著者
小松 直哉 小堀 洋美 横田 樹広
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.49-60, 2015 (Released:2016-08-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

都市の生物多様性の持続的管理のためには,住宅地域も対象とした広域的な生態系管理を行なう必要がある.その実現のためには,地域に居住し,その周辺環境と身近に接している地域住民を対象とした市民科学の導入は有効な手法として挙げられる.市民科学とは,専門家ではない市民や学生がモニタリングやデータ収集だけでなく,主体的に科学的研究プロセスに関わる手法であるが,市民科学を用いた科学研究の成果を広域的な生態系管理に生かしている事例は少ない.そこで本研究では,横浜市都筑区牛久保西地区において,学生および市民が,1)チョウ・トンボを指標とした生物分布調査,2)個人住宅における庭の生物調査,3)大学保全林内のチョウのビオトープの創出と検証,といった生態系のモニタリングと管理を市民科学プログラムとして実践すること,その結果から住宅地域の生態系管理における市民科学の今後の可能性と課題を抽出することを目的とした.チョウ・トンボの生物分布調査では,住宅地域の生物分布を明らかにし,生物分布データベースとして意義のある調査結果を共有した.個人住宅における庭の生物調査では,庭に出現する身近な生物と庭の環境要因との関係性を学生と市民との協働により評価した.また,大学保全林を活用したチョウ誘致のためのビオトープ創生とモニタリングの実践により,ビオトープがチョウ類の生息拠点としての機能を有しているか検証した.これらの市民科学プログラムを活用することによって,住宅地域の生物相ポテンシャルや生物にとっての私有地の緑の重要性などを学生と市民が共有でき,また,住宅地域の生態系管理おける市民科学の有効性が示唆された.牛久保西地区の緑のまちづくり事業では,これらの市民科学プログラムの成果を活用した緑の管理は,官学民の連携により行っている.今後,市民が生態系管理の意義などを理解したうえで独立して調査や管理を行えるような教育プログラムなどの教育的側面を充実させることにより,大都市近郊の住宅地域における生態系管理へ展開していける可能性がある.
著者
鄭 矩 藤井 義晴 吉崎 真司 小堀 洋美
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.475-479, 2010 (Released:2011-12-07)
参考文献数
20

オニグルミのアレロパシー活性がニセアカシアの初期生長に及ぼす効果を明らかにするために,混植実験と根圏土壌法による検定を行った。混植実験において,オニグルミとニセアカシアを混植した区では,対照区に比べて,ニセアカシアの乾物重量が約50% に低下した。また, 混植区の土壌は,1.2%×10-6g g-1 のユグロンが含まれ,ニセアカシアの初期生長を50% 阻害するユグロンの量とほぼ一致した。根圏土壌法による検定では,ニセアカシアの初期生長は根域土壌よりも根圏土壌で阻害される傾向を示し,根に近い土壌ほど生長が低下することから,根から出るユグロンが作用していることが強く示唆された。以上のことから,オニグルミが生育する土壌では,オニグルミの根のアレロパシー活性により,ニセアカシアの初期生長を阻害する可能性があることがわかった。
著者
加藤 裕之 橋本 翼 笹嶋 睦 咸 泳植 小堀 洋美
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.181-185, 2016 (Released:2016-09-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

下水道の普及に伴い, 河川など公共用水域に占める下水処理水の量的割合が増加し, 下水道が水循環や水環境に与える影響を把握する必要性が高まっている。そのためには市民の下水道に対する理解や協力が不可欠であるが, 市民や若い世代の下水道への関心が低いことが, 大きな社会的な課題となっている。著者らは平成26年度より「下水道を核とした市民科学育成プロジェクト」を始動し, 市民科学の手法を用いて, 市民・学生が河川における下水道の機能や価値を科学的に学ぶプロジェクトを試みた。モデル流域として境川水系を選定し, 流域内の3河川の下水処理方式により河川の水質に与える影響は異なるとの推測を検証することを目的とした。その結果, 河川のアンモニウム態窒素濃度, 硝酸態窒素濃度, N-BODは下水処理場の処理方式によって影響を受けることを, 地域の河川愛護会, 行政, 大学, NPO, 企業の協働で明らかにした。
著者
岡 浩平 吉崎 真司 小堀 洋美
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.119-128, 2009-12-31 (Released:2012-05-28)
参考文献数
35
被引用文献数
7 5

本研究では湘南海岸沿岸域を事例として,砂丘の開発による海浜幅の縮小と生育地の孤立化が海浜植生の種組成や構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.対象地の海浜の面積と分布の変遷を把握するために,地形図を用いて3時期の土地利用図を作成した.また,砂丘の開発が海浜植生に及ぼす影響を把握するために,辻堂砂丘の開発前後の植生を比較した.その結果,対象地の海浜の面積および幅は,1921年から2006年にかけて1/3以下に減少していた.海浜の縮小は,海岸侵食の影響よりも,海浜の市街地化や針葉樹林化といった土地利用の変化の影響が大きいことがわかった.開発以前の辻堂砂丘は不安定帯→半安定帯→安定帯と変化する海浜植生の成帯構造が成立していたが,開発後は成帯構造から半安定帯が消失していた.半安定帯の消失は,砂丘の開発による海浜幅の縮小が主な要因として考えられた.また,砂丘の開発によって,砂防林よりも内陸側で海浜植生の孤立化が生じていた.このような立地では,砂防林の防風効果によって,開発後にビロードテンツキ以外の海浜植物が消失し,帰化植物や内陸植物が優占する植生へと種組成が変化したと考えられた.以上のことから,砂丘の開発は,海浜幅の縮小による海浜植生の成帯構造の破壊,生育地の孤立化による内陸植物や帰化植物の侵入を引き起こすと考えられた.
著者
小松 直哉 小堀 洋美 横田 樹広
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.49-60, 2015
被引用文献数
1

都市の生物多様性の持続的管理のためには,住宅地域も対象とした広域的な生態系管理を行なう必要がある.その実現のためには,地域に居住し,その周辺環境と身近に接している地域住民を対象とした市民科学の導入は有効な手法として挙げられる.市民科学とは,専門家ではない市民や学生がモニタリングやデータ収集だけでなく,主体的に科学的研究プロセスに関わる手法であるが,市民科学を用いた科学研究の成果を広域的な生態系管理に生かしている事例は少ない.そこで本研究では,横浜市都筑区牛久保西地区において,学生および市民が,1)チョウ・トンボを指標とした生物分布調査,2)個人住宅における庭の生物調査,3)大学保全林内のチョウのビオトープの創出と検証,といった生態系のモニタリングと管理を市民科学プログラムとして実践すること,その結果から住宅地域の生態系管理における市民科学の今後の可能性と課題を抽出することを目的とした.チョウ・トンボの生物分布調査では,住宅地域の生物分布を明らかにし,生物分布データベースとして意義のある調査結果を共有した.個人住宅における庭の生物調査では,庭に出現する身近な生物と庭の環境要因との関係性を学生と市民との協働により評価した.また,大学保全林を活用したチョウ誘致のためのビオトープ創生とモニタリングの実践により,ビオトープがチョウ類の生息拠点としての機能を有しているか検証した.これらの市民科学プログラムを活用することによって,住宅地域の生物相ポテンシャルや生物にとっての私有地の緑の重要性などを学生と市民が共有でき,また,住宅地域の生態系管理おける市民科学の有効性が示唆された.牛久保西地区の緑のまちづくり事業では,これらの市民科学プログラムの成果を活用した緑の管理は,官学民の連携により行っている.今後,市民が生態系管理の意義などを理解したうえで独立して調査や管理を行えるような教育プログラムなどの教育的側面を充実させることにより,大都市近郊の住宅地域における生態系管理へ展開していける可能性がある.