著者
小松 和彦 徳田 和夫 ADAM Kabat 佐々木 高弘 横山 泰子 安井 眞奈美 常光 徹 山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

四年計画の研究は、以下のテーマにしたがって展開され、成果がまとめられた。1.「怪異・妖怪伝承データベース」を活用した怪異関係記録の数量的分析手法の開発:すでに公開されている民俗学雑誌記事をもとにしたデータベースを利用し、信仰や心意現象に関するデータの計量分析手法の開発と研究をおこなった。四年間の調査・研究実績は、研究代表者・研究分担者がそれぞれ論文を執筆し、報告書(冊子体)にまとめた。2.怪異関係記録の収集および分類・整理:『日本伝説体系』全17巻(みずうみ書房1982-90)、および日本全国の都道府県史(民俗編に該当するもの)などを対象に、各地域に根付いた持続性のある「伝説」を中心とした怪異・妖怪伝承についてのデータを集積した。集積方法については、すでに公開されている「怪異・妖怪伝承データベース」作成時のマニュアルを参考にして都道府県史専用マニュアルを作成、それに従って作業を進めた。なお、都道府県史(民俗編)については合計6625件の事例を収集し、カードを作成した。3.妖怪・怪異関係典籍の収集:各地域・各時代の妖怪・怪異関係典籍を中心に発掘及び収集を行った。絵画資料については、二次資料(妖怪展などの図録資料)、一次資料(絵巻物・浮世絵・黄表紙などの現物)を対象として収集を行った。4.絵画資料データベースの試作版作成:日文研所蔵の妖怪・怪異に関する絵画資料をデジタルデータとして保存し、その画像についての書誌情報のデータベース構築をめざし、研究・開発を行った。
著者
山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-34, 1999-06

オイゲン・ヘリゲル著『弓と禅』は、日本文化論として広く読まれている。この論文では、ヘリゲルのテクストやその周辺資料を読み直し、再構成することによって、『弓と禅』の神話が創出されていった過程を整理した。はじめに弓術略史を示し、ヘリゲルが弓術を習った時点の弓術史上の位置づけを行った。ついでヘリゲルの師であった阿波研造の生涯を要約した。ヘリゲルが入門したのは、阿波が自身の神秘体験をもとに特異な思想を形成し始めた時期であった。阿波自身は禅の経験がなく、無条件に禅を肯定していたわけでもなかった。一方ヘリゲルは禅的なものを求めて来日し、禅の予備門として弓術を選んだ。続いて『弓と禅』の中で中心的かつ神秘的な二つのエピソードを選んで批判的検討を加えた。そこで明らかになったことは、阿波―ヘリゲル間の言語障壁の問題であった。『弓と禅』で語られている神秘的で難解なエピソードは、通訳が不在の時に起きているか、通訳の意図的な意訳を通してヘリゲルに理解されたものであったことが、通訳の証言などから裏付けられた。単なる偶然によって生じた事象や、通訳の過程で生じた意味のずれに、禅的なものを求めたいというヘリゲル個人の意志が働いたことにより、『弓と禅』の神話が生まれた。ヘリゲルとナチズムの関係、阿波―ヘリゲルの弓術思想が伝統的なものと錯覚されて、日本に逆輸入、伝播されていった過程を明らかにすることが今後の研究課題である。
著者
山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.35, pp.527-536, 2007-05-21

この論文では、日文研でのCMの共同研究の成果を踏まえて、テレビ・コマーシャル(CM)による文化研究の過去と現状を通覧する。日本のCM研究は、映像のストックがない、コマーシャルを論じる分野や論者が極めて限定されていたという問題がある。CMによる文化研究という面では、ロラン・バルト流の記号分析を応用した研究が八〇年代初頭からみられた。しかし、研究の本格的な進展は、ビデオ・レコーダが普及した八〇年代後半からだった。その後、CMの評価の国際比較、ジェンダー、CM作品の表現傾向と社会の相関を探る研究などが生まれた。
著者
山田 奨治 早川 聞多
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.100, pp.25-32, 2000-10-27
被引用文献数
1

本論文では,ディジタル画像の利点を生かした浮世絵美人画研究について,(1)モルフィング技術によって作成された平均顔からの仮説設定,(2)顔の人類学的計測特徴による難判別作者の判別,(3)美人画の3次元CG化作業を通した表現の考察について報告する.(1)では,代表的浮世絵作者の平均的な美人面貌表現像を作成し,さらには歌麿の前期と後期との表現上の変化についての仮説を導いた.(2)では,清長・歌麿・豊国,広重・国貞・英泉・国芳,歌麿前期・後期という,一見判別の難しい作者の判別についての,面貌表現上の判別指針を示しえた.(3)では,歌麿作「高島おひさ」の3次元CGモデルを作成し,従来実像からの誇張ばかりに着目されていた歌麿の面貌表現について,意外と写実的である可能性が示唆された.これらの結果は,ディジタル画像を使用することによってはじめて得られた,浮世絵研究のあたらしい視点である.In this article, we discuss about an Ukiyo-e face research method using some merits of digitized image. Our study was conducted from three view points: (1) a hypothesis from averaged faces by morphing technology; (2) discriminations of very similar faces using antholopometric features; (3) a hypothesis through 3D CG model construction of a female's face. As for (1), some averaged faces of famous Utamaro's early period and his latter period, we reduced a hypothesis that the difference would come from the view angle. As for (2), we suggested some discrimination criterias for very similar painters; Kiyonaga, Utamaro and Toyokuni; Hiroshige, Kunisada, Eisen, and Kuniyoshi; Utamaro's early period and latter period. As for (3), we built a 3D CG model of "Takashima Ohisa" by Utamaro. Through the modeling, we have got a hypothesis that Utamaro could have been a realistic artist, in contrast to his image of exaggerated expression.
著者
頼富 本宏 森 雅秀 野口 圭也 立川 武蔵 山田 奨治 内藤 榮
出版者
種智院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、研究代表者が平成9年に北京市の首都博物館を訪れた際、隋・唐代から清代に至る膨大な数量の金銅仏像が未整理のままに保管されている実態を確認したことから、国際学術研究として出発した。初年度では、比較的良質の数十点の作例を調査・撮影し、かつ妙応寺・意珠心境殿に整理・展示されている六千余点の金銅仏像群の報告を行なった。しかし、同年末に展示館新築が始まり、首都博物館蔵の他の資料についての調査続行が困難となった。そこで、当館所蔵の資料とも関わりを持つ中国金銅仏を多数保管する機関として、河北省の避暑山荘博物院・外八廟、遼寧省の遼寧省博物館の助力を得て、主に清朝金銅仏像を調査・撮影し、法量・尊格名などの文字データと画像データを収集して、データベースの構築に着手した。第二年次の平成14年には、当初の調査対象であった首都博物館所蔵品の調査研究が引き続き困難であるため、中国内外の個人収蔵家の協力も得て、百点を超える中国金銅仏の調査・撮影を行ない、比較研究資料の蓄積に努めた。そこで、従来の明・清代のチベット仏教系の鋳造仏だけではなく、北魏・隋・唐代のより古い時代の多数の鋳造仏の資料が得られることになり、それらを体系的に配列することで、仮説的ではあるものの、様式的展開を概観できるようになった。第三年次の平成15年には、SARSの流行によって現地調査の機会が阻まれたが、終息後に雲南省へ渡航し、雲南省博物館と大理市博物館の協力もあって、中国金銅仏でも特異な様式と内容を持つ金銅仏群の調査資料を採取することができた。さらに、静岡県三島市の佐野美術館の中国金銅仏像を調査・撮影した。三年間の研究期間中、海外現地調査と副次的な国内調査を重ねることによって、579点の資料(うち参考資料268点)を収集し、データを集積した。また、故宮から流出したと推測される「宝相楼仏像群」についても、簡略ながら復元を試みることができた。以上の諸資料の画像と採取データのうち、掲載許可を得た資料を収録した成果報告書を最終年度に刊行し、研究者に情報提供を行なっている。