著者
山内 啓之 鶴岡 謙一 小倉 拓郎 田村 裕彦 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 小口 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.169-179, 2022 (Released:2022-06-14)
参考文献数
25

近年,バーチャルリアリティ(VR)の技術が様々な分野の教育実践において注目されている.地理教育においてもVRを活用することで,対象者の地理的事象への関心や理解を向上できる可能性がある.そこで本研究では,仮想空間に再現した現実性の高い環境を観察したり,散策したりするVRのアプリケーションを構築した.対象は横浜市にある人工の横穴洞窟の「田谷の洞窟(田谷山瑜伽洞)」とした.アプリケーションは,田谷の洞窟保存実行委員会と研究者が連携して取得した洞窟内の三次元点群データと,筆者らが現地で撮影した全天球パノラマ画像,洞窟の小型模型,環境音を用いて構築した.アプリケーションの使用感と効果を評価するために,市民の交流イベントにおいてVRの体験会とアンケート調査を実施した.その結果,VRアプリケーションは,幅広い年代の利用者に体験の満足感や地理的事象に対する関心や理解を与えることが判明した.
著者
小倉 拓郎 早川 裕弌 田村 裕彦 小口 千明 守田 正志 清水 きさら 緒方 啓介 山内 啓之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

小学校の総合的な学習の時間では,身の回りにある様々な問題状況について,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすることを目標としている(文部科学省 2008).この目標を達成するために,地域や学校の実態に応じて,自然体験や観察・実験などの体験的学習や,地域との連携を積極的に行うことが求められている.演者らは,自然地理学・地理教育・空間情報科学・建築学・歴史学・文化財科学などの専門分野を生かし,横浜市登録地域文化財に指定されている「田谷の洞窟」保存プロジェクトを実施している.このなかで,UAS(Unmanned Aerial System,通称ドローン)を用いたSfM多視点ステレオ写真測量や,地上レーザ測量(TLS: Terrestrial Laser Scanning)などを用いた高精細地表情報を基盤に,洞窟保全や文化財保護などの研究を通して,地域の地表・地下環境情報のアーカイブに取り組んでいる.本研究では,横浜市田谷町「田谷の洞窟」とその周辺域を対象とし,高精細地表情報の取得方法や利活用事例に触れることを通した課題発見型・体験型の地域学習を実践し,児童たちの学習効果について検証する. 本授業は,横浜市立千秀小学校第6学年の総合的な学習の時間および図画工作科を利用して実施した.当該校では,田谷の洞窟を主題として,1年間を通して地域の歴史や文化財の保存,環境についての学習を発展させてきた.学習のまとめとして,3学期にUAS-SfMやTLS由来の地表データから大型3D地形模型を製作した.地形模型作成プロセスを通して,児童たちは地形の凹凸や微細な構造を手で感じ取り,1・2学期に学習した地域学習の内容を喚起させた.その上で,デジタルで高精細な地形モデルや,アナログな立体模型を自由に俯瞰したり,近づいて観察したりすることで,さまざまなスケールにおける地域の構造物や自然環境の位置関係,規模について再認識することができた. 本授業のまとめとして地域で報告会を開催し,作成した大型3D地形模型を利用しながら地域住民や参画する大学教員・大学院生と意見交換を行った.生徒たちは意見交換を通して1年間の学習の整理だけでなく,多様な学問分野の視点や時空間スケールで地域を見つめなおし,自ら立てた課題の再考察や新たな課題を発見することができた.
著者
篠原 叶実 伊藤 敦哉 小倉 拓郎 松岡 憲知
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.132, no.1, pp.33-55, 2023-02-25 (Released:2023-03-09)
参考文献数
69

Marine cavernous landforms, including notches, caves, arches and tunnels, characterize the rocky coast landscape and are strongly influenced by the geology (e.g., rock strength and structure) of sea cliffs. Geological controls on the development and shape of marine cavernous landforms are evaluated based on field investigations along the Pacific coastlines of Honshu Island, Japan. Morphological parameters, width (w), depth (d), and height (h), of cavernous landforms were measured directly or through images taken with an unmanned aerial vehicle, together with geological factors, such as rock types, strength (Schmidt hammer rebound values: R), dips and strikes of bedding, major joints, and fault planes. In total, 76 caves are investigated in six coastal areas: Sanriku Coast, Joban Coast, Boso Peninsula, Miura Peninsula, Izu Peninsula, and Kii Peninsula. According to shape index, d/w, and presence of the open end, cavernous landforms are classified into notches (d/w < 1, closed end), caves (d/w ≥ 1, closed end), arches (d/w < 1, open end), and tunnels (d/w ≥ 1, open end). An analysis shows that the major geological controls differ between notches and the other three forms. Low rock strength (R < 40) and sub-horizontal bedding are, respectively, the primary and secondary controls on the formation of notches, whereas weak rock structures (joints, faults and bedding) with a dip steeper than 30° (vertical or steeply inclined structures) and a strike trending perpendicular to the cliff face are the major controls on the formation of caves, arches and tunnels. Rock strength also affects planar forms defined by the shape index, promoting a deepening of cavernous forms, particularly when the cliff has a medium rock strength (R = 30-50) that provides an optimal balance between erosion force and resisting force. In general, vertical or steep structures contribute to the deepening of holes, whereas horizontal or gentle structures favor widening.
著者
小倉 拓郎 水野 敏明 片山 大輔 山中 大輔 佐藤 祐一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.22-00012, (Released:2023-09-06)
参考文献数
37
被引用文献数
1

河川管理事業において,従来の掘削事業は,定型形式で施工管理されることが慣例であったが,近年は河川環境への配慮が重視されてきたことから,中小河川であっても定型形式の技術指針と異なる掘削方法が必要とされている.そのためには,河道の三次元情報を詳細に把握し,綿密な測量計画を立案する必要がある.そこで本研究は,滋賀県を流れる A 川において,希少種に配慮した掘削事業を対象とし,RTK-UAV を用いて効率的に掘削土砂量を把握する方法について検討した.RTK-UAV を用いることで,河道掘削範囲に立ち入ることなく 10 分程度で撮影することができた.また,河道掘削事業前後の測量成果から差分解析を試みた結果,8,851.08 m3の掘削土砂量が算出された.この値は,施工者が算出した掘削土砂量である8,332 m3 に近い値を示した.RTKUAV を用いた地形測量成果から差分抽出を行う際には,写真測量が不得意としている水域,植生などの扱いに留意する必要がある.とくに,植生高は植生被覆の異なる 2 点の標高差を用いて概算で計算し,体積を計算した.総じて,RTK-UAV を用いた掘削土砂量の算出方法は,測量の設定や植生に留意することで,実務レベルで使用できることが明らかとなった.
著者
小倉 拓郎 早川 裕弌 田村 裕彦 守田 正志 小口 千明 緒方 啓介 庵原 康央
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.166, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 防災学習は,初等教育における総合的な学習の時間において,従来の各教科等の枠組みでは必ずしも適切に扱うことができない探究的な学習として,地域や学校の特色に応じた解決方法の検討を通した具体的な資質・能力を育む課題学習の一例として挙げられている1).ハザードマップは防災学習でよく用いられるが,浸水高や震度分布などの複雑なレイヤ構造を有するため,児童らが一般的に苦手とする基礎的な地図の判読スキルのみならず,重なり合う地図上の情報を適切に取捨選択して理解する能力が要求される.そのため,発災現場などの非日常体験をより直感的に想像できる授業実践や教材の開発が求められる. そこで,実際に自然災害の生じた地域における小学校の児童を対象とし,校区内での被災状況をハザードマップと地形模型を援用した3Dマッピングにより把握することから,地域環境を見つめなおすという防災学習を実践した.本報告では,その実践の過程や学習内容,児童の気づきについてまとめる.2.授業実践の内容 本実践は,2019年度に横浜市立千秀小学校の総合的な学習の時間および図画工作科で計8時数実施した.ここでは,2017年度の小学校6年生が,航空レーザ測量にもとづく標高データ由来の地域の大型地形模型(縮尺1/1000)を製作したため2),これを3Dマッピングの基盤として用いた.一方,防災情報の基礎として,横浜市栄区洪水ハザードマップに描かれている浸水最大規模のレイヤ情報をスチレンペーパーで作成し,地形模型の上に貼り付けることで,通常は2次元の地図で提供されるハザードマップの情報を3次元的かつ実体的に表現した. 本地域では,令和元年台風19号の通過により,校区内で浸水被害や倒木,信号機の風倒などがみられた.児童らは校区内の台風通過後や過去の被災状況について,通学路や自宅周辺の観察や近隣住民への聞き取り調査を実施し,内容と位置をメモや写真にまとめた.調べた内容は地図と模造紙にも記入した(図1).また,被災内容を記したピクトグラムを作成し,調べた位置情報をもとに地域の大型地形模型の上に設置した(図2).その上で,授業の最終段階では,担任教諭や外部協力者としての大学教員・大学院生を交えて,被災した場所の位置や分布の特徴について議論した.3.結果と考察 児童らは地図に被災状況を並べる作業を通して,浸水箇所が河川に近いことや,信号機・テレビアンテナ等の損傷が住宅地に多いことに気づいた.その結果,校区内の地域でも,被災種類に地域性があることを理解した. その後,児童らは,自ら調査した情報を地形模型の上に乗せる作業を行うことによって,地形の凹凸と被災種類の関係に興味をもった.その結果,信号機の風倒箇所が谷部に集中していることに気づいた.地形に注目する中で,自然地形と人工地形の形状の違いについても関心をもち,地図と照らし合わせながら地形改変(宅地開発)や同じ標高の面(段丘面)について確認していた.また,道路や田畑が浸水した箇所は,ハザードマップで描かれていた浸水想定で浸水高が高い傾向を示す箇所に集中していることに気づいた.そこで,本地域の地形の成り立ちについて教員が説明し,旧河道であることを理解した. このように,大型地形模型を利用することによって,児童らに2次元の地図上での議論では浮かび上がらなかった,地形と被災内容の3次元的な空間関係を考える傾向が見られ,3Dマッピングによる考察の深化が観察された.3次元表現を行うことで,水平方向の位置関係や被災種類と土地利用との関係に対する関心から,垂直方向の関心にも目が届き,模型を上から俯瞰するだけでなく,しゃがむ,視点を変え斜め方向から360°回りながら眺める,といった身体を動かしながら対象を理解しようとする行動が見られたことも,3次元的な自然現象の想像・理解につながったと考えられる.4.文献1)文部科学省 2017. 小学校学習指導要領解説.2)田村裕彦・早川裕弌・守田正志・小口千明・緒方啓介・小倉拓郎 2020. 総合的な学習の時間を活用した地理・地形教育の実践−地域文化資源を用いた小規模公立小学校への地域学習から−, 地形, in press.
著者
山内 啓之 小口 高 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 宋 佳麗 小倉 拓郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.96, 2020 (Released:2020-03-30)

GISを用いて空間的思考力を向上させるための教育は,地理学を通じた人材の育成に有効である。最近では,2022年の高等学校における地理総合の必修化を背景に,中高生を対象とするGIS教育の実践に関心が集まっている。一方で,中高生が実際に地理情報を取得する手法や,GISを操作してデータを処理する手法を学習できる機会は限られている。そこで演者らは,中高生が,GISや関連機器の活用を体験するプログラムを企画して実施した。 本プログラムは,日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」の一環として,「デジタル地図とスマホ,ドローン,3Dプリンタで自然環境と人間生活を調べよう!」と題し,2018年8月3日,17日と2019年8月17日に実施した。受講者はインターネットを通じて応募し,中学1年生〜高校2年生までの計82名が参加した。 本プログラムは講義と4つの実習で構成され,1日でGISの基本や関連技術を網羅的に体験できるようにした。講義では,電子地図と紙地図の違いやGISの基礎知識を30分程度で解説した。受講者がより身近にGISを理解できるように,スマートフォンの位置情報ゲームや企業でのGIS活用の事例も紹介した。 実習は,1)データ解析,2)データ取得,3)アウトリーチ的活用,4)WebGISの活用の4つを体験するものとし,各1時間で実施した。1)のデータ解析では,無償で利用できるQGISと,基盤地図情報数値標高モデルを用いた地形の分析手法を解説した。受講者は,講師の指示とスクリーンに投影した操作画面に従って,標高データの段彩表現,陰影図の作成,傾斜角の算出,土地利用データの重ね合わせ等を体験した。2)のデータ取得では,主にドローンによる写真測量を取り上げた。受講者は屋外でドローンによるデータ取得を見学した後,室内でトイドローンの操作を体験した。3)のアウトリーチ的活用では,3Dプリントされた地形模型やスマートフォンのVRアプリを活用して,地形学の研究手法や,研究成果を効果的に伝達する手法を紹介した。受講者がより関心を持って学べるように,3Dプリンタでの模型の製作工程や,反射実体鏡による地形分類の手法等も解説した。4)のWebGISの活用では,防災をテーマに,Web地図上で洪水に関する情報を重ね合わせ,地域の脆弱性を読み取った。実習の冒頭では,受講者に洪水時の状況を伝えるために,対象地域の概観,水害の歴史,被害状況等について簡単に解説した。次に受講者が3〜6人のグループに分かれ,ノートパソコンやスマートフォンでWeb地図を閲覧しながら,洪水時に危険な地域や避難所に関する各自の意見を付箋にまとめ,A0の大判地図に貼り付けた。実習の後半では,討論の結果を模造紙にまとめ,グループごとに発表した。 本プログラムの効果を検証するために,受講者を対象とするアンケートをプログラムの終了後に実施した。アンケートは講義と各実習を5点満点で評価する設問,該当する項目を選択する設問,回答を自由に記述する設問で構成した。各受講者がアンケートに5点満点で回答した難易度,理解度,満足度の平均値を用いて,本プログラムを評価した。難易度については,2)のデータ取得や3)のアウトリーチ的活用のような直観的に理解しやすい実習を易しいと評価する傾向があった。一方で,講義,1)のデータ解析,4)のWebGISの活用のように,既存の知識との連携,複雑なPC操作,空間的思考力を要するものには難しさを感じる者が多かった。特に,1)のデータ解析は,他の実習に比べ難しいと感じる傾向があった。理解度は,難易度と全体的に同様の傾向を示したが,難易度よりもやや肯定的な評価となった。一方で満足度は,全ての内容について受講者の回答の平均値が4以上の高評価となった。以上の結果から,本プログラムは受講者が部分的に難しさを感じたものの,講義および実習の内容を概ね理解でき,高い満足感を得たと判断される。今後は,その他のアンケート項目の結果も参考に,プログラムの構成や教授法を改善する予定である。