- 著者
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原口 弥生
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.16, pp.19-32, 2010
本稿は,2005年夏にアメリカ南部で発生した大規模水害を事例として,環境社会学的アプローチによる災害研究の可能性を探ろうとするものである。Erikson(1991)が指摘したように,産業災害は「汚染」を引き起こし,「自然災害」は物理的「破壊」をもたらし,環境への影響も短期間で修復されるというのが伝統的な自然災害の認識であった。05年8月末のハリケーン・カトリーナ災害は,このような自然災害にかんする伝統的パラダイムの転換を確定的なものにしたと言われる。本稿では,カトリーナ災害で都市の8割が水没した米国南部ニューオリンズを中心として,地域環境史という視点からみた都市の脆弱性の増大を指摘したうえで,近年の災害研究で注目されている「レジリエンス」(復元=回復力)概念の再検討を行う。従来,レジリエンス(resilience)概念は社会的脆弱性と強い結びつきをもって議論され,地域社会内部の組織力,交渉力,外部とのネットワークなど社会関係の構築に焦点をあてて議論されてきた。本稿では,この概念の射程を社会関係から社会と地域環境との関係性まで広げ,賢明な地域環境の管理による「持続可能なハザード緩和」という災害対応の文脈から,このレジリエンス概念の再定義を目指す。