著者
葛谷 健 伊藤 千賀子 佐々木 陽 清野 裕 田嶼 尚子 土井 邦紘 布井 清秀 松田 文子 上畑 鉄之丞
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.173-194, 1992-02-29 (Released:2011-03-02)
参考文献数
66
被引用文献数
4

1) 疫学データ委員会では, 日本人における糖尿病の有病率と発症率に関する既発表の資料を収集し, 日本人糖尿病の有病率と発症率を推定し, それらの資料のデータを利用しやすい形にまとめて提供することを目的とした. 主要資料を選択して表にまとめた.2) 地域調査による成人の糖尿病調査から得られる情報はNIDDMの有病率にほぼ限られる. 尿糖二などで一次スクリーニングを行って陽性者のみに糖負荷試験を行う方法と, 全員に糖負荷試験を行う方法とがあるが, 糖尿病の有病率は後者で高い傾向を示した.1984年以前の報告では1970年の日本糖尿病学会基準で判定されているものが多く, 40歳以上の有病率は一次スクリーニングを行う方法では, 多くは1.3~4.7%であった. 1985年以後にはWHO基準で判定されるようになり, スクリーニングを行った場合, 40歳以上の有病率は2.1~5.4%, 直接糖負荷試験を行う方法では4~11%程度となった. 男女比は2: 1ないし1: 1で糖尿病は男に多かった. WHO基準では1970年の糖尿病学会基準よりも糖尿病と判定されるものの率は少なくなるはずであるが, それでも1990年代には約10%という高い値が報告されている.3) 18歳未満発症の糖尿病の発症率は10万人あたり年間0.8~2.3人で, 10~14歳に発症のピークがあった. 有病率はIDDMでは, 1万人あたりほぼ1.0人, NIDDMは約0.5人で, 両者を区別しない場合は0.9~1.5人程度であった.4) 原爆被爆者は約10万人が継続的に検診を受けており, 糖尿病に関してもよく調査されている. 糖尿病の発症について被爆の影響は否定されているので, そのデータは地域調査と同等のものと見なされる. 被爆者は現在43歳以上となり, その有病率は現在男9.9%, 女8.0%と推定される. 糖尿病有病率はあきらかに経年的増加傾向を示している.5) アメリカ (ハワイ, ロスアンゼルス, シアトル) に移住した日本人1世, 2世では日本在住者に比べて糖尿病が15ないし2倍に増えている. 8最近のシアトルでの調査では45歳以上の2世で男21.5%, 女16.0%が糖尿病であった.6) 政府刊行物の中では厚生省が定期的に行っている患者調査と国民生活基礎調査 (以前は国民健康調査) のデータに糖尿病が含まれている. これらは医療機関を受診中のものを対象としており, 得られた推定有病率は, 地域調査で得られた数値よりも低いが, 全年齢を扱っていると, 長年にわたり同じ方法で調査されているので経年的な推移が分かる点に特徴がある. 糖尿病の推定有病率はこの30年余りの間に激増した. 1987年の患者調査では副疾患としての糖尿病も加えると1.4%(全年齢), 1989年の国民生活基礎調査では1.1%であった.7) これまでの文献を通覧して, 今後の調査, 報告では特に留意すべき点として, 対象集団の年齢構成, 性別などを明確にすること, 既知糖尿病患者の取扱をはっきりさせること, 検査した集団が対象集団をよく代表しているかどうかの検討, 75g GTTで判定すること, 空腹時血糖値, 2時間血糖値の分布を示すこと, 受診しないものについても情報を集めること, などが望まれる.
著者
糖尿病診断基準に関する調査検討委員会 清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.450-467, 2010 (Released:2010-08-18)
参考文献数
54
被引用文献数
11

概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す.
著者
清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.485-504, 2012 (Released:2012-08-22)
参考文献数
59
被引用文献数
10 1

本稿は,2010年6月発表の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」以降の我が国におけるHbA1c国際標準化の進捗を踏まえて,同報告のHbA1cの表記を改めるとともに国際標準化の経緯について解説を加えたものである. 要約 概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す. 分類(Table 1,2,Fig. 1参照):糖代謝異常の分類は成因分類を主体とし,インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記する.成因は,(I)1型,(II)2型,(III)その他の特定の機序,疾患によるもの,(IV)妊娠糖尿病,に分類する.1型は発症機構として膵β細胞破壊を特徴とする.2型は,インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわる.IIIは遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと,他の疾患や病態に伴うものとに大別する. 病態(病期)では,インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて,正常領域,境界領域,糖尿病領域に分ける.糖尿病領域は,インスリン不要,高血糖是正にインスリン必要,生存のためにインスリン必要,に区分する.前2者はインスリン非依存状態,後者はインスリン依存状態と呼ぶ.病態区分は,インスリン作用不足の進行や,治療による改善などで所属する領域が変化する. 診断(Table 3~7,Fig. 2参照): 糖代謝異常の判定区分: 糖尿病の診断には慢性高血糖の確認が不可欠である.糖代謝の判定区分は血糖値を用いた場合,糖尿病型((1)空腹時血糖値≧126 mg/dlまたは(2)75 g経口糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200 mg/dl,あるいは(3)随時血糖値≧200 mg/dl),正常型(空腹時血糖値<110 mg/dl,かつOGTT2時間値<140 mg/dl),境界型(糖尿病型でも正常型でもないもの)に分ける.また,(4)HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)の場合も糖尿病型と判定する.なお,2012年4月1日以降は,特定健康診査・保健指導等を除く日常臨床及び著作物においてNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値で表記されたHbA1c(NGSP)を用い,当面の間,日常臨床ではJDS値を併記する.2011年10月に確定した正式な換算式(NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25 %)に基づくNGSP値は,我が国でこれまで用いられてきたJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS)におよそ0.4 %を加えた値となり,特に臨床的に主要な領域であるJDS値5.0~9.9 %の間では,従来の国際標準値(=JDS値(%)+0.4 %)と完全に一致する. 境界型は米国糖尿病学会(ADA)やWHOのimpaired fasting glucose(IFG)とimpaired glucose tolerance(IGT)とを合わせたものに一致し,糖尿病型に移行する率が高い.境界型は糖尿病特有の合併症は少ないが,動脈硬化症のリスクは正常型よりも大きい.HbA1c(NGSP)が6.0~6.4 %(HbA1c(JDS)が5.6~6.0 %)の場合は,糖尿病の疑いが否定できず,また,HbA1c(NGSP)が5.6~5.9 %(HbA1c(JDS)が5.2~5.5 %)の場合も含めて,現在糖尿病でなくとも将来糖尿病の発症リスクが高いグループと考えられる. 臨床診断: 1.初回検査で,上記の(1)~(4)のいずれかを認めた場合は,「糖尿病型」と判定する.別の日に再検査を行い,再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する.但し,HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする.また,血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれかと(4))が確認されれば,初回検査だけでも糖尿病と診断する.HbA1cを利用する場合には,血糖値が糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれか)が糖尿病の診断に必須である.糖尿病が疑われる場合には,血糖値による検査と同時にHbA1cを測定することを原則とする. 2.血糖値が糖尿病型((1)~(3)のいずれか)を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,初回検査だけでも糖尿病と診断できる. ・糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在 ・確実な糖尿病網膜症の存在 3.過去において上記1.ないし2.の条件がみたされていたことが確認できる場合は,現在の検査結果にかかわらず,糖尿病と診断するか,糖尿病の疑いをもって対応する. 4.診断が確定しない場合には,患者を追跡し,時期をおいて再検査する. 5.糖尿病の臨床診断に際しては,糖尿病の有無のみならず,成因分類,代謝異常の程度,合併症などについても把握するよう努める. 疫学調査: 糖尿病の頻度推定を目的とする場合は,1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい.この場合,HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)であれば「糖尿病」として扱う. 検診: 糖尿病を見逃さないことが重要で,スクリーニングには血糖値をあらわす指標のみならず,家族歴,肥満などの臨床情報も参考にする. 妊娠糖尿病: 妊娠中に発見される糖代謝異常hyperglycemic disorders in pregnancyには,1)妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM),2)糖尿病の2つがあり,妊娠糖尿病は75 gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する. (1)空腹時血糖値 ≧92 mg/dl (2)1時間値 ≧180 mg/dl (3)2時間値 ≧153 mg/dl 但し,上記の「臨床診断」における糖尿病と診断されるものは妊娠糖尿病から除外する.
著者
葛谷 健 中川 昌一 佐藤 譲 金澤 康徳 岩本 安彦 小林 正 南條 輝志男 佐々木 陽 清野 裕 伊藤 千賀子 島 健二 野中 共平 門脇 孝
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.385-404, 1999-05-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
47
被引用文献数
86

糖尿病は, インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし, 種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である. その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する. 代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく, 動脈硬化症をも促進する. 代謝異常の程度によって, 無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示
著者
和田 直 川手 亮三 山木戸 道郎 西亀 雄二 伊藤 千賀子 野間 興二 内藤 泰雄 野島 直樹 寄田 享
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.14-22, 1968-01-31 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

58, 235 subjects in 1963, 49, 174 subjects in 1964, 55, 393 subjects in 1965 and 82, 001 subjects in 1966 received a screening test for glycosuria using tes-tape. Since this study wes done on individuals who were exposed to the Atomic Bomb, no one was under 17 years of age when examined. Urine sample was obtained between 9 AM for 4 PM. Incidence of positive glycosuria was 3.0%, 3.9%, 4.4% and 4.3% respectively in each year. The incidence was 3.6 times higher in the male than in the female. Maxium incidence was noted in men over 60 years old being 10.1%, and minimum was in women under 39 years old being 1.1%. Of the glycosuric patients, 25.1% of males and 56.1% of females were obese, and 11.9% of males and 18.2% of females gave a family history of diabetes mellitus.2, 352 subjects from the cases who showed positive glycosuria had an oral glucose tolerance test. It was positive for diabetes mellitus in 42.6% of the subjects, 28.6% showed possible diabetes mellitus, 5.4% showed oxyhyperglycemia, 0.9% showed renal glycosuria and 22.3% were normal. Detection ratio of diabetes mellitus from the glycosuric patients was higher in the female (55.2%) than in the male (37.7%), though incidence of glycosuria was higher in the male than in the female. Of the 21 subjects who were diagnosed as renal glycosuria, 20 were male.The incidence of family history of diabetes mellitus was 14.6% in the diabetics and 12.8% in the glycousuric nondiabetics. This incidence in the nondiabetics was much higher than that of nonglycosuric nondiabetics (1.72%) which was reported by Dr. Rudnick in Hiroshima ABCC.Of total diabetic patients, the cases detected by this study was 72.7%. This would indicate that the screening test measuring urine sugar is valuable for the detection of diabetes mellitus in this kind of mass survay.The incidence of hypercholesteremia and of hypertension was statistically higher in the detected diabetics than in the nondiabetics.
著者
和田 悟朗 伊藤 千賀子
出版者
The Chemical Society of Japan
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.1694-1699, 1957

非電解質の水溶液に対する電解質の塩析作用をあらわす式としてさきに本文(1)式をみちびいたが,本報ではこの式の低用例として16種類の1-1型電解質水溶液へのジエチルエーテルの溶解度の測定値と計算置との比較を行った。電解質の塩析作用の大きさの順は本文(4)の順となる。またMillerの求めた電解質の水和数hおよびイオン接近距離αの値を用い,パラメーターΔS1を適当にえらんで計算した溶解度は電解質のmolality m=0.1~1.0の範囲内では0.1の誤差範囲内で実測値とよく一致するが,電解質の高濃度で乃をそのまま用いると,溶媒の全本秀子がすべてイオン水和水になるという矛盾を生じ,(1)式は物理的意義を失い,計算値は負の浩解度を示すだけでなく,イオン水和層内における局部溶解度S1も負となる。Si=Oとなるようなイオン水和数hoを定義してみると,種々のイオンのhoはアルカリ金属イオン,ハロゲンイオンに関して規則性を示し,前者ではイオン水和エネルギーの小さいほど,後者ではイオン水和エネルギーの大きいほど大きい値を有し,電解質の塩析作用の程度を予想することができる。