著者
小川 佐和子
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.1-29, 2015-09-30

本稿では,帝政期ロシア期を代表する映画監督エヴゲーニイ・フランツェヴィチ・バウエル が独自の空間の美学を達成し,意識的な「映画作家」となっていったのかを論じている。他国 と異なるロシア映画固有の形式を踏まえ,監督以前のモスクワ絵画・彫刻・建築学校時代および舞台装置家としてのバウエルの半生を追い,つづいてその監督前史が後の映画製作にどのような影響をもたらしていったのか,バウエルにおける絵画性/パースペクティヴのスペクタクル性/映画におけるセノグラフィー/移動撮影による空間演出の諸観点から作品分析を施し,バウエル映画の過剰な視覚的特性を,映画以前の「芸術」と映画メディアの対峙として捉えた。バウエルによるパースペクティヴの実現は,映画という二次元性と三次元性が同居する特有の造形芸術メディアにおいて,絵画や舞台にはないより複雑なセノグラフィーを呈することとなる。 映画におけるバウエルの美学は,19世紀以前の古典的な美学規範に基づいており,演劇の舞台 装置や美術を映画に適応させるというそれ自体新奇でアヴァンギャルドな試みを実現した。
著者
谷川 建司 小川 順子 小川 翔太 ワダ・マルシアーノ ミツヨ 須川 まり 近藤 和都 西村 大志 板倉 史明 長門 洋平 木村 智哉 久保 豊 木下 千花 小川 佐和子 北浦 寛之
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、日本映画史上最大の構造的転換期・構造的変革期をなす1960年代末~70年代を対象とし、その社会経済的実態を次に掲げる問題群の解明を通して明らかにし、その歴史的位相を確定する。即ち、①スタジオ・システムの衰退・崩壊の内実とその産業史的意味、②大量宣伝・大量動員手法を確立した角川映画の勃興、③映画各社が試みた経営合理化と新たな作品路線の模索、④「ピンク映画」の隆盛の実態とその影響、⑤異業種からの映画産業界への人材流入の拡大とそのインパクト、である。上記の五つの括りに因んだ映画関係者をインタビュイーとして抽出し、研究会一回につき1名をゲストとして招聘し、精度の高いヒアリングを実施する。