著者
松香 芳三 笈田 育尚 熊田 愛 縄稚 久美子 西山 憲行 菊谷 武 窪木 拓男
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.91-96, 2009 (Released:2010-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

摂食・嚥下機能が低下している高齢患者において, 胃瘻を造設することにより胃腸の機能を残存させながら栄養管理が可能となる。しかしながら, 胃瘻には種々の問題点が存在するため, 胃瘻の早期脱却を目標にして, リハビリテーションを実施するべきである。今回, 胃瘻造設を行ったが, 家族の介護ならびに義歯作製によって経口摂取が可能となり, 胃瘻脱却が可能になった症例を経験したので報告する。患者は脳梗塞, 老年性認知症を原疾患として有していた82歳女性であり, 認知症のために, 自発的な摂食行動はみられず, 食物を口腔内に溜め込み, 嚥下運動に移行しにくい状況であった。摂食・嚥下機能の回復が十分に認められたため, 胃瘻造設術が実施された。また, 同時期に旧義歯の適合不良のため, 家族から義歯作製を依頼され, 全部床義歯を作製した。義歯作製により, 家族の食介護に対するモチベーションが向上し, 積極的に経口摂取を進めるようになった。その結果, 全量経口摂取することが可能となり, 胃瘻から脱却することが可能となった。観察期間を通して, 血清アルブミン値の大きな変化はみられなかったが, 義歯装着後には体重増加が観察され, 胃瘻脱却後も体重は維持されていた。その後, 摂食・嚥下に対する直接訓練が効を奏し, 自分で摂食する場面も観察されるようになった。
著者
窪木 拓男 前川 賢治
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.117-125, 2021 (Released:2021-04-29)
参考文献数
32

われわれ歯科医は補綴治療を毎日患者に施しているが,その治療がどのような効果を患者に及ぼしているかを十分認識していない.たとえば,自立した地域在住高齢者においては,補綴治療の主目的は,口腔関連QOLの向上に加えて,介護予防,フレイル予防,認知機能低下予防であり,補綴治療による口腔機能の維持は多様な食物や栄養素を摂取するという観点から重要な意味があると言われている.本論説では,近年発表された質の高いシステマティックレビューと原著論文を精読し,地域在住高齢者においては,現在歯数が多いほど,生命予後が良好であること,また,現在歯数よりも機能歯数の方が生命予後に強く関連するという日本補綴歯科学会と東京都健康長寿医療センターの共同研究結果を紹介した.一方,日常生活動作がまだまだ保たれている前期要支援・要介護高齢者においては,歯列欠損の修復に加えて,栄養摂取強化と広義の摂食嚥下リハビリテーションが重要な意味を持つ.また,日常生活動作が著しく低下する後期要介護高齢者においては,食環境や食形態の調整,栄養補助食品の利用,多様な栄養摂取ルートの活用などが必要になる.これらの臨床エビデンスをライフステージに合わせて読み解くことにより,われわれ補綴歯科医の医学的,社会的な責務が,どのライフステージにおいても甚大であることを訴えたい.
著者
秋山 謙太郎 古味 佳子 窪木 拓男
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.346-353, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
69

間葉系幹細胞は,様々な体細胞に分化できる多分化能を有している事が知られており,その性質を応用した組織再生療法が長年に渡り,研究・臨床応用されて来た.一方,間葉系幹細胞の持つ免疫調節機能が着目されるようになり,様々な全身性免疫疾患に対する間葉系幹細胞移植療法の治療効果が報告されるようになった.このように間葉系幹細胞の機能は多岐に渡るが,その機能自体や制御メカニズムは未だ不明な点が多く,治療効果が不確実な場合もある.本稿では間葉系幹細胞の持つ機能のうち,とりわけ免疫調節機能の発現と治療効果が得られるメカニズムについて我々の研究データとともに紹介する.
著者
松香 芳三 萩原 芳幸 玉置 勝司 竹内 久裕 藤澤 政紀 小野 高裕 築山 能大 永尾 寛 津賀 一弘 會田 英紀 近藤 尚知 笛木 賢治 塚崎 弘明 石橋 寛二 藤井 重壽 平井 敏博 佐々木 啓一 矢谷 博文 五十嵐 順正 佐藤 裕二 市川 哲雄 松村 英雄 山森 徹雄 窪木 拓男 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.281-290, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

目的:(社)日本補綴歯科学会は病態とその発現機序の把握に基づく適切な補綴歯科治療を国民に提供するために,補綴歯科治療における新たな病名システムを提案した.これは患者に生じている「障害」を病名の基本とし,この障害を引き起こしている「要因」を併記して病名システムとするものであり,「A(要因)によるB(障害)」を病名システムの基本的な表現法としている.本研究の目的は考案した方法に従って決定した補綴歯科治療における病名の信頼性と妥当性を検討することである.方法:模擬患者カルテを作成し,(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会で模範解答としての病名(以下,模範病名)を決定した.その後,合計50 名の評価者(日本補綴歯科学会専門医(以下,補綴歯科専門医)ならびに大学病院研修歯科医(以下,研修医))に診断をしてもらい,評価者間における病名の一致度(信頼性)ならびに(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会による模範病名との一致度(妥当性)を検討した.結果:評価者間の一致度を検討するための算出したKrippendorff’s αは全体では0.378,補綴歯科専門医では0.370,研修医では0.401 であった.Krippendorff’s αは模範病名との一致度の高い上位10 名の評価者(補綴歯科専門医:3 名,研修医:7 名)では0.524,上位2 名の評価者(補綴歯科専門医:1 名,研修医:1 名)では0.648 と上昇した.日常的に頻繁に遭遇する病名に関しては模範病名との一致度が高かったが,日常的に遭遇しない病名は模範病名との一致度は低い状況であった.さらに,模範病名との一致度とアンケート回答時間や診療経験年数の関連性を検討したところ,相関関係はみられなかった.結論:全評価者間の一致度を指標とした本病名システムの信頼性は高くはなかったが,模範病名との一致度の高い評価者間では一致度が高かった.日常的に遭遇する補綴関連病名については模範病名との一致度が高かった.以上から(公社)日本補綴歯科学会の新しい病名システムは臨床上十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
著者
満木 志おり 前川 賢治 水ロ 一 窪木 拓男 松香 芳三 山下 敦
出版者
社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会雑誌 (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.451-456, 1999-06-10 (Released:2010-08-10)
参考文献数
26

The analgesic effects of amitriptyline was evaluated in 11 patients with chronic orofacial pain. The patients visited Fixed Prosthodontic Clinic, Okayama University Dental Hospital with the complaint ofchronic orofacial pain. They had been treated for more than six months with occlusal appliance or physicaltherapy before this study was started, and did not have good treatment results. Ten mg per day ofamitriptyline was started, and the amount was increased gradually depending on the patient's symptoms. Themaximum dose in this study was 70 mg in one patient and most of them were receiving under 50 mg/day. Theresults indicated that amitriptyline was effective in 9 of 11 patients. Two patients showed severe side effectsand stopped receiving it. It was concluded that amitriptyline is effective in the treatment of severe chronicorofacial pain. However, there were side effects with this medicine, so it is necessary to know the effects andside effects when administering it to orofacial pain patients.
著者
兒玉 直紀 築山 能大 有馬 太郎 市川 哲雄 窪木 拓男 佐久間 重光 新谷 明喜 高津 匡樹 津賀 一弘 坪井 明人 中野 雅徳 成田 紀之 波多野 泰夫 藤澤 政紀 船登 雅彦 鱒見 進一 松香 芳三 皆木 省吾
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.222-227, 2009 (Released:2012-03-29)
参考文献数
8

目的:顎関節症患者に対する受診ごとの診療時間に関する報告はない。今回,大学病院顎関節症外来ならびに一般開業歯科医院を対象に顎関節症のスプリント治療に要する時間について調査を行い,その特性を明らかにすることを目的とした。 方法:大学病院顎関節症外来14施設および一般開業歯科医院33施設にて2か月間の調査を行った。スプリント治療を選択された顎関節症患者を対象に,スプリントの種類,各診療内容および要した時間を調査項目として施設間で比較検討した。 結果:1回当たりの診療時間に関して,大学病院顎関節症外来受診患者(以下,大学群と略す)のほうが一般開業歯科医院受診患者(以下,開業医群と略す)に比べて有意に長かった。また,初診時の診療時間についても大学群のほうが開業医群に比べて長い時間を要した。しかし,スプリント装着および調整に要する時間について有意差は認められなかった。 結論:顎関節症患者の1回当たりの診療に要する時間は両施設ともに比較的長時間であることがわかった。スプリント装着に30分以上要する割合は大学群においては44%であり,開業医群においては22%であった。スプリント調整に20分以上要する割合は,大学群においては48%であり,開業医群においては33%であった。
著者
岸 幹二 繁原 宏 若狭 亨 杉本 朋貞 窪木 拓男
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、第1に顎口腔領域における各種感覚刺激のfMRIに最適の撮像条件の設定、頭部の固定法、画像処理を確立することである。第2に味覚など体動や筋肉の動きを伴わない刺激および嚥下運動におけるfMRIの描出能について健全例について種々条件を変えて検討を加え、fMRIの顎口腔領域各種感覚刺激の研究、臨床応用の可能性を追及することである。平成12年度にまず撮像法の検討を行った。手指の運動に対し、gradient echo type EPI(GE-EPI)とspin echo typeEPI(SP-EPI)の2種類の撮像シーケンスを用いて、fMRI画像の比較検討を行った。その結果、SP-EPIが信号検出の特異性、正確度共に高いため、このシーケンスを用いることにした。頭部固定は、ヘッドコイルと頭部に対し、ヘアバンド、スポンジ等を組み合わせることにより施行し、アイマスクと耳栓で視覚、聴覚刺激を遮断した。画像処理は、Magnetom Visibn付属のソフトウエア-(Numaris)内のz-scoreを用いて行った。次に、味覚刺激は、濃度1Mの食塩水と3mMのサッカリンを被験者の口腔へ挿入したチューブより滴下することにより与え、fMRI撮像を行った。その結果、味覚刺激による脳賦活領域はpariental operculum、frontal operculumとinsulaに分布することが明らかになった。味覚刺激の種類による分布の差異は今回の研究では認められなかった。平成13年度は、主に嚥下運動によるfMRI studyを行った。すなわち、被験者の口腔に挿入したチューブより、蒸留水を3ml/秒注入し、断続的に嚥下してもらうことにより行った。その結果、primary motor cortex、primarys somatosensory cortexが主に賦活されることが明らかになった。