著者
吉岡 泰夫 辛 昭静
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.35-47, 2010-08-31

患者-医療者間コミュニケーションの適切化は,患者・家族と医療者が医療情報を共有し,合意を形成して最善の医療を選択する患者参加型の意思決定を行うことや,ラポールに基づく信頼関係,闘病の同志と言える協力関係を築くための前提条件である.この研究は,医師の診療のジョブレビュー,および,患者と医師の双方を対象にした各種調査の分析結果に基づいて,患者-医療者間コミュニケーションの適切化に貢献する医療ポライトネス・ストラテジーを抽出し,医療現場および医学教育に提供することを目的とする.先ず, Brown & Levinsonがあげている15のpositive politeness strategyおよび10のnegative politeness strategyを医療コミュニケーション適切化の工夫にどう応用できるか, 7人の指導医のこれまでの診療経験に基づいて検討した.指導医の外来診療のジョブレビューおよび参与観察で収録した患者-医師間の相互作用を語用論の方法で分析した.社会言語学調査の分析結果も加えて,医療コミュニケーションの適切化に効果的な親近方略(positive politeness strategy)16と不可侵方略(negative politeness strategy) 7を抽出した.
著者
吉岡 泰夫
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.92-104, 2004-09-30
被引用文献数
2

首都圏と大阪のネイティブを対象に,ポライトネスの観点から,(1)コミュニケーション意識,(2)敬語行動,(3)規範意識について調査した結果,それぞれ次のような地域差・世代差がみられた.(1) 普段の会話で「楽しく話すこと」を大事にする意識は大阪ではどの世代でも高い.首都圏では若い世代ほど高く,上の世代ほど低い.改まった会話で「正しく話すこと」を大事にする意識は首都圏ではどの世代でも高く,特に60代以上で著しい.大阪は首都圏に比べて低く,特に60代以上では20ポイント程度の差がみられる.(2) 改まった場面の敬語行動をみると,首都圏は,若い世代で尊敬語・謙譲語を含まない敬意レベルの低い形式の使用が目立つのに対して,上の世代で敬意レベルの高い尊敬語・謙譲語を含む形式(二重敬語も含む)の使用が目立つ.大阪ではすべての世代で,敬意レベルの低い尊敬語や,仲間内マーカーの働きも併せ持つ方言敬語,方言の受益表現が使われている.(3) 敬語についての規範意識をみると,敬語の過剰な使用である二重尊敬に対して,首都圏の方が大阪に比べてより肯定的である.これらの結果を,Brown & Levinson (1987)のポライトネス理論の枠組みから捉えると,次のような地域的・世代的な傾向がみえる.首都圏は若い世代を除いて,敬語形式の丁寧さ,礼儀正しさを重視したネガティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.大阪は,お互いの心理的距離を縮めたいという欲求に働きかけるポジティブ・ポライトネスに比重をかける傾向がある.若い世代ではポジティブ・ポライトネス重視の傾向が首都圏・大阪で共通している.
著者
杉戸 清樹 塚田 実知代 尾崎 喜光 吉岡 泰夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日常の言語場面における談話のまとまり(質問・要求・あいさつなど)が言語行動として実現される際,どのような「構え」のもとに生成され受容されるかについて,言語行動論・社会言語学の枠組みで検討することを目的として,次の研究を進めた。(1) 前年度までに行った愛知県岡崎市,東京都内などでの探索的な臨地調査の結果,及び国語研究所の従来蓄積した敬語意識調査の結果などについて,「構え」という視点から整理・分析し,より具体的な分析の手がかりとして「メタ言語行動表現」という表現類型の有効性を検討した。(2) これらの検討に基づき,「メタ言語行動表現」「構え」「ととのえる」などという研究上の観点・方法論的枠組みについて,その有効性を主張しうる見通しを得て,その内容を提案・議論する研究論文を執筆した(裏面第11項参照)。2. 本研究の最終年度にあたるため,上記の研究論文等を中心にして「研究成果報告書」をとりまとめ印刷した(A4判全75ページ)。
著者
吉岡 泰夫 早野 恵子 徳田 安春 三浦 純一 本村 和久 相澤 正夫 田中 牧郎 宇佐美 まゆみ
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.251-257, 2008-08-25 (Released:2010-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1

患者医師間のラポールに基づく協力関係の構築や, 両者の情報共有による合意形成は, 適切なコミュニケーションを基盤として実現される. 安全で信頼される医療を実践するためにも, 医療コミュニケーションの適切化は不可欠である. この研究は, そのために効果的なポライトネス・ストラテジーを明らかにすることを目的とする.1) ポライトネス・ストラテジーとその効果について, 医療面接の談話分析により調査課題を抽出, 患者医師双方に対して面接調査, WEB調査を実施した. さらにWEB討論会で論点を明確化した.2) 敬称「さま」や多重謙譲などの過剰な敬語を, 患者は, 慇懃無礼で, 医師から心理的距離を置かれると感じている. ラポールに基づく協力関係の構築には逆効果と, 患者医師双方が意識している.3) 患者は医師に敬称「さん」や簡素な敬語の使用を期待している.それらには, 敬意を表すと同時に, 適度に心理的距離を縮める, ポジティブ/ネガティブ両面のポライトネス効果があるからである.4) 医師が, 患者の方言を理解し, 同じ方言を使うことは, 親近感を生み, 心理的距離を縮めるポジティブ・ポライトネス効果があり, 患者をリラックスさせ, 患者からの医療情報の収集を円滑にする.5) 称賛する, 楽観的に言うなどのポジティブ・ポライトネス・ストラテジーは, 患者の状況やその時のフェイス (親近欲求か不可侵欲求か) により成否は分かれるが, 成功すれば行動変容をもたらす.
著者
真田 信治 二階堂 整 岸江 信介 陣内 正敬 吉岡 泰夫 井上 史雄 高橋 顕志 下野 雅昭
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

日本の地域言語における現今の最大のテーマは、方言と標準語の接触、干渉にかかわる問題である。標準語の干渉のプロセスで、従来の伝統的方言(純粋方言)にはなかった新しいスピーチスタイル(ネオ方言)が各地で生まれ、そして青年層に定着しつつある。このプロジェクトでは、このネオ方言をめぐって、各地の研究者が集い、新しい観点から、西日本の主要な地点におけるその実態と動向とを詳細に調査し、データを社会言語学的な視角から総合的に分析した。1996年度には、報告書『西日本におけるネオ方言の実態に関する調査研究』を公刊し、各地の状況をそれぞれに分析、地域言語の将来を予測した。また、1996年度には、重点地点での、これまでの調査の結果をまとめた『五箇山・白川郷の言語調査報告』(真田信治編)、および『長野県木曽福島町・開田村言語調査報告 資料篇』(井上文子編)を成果報告書として公刊した。なお、この研究の一環として、九州各地域の中核都市において活発に展開している言語変化の動態を明らかにすることを目的としたパーセントグロットグラム調査の結果を、データ集の形で示し、それぞれのトピックを解説、分析した報告書『九州におけるネオ方言の実態』を1997年度に公刊した。
著者
前川 喜久雄 槙 洋一 吉岡 泰夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.353, pp.9-16, 1999-10-15
被引用文献数
1 1

筆者らは1996年以来日本語熊本方言を対象として発話の丁寧さの知覚におよぼす語彙的要因と韻律的要因の関係について実験的検討をくわえてきた.前半でこれまでの研究成果を概観した後,後半では最新の実験結果に基づいてデータに観察される社会差について新規に検討をくわえる.われわれは従来,比較的若い年代の被験者による実験結果に立脚して丁寧さの表出に果たす語彙と韻律の貢献はほぼ同程度であると推定していた.しかし被験者の年代を高年層と中学生にまで拡大した結果,高年層では語彙の果たす役割が大きく韻律が果たす役割が小さいこと,そして年齢が低下するにともなって,この関係が逆転してゆくことが発見された.
著者
篠崎 大司 小沼 俊男 吉岡 泰夫
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、上級日本語学習者に対する聴解力育成を目的に、オンライン教育とオフライン教育を融合したブレンディッド型授業モデルを構築するとともに、学習者の履修管理から教育の提供、学習状況の把握までを一括管理できるコースマネージメントシステム「Moodle」をベースに、約1000問の音声問題と13本の動画解説で構成される上級日本語聴解eラーニングコンテンツを開発した。