著者
尾方 隆幸
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

日本の地球惑星科学教育は,学校では主に「地学教育」「地理教育」として行われ,博物館やジオパークなどでは生涯教育としても実践されている.それらの教育現場で使用されている教材は,文部科学省検定済教科書に依拠していることが多いが,地球惑星科学の成果が適切に反映されていない内容も散見される.未来の地球惑星科学教育を構築するためには,複数領域を横断する観点から,教育内容・教材およびカリキュラムを議論することが必要である.
著者
尾方 隆幸 大坪 誠 伊藤 英之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.44-54, 2020

<p>琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.</p>
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100116, 2017 (Released:2017-10-26)

1. 問題の所在 学校教育は,言うまでもなく,学術的な成果に基づいたものでなければならない.しかしながら,地理教育については,その母体となる地理学,さらには関連する地質学や地球物理学などの成果が適切にフィードバックされていない現状があり,特に大地形についてはいくつかの指摘がなされている(たとえば,岩田 2013;池田 2016). 高校「地理」「地学」で扱われる分野には,共通する内容が多い.両科目で共通する分野については,お互いに協調して対象を取り扱うことで,地球に対する理解をより総合的・系統的に身につけさせることができる.しかしながら,同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なっていたり,内容の解説そのものに相違があったりする.さらに,同一科目内においても,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているなど,混乱がみられる. この現状は学校教育現場に混乱をもたらす.とりわけ,教育を受ける側の生徒にとっては,受験に伴う不公平さえ生まれかねない.これらの問題を即時に解消することは困難としても,教育者側が相違の現状を把握しておくことで,それらに留意した説明をするなど,教育現場での対応が可能になる.そのためには,まずは教育現場で実際に使用されている教科書を分析し,課題を可視化する必要があろう. 本発表では,高等学校「地理」「地学」において,教科書によって記載が異なる事項を中心に,2017年度に使用されている全ての教科書(地理B:3冊,地理A:6冊,地学:2冊,地学基礎:5冊,科学と人間生活:5冊,計21冊)を対象に,用語のブレを比較検討する.地形分野については,大地形および沖積平野,土砂災害に関する用語がどのように扱われているか,またそれらの発達史・プロセスがどのように扱われているかについて報告する.気象・気候分野については,大気大循環に関する用語・説明の範囲,および気候区分に関する記述の違いを中心に報告する.2. 用語問題の類型発表者らは用語問題を以下の3つの類型に分類している.類型I)科目内の違い……同一科目内において,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているもの.大学受験など,科目内で統一した知識が必要となる際に障壁となる.類型Ⅱ)間の違い……同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なる.地理・地学の連携を行う際に障壁となる.類型Ⅲ)学術用語との違い……学術界で死語となった,あるいは変更されて現状で使用が不適切な語.大学での教育を含む日本国内の知識理解の向上のために使用を改めたい. この類型に加えて,異音同義語(同じ定義だが異なる用語)と同音異義語(異なる定義だが同じ用語)の分類も重要である.学習者にとってはどちらも混乱を生じるものであるが,前者の問題は同じ定義であることを確認できれば解消しうるものの,後者は学術的に極めて不適切といえる.  3. 改善に向けて 将来的には「地理」「地学」両領域にまたがって用語の用例・相違の状況を把握できるように,用語の状況を整理・統合して公表しているデータベースの構築が望ましい.文部省発行『学術用語集』のように一時点での情報で,かつ情報がその持ち手に限られる媒体のみではなく,情報を閲覧しやすく,更新しやすいオンライン形式であれば,教員,教科書会社,大学入試作問者,学習者である生徒も使えるものとなろう. 【文献】池田 敦 2016. 月刊「地理」, 61 (2): 98-105.岩田修二 2013. E-Journal GEO, 8 (1): 153-164.尾方隆幸 2017. 月刊「地理」, 62(8): 91-95.山本政一郎・小林則彦 2017. 月刊「地理」, 62(9): 印刷中.
著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1. 普天間飛行場代替施設建設事業<br> 日本政府の「普天間飛行場代替施設建設事業」に関するさまざまな準備作業が,名護市の辺野古湾および大浦湾周辺で進められている.これまで,日本生態学会による「沖縄県名護市辺野古・大浦湾の米軍基地飛行場建設に伴う埋め立て中止を求める要望書」(2013年3月),沖縄生物学会による「米軍普天間飛行場代替施設建設のための辺野古埋め立て計画に関する意見書」(2014年2月)など,生物科学関係の学会からは反対意見が提出されている.本発表では「普天間飛行場代替施設建設事業」について,ジオコンサベーションの観点から検討する.&nbsp;<br><br>2. 沖縄のサンゴ礁と辺野古の生物多様性<br> 日本の地理学的特徴のひとつに,南北方向に長い国土による気候の多様性がある.その中で,南西諸島をはじめとする広い地域にサンゴ礁の生態系を有することは,国内の自然資源を考える上で大きな意義を持つ.しかしながら,これまでに進められた開発行為により,特に沖縄島周辺のサンゴ礁は破壊が著しく,ごく一部の海域を除いて健全な造礁サンゴは残されていない. <br> 一方,辺野古周辺には,環境省の「日本の重要湿地500」(No.449沖縄本島東沿岸)に指定された自然度の高い海域がある.辺野古~漢那の選定理由には「ボウバアマモ,リュウキュウアマモ,ベニアマモなどの大きな群落.アマモ類を餌にする特別天然記念物のジュゴンは,この海域で発見例が多い.沖縄島北東部の沖には藻場が存在し,そこにアオウミガメの大規模な餌場があるらしいことがこれまでの調査から推定される」とある.また,沖縄県による「自然環境の保全に関する指針」においても,最も評価の高い「ランクI」(自然環境の厳正な保護を図る区域)に指定されている.すなわち,生物科学の専門家のみではなく,国および県もこの海域の極めて高い自然的価値を認めている.<br> 辺野古の周辺は,良好な状態でサンゴ礁の生態系が守られてきた数少ない海域である.あえてそのような海域で大きな環境破壊を伴う事業を行うことは,日本の自然資源の多様性を自ら損ねる行為でもあり,持続的な国土の発展と整合する事業かどうかを慎重に検討する必要がある.&nbsp;<br><br>3. 辺野古における地質調査<br> 生物資源そのものだけではなく,その生息・生育環境を同時に考えることをジオコンサベーションでは重視する.たとえば新基地の建設が予定されている辺野古を例にすると,藻場や造礁サンゴのみならず,生物活動を支えるサンゴ礁地形・堆積物の保護・保全を問題にする.サンゴ礁の地形や堆積物は,地球の歴史の中で形成された自然史的な資源であり,いったん破壊されると,その回復には極めて長い時間を要する(短期的には不可逆的なものとなる).また,一連の事業はサンゴ礁の表面物質を破砕・拡散させ,破砕物による海水の混濁を引き起こす可能性がある.さらに,調査や建設工事に付随する騒音と海中の攪乱は,ジュゴンの行動に直接的な影響を与える可能性もある.&nbsp;<br><br>4. ジオコンサベーションからみた米軍基地移設問題<br> ジオコンサベーションにおいては,地球科学的資源ごとに,破壊からの回復に要する時間スケールを検討することが重要である.米軍基地移設問題の場合は,既存の米軍基地エリアと,新基地の建設が予定されているエリアの地質・地形を整理し,それぞれの地質・地形について破壊から回復に要する時間スケールを明らかにすることが,地球科学者の課題ではないだろうか.こうした基礎的な研究に立脚する形で問題解決への道を探っていくことを,地球科学者としては提言すべきであろう.さらに,地理学者には,ジオコンサベーションを踏まえた持続的な地域振興について,人文社会科学的な検討も求められよう.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Geoparks require effective outreach and education based on academic terminology. Science Council of Japan (SCJ) reported terminological variation on all geoscience textbooks used in senior high schools. Such a situation also leads to terminological confusion in lifelong education and geoscience outreach. Geoscientific terms are likely to vary among many geoparks in Japan. Geoparks should consider terminological problems, and use academically appropriate terms for geoscientific education and geotourism.
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1. 問題の所在<br> 学校教育は,言うまでもなく,学術的な成果に基づいたものでなければならない.しかしながら,地理教育については,その母体となる地理学,さらには関連する地質学や地球物理学などの成果が適切にフィードバックされていない現状があり,特に大地形についてはいくつかの指摘がなされている(たとえば,岩田 2013;池田 2016).<br> 高校「地理」「地学」で扱われる分野には,共通する内容が多い.両科目で共通する分野については,お互いに協調して対象を取り扱うことで,地球に対する理解をより総合的・系統的に身につけさせることができる.しかしながら,同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なっていたり,内容の解説そのものに相違があったりする.さらに,同一科目内においても,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているなど,混乱がみられる.<br> この現状は学校教育現場に混乱をもたらす.とりわけ,教育を受ける側の生徒にとっては,受験に伴う不公平さえ生まれかねない.これらの問題を即時に解消することは困難としても,教育者側が相違の現状を把握しておくことで,それらに留意した説明をするなど,教育現場での対応が可能になる.そのためには,まずは教育現場で実際に使用されている教科書を分析し,課題を可視化する必要があろう.<br> 本発表では,高等学校「地理」「地学」において,教科書によって記載が異なる事項を中心に,2017年度に使用されている全ての教科書(地理B:3冊,地理A:6冊,地学:2冊,地学基礎:5冊,科学と人間生活:5冊,計21冊)を対象に,用語のブレを比較検討する.地形分野については,大地形および沖積平野,土砂災害に関する用語がどのように扱われているか,またそれらの発達史・プロセスがどのように扱われているかについて報告する.気象・気候分野については,大気大循環に関する用語・説明の範囲,および気候区分に関する記述の違いを中心に報告する.<br><br>2. 用語問題の類型<br>発表者らは用語問題を以下の3つの類型に分類している.<br>類型I)科目内の違い&hellip;&hellip;同一科目内において,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているもの.大学受験など,科目内で統一した知識が必要となる際に障壁となる.<br>類型Ⅱ)間の違い&hellip;&hellip;同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なる.地理・地学の連携を行う際に障壁となる.<br>類型Ⅲ)学術用語との違い&hellip;&hellip;学術界で死語となった,あるいは変更されて現状で使用が不適切な語.大学での教育を含む日本国内の知識理解の向上のために使用を改めたい.<br><br> この類型に加えて,異音同義語(同じ定義だが異なる用語)と同音異義語(異なる定義だが同じ用語)の分類も重要である.学習者にとってはどちらも混乱を生じるものであるが,前者の問題は同じ定義であることを確認できれば解消しうるものの,後者は学術的に極めて不適切といえる.&nbsp;<br><br>&nbsp;3. 改善に向けて<br> 将来的には「地理」「地学」両領域にまたがって用語の用例・相違の状況を把握できるように,用語の状況を整理・統合して公表しているデータベースの構築が望ましい.文部省発行『学術用語集』のように一時点での情報で,かつ情報がその持ち手に限られる媒体のみではなく,情報を閲覧しやすく,更新しやすいオンライン形式であれば,教員,教科書会社,大学入試作問者,学習者である生徒も使えるものとなろう.&nbsp;<br><br>【文献】<br>池田 敦 2016. 月刊「地理」, 61 (2): 98-105.<br>岩田修二 2013. E-Journal GEO, 8 (1): 153-164.<br>尾方隆幸 2017. 月刊「地理」, 62(8): 91-95.<br>山本政一郎・小林則彦 2017. 月刊「地理」, 62(9): 印刷中.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Geoparks require attractive story based on geoscience. Geostory enhances educational effects for geoconservation and geotourism, whereas the story depends primarily on scientific evidences. Geostory involves many geoscientific disciplines characterized by multi-scale historical, vertical and horizontal phenomena. Field observation in geotour might confuse visitors, because understanding of multi-scale phenomena relies on academic experiences. Geotour for public tourists should produce well-selected and arranged story targeting historical, vertical and/or horizontal phenomena. Educational geotour should produce programs on comprehensive geoscientific system to understand interrelationship among many geoscientific disciplines. Seamless geostory dramatically promotes educational effects in geotour, and improves multidisciplinary and interdisciplinary geoscience. Geoparks should prepare and propose various geostory collaborated with geoscientists.
著者
松本 至巨 尾方 隆幸 内川 啓
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.221-235, 2006-04-25
被引用文献数
1 1

The Northern Japanese Alps (Chubusangaku National Park) has experienced a dramatic increase in the number of visitors since the boom referred to as "the Japanese hundred mountains". The Ushiro-Tateyama Range, located in the northernmost area of the Japanese Alps, provides various alpine landscapes such as cirques, asymmetrical ridges, patterned ground, perennial snow patches and alpine plant communities. Data from 6922 trekkers indicate that the distribution of mountain huts and accessibility to trails control their trekking courses, and that the trekkers concentrate in three mountain areas : Shirouma-mountain area, Goryu-mountain area and Kashima-mountain area. These areas are divided by a landform called kiretto, where a col with steep rockwalls lies along a main ridge, operating as a natural obstacle. Such a concentration suggests that human impacts on mountain geoecosystem occur locally, but intensively.