著者
花田 恵介 空野 楓 河野 正志 竹林 崇 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.118-126, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
20

右手動作の拙劣さと両手に道具把握の障害を呈した,左の前頭葉および頭頂側頭葉梗塞例を経験した.手指分離動作は十分可能で協調運動障害もなかった.しかし,右手での手指形態模倣や,衣服のボタン操作,手袋の操作が困難であった.さらに箸やスプーン,ハサミなどが,左右手ともうまく把握できなかった.この症状に対して右手の課題指向型訓練を14日間実施した.本例は道具を一旦正しく把握できれば,それ以降の使用動作は問題なく行えた.また,把握の誤りは,検査者が道具を手渡したり,一方の手でもう一方の手に道具を持たせたりすると少なくなった.この残存能力を生かして訓練を行ったところ,日常生活における右手の使用頻度が増加した.
著者
花田 恵介 勝山 美海 河野 正志 竹林 崇 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.503-511, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
20

要旨:体性感覚障害は脳卒中後にしばしば起きる症状だが,体性感覚障害に対する介入が,対象者の内観や生活行動にどのような変容をもたらすかは明らかでない.今回我々は,重度の体性感覚鈍麻によって,日常生活で左手の使用に困難をきたした脳卒中慢性期の男性を経験した.Careyらが示した原則(1993,2012)に準じて,体性感覚刺激を弁別したり同定したりする能動的感覚再学習を1回1時間,週2回,8週間行ったところ,左手の体性感覚の一部と日常生活における使用感が改善した.改善の背景に,残存能力を用いた意識的な代償がうかがわれ,能動的感覚再学習がそれを促した可能性が考えられた.
著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005 (Released:2005-04-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.
著者
平山 和美
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.238-250, 2017-12-25 (Released:2018-01-11)
参考文献数
31

大脳の底面と内側面で認知的処理と関連する領域の多くは,脳の後方,すなわち後頭葉や側頭葉,頭頂葉にある.その下方の内側底面では,おもに視覚に関する認知的処理が行われる.損傷によって大脳性色覚障害,統合型視覚性物体失認,失認性失読,相貌失認,街並失認,物品の形イメージ喚起障害,物品の色のイメージ喚起障害が起こる.最前部の損傷では健忘が起こる.上方の内側面では,左の脳梁膨大後域損傷で健忘,右の脳梁膨大後域損傷で道順障害が起こる.両側あるいは左側の楔前部の損傷では,ゴールに向けて自分が行っていることやその時の状況を把持することの障害が起こる.これらの事実から,認知的処理における大脳底面・内側面の役割を推測した.
著者
花田 恵介 竹林 崇 河野 正志 市村 幸盛 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.550-558, 2019-10-15 (Released:2019-10-15)
参考文献数
29

脳卒中片麻痺患者を対象に加速度計(ActiGraph Link GT9X)を用いた上肢活動量計測を行い,本邦においてもこの評価が妥当であるか否か,および2点計測法と3点計測法のどちらが,より妥当な手法であるかを検証した.本研究は単一施設の横断研究で,37名を対象とした.3点計測法は,各手の測定値を体幹部の測定値で減じた上で,左右手の活動量比や活動時間比を算出した.その結果,2点計測法と3点計測法のどちらであっても,麻痺側上肢の活動量と上肢機能評価の間に中程度から強い相関関係が示された.3点計測法の優位性は示されなかった.脳卒中患者の上肢活動量評価において,どのような計測方法や分析方法がより適切であるかは,引き続き検討を重ねる必要がある.
著者
細川 大瑛 平山 和美
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.168-177, 2020-12-25 (Released:2021-01-09)
参考文献数
24

記号,人物,風景,物品に関する意味記憶障害について解説した.意味記憶障害は,感覚の種類を超えた問題として起こる.記号の意味記憶障害では,記号とそれが指し示す事柄との対応ができなくなる.責任病巣としては左の側頭葉先端部が重視されている.人物の意味記憶障害では,人の顔,声,職業など種々の知識が失われる.風景の意味記憶障害では,ある場所の景観,聞こえる音,所在地など種々の知識が失われる.いずれも,右の側頭葉先端部が重視されている.物品の意味記憶障害では,物の形,出す音,用途など種々の知識が失われる.両側の側頭葉先端部病変が重視されている.
著者
平山 和美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.199-206, 2015-06-30 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
5 3

近年,ヒトの大脳における視覚情報処理には大きく分けて 3 つの流れがあると考えられている。(1) 腹側の流れは, 後頭葉から側頭葉に向かい, 対象を同定したり対象についての知識を呼び出したりするために色や形を分析する。(2) 腹背側の流れは, 下頭頂小葉に向かい, 対象の位置や運動を分析し対象を意識することに関わる。(3) 背背側の流れは, 頭頂間溝や上頭頂小葉に向かい, 対象の位置や運動,形を分析して, 対象に向けた行為の無意識的なコントロールに関わる。腹背側の流れの病変では, 失運動視症, 視覚性注意障害, 半側空間無視が起りうる。背背側の流れの病変では, 視覚性運動失調,把握の障害や自己身体定位障害が起りうる。これらの症状について責任病巣, 詳しい特徴などを, 上記 2 つの流れの機能との関係で論じる。
著者
藤本 寛巳 寺川 智浩 平山 和美 玉井 顯
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.156-160, 2023-06-30 (Released:2023-07-18)
参考文献数
6

発達性相貌失認は, 視力や知能, 注意, 記憶などには問題がないにもかかわらず, よく知っている人の顔を見ても誰であるかわからなくなる症状である。原因となる器質的脳損傷はなく, 画像検査上でも異常所見は認められない。発達性相貌失認を呈した 3 症例を紹介し, 相貌認知機能, 表情認知などを比較した。また, 幼少時から現在までの体験や心情についてインタビューを行った。3 症例とも職場の理解など社会生活を営むうえで多くの問題が残されており, 発達性相貌失認の存在と不自由を理解してもらうための啓発が最も重要であると思われた。

1 0 0 0 OA 視覚性失認

著者
平山 和美
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.21-30, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
26

視覚性失認とは、視力、コントラスト感度、視野に対象が何か分からないような障害がなく、知能や注意、言語、対象についての知識の問題もないのに、対象を見たときにだけそれが何か分からなくなる症状である。視覚性失認は、障害される情報処理の段階の観点から、形がまったく分からない「知覚型」、部分的な形を全体の形と関係付けられない「統合型」、形は完全に分かっているがそれを意味と結びつけることができない「連合型」の3つに分類される。また、分からなくなる対象の種類により、物品を見ても何か分からない「物体失認」、顔を見ても誰か分からない「相貌失認」、風景を見ても何処か分からない「街並失認」の3つに分類される。これらの症状について、症例を挙げながら説明した。
著者
佐々木 千波 平山 和美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.152-155, 2023-06-30 (Released:2023-07-18)
参考文献数
12

パーキンソン病 (以下, PD) にいくつかの種類の錯視が起こることは知られている。しかし, 患者がどのような種類の錯視をどのような頻度で体験しているのかは明らかでない。我々は, PD 患者 40 名に 19 種類の錯視について症状を伝え, そのような体験があるか否かを尋ね, 具体的な内容を聴取した。 結果, PD 患者 40 名中 30 名が発症後, 質問時までに錯視を体験していた。報告された錯視は, 変形視, 複雑錯視, 変色視, 選択性二重視が多かった。そのほかに, 多視, 大視, 小視, 遠隔視, 近接視, 動視, 失運動視, 加速視, 減速視, 傾斜視, 逆転視, 反復視がみられた。錯視が日常生活に悪影響を与えている場合もあった。PD の診療においては, 錯視の有無, 内容についての系統的な聴取が重要であると考えられた。
著者
平山 和美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.145-153, 2022-04-15 (Released:2022-04-15)
参考文献数
15

高次脳機能障害のうち麻痺や感覚障害によらずに特定の行為ができなくなる症状を取り上げ,解剖学的背景,脳画像での関連脳部位の見つけ方,症状の特徴および特徴に基づいたリハビリテーションアプローチの考え方について解説した.症状を上頭頂小葉+頭頂間溝の損傷によるものと下頭頂小葉の損傷によるものとに分けると,前者に対しては症状が生じない側の手や視野で行うこと,行為をなるべく意識化することや,生じた誤りを意識的に修正することが役立つ場合が多い.後者に対しては,行為の各過程のどの側面が障害されているのかをとらえること,行為の通常の方法にとらわれずまったく新しい方法を見つけることが有効な場合がある.
著者
坂本 和貴 平山 和美
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.153-160, 2019-09-25 (Released:2019-10-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

身体パラフレニアとは,病巣と反対側の麻痺した身体部位に対して,他の誰かの体の一部であると主張する症状である.右半球損傷で起こることが多く,責任病巣としては島,視床やその周辺の白質,前頭葉内側が重視される.多くの場合,片麻痺の病態失認,半身無視,重度の体性感覚障害の3つを伴う.しかし,片麻痺の病態失認とは二重解離し,半身無視のない症例や重度の体性感覚障害のない症例の報告もある.片麻痺の病態失認も半身無視もなく体性感覚障害が非常に軽度であった自験例も紹介しながらこの症候について解説した.
著者
佐久間 仁 大河内 幸男 馬場 陽子 大谷 巌 平山 和美 佐藤 正憲 児玉 南海男
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 補冊 (ISSN:09121870)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.Supplement43, pp.70-76, 1991-04-25 (Released:2012-11-27)
参考文献数
25

A case of brainstem cavernous angioma associated with hearing loss and dizziness is reported. A 25-year-old female initially complained of hearing loss in the leftear and dizziness. Six months thereafter she suddenly developed additional symptoms, and was diagnosed as having hemorrhage in the brainstem on the basis of CT scan and MRI findings. Otological examination revealed low- and high-frequency hearing loss and abnormal ABR consisting of only wave I in the left ear. Follow-up MRI showed cavernous angioma, which was surgically removed.
著者
渡部 宏幸 平山 和美 古木 ひとみ 貝梅 由恵 濱田 哲 原 寛美 山尾 涼子 今村 徹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.35-43, 2017-03-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
11

左側頭葉後下部の皮質下出血後に,抽象的態度の障害を呈した症例を報告した.症例は69歳,右利き女性.回復期に,以下の所見がみられた.(1)性質の似た色の聴覚指示および分類,色の呼称の障害.(2)実際の家具の聴覚指示において,対象の個別性にこだわった反応.両者はGoldstein(1948)およびYamadoriら(1973)が報告した抽象的態度の障害と類似しており,本症例にも既報告例と共通の障害が存在すると考えられた.
著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005-02-01
参考文献数
22

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.<br>
著者
平山 和美 境 信哉 仲泊 聡 仲泊 聡 境 信哉
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

機能的MRIを用いて、健常者が意味のある日本語の文章を読むときの脳活動を記録した。それによって、1次視覚皮質(V1)のどこが活動するのか、また、その活動は次の視線の移動先に従って動的に調節されるのか、それとも、中心視野付近の一定の位置に固定されているのかを、1人1人について検討した。脳活動は左大脳V1の中心視野付近に相当する領域に起こり、次の視線のゴールまでの距離によっては変わらず、注視点から右へ視角約4.5°に相当する脳領域に固定されていた。