著者
伊谷 樹一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

林の劣化が深刻なアフリカの半乾燥地域において、在来のタケを植林体系に組み込むことで環境保全と農村の生活改善を両立する可能性について検討した。タンザニア南部では、アフリカに広く分布するOxytenanthera abyssinicaという木本性のタケからウランジという酒を造り販売している。この研究では、世界的にも類い希なこの酒の製造方法を詳細に記録するとともに、そのメカニズムを解明した。また、ウランジ特有の風味を化学的に分析し、それを損なわずに再現できる方法を見つけ商品化の可能性を見いだした。さらに、この竹林がもつ環境保全の機能についても確認し、短・長期的な植生復興のあり方を構想した。
著者
黒崎 龍悟 岡村 鉄兵 伊谷 樹一
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.85, pp.13-21, 2014

本稿では,タンザニア南部高地の農村において,近年になって地域住民が独力で進めている小型水力発電に着目し,こうした取り組みがどのように実現しているのかについて紹介する。タンザニア人口の約80%は無電化地域に居住し,そのほとんどが地方である。そのような地域でも電灯やラジオの利用といった基本的ニーズを満たす他,とくに近年では携帯電話の充電など,電力へのニーズは高まっている。本稿が対象とする小型水力発電は出力が数十ワット~数キロワットとごく小規模であるものの,照明やテレビ,養鶏,携帯電話,床屋などへの利用というように電力の用途は多様であり,経済機会の創出や農村の生活の活性化に寄与している。担い手は農民や大工,教員などであり,専門的な技術を学んだ経験があるわけではなく,近隣の教会関係者や,同じ取り組みを進める職人から実践的な技術や知識を得ていた。彼らは農業や職人仕事で得た収入をもとに,廃品や中古部品を最大限活用しながら,時間をかけた試行錯誤のなかで発電に成功している。また,そのために発電システムは持続可能性や再現可能性が担保されている。小型水力発電の特徴は,現代的ニーズを満たしつつもローカルに展開できる技術に根差しているところにある。また,こうした取り組みは住民にとって身近な共有物(コモンズ)である河川を利用するため,必然的に地域社会の理解や環境保全が求められる。アフリカの現代的ニーズに端を発した小型水力発電は,地域の内発的な発展につながる可能性がある。
著者
伊谷 樹一 黒崎 龍悟 近藤 史 加藤 太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

これは、経済成長にともなって深刻化しているタンザニア半乾燥地域の環境破壊に焦点をあて、人と林が共存しうる社会の形成を目指した実践的な地域研究である。環境破壊を引き起こしてきた内外の要因を探りながら、環境保全と地域経済に関わる活動を計画・実践し、それらの連携をとおして新たな循環型環境利用モデルを構築しようとした。諸活動のモニタリングや住民との議論を重ねるなかで、環境保全に取って不可欠な技術的・社会的要素を解明していった。
著者
重田 眞義 伊谷 樹一 山越 言 西 真如 金子 守恵 篠原 徹 井関 和代 篠原 徹 井関 和代 峯 陽一 西崎 伸子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究プロジェクトは、エチオピアにくらす人々によって絶え間なく創り出される様々な知(=在来知)の生成過程をこれまで認識人類学がふれなかった「認識体系と社会的な相互交渉の関係」と、開発学が扱わなかった「有用性と認知の関係」の両方を射程に入れて、グローカルな文脈に位置づけて解明した。さらに、この研究であきらかになった点をふまえて、研究対象となる社会への成果還元に結びつくような研究活動を展開した。
著者
平井 英明 関本 均 斎藤 高弘 一前 宣正 伊谷 樹一 平井 英明
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

植物根圏はある土壌環境に生育する植物の個有の領域であり、いわばいろいろな表情を見せる植物と土壌の顔である。根圏のpHは植物の栄養条件の嗜好性や選択性によって独特のパターンを示す。また、根圏pHの変化はある栄養環境にさらされた時の植物の一つの応答でもある。したがって、根圏pHは、因果関係の特定はできないが、植物の栄養状態を把握するためのマクロな指標、いわば根圏の「顔色」と位置づけられる。そこで根圏pHに着目し、その変化のパターンを画像として観察し、土壌一植物系の栄養状態を評価する方法を考案した。作物、雑草、緑肥用植物などの硝酸態窒素とアンモニア態窒素の嗜好性を調べた。また、アミノ酸やタンパク質を窒素源とした場合の植物根圏pHの変化、鉄欠乏植物の植物根圏pHの変化、リン酸欠乏および難溶性リン酸塩に対する植物pHの変化について観察した。コムギは硝酸態窒素が多い培地にあってもアンモニア態窒素などのカチオンの吸収能力が高いため、コムギの根圏pHは水耕液供給後、一旦低下した後に再び上昇する。一方、ハクサイは窒素源として硝酸態窒素が多い培地におけるアンモニア態窒素などのカチオンの吸収能力はコムギほど高くないため、根圏pHは常に上昇すると解析した。検定した植物の多くはコムギと同じタイプであること、マメ科植物の根圏pHは低いこと、鉄欠乏やリン酸欠乏によって根圏は酸性化されること、難溶性のリン酸塩に遭遇すると根圏pHは低下することを明らかにした。従来、根色などを「定性的」に評価して、根の健全性を判断してきたが、画像処理を用いることによって[定性的」な判断を「定量化」することができる。画像には多くの情報が含まれるので、画像処理法は現場での土壌・作物の栄養診断技術への活用が期待される。