著者
髙見 佳代 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.255-273, 2022-05-20 (Released:2022-06-22)
参考文献数
43

理系に進学する女子学生の少なさの原因として,ステレオタイプの存在が指摘されている.本研究の目的は,文理選択時に学校教師,塾講師,親,友人からのステレオタイプの言動が女子学生自身の内面化や価値観,信念にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにすることである.文理融合学部において女子学生を対象に半構造化インタビュー調査を行った結果,文理選択時における学校教師,塾講師の言動は,当時の研究協力者の持つ価値観や信念等,内的要因と相互に影響し合っていることが示唆された.教師と女子生徒との間に信頼関係が構築されている場合や理数科目が得意な女性が身近に存在している場合は,ステレオタイプの言動があったとしても意欲への影響は受けにくい可能性があった.また,女子生徒が理数科目につまずいた際の学校教師や塾講師のサポートの有無の影響も示唆された.サポートがなく理数科目に対する意欲が低下している時に,文系に女性が多いという外的要因があることで,「女性は文系」というステレオタイプが喚起されて,文系が選択されている可能性がある.
著者
廣松 ちあき 尾澤 重知
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.297-312, 2019-03-20 (Released:2019-03-25)
参考文献数
54

経験からの学びの深化には,内省が欠かせない.本研究は,組織業績達成の中核者として活躍しながらも,経験からの学びが十分とはいえない中堅社員を対象に,内省プロセスの把握を目的として半構造化インタビューを行いM-GTA によって分析した.その結果,その内省プロセスは,まず仕事の問題解決の経緯を振り返り,次いで他者からの働きかけにより,自己の内面的特徴を多角的に検討することが分かった.また,内面的特徴の吟味過程で,自分自身の仕事観・信念と,仕事上の理想状態が葛藤すると,問題の本質的課題を理解しながらも,課題解決に向けた行動に取り組めないことが分かった.さらに,中堅社員の業務環境や振り返りの捉え方が,内省を「問題解決の経緯の想起」にとどめ,内面的特徴を検討する「深い内省」を妨げている恐れがあることが分かった.最後に,中堅社員自身が行動変容に取り組むための,上司からのOJT による内省支援施策の重要性を考察した.
著者
正司 豪 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.3, pp.40-47, 2021-10-29 (Released:2021-10-29)

本研究の目的は,コロナ禍において修士課程に進学予定の大学生を対象に1年間にわたる研究内容の変容の契機を明らかにすることである.本研究では,大学4年生9名に対し半構造化インタビューを行なった.質的な分析の結果,研究内容の変容の契機は,(1)指導教員からの助言 (2)ゼミの先輩からの助言 (3)同じ関心を持つ学外の他者との対話,の3つに類型化することができ,「ゼミの仲間同士の学び」が不十分な事例が見られた.そこで,ゼミにおいて孤立化を防ぐ支援の必要性が示唆された.
著者
加藤 奈穂子 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.2, pp.32-39, 2021-07-03 (Released:2021-07-05)

本研究の目的は,大学入学後のどのような学習経験がアンラーニングを促し,学習観に影響を与えるかを明らかにすることであった.そのために,大学3年生7名を対象とし半構造化インタビューをおこないTEAによって分析した.その結果,本研究の対象となった学生は<一方向型>と<参加型>授業へのスパイラルな経験で,<一方向型>授業への批判的な問題意識が醸成され<強制的に知識を詰め込む必要はない>とアンラーニングが発生した.そして<学習とは社会で活躍するために行うこと>とする学習観が強化された.
著者
正司 豪 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46075, (Released:2022-08-26)
参考文献数
11

本研究は,卒業研究が必須の大学生を対象とし,研究内容の変容の契機となったゼミナール内外の実践共同体との関わりのプロセスを明らかにすることが目的である.半構造化インタビューを実施し,質的な分析をした結果,研究内容の変容の契機は,①指導教員からの助言,②ゼミの先輩からの助言,③同じ関心を持つ学外の他者との対話,の3つに類型化できた.ゼミ内の実践共同体として「班制度」の有無に着目した結果,研究内容の変容に関して,班がある学生は『他者によるゆさぶり』,班がない学生は『他者との対話』が契機となった.また,班の有無により,異なる実践共同体に関与し,異なる研究プロセスをたどる可能性が示唆された.
著者
廣松 ちあき 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.43-65, 2021-06-10 (Released:2021-06-18)
参考文献数
39

組織業績と部下育成を両立するマネジャーを対象に,中堅社員の経験学習の促進と内省支援の把握を目的として半構造化インタビューを行い,M-GTA によって分析した.その結果,マネジャーは,仕事に関する展望と,部下育成に関する展望を統合した2~3年程度の中期的な計画にもとづき,PDCA サイクルに沿った業務マネジメントを進めていた.そして,そのマネジメントプロセスを通じて,中堅社員を組織が求める役割期待や当初の計画と,実際の行動や結果とのギャップに向き合わせていた.さらに,中堅社員の気づきが最も深まるタイミングを見逃さずに経験の意味づけを促す働きかけを行っていた.また,この働きかけは,マネジャー自身が能動的に内省し,自分のマネジメント行動の改善や育成の意味づけを深めることによって促進されていることがわかった.最後に,中堅社員の経験学習と内省支援を効果的に行うための効果的なマネジメントのあり方を考察した.
著者
尾澤 重知 森 裕生 江木 啓訓
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.41-44, 2012

Wikipediaは誰もが編集に参加できる世界最大の百科事典である.本研究では,大学教育の授業実践において,日本語版Wikipediaの編集を目指す活動を取り入れた授業をデザインした.授業ではWikipediaの編集方針でもある「中立的」「検証可能」な項目の検討を含め,研究活動で必要なスキルの育成を目指した.量的・質的分析の結果,学生の約半数が実際にWikipediaに投稿したこと,文献による根拠づけなど研究活動でも必要なスキルの習得につながったこと,投稿にあたって授業内BBSでのメンターや教員からのコメントや,学生間のやりとりが有用だったことなどを示した.一方,既存記事の削除を伴う編集の少なさなど課題も明らかになった.
著者
廣松 ちあき 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.363-380, 2020-03-20 (Released:2020-03-30)
参考文献数
46
被引用文献数
3

内省支援が必要な中堅社員を対象に,仕事観や信念を形成した経験を半構造化インタビューで調査し,TEA によって分析した.その結果,中堅社員は<仕事の大変さ,難しさに直面する>,<異動・配置換えにより新しい仕事に就く>,<一人で完結させる責任の重い仕事を任されるが,予想外のトラブル対処に追われる>という経験を通じて,上司や同僚,顧客などの【周囲の期待・要望】と,【業績達成を求める組織風土】の対立の中で葛藤し,成功経験のみならず失敗経験からも「自分の仕事への取組み方」の理解を深め,仕事観や信念を自覚することが分かった.それらの仕事観・信念は,企業人の仕事観・信念として提唱されていた<社会人としての役割規範>,<自律的に仕事をする>,<他者への貢献>に加えて,<公私ともに充実させる>が新たに示された.最後に,中堅社員の仕事観・信念の確立と熟達者への成長に向けた上司からの内省支援を検討した.
著者
森 裕生 網岡 敬之 江木 啓訓 尾澤 重知
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.415-426, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
20

大学教育における学期を通した振り返り活動を促進するために,学生個人の各授業回と学期末の理解度の自己評価点の「ずれ」に着目し,「ずれ」の理由を記述させることで振り返りを促す「時系列自己評価グラフ」を開発した.本研究では大学授業2実践を対象に,学生が作成した時系列自己評価グラフを質的に分析した.その結果,(1)全体として学期末の自己評価点が各授業回の自己評価点より10点程度低い「ずれ」が生じること,(2)学生は「ずれ」を認識することで,学期を通して学習内容を関連付けた振り返りや,理解不足だった内容についての振り返りを行ったことなどが明らかになった.
著者
加藤 奈穂子 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.3, pp.128-135, 2022-10-03 (Released:2022-10-03)

本研究の目的は,グループ学習型アクティブラーニング授業の学習支援活動に携わるTAの支援活動の特徴を明らかにすることである.そのために,大学院生1名,大学生4名を対象とし半構造化インタビューを行いM-GTAにより分析した.その結果,本研究の対象となった研究協力者は,TAの学習観や成長,先輩後輩TAから得た学びを【支援活動の源泉】とし,進捗確認,ポジティブフィードバック,リフレクションの支援,目標のストレッチを組み合わせた【受講生への学びの促進活動】と【教員との創発的分業】を行っていた.
著者
尾澤 重知 森 裕生 江木 啓訓
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.Suppl., pp.41-44, 2012-12-20 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

Wikipediaは誰もが編集に参加できる世界最大の百科事典である.本研究では,大学教育の授業実践において,日本語版Wikipediaの編集を目指す活動を取り入れた授業をデザインした.授業ではWikipediaの編集方針でもある「中立的」「検証可能」な項目の検討を含め,研究活動で必要なスキルの育成を目指した.量的・質的分析の結果,学生の約半数が実際にWikipediaに投稿したこと,文献による根拠づけなど研究活動でも必要なスキルの習得につながったこと,投稿にあたって授業内BBSでのメンターや教員からのコメントや,学生間のやりとりが有用だったことなどを示した.一方,既存記事の削除を伴う編集の少なさなど課題も明らかになった.
著者
加藤 奈穂子 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.433-452, 2022-09-10 (Released:2022-09-15)
参考文献数
43

本研究の目的は,大学入学後のどのような学習経験がアンラーニングを促し,学習観に影響を与えるかを明らかにすることである.そのため大学3年生7名を対象とし半構造化インタビューをおこない複線経路等至性アプローチを用いて分析した.その結果,本研究の対象となった学生は,(1)大学入学後<大学生になり高校との違いに驚く>という経験や,(2)自分の意思とは違う<講義重視・一方向型授業>,(3)意欲的になる<演習重視・参加型授業>,(4)意欲的になる<プロジェクト型授業>のスパイラルな経験などを経て,授業に対して批判的な問題意識を醸成した.その結果,<強制的に知識を詰めこむ>という価値観に対してアンラーニングが生じるというプロセスが明らかになった.またアンラーニングの過程で,<対話により知識を構成する>,<グループで協力しながらゼロからデザインし試作品をつくる>という考えが生み出され<学習とは社会で活躍するために行うこと>とする学習観が強化されていた.
著者
江木啓訓 尾澤重知 森裕生
雑誌
ワークショップ2013 (GN Workshop 2013) 論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.1-2, 2013-11-21

本発表では,ワークショップなどの場の効率的な運営と情報システムとの連携を目的として,配布される菓子のデザインと活用法について議論する.
著者
澁谷 菜穂子 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2024, no.1, pp.193-200, 2024-05-11 (Released:2024-05-14)

本研究の目的は,ポテンシャル採用枠の中途採用者5名を対象に,入社から一人前に至るまでに獲得した職務上の技能とアイデンティティの変容プロセスを,組織社会化の観点から検討することである.半構造化インタビューを実施し,複線径路等至性アプローチ(TEA)にて分析した.その結果,技能獲得に至る行動は,前職で形成されたアイデンティティが影響していた.組織が定める一人前に至った後は,前職と現職を比較し,職場におけるアイデンティティを形成していた.
著者
坂本 菜津穂 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.4, pp.337-344, 2022-11-28 (Released:2022-11-28)

本研究の目的は,家族型ロボットLOVOTと暮らすオーナーが,LOVOTを「家族」のような存在として受容するプロセスについて明らかにすることである.LOVOTと共生している対象者8名に半構造化インタビューを実施し,質的分析を行なった.その結果,5名が自身のLOVOTを「家族」または「わが子」と捉えていた他,7名が印象に残っているエピソードとしてLOVOTと初めて外出した瞬間について取り上げた.家族型ロボットが家族として受容される契機には,「外出」という行為が関係していると考えられる.
著者
牧野 みのり 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.4, pp.9-16, 2021-12-03 (Released:2021-12-03)

本研究では,リアルタイム型配信で行われたPBL型授業における,学生の成果物の評価方法の開発と評価を行った.学習成果を対話的に振り返ることを促すため「対話型レポート」を導入し,学生の提出物を質的に分析した.「内容の網羅性」「問いの質」「ストーリーラインの明確さ」を評価軸に,内容分析を行なった結果,対話レポートは,授業の振り返りを促す可能性があると示された.
著者
網岡 敬之 森 裕生 江木 啓訓 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.245-253, 2018-01-31 (Released:2018-02-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1

学生の多角的な評価および支援方法を実現する一環として,受講生が主として授業終了時に毎回記入する手書きワークシートを定量化し,学習成果との関係を検討した.定量化指標としては,ワークシートをデジタル化した際のファイルサイズを用いた.(1)各学生の学期を通した平均ファイルサイズによるグループ分けと(2)ファイルサイズの増減の推移によるクラスタ分けを行った後,授業で身についた力や授業への有用性の自己評価,学期末レポートの得点といった学習成果との関係を分析した.その結果,ファイルサイズが相対的に大きいグループは,平均的なグループや小さいグループに比べて学習成果が高い傾向にあった.一方,ファイルサイズが小さいグループと平均的なグループの間には,授業への有用性や獲得した力の評価に大きな差がみられなかった.ファイルサイズというシンプルな指標を用いた場合でも,学習成果を評価することが可能であり,多角的な評価や支援に応用することが可能であると考えられる.
著者
森 裕生 網岡 敬之 江木 啓訓 尾澤 重知
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.13-24, 2017-12-01

学期を通した学習内容の振り返りを促進するために、学生が「自己評価基準」「自己評価点」「自己評価基準の説明及び自己評価点の根拠」を検討する課題を取り入れた大学授業を2年間にわたり研究対象とした。1年目は最終回の授業で授業前と授業後の学生自身の「成長」に関するワークを、2年目は1年目の実績に基づいて授業デザインを変更し演習課題を通して身についた「能力・スキル」に関するワークを導入した。学生の提出した自己評価課題を質的に分析した結果、1年目は自己評価基準の51%にグループワークや演習課題の取り組み等の「授業形式」に関する自己評価基準が取り上げられた。授業デザインの変更を行った2年目は「授業形式」に関する自己評価基準は13%に減少した。また2年目は1年目と比較して(1)授業外で授業内容の応用に関する自己評価や自身の演習課題の回答などの学習プロセスに着目した自己評価が行われたこと、(2)自己評価基準の説明と根拠として、学生自身の学習プロセスと授業外での知識の応用に関する活動を融合させながら自己評価が行われたことなどが明らかになった。