保育所において伝承遊びが実施されており、保育教材として活用されていた。保育活動への伝承遊び導入の理由は、(1)子どもの成長や発達に有効であること、(2)日本の遊び文化の継承のためとするものであった。しかし、伝承遊びを普及・充実する際の隘路としては、幼稚園教諭と保育士(以後 保育者)自身の伝承遊びに対する力量不足を認識しており、研修の必要を認める結果であった。
著者
丹羽 孝仁 西本 太 高橋 眞一 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.279-290, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究は,ルアンパバーン県HB村の事例分析によって,ラオスの農村地域における人口動態の特徴を農村間人口移動の側面から明らかにした.その結果,農村における人口の変化には,次の3点の農村間人口移動が影響を及ぼしていることが分かった.①移住促進政策や結婚移動などの農村間移動を背景とする社会増減と移動後の自然増減の双方が大きく影響している.②農村間移動において移住先での生計の可能性を最大化できるように,新たな農地の獲得可能性や,従前の居住地にある農地へのアクセシビリティ,血縁・地縁のネットワークの有無が検討されている.③農村間移動が活発な背景には,移動前後で農業を主体とする生業に大きな変化がなく,生計を維持できる可能性が高いことがあげられる.ただし,利用可能な低地水田は限られており,米を十分に獲得することが難しい場合には,出稼ぎによる現金獲得が目指されている.
著者
高橋 眞一 横山 智 西本 太 丹羽 孝仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.264-278, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ラオス中部に位置する天水田稲作農村において,年率2%を超える長期の人口増加と村びとの生業の対応との関連を世代別に明らかにした.1920年代後半に開村した村の第1世代から第4世代まで,生業の要である水田取得が人口増加とともに開田から,相続,そして購入へと変化した.人口増加による土地の余力がなくなってきた第3世代から他の農村への移動が増加した.さらに人口増加が続いた第4世代になってタイへの出稼ぎ専業層の出現によって,人口増加による水田の不足は軽減された.この村における人口増加への対応は,農業生産性の向上,都市への移動ではなく,ラオス中部の水田拡大を背景とした農村間人口移動の加速とタイ出稼ぎの増加であった.そして近年の家族計画普及による人口増加の終焉は,この地域の農村の生業の方向を変えていくであろう.
著者
日野 正輝 丹羽 孝仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.47, 2010

1.研究の背景と目的<br> 東南アジアの都市化の様相は1980年代後半に大きく変化した(田坂,1998).小長谷(1997)は,その変化を過剰都市化から「FDI型新中間層都市」への移行と概念化した.McGee & Robinson(1995)は急速に膨張した首都圏域を指してMega Urban Regionと呼んだ.また,労働力移動に関しても,新規学卒者などのフォーマルセクターへの就業を内容とする人口流入が人口移動モデルのなかで大きく描かれてきた(松薗,1998).この傾向は,急増した外資系企業を含めた大都市のフォーマルセクターが求める人材は中等教育以上の学歴を持った若年層であって,農村部の既就業者でないことを示唆するものであった.<br>本研究は,タイの都市化の構造変化に関する上記した状況認識から,タイ北部の中心都市チェンマイ周辺に立地する中高等教育機関を対象に新規学卒者の進路先調査を実施したものである.<br><br>2.調査地域および調査対象の概要<br>調査地域:チェンマイはタイ北部の中心都市である.2000年現在のチェンマイ郡の人口は238千人(2009年)である.同地域では卓越した規模を誇る.チェンマイの主要な都市機能は行政・教育,商業,観光業である.製造業の集積は小さい(遠藤,1991).調査方法:チェンマイ周辺に立地する中高等教育機関として,中学・高校一体の中等教育機関3校,職業専門学校3校,大学5校を選び,訪問調査により入学者および新規卒業者の就職先等について聞取り調査を実施した.<br> 調査対象:中高校3校,職業教育学校3校(国立2校,私立1校),大学5校(国立4校,私立1校)<br><br>3.調査結果<br>_丸1_高校卒業生の大半が大学および職業専門学校への進学者であった.進学先は地元大学を強く指向している. <br>_丸2_タイでは,普通教育とともに職業教育ははやくから実施され,現在も中卒段階で5年制の職業専門学校に進学する生徒が多い.専門学校への入学者は一部に全国から生徒を集める私立学校があるが,国立の専門学校の場合は自県内からの進学者がほとんどである.専門学校の後期課程修了者の半数が主に地元の大学に編入学している._丸3_大学入試は基本的にはクォーター入試と一般入試からなる.前者は受験生を北部地域に限定して行われる.全入学者に占めるクォーター入試合格者の比率は大学によって異なる.卒業後の就業先地も,チェンマイ地域に就業する者が卓越する.ただし,大学評価の相対的に高いチェンマイ大学やメーチョ大学ではバンコク都市圏に就職する卒業生は相対的に多く,その点では部分的ではあるが卒業生をバンコク都市圏に送り出す働きをしていると言ってよい.外資系企業が立地する東部臨海地域にあるチョンブリ,ラヨン県にも就職している.<br><br>4. 調査結果の含意<br> バンコク大都市圏への人口集中に関連して,地方都市から進学目的による流入者が描かれてきたが,北タイの場合には,大学進学者の多くは地元の大学に進学し,バンコク都市圏に転出する比率は低い.大卒者の場合も,地元に留まる者が多かった点は,タイの若年人口の地域間移動を理解する上で留意しておく必要がある.加えて,現在タイは「産業構造の高度化に先行する高学歴社会の到来」の状況にあると言ってよい.そのためタイ社会にとっては今後高学歴者の雇用創出が課題になると同時に,低賃金労働部門での外国人労働力への依存が高まることが予想される.他方,日系企業を含めた外資企業においては,安価な若年労働力を大量に確保することは大都市圏のみならず地方においても困難になると予想される.<br><br>参考文献<br>遠藤 元(1991):北タイ,チェンマイ市の人口成長とその要因.経済地理学年報,37,201-224頁.<br>小長谷一之(1997):アジア都市経済と都市構造.季刊経済研究,20,61-89頁.<br>田坂敏雄編(1998):『アジアの大都市 1:バンコク』日本評論社,335頁.<br>松薗祐子(1998):就業構造と住民生活.田坂敏雄編『アジアの大都市 1:バンコク』日本評論社,191-209頁.<br>McGee, T. G. & Robinson, I. M. eds. (1995): The Mega Urban Regions of Southeast Asia, UBC Press.
著者
丹羽 孝良
出版者
桐生市立清流中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

研究の目的は、水の電気分解の電源として植物の光合成を利用した中学生向けの実験教材を開発することである。植物生体電位測定装置(μAを計測できるデジタルマルチメーターと電極粘着パッドまたは亜鉛板を電極として植物体内の電流値を計測できる装置)を使って、植物の生体電位(電流)の変化を観察した。この観察対象植物として、葉がしっかりしていて、かつ繁殖が容易なコダカラペンケイソウを選定し大量培養を7月から試みたが、10月をまわっても十分な成長が見られず、断念した。そこで、肉厚で亜鉛板電極が差し込みやすいサボテンを使って、厚さ1mm、幅1cmの亜鉛板の先1cmをサボテンの手前側と奥側の2カ所に差し込み、植物体内からの電流値を測定した。日陰での電流値は、亜鉛板を差し込んだ直後が最大(およそ60μA)で、時間の経過とともに減少したので、落ち着いたときの電流値を測定した(およそ40μA)。このサボテンを太陽光にあてると、若干の電流値の増加が見られた(+10%程度)。光合成との因果関係は不明だが、水の電気分解に必要な電流値(0.1A)は、2500鉢のサボテンを直列につなぐことで可能になるはずである。一方、白色LEDを光源にすると、若干の電流の現象が見られた(-10%程度)。LEDに代わる照明として植物生育用の蛍光灯の利用を考えたが、大量のサボテンに対する蛍光灯の数を考えると、電気分解に必要な電流を取り出す以上に電流を消費してしまうことになるので、光源としては、太陽光が最善であることがわかった。サボテンと亜鉛板の組み合わせで40μAをデジタルマルチメーターで計測する教材を試作した。結果として、サボテン単体から電流を取り出すことには成功したが、複数個のサボテンを直列につないで、電気分解に必要な0.1Aを取り出すことはできなかった。+極、一極の電気極性をそろえられないことが原因だと考えられるが、実証に至っていない。