著者
長瀧 重信 芦澤 潔人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.1215-1221, 1997-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
4

情報が錯綜しているチェルノブイリ原子力発電所事故の健康に対する影響について1990年から現地で医療調査に従事して来た経験をもとに紹介する. 10年目に明らかに臨床的に確認された健康傷害は134名の急性放射線症(28名が3カ月以内に死亡)と800名の小児甲状腺癌(3名が死亡)だけである.被曝線量に不確的要素が多いために放射線傷害の調査は続行中であるが, 4~5年で癌の発症が100倍以上になったことは前代未聞であり,現地の癌の発生を予防するためにも一般的な癌発生の機序の研究にも国際的な協力体制が望まれる.

10 0 0 0 OA 甲状腺と放射線

著者
山下 俊一 難波 裕幸 長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本内分泌学会
雑誌
日本内分泌学会雑誌 (ISSN:00290661)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1035-1043, 1993-11-20 (Released:2012-09-24)
参考文献数
50

The topic“Thyroid and Radiation”is both an old and a new area to be solved by human beings. The thyroid is an organ that is usually susceptible to exposure to ionizing radiation, both by virtue of its ability to concentrate radioiodine (internal radiation) and by routine medical examination: Chest X-ray, Dental X-ray, X-irradiation of cervical lymphnodes etc. (external radiation). Iodine-131 is widely used for the therapy of Graves' disease and thyroid cancers, of which the disadvantage is radiation-induced hypothyroidism but not complications of thyroid tumor. The thyroid gland is comparatively radioresistant, however, the data obtained from Hiroshima, Nagasaki and Marshall islands indicates a high incidence of external radiation-induced thyroid tumors as well as hypothyroidism. The different biological effects of internal and external radiation remains to be further clarified. Interestingly, recent reports demonstrate the increased number of thyroid cancer in children around Chernobyl in Belarus. In this review, we would like to introduce the effect of radiation on the thyroid gland at the molecular, cellular and tissue levels. Furthermore the clinical usefulness of iodine-131, including the safety-control for radiation exposure will be discussed.
著者
森田 茂樹 瀬戸 牧子 原 恵子 井手 芳彦 石丸 忠彦 和泉 元衛 辻畑 光宏 長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.458-461, 1983-04-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

民間療法として大量の飲水と水浣腸を行ない,急性水中毒症の発症をみた健康成人例を経験した.症例は25才,男性.昭和54年より健康増進を信じて大量飲水と水浣腸を始あた.昭和55年5月27日大量発汗後約30分で2lの飲水と81の水浣腸を行ない,四肢のこわばり感等出現したのち呼名反応なくなつたため当科入院となつた.入院時血清Na l24mEq/lと低Na血症を呈していた.また入院前24時間以上水分摂取がなかつたにもかかわらず, Na濃度6mEq/lと低浸透圧尿の多量排泄(1日量5300m1)がみられた.この利尿に伴つて血清Na濃度は改善し意識が回復した.以上より急性水中毒症と診断した.急性水中毒症は何らかの基礎疾患を有する例にみられやすく,その成因は細胞外液の急激な低浸透圧化のために水分が細胞内に移動し,脳浮腫をきたすためとされている.本例では発症後水分制限がなされたこと,高張ブドウ糖・Na製剤輸液を使用したことに加えて,急激な利尿により細胞外液の浸透圧改善が得られ救命し得たと思われる.なお第3病日に行なつた腰椎穿刺では, Na濃度97mEq/l, Cl濃度82mEq/l,総蛋白量12mg/dlと低浸透圧であつた.血清Na濃度の改善よりも脳細胞内および脳脊髄液の浸透圧改善は遅れると考えられる.入院時検査成績で総ビリルビン4.0mg/dl, CPK 1815mU/ml, LDH 507mU/ml, GOT 67mU/ml等の異常値を示していたが,水中毒症との関係については現在の所明らかではない.
著者
芦澤 潔人 長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.972-976, 1995-06-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10

放射線は広く活用される半面人体に及ぼす影響がいろいろと懸念されている.放射線の影響を知る上で甲状腺は最適臓器の一つであり,本稿では被爆者の甲状腺疾患および放射線の甲状腺細胞に対する影響について述べる.我々は長崎の原爆被爆者を対象にして甲状線の被爆量(DS86)と甲状腺疾患の相関について最新の診断法を使用して調査したところ従来の甲状腺癌に加えて自己免疫性甲状腺機能低下症も被爆者に有意に多いことが判明した.さらに長崎の経験に基づいたチェルノブイリ周辺地区の実態調査では甲状腺癌が急増していることは認められているにしても未だに放射線との関連は明確ではなく,他の環境因子も考慮する必要があるというのが現状のまとめである.又放射線の甲状腺に及ぼす作用は遺伝子,分子,個体レベルでもさかんに研究が進んでいる.ヒト甲状腺癌ではras, ret遺伝子が特に注目を集めている.
著者
長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.36-40, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

災害時に流言蜚語はつきものである。原子力災害も例外ではない。筆者は事故4年後の1990年にソ連邦が外国との交流を開始したときに現地を訪れ,事故後10年目までは,多くの研究プロジェクトに参加し数え切れないほど現地に赴き,10年目,20年目の国際機関のまとめのコンファランスまで出席することができた。健康影響に対して科学的な調査が可能になり,様々な調査の結果が発表されるようになると,それぞれの発表,論文の科学的な信憑性を検討することが大きな仕事になり,自分の主力は国際的な科学的な合意形成に移行した印象がある。初期の流言蜚語の時代からまとめの発表にいたるまでの経験を具体的に紹介し,原子力災害の対応の問題点などを示したい。
著者
佐藤 聡 高島 秀敏 吉村 俊朗 迫 龍二 森 正孝 辻畑 光宏 長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.39-42, 1984-01-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1

1年間にわたる抗生物質の長期投与で治癒した脳膿瘍の1例を経験したので報告する.症例は55才,女性.昭和55年10月13日,右上下肢の脱力が出現, 15日からは発語障害も加わり, 19日には右完全片麻痺となり当科に入院した.入院時,右片麻痺,運動性失語を認めた. CT scanにて左頭頂葉に大きな等吸收を示すmassがあり,周囲に著明な脳浮腫を伴つていた. enhance CT scanでring enhancementを示した.脳膿瘍の診断のもとに,抗生物質,ステロイドホルモン,グリセオール,で治療を開始し, CT scanにて治療経過を経時的に観察した.経過中,臨床症状の増悪をきたし, CT scan上も病巣がさらに拡大しているのが認められたが,抗生物質の変更で,軽快し, 1年後,症状はほとんど消失,固定した. CT scan上もring enhancementが消失し小点状のenhancementのみとなつた時点で治療を中止したが現在まで再燃していない.従来,脳膿瘍の治療としては,外科治療の比重が大きかつたが, CT scanにて,病巣の状態を直接,経時的に観察できるようになつたため,治療の変更などがすみやかに行なえるようになり,内科的治療のみで治癒したとの報告がふえている.抗生物質の投与期間については,少なくとも症状がほとんど固定化し, CT scan上病巣がすみやかに縮小しており,脳浮腫が著明に減少または消失していることが条件と考えられた.ステロイドホルモンの投与は,脳浮腫の改善に有効であり,文献上も有効例が多く使用してさしつかえないと考えられた.
著者
古河 隆二 佐藤 彬 川原 健次郎 楠本 征夫 棟久 龍夫 長瀧 重信 石井 伸子 小路 敏彦 土屋 凉一 大津留 晶 松尾 彰 後藤 誠 原田 良策 田島 平一郎 中田 恵輔 河野 健次 室 豊吉
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.753-758, 1985

3回の摘出術と2回の肝動脈塞栓術(TAE)により10年8カ月生存している肝細胞癌の1例を報告した.症例は62歳の女性,1971年肝生検で肝硬変と診断.1973年10月血中AFP上昇のため当科入院.HBs抗原,HBe抗原ともに陽性.血管造影で腫瘍膿染像をみとめ,摘出術施行,右葉後上区域の3.5cm大の肝癌を摘出した.非癌部は乙型肝硬変であった.6年10カ月後に肝癌の再発がみられ,やはり右葉後上区域にて2.0cm大の肝癌を摘出.さらに10カ月後に肝癌が出現,右葉後下区域より1.0cm大の肝癌を摘出した.組織学的には,3回ともtrabeculartypeであった.さらに1年8カ月後肝癌が出現,TAEを2回施行し外来通院中である.本例の肝癌発生様式は,多中心性と思われるが,血中AFPの厳重なfollowにより3回もの肝癌摘出術に成功し,10年以上の生存をみているため報告した.
著者
長瀧 重信 芦澤 潔人
出版者
日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.1215-1221, 1997-07-10

情報が錯綜しているチェルノブイリ原子力発電所事故の健康に対する影響について1990年から現地で医療調査に従事して来た経験をもとに紹介する. 10年目に明らかに臨床的に確認された健康傷害は134名の急性放射線症(28名が3カ月以内に死亡)と800名の小児甲状腺癌(3名が死亡)だけである.被曝線量に不確的要素が多いために放射線傷害の調査は続行中であるが, 4~5年で癌の発症が100倍以上になったことは前代未聞であり,現地の癌の発生を予防するためにも一般的な癌発生の機序の研究にも国際的な協力体制が望まれる.
著者
芦澤 潔人 長瀧 重信
出版者
日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.972-976, 1995-06-10
被引用文献数
1

放射線は広く活用される半面人体に及ぼす影響がいろいろと懸念されている.放射線の影響を知る上で甲状腺は最適臓器の一つであり,本稿では被爆者の甲状腺疾患および放射線の甲状腺細胞に対する影響について述べる.我々は長崎の原爆被爆者を対象にして甲状線の被爆量(DS86)と甲状腺疾患の相関について最新の診断法を使用して調査したところ従来の甲状腺癌に加えて自己免疫性甲状腺機能低下症も被爆者に有意に多いことが判明した.さらに長崎の経験に基づいたチェルノブイリ周辺地区の実態調査では甲状腺癌が急増していることは認められているにしても未だに放射線との関連は明確ではなく,他の環境因子も考慮する必要があるというのが現状のまとめである.又放射線の甲状腺に及ぼす作用は遺伝子,分子,個体レベルでもさかんに研究が進んでいる.ヒト甲状腺癌ではras, ret遺伝子が特に注目を集めている.
著者
井形 昭弘 園田 俊郎 佐藤 栄一 長瀧 重信 秋山 伸一 納 光弘
出版者
鹿児島大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

ヒト・レトロウイルスHTLV-Iによって脊髄症HAM(HTLV-I-associated myelopathy)がおこることが井形、納らにより報告され、この分野に大きな進展をもたらした。2か年にわたる本研究により、多くの貴重な成果を上げることが出来た。すなわち、このHAMの病態が大きく解明されると同時に、HTLV-Iに関連した他の臓器障害の可能性が浮かび上がってきた。HAMウイルスの分子生物学的検索により、HAMとATLのウイルスは変異株ではなく全く同一のウイルスであることが明かとなった。しかしHAMではキャリアに比較してはるかに多量のプロウイルスゲノムを末梢リンパ球中に保有しているという特徴が明かとなった。またHAMリンパ球はHTLV-I抗原刺激に対し高応答を示す。これらのことは、ホスト側の体質に関連しており、HAMとATLにはそれぞれ特有のハプロタイプを有することがわかった。HAMの病態機序に関連して、本邦で既に13例の剖検が行われ、この分析により更に詳細な病理像が明らかにされた。また、HAM患者髄液、末梢血リンパ球由来T細胞株が樹立された。一方、HAM患者の臨床像の分析の結果、肺胞炎、関節症、筋炎、シェグレン症候群、ブドウ膜炎の合併率が異常に多いことが明かとなった。これがはたして、HTLV-Iウイルスが直接おこしているのか、それともHAMに於て自己免疫疾患をおこしやすい状況があるのか、今後に課題を残したままであるが、重大な進展といえよう。治療に関しても、リンパ球除去術プラズマフェレ-シス、エリスロマイシン、ミゾリビン、α-インタ-フェロンなど有効な薬剤が明らかにされた。