著者
福島 徹 濱崎 暁洋 浅井 加奈枝 佐々木 真弓 渋江 公尊 菅野 美和子 幣 憲一郎 長嶋 一昭 稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.653-659, 2013-09-30 (Released:2013-10-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

症例は19歳女性.8歳時に1型糖尿病と診断されインスリン治療開始となった.2012年3月(19歳)にはインスリンリスプロ各食直前14~18単位,インスリングラルギン眠前20単位使用下においても,食事量増加のためにHbA1c(NGSP)が15 %と増悪していた.低炭水化物食による食事療法目的にて同年3月から前院に入院し,リスプロ中止,グラルギン眠前4~8単位/日の施行となった.しかし第2病日深夜から嘔吐が出現し,翌朝の血糖値が532 mg/dlにて糖尿病ケトアシドーシスが疑われ,輸液とインスリン持続静注を開始されるも全身状態が改善しないため,前院から当院への転院依頼があり,緊急搬送入院となった.入院後は輸液とインスリン持続静注を強化して改善し,最終的に強化インスリン療法と食事療法の再調整にて退院となった.本症例から,1型糖尿病患者の低炭水化物食開始時にインスリン量を調整する際は,必要インスリン量の注意深い評価が不可欠であると考えられた.
著者
池田 香織 濵崎 暁洋 幣 憲一郎 稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.805-811, 2015-11-30 (Released:2015-11-30)
参考文献数
13

食事療法の摂取エネルギー量設定方法のうち,標準体重による方法と基礎代謝量推定式による方法の有用性について,入院糖尿病患者の体重変化率を指標として検討した.2013年の入院患者429名中,基準に該当した164名を解析対象とした.標準体重に25を乗じて算出したエネルギー量から実際に摂取したエネルギー量を差し引いた値と入院2日目以降の体重変化率との相関係数は-0.26で,基礎代謝量推定式にて算出した場合の相関係数は,Harris-Benedict式-0.48, Oxford式-0.42,国立栄養研式-0.44,京大式-0.40であった.同様に4日目以降の体重変化率との相関係数は順に,-0.34,-0.51,-0.48,-0.50,-0.48であった(P<0.001).京大式【10×体重-3×年齢+750+125(男性のみ)】を含む基礎代謝量推定法は,標準体重法よりも体重変化率との関連が強かった.
著者
中村 二郎 神谷 英紀 羽田 勝計 稲垣 暢也 谷澤 幸生 荒木 栄一 植木 浩二郎 中山 健夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.667-684, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16
被引用文献数
11

アンケート調査方式で,全国241施設から45,708名が集計され,2001~2010年の10年間における日本人糖尿病患者の死因を分析した.45,708名中978名が剖検例であった.1)全症例45,708名中の死因第1位は悪性新生物の38.3 %であり,第2位は感染症の17.0 %,第3位は血管障害(慢性腎不全,虚血性心疾患,脳血管障害)の14.9 %で,糖尿病性昏睡は0.6 %であった.悪性新生物の中では肺癌が7.0 %と最も高率であり,血管障害の中では慢性腎不全が3.5 %に対して,虚血性心疾患と脳血管障害がそれぞれ4.8 %と6.6 %であった.虚血性心疾患のほとんどが心筋梗塞であり,虚血性心疾患以外の心疾患が8.7 %と高率で,ほとんどが心不全であった.脳血管障害の内訳では脳梗塞が脳出血の1.7倍であった.2)年代別死因としての血管障害全体の比率は,30歳代以降で年代による大きな差は認められなかった.糖尿病性腎症による慢性腎不全は,30歳代で,心筋梗塞は40歳代で,脳血管障害は30歳代で比率が増加し,それ以降の年代において同程度であった.50歳代までは脳出血,60歳代以降では脳梗塞の比率が高かった.悪性新生物の比率は,50歳代および60歳代でそれぞれ46.3 %および47.7 %と高率であり,50歳代以降で悪性新生物による死亡者全体の97.4 %を占めていた.感染症のなかでも肺炎による死亡比率は年代が上がるとともに高率となり,70歳代以降では20.0 %で,肺炎による死亡者全体の80.7 %は70歳代以降であった.糖尿病性昏睡による死亡は,10歳代および20歳代でそれぞれ14.6 %および10.4 %と高率であり,それらの年代では悪性新生物に次いで第2位であった.3)血糖コントロールの良否と死亡時年齢との関連をみると,血糖コントロール不良群では良好群に比し1.6歳短命であり,その差は悪性新生物に比し血管合併症とりわけ糖尿病性腎症による腎不全で大きかった.4)糖尿病罹病期間と血管障害死の関連では,糖尿病性腎症の73.4 %が10年以上の罹病期間を有していたのに対して,虚血性心疾患および脳血管障害では10年以上の罹病期間を有したのはそれぞれ62.7 %と50 %であった.5)治療内容と死因に関する全症例での検討では,食事療法単独18.8 %,経口血糖降下薬療法33.9 %,インスリン療法41.9 %とインスリン療法が最も多く,とりわけ糖尿病性腎症では53.7 %を占め,虚血性心疾患での38.9 %,脳血管障害での39 %に比べて高頻度であった.6)糖尿病患者の平均死亡時年齢は,男性71.4歳,女性75.1歳で,同時代の日本人一般の平均寿命に比して,それぞれ8.2歳,11.2歳短命であった.しかしながら,前回(1991~2000年)の調査成績と比べて,男性で3.4歳,女性で3.5歳の延命が認められ,日本人一般における平均寿命の伸び(男性2.0歳,女性1.7歳)より大きかった.
著者
糖尿病診断基準に関する調査検討委員会 清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.450-467, 2010 (Released:2010-08-18)
参考文献数
54
被引用文献数
11

概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す.
著者
稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.396-401, 2016-03-10 (Released:2017-03-10)
参考文献数
10
被引用文献数
3 2
著者
清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.485-504, 2012 (Released:2012-08-22)
参考文献数
59
被引用文献数
10 1

本稿は,2010年6月発表の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」以降の我が国におけるHbA1c国際標準化の進捗を踏まえて,同報告のHbA1cの表記を改めるとともに国際標準化の経緯について解説を加えたものである. 要約 概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す. 分類(Table 1,2,Fig. 1参照):糖代謝異常の分類は成因分類を主体とし,インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記する.成因は,(I)1型,(II)2型,(III)その他の特定の機序,疾患によるもの,(IV)妊娠糖尿病,に分類する.1型は発症機構として膵β細胞破壊を特徴とする.2型は,インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわる.IIIは遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと,他の疾患や病態に伴うものとに大別する. 病態(病期)では,インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて,正常領域,境界領域,糖尿病領域に分ける.糖尿病領域は,インスリン不要,高血糖是正にインスリン必要,生存のためにインスリン必要,に区分する.前2者はインスリン非依存状態,後者はインスリン依存状態と呼ぶ.病態区分は,インスリン作用不足の進行や,治療による改善などで所属する領域が変化する. 診断(Table 3~7,Fig. 2参照): 糖代謝異常の判定区分: 糖尿病の診断には慢性高血糖の確認が不可欠である.糖代謝の判定区分は血糖値を用いた場合,糖尿病型((1)空腹時血糖値≧126 mg/dlまたは(2)75 g経口糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200 mg/dl,あるいは(3)随時血糖値≧200 mg/dl),正常型(空腹時血糖値<110 mg/dl,かつOGTT2時間値<140 mg/dl),境界型(糖尿病型でも正常型でもないもの)に分ける.また,(4)HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)の場合も糖尿病型と判定する.なお,2012年4月1日以降は,特定健康診査・保健指導等を除く日常臨床及び著作物においてNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値で表記されたHbA1c(NGSP)を用い,当面の間,日常臨床ではJDS値を併記する.2011年10月に確定した正式な換算式(NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25 %)に基づくNGSP値は,我が国でこれまで用いられてきたJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS)におよそ0.4 %を加えた値となり,特に臨床的に主要な領域であるJDS値5.0~9.9 %の間では,従来の国際標準値(=JDS値(%)+0.4 %)と完全に一致する. 境界型は米国糖尿病学会(ADA)やWHOのimpaired fasting glucose(IFG)とimpaired glucose tolerance(IGT)とを合わせたものに一致し,糖尿病型に移行する率が高い.境界型は糖尿病特有の合併症は少ないが,動脈硬化症のリスクは正常型よりも大きい.HbA1c(NGSP)が6.0~6.4 %(HbA1c(JDS)が5.6~6.0 %)の場合は,糖尿病の疑いが否定できず,また,HbA1c(NGSP)が5.6~5.9 %(HbA1c(JDS)が5.2~5.5 %)の場合も含めて,現在糖尿病でなくとも将来糖尿病の発症リスクが高いグループと考えられる. 臨床診断: 1.初回検査で,上記の(1)~(4)のいずれかを認めた場合は,「糖尿病型」と判定する.別の日に再検査を行い,再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する.但し,HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする.また,血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれかと(4))が確認されれば,初回検査だけでも糖尿病と診断する.HbA1cを利用する場合には,血糖値が糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれか)が糖尿病の診断に必須である.糖尿病が疑われる場合には,血糖値による検査と同時にHbA1cを測定することを原則とする. 2.血糖値が糖尿病型((1)~(3)のいずれか)を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,初回検査だけでも糖尿病と診断できる. ・糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在 ・確実な糖尿病網膜症の存在 3.過去において上記1.ないし2.の条件がみたされていたことが確認できる場合は,現在の検査結果にかかわらず,糖尿病と診断するか,糖尿病の疑いをもって対応する. 4.診断が確定しない場合には,患者を追跡し,時期をおいて再検査する. 5.糖尿病の臨床診断に際しては,糖尿病の有無のみならず,成因分類,代謝異常の程度,合併症などについても把握するよう努める. 疫学調査: 糖尿病の頻度推定を目的とする場合は,1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい.この場合,HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)であれば「糖尿病」として扱う. 検診: 糖尿病を見逃さないことが重要で,スクリーニングには血糖値をあらわす指標のみならず,家族歴,肥満などの臨床情報も参考にする. 妊娠糖尿病: 妊娠中に発見される糖代謝異常hyperglycemic disorders in pregnancyには,1)妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM),2)糖尿病の2つがあり,妊娠糖尿病は75 gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する. (1)空腹時血糖値 ≧92 mg/dl (2)1時間値 ≧180 mg/dl (3)2時間値 ≧153 mg/dl 但し,上記の「臨床診断」における糖尿病と診断されるものは妊娠糖尿病から除外する.
著者
長嶋 一昭 稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.737-741, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

経口インスリン分泌促進薬には,SU薬,グリニド薬に加え,DPP-IV阻害薬がある.SU薬およびグリニド薬は,膵β細胞KATPチャネルのSUR1サブユニットに結合しインスリン分泌を惹起するという点では共通であるが,半減期やKATPチャネルへの親和性などの特性は異なり,糖尿病の病態に応じて使い分ける必要がある.また,これまでインスリン療法が常識とされてきた新生児糖尿病の発症原因として,KATPチャネル遺伝子異常による症例が多く存在し,多くの場合SU薬による治療が有効であることが示された.
著者
岸本 正実 幣 憲一郎 田中 真理子 和田 啓子 福田 美由紀 姫野 雅子 桑原 晶子 小川 蓉子 木戸 詔子 稲垣 暢也 田中 清
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.253-258, 2009 (Released:2009-10-29)
参考文献数
13
被引用文献数
4

肥満は通常body mass index (BMI) によって判定されるが, 本来肥満は脂肪細胞過多である。そこで本研究では生活習慣病患者166名を対象に, BMIとbioimpedance analysis (BIA) 法による体組成の関係を検討した。BMIは体脂肪量と, 相関係数0.914と強く相関したが, 除脂肪量とは相関係数0.434と中等度にとどまり, BMIと除脂肪量の相関係数は, BMI≧25 kg/m2群ではBMI<25 kg/m2群より低かった。BMIによる肥満 (≧25 kg/m2) と, 体脂肪率による肥満 (男性≧20%, 女性≧30%) の関係は, 後者の判定に対して前者の特異度は高いが, 感度は低く, BMI25 kg/m2以上では, ほぼ確実に体脂肪率による肥満が存在するが, 25 kg/m2未満でもその存在を否定できない。栄養アセスメントにおいて, BMIに加えて体組成評価の併用が必要であり, また感度・特異度などによる解析を考慮すべきである。
著者
渋江 公尊 原島 伸一 中本 裕士 浜崎 暁洋 稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.1794-1796, 2013-07-10 (Released:2014-07-10)
参考文献数
5
被引用文献数
1

水様下痢と嘔吐を繰り返し,膵尾部原発ガストリノーマの診断にて膵体尾部・脾臓・肝外側区域切除術および胆嚢摘出術を受けた.術後2年を経過した頃から低血糖発作が頻発.血清インスリン値高値でありインスリノーマの併発が疑われた.局在診断に68Ga標識DOTATOCを用いたPET/CTを施行し,アログリセムによる治療を試みた症例を経験したので報告する.