- 著者
-
宮川 良博
森 拓也
後藤 桂
川原 勲
國安 弘基
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.I-148_1, 2019 (Released:2019-08-20)
【背景・目的】 近年, 中鎖脂肪酸はその摂取による内臓脂肪の蓄積抑制効果, 担癌体での抗腫瘍効果が報告され注目を集めている. 今回, 中鎖脂肪酸の骨格筋に対する影響を細胞培養実験, 動物実験により検討した.【方法】 実験には中鎖脂肪酸であるラウリン酸 (LAA) を使用した. 初めにマウス骨格筋細胞株であるC2C12筋芽細胞を用い, コントロール (Con) 群, LAA低負荷 (Low) 群, LAA中等度負荷 (Med) 群, LAA高負荷 (High) 群に分け, 10%FBS混合培養液にそれぞれLAAを添加し48時間培養した. その後, MTS assayにより増殖能を, mitogreen染色によりミトコンドリア量を評価した. また, C2C12筋芽細胞を筋管細胞へ分化させ, 同様の4群にて48時間培養しミトコンドリア量の変化を評価した. 次に動物実験としてBALB/c雄性マウスを用い, 標準餌CE-2にLAAを重量比で2%, 5%, 10%添加した餌を用意しControl (Con) 群を含め4群で比較検討した. 実験期間は15日とし1〜2日毎に体重, 食餌摂取量を測定, 犠死後に大腿四頭筋を摘出し重量を測定した. 摘出した大腿四頭筋はペレット化したのちタンパク質を抽出し, LETM1抗体, MYL1抗体, 抗4-HNE抗体を用いウェスタンブロット法にてミトコンドリア量, ミオシン軽鎖の発現量, 酸化ストレスの蓄積量を比較した.【結果】 C2C12筋芽細胞の増殖能はCon群と比較しLow群で増加, High群で低下した. 筋芽細胞におけるミトコンドリア量はLow群で増加, Med群, High群で低下し, 筋管細胞ではHigh群で低下が認められた. 動物実験では, 10%群は実験開始より著明な体重減少を認め, 5日目に瀕死となり安楽殺した. その他の群については5%群は13日目, 2%群, control群は15日目に安楽殺した. 摂取カロリーに群間差を認めなかったが, 体重は5%群, 10%群で, 大腿四頭筋重量は10%群でCon群と比較し減少した.タンパク質定量解析では2%群にて酸化ストレスの蓄積量の減少, ミトコンドリア量の増加, 10%群にてミトコンドリア量, ミオシン軽鎖の発現量の減少が確認された.【考察および結論】 本実験により, 低濃度の中鎖脂肪酸は骨格筋の成長を促進し, 高濃度ではミトコンドリアの減少, 骨格筋の萎縮を招く可能性が示唆された. 中鎖脂肪酸は細胞膜, ミトコンドリア膜を通過する際に輸送体を必要としないため, 長鎖脂肪酸と比較し急速に代謝される. そのため低負荷ではミトコンドリアのターンオーバーを促進し代謝を活性化, 高負荷では過負荷となりミトコンドリアの機能障害を誘発した可能性がある. 今後その機序について詳細に解析し, 臨床への応用の可能性を検討する.【倫理的配慮,説明と同意】本実験は, 奈良県立医科大学動物実験委員会の承認を得た.