著者
山本 由美子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.104-117, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
51

胎児組織の研究利用の規制は,各国でも胚の場合に比べて緩い規制となっている.とくに日本では胎児組織の利用に特化した規制はなく,死亡胎児や中絶胎児は現実に無防備の状況にある.また,日本では中絶が比較的自由に実施されてきたのにもかかわらず,中絶の実態や中絶胎児の処遇について議論されにくい.国際的には,ES細胞やiPS細胞の利用によって,胎児組織利用を代替しようとする傾向にある.一方で,欧米を中心に胎児組織―とりわけ中絶胎児―の研究利用は合法化されており,胎児組織は少なくとも基礎研究において不可欠となっている.本稿は,日本を中心として,胎児組織の利用と保護の規制からこぼれ落ちる存在に焦点をあてるものである.また,こうした存在を,子産みをめぐる統治性や生資本との関係から素描する.それは,今日の生権力のあり方に立ち現れているバイオテクノロジーと資本主義の関係であり,そこに配役されているのが認知する主体としての妊婦なのである.
著者
山本 由美子
出版者
日仏社会学会
雑誌
日仏社会学会年報 (ISSN:13437313)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.85-105, 2016-11-30 (Released:2018-01-31)

Cet article a pour but de cerner l’idée de condition infantile en France en s’appuyant, dans le même temps qu’il les examine, sur les relations entre l’enfant à naître, la médecine, l’éthique et la société. Dans cette démarche, nous nous référons aux termes « fœtus tumoral » et «arrangement » utilisés par le sociologue L. Boltanski. Nous nous intéressons d’abord au concept traditionnel de « l'enfant sans vie » en France, et nous en retraçons l’évolution de l'époque moderne à nos jours. Ensuite, nous étudions la question du rapport de l'enfant mort-né par acte médical et des biotechnologies. Avec la médicalisation de l’engendrement, nous remarquons qu'il y a une série de système d'élimination de l'enfant à naître. De plus, nous essayons de mettre en lumière le regard sur la naissance et la manière de penser le bien-être social tels que l'État ou la société française les conçoivent aujourd'hui. Pour conclure, nous discutons deux questions à propos du diagnostic prénatal de trisomie fœtale. Le premier point concerne le fait que la classification du fœtus en tant qu’« arrangement » est toujours une représentation linguistique dépendant du médecin. Le second pointe le fait que l’engendrement aujourd'hui fait l'objet d'évaluations publiques, mais que les résultats de celles-ci sont toujours imposés à la femme comme individu.
著者
山本 由美子
出版者
大阪府立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は生命科学技術、なかでも出生前検査をめぐる諸問題を中期中絶と女性の任意性に注目するものである。あらたな出生前検査の出現は、同検査と中絶をめぐる諸体制が、女性の身体リスクを過小評価したうえに成り立ってきたことを表面化させた。また特定の属性の胎児に焦点をあてる出生前検査やそれに伴う中絶を容認する根拠は、以前として曖昧であることを浮き彫りにした。本研究では、生殖をめぐって展開される生命科学技術と医療専門家および国家による統治と、そこに内包される問題を医学的・社会的・倫理的に明らかにした。また出生前検査と「言語的承認」の関係を分析することにより、統治のあらゆる段階において女性が客体化されていることを明らかにした。この統治の仕組みは、特定の属性の胎児の排除を不問にしたまま、生命科学技術における商業性の排除、女性の任意性および女性身体の保護のいずれも担保しえていないことが分析された。〈女性身体の保護〉の理論構築では、医療システムを超えた〈子産みの統治性〉というあらたな概念を用いることで、生殖の統治それ自体からの解放をも展望する分析が可能となることが示唆された。なお、研究遂行の過程で、21トリソミー発見をめぐる女性科学者の功績が公正に評価されていれば、21トリソミーの人々の現在の立ち位置が大きく変わっていた可能性が示唆された。今後の研究のあらたな論点として取り入れ、引き続き分析していく予定である。
著者
鈴木 寛 山本 由美子 松本 慶蔵 麻生 卓郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.119-127, 1988-06-30

長崎県において,つつが虫痛が発生している平島(283名)と発生していない江ノ島(270名)の住民を対象として,リケッチア・ツツガムシ感染症に関する血清疫学的研究を行った.IgG抗体は抗原としてギリアム株を用い,酵素抗体法により測定した.全住民に対する抗体陽性率は平島(33.2%)が江ノ島(22.6%)より高値であったが,抗体レベルは平島(1.65±0.47)より江ノ島(1.88±0.47)で高値であった.年齢別抗体の陽性率とレベルの比較では,平島では19才以下が40才以上より高値であったが,江ノ島では差異を見い出し得なかった.これらの成績は平島では年齢による感染時期の差,つまり若年者が比較的最近感染し,江ノ島では全住民が同じ時期に感染していること,更に,つつが虫病患者が発生していない江ノ島においても弱毒性リケッチア・ツツガムシが存在していることを示唆した.
著者
古賀 正則 W.F Menski 金子 勝 山本 一美 山本 由美子 浜口 恒夫 佐藤 毅 中村 平次 山崎 利男 松井 透
出版者
一橋大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1985

本年度の研究計画の目的は, 昨年度イギリスにおいて実施した調査によりえられたデータ,とりわけ面接調査票のデータを整理し, 一定の解析をおこなうことによって,今後の調査,研究に役立てることにあった. したがって, 本年度の研究成果はあくまでも中間的総括の域を出ないものであることを,まずことわっておきたい.1.研究成果の概要データの整理,解析によってえられた新たな知見,成果の要点は次の通りである.(1)第二次大戦後,イギリス植民地体制の崩壊にともなって,英領植民地各地に展開していたインド人移民社会は大きな変動を豪り,植民地本国イギリスへの大量の移動をひきおこすとともに,インド亜大陸からイギリスへの移住もまた激増した. こうしたインド人移民の大きな二つの流れに応じて,イギリスにおけるインド人社会の間にさまざまな面で大きな差異がみられることが明らかとなった.(2)イギリスにおけるインド人移民社会の形成,発展の歴史,およびインド人移民社会の構造,インド人移民の組織,政治,経済,社会,宗教活動などを,ある程度解明しえた. 殊にインド人移民のカースト,宗教組織の果す役割の重要性が注目される.(3)インド人移民社会の形成,発展は,イギリスの社会に大きなインパクトを与えつつあるが,他方インド人移民社会は,イギリス社会の影響を蒙り,一定の変容を受けながら,移民社会独自のアイデンティティを形成しつつある. そこにみられるのは,移民社会の受入れ国社会に対する一方的な同化の過程ではなく,多文化社会という新らしい社会の形成にむけての,共存的発展の過程であると考えられる.2.今後の研究の展望これまでの研究によってえられた新たな知見の一つは,インド人移民にとって必らずしもイギリスが最終的な移民先ではなく,かなりのインド人移民がイギリスを経由して,さらに他の英連邦諸国,とりわけカナダ,オーストラリア,あるいはアメリカ合衆国へ再移住しているという事実であった. われわれは今後の研究において,こうした再移住の過程を明らかにするとともに,インド人移民社会それ自体の変容と,受入れ国の社会にあたえるインパクトの解明を試みるつもりである. また,移民の主な送り出し地域の一つであるインドのグジャラート地方の調査を実施することによって,移民送出のメカニズム,海外移民の存在によって,この地方の蒙るインパクトを解明したいと考えている.
著者
山本 由美子
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.94, no.9, pp.1421-1449,1548, 1985-09-20 (Released:2017-11-29)

The Zoroastrianism is based on the dualism of Good and Evil, which devides everything into two opposing groups. One peculiar character of the Zoroastrian religious life has attracted many observers' attention in history. That is their hostile attitude towards some kinds of animals called xrafstras, such as serpents, scorpions, beasts of prey, insects and worms. Most people in the world would not like these creatures. But the Zoroastrians not only detest or kill these creatures, but also they consider the killing them to be meritorious acts, though the death is treated to belong to the Evil Spirit. The main purpose of this article is examining how xrafstras have been understood in history, what are xrafstras and why they are considered to be xrafstras. The natures of xrafstras are as belows ; first they are injurious to the human beings and the cattle. Second they are harmful to the corn. Third they have ugly and abominable shapes. Fourth they are related to the impurity, fifth they eat unclean food, and sixth they like darkness and have nocturnal natures. Lastly they bring in impurity to the pure creation of Ahura Mazda, such as water and earth. All xrafstras have one or a few of these natures. Through examining the natures of xrafstras, it became evident that the Zoroastrian attitude towards xrafstras reflects the very core of the Zoroastrian cosmology and theology.
著者
松村 和則 伊藤 恵造 佐藤 利明 山本 大策 山本 由美子 村田 周祐 植田 俊
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

(1) 松村和則「人々の『創造力』とは何か-レジャー開発と環境保全への社会学的接近-」(2) 伊藤恵造「スポーツをめぐる住民組織の変容とその論理-郊外化する手賀沼周辺を事例として-」(3) 村田周祐「地域スポーツイベントと地域社会をめぐる関係性と象徴性-手賀沼トライアスロン大会を事例として-」(4) 植田俊「スポーツクラブによる地域環境保全活動の展開-手賀沼ヨットクラブを事例に-」(5) 山本大策「開発主義国家における地域格差と地域社会の能力的貧困:経済地理学からのアプローチ」(6) 山本由美子「ゴルフ場開発問題をめぐる紛争と地域的対応-長野県北安曇郡松川村・神戸原扇状地の事例-」