著者
大原 常晴 廣内 雅明 岡 美智子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.1, pp.34-41, 2014 (Released:2014-07-10)
参考文献数
30

レグテクト®錠333 mg(有効成分:アカンプロサートカルシウム)は,「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」の効能・効果,「通常,成人にはアカンプロサートカルシウムとして666 mg を1 日3 回食後に経口投与する.」を用法・用量として2013 年3月に承認された.アカンプロサートカルシウムは,ラットのアルコール(エタノール)自発摂取ならびにエタノール離脱効果を抑制した.さらに,エタノールへの条件づけ場所嗜好性(CPP)を獲得したマウスに対し,本薬はエタノールCPP の発現を用量依存的に抑制した.また,エタノールの持続曝露によりグルタミン酸作動性神経活動が亢進したラット大脳皮質初代培養神経細胞では,グルタミン酸刺激による細胞障害が増悪した.本薬はこの作用を顕著に抑制し,エタノール依存で生じた過剰なグルタミン酸作動性神経活動を低下させることでエタノールへの渇望を抑え,自発摂取やCPP 発現の抑制につながると考えられた.一方,国内第Ⅲ相臨床試験ではアルコール依存症患者を対象にプラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した.アルコール依存症の治療目標は断酒であり,主要評価項目である治験薬投与期間中の完全断酒率は本剤群47.2%(77/163 例)およびプラセボ群36.0%(59/164 例)であり,本剤群が有意に高かった(P=0.0388,χ2 検定).本剤群のプラセボ群に対する完全断酒率の差(95%信頼区間)は11.3%(0.6~21.9%)であった.投与期間中の有害事象発現率は本剤群77.9%(127/163 例)およびプラセボ群68.3%(112/164 例)であり,本剤群の方が高かった(P=0.0498,χ2 検定).死亡およびその他の重篤な有害事象は,すべて治験薬との因果関係は否定された.因果関係が否定できない有害事象(副作用)発現率は本剤群17.2%(28/163 例)およびプラセボ群13.4%(22/164 例)であり,両群間に有意な差は認められなかった(P=0.3444,χ2 検定).投与期間中に認められた有害事象および副作用はほとんどが軽度または中等度であった.最も発現率が高かった副作用は下痢であり,本剤群12.9%(21/163 例)およびプラセボ群4.9%(8/164 例)であった.下痢は無処置または整腸剤等の投与で回復可能であり,本剤に重大な安全性所見は認められなかった.さらに,本剤による薬物依存性は認められなかった.以上より,アルコール依存症の断酒治療において心理社会的治療に加えて本剤を使用することで断酒維持効果が高まり,一人でも多くの患者がアルコール依存症からの回復につながることが望まれる.
著者
白木 仁 青野 淳之介 八十島 崇 宮下 寛子 花岡 美智子 向井 直樹 宮川 俊平 宮永 豊
出版者
筑波大学体育センター
雑誌
大学体育研究 (ISSN:03867129)
巻号頁・発行日
no.26, pp.23-32, 2004-03

下肢伸展挙上運動(Straight Leg Raise Exercise:以下SLR Ex.)は、関節に荷重負荷がかからず、安全に膝関節のトレーニングが行えることから、膝関節疾患等に対する運動療法の1つとして、医療現場を中心に幅広く行われている。市橋らは、SLR Ex.時の股関節屈曲角度や負荷量の違いが、大腿四等筋の筋活動に及ぼす影響を節電図学的に検証し、 ...
著者
田中 幸道 江頭 賢治 吉岡 美智子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.183, 2017 (Released:2019-06-01)

目的 A病院における動く重症心身障害児(者)で、強度行動障害の中でも特に破衣行為のある患者に対する思いと看護実践について明らかにする。 方法 A病院に入院中の破衣行為のある患者の看護に携わった経験が3年以上を有する看護師5名に対し患者への思いや看護について2〜3名でグループインタビューを行った。逐語録から意味のある文節で区切りコード化し類似するコードをまとめ抽象化を繰り返し、サブカテゴリを〈 〉カテゴリを《 》で表した。本研究は当センター倫理審査委員会の承認を得て実施した。 結果および考察 破衣行為のある患者に対する看護実践の内容について分析した結果、5つのカテゴリを抽出した。看護師は全体の関わりを通して《破衣に至る患者の真意を探求》しており、患者が自分の意志を十分に伝えられないからこそ患者理解に多くの時間を費やし心を砕きながら患者の真意を探求していたと考える。 看護師は患者の〈発達過程から破衣の要因や関わりを検討〉しながら〈患者の好むモノや活動を把握〉することで強化因子を探り〈破衣の要因別に対応の方法を選択〉していた。また、これまでの〈看護師の経験から効果的な看護を引き出し〉《患者の障害特性に合わせて破衣が減少する手立てを探って》いた。看護師は、破衣の要因が重複するケースもあり患者の真意を掴めず患者に適した看護実践の選択に悩みながら《患者の特性を考慮し試行錯誤を重ね》ていた。 そして《他職種と患者の問題行動を共有し対応方法を統一》していた。このことは患者が混乱しない環境を提供するため、支援者の言葉や態度を統一することを重要視していたのではないかと考える。 日々の関わりの中で看護師は《「服は着る」の言い聞かせ》を行っており、患者が将来社会に出て生活をすることを前提に、ソーシャルスキルを身につけてほしいといった看護師の強い思いの表れによって実践していた内容であると考える。
著者
山口 浩史 栗田 麻希 吉永 遼平 淺尾 靖仁 岡 美智子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.259-264, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
19

慢性前立腺炎は泌尿器科領域ではもっとも一般的な疾患のひとつである.下腹部や会陰部の慢性的な痛みおよび不快感によりQOLが著しく損なわれる疾患であるが,確立された診断方法はなく,治療に難渋する患者も多いことから,新たな治療薬の開発が求められている.薬物評価を行う目的で,様々な急性および慢性の動物モデルが報告されてきたが,ヒトの病態との相関やモデルとしての妥当性に関しては十分な考察がされてこなかった.そこで,我々は今回,慢性モデルとして報告されている自己免疫性(EAP)モデルとホルモン誘発性(HCP)モデルを用い,慢性前立腺炎の特徴である疼痛および前立腺の炎症に関して評価を行った.Von Frey法により下腹部を刺激し疼痛様行動を評価したところ,EAPモデルおよびHCPモデルにおいて疼痛様行動の有意な増加が認められた.また,前立腺の炎症についてHE染色により病理組織学的に評価したところ,EAPモデルでは前立腺の腹葉特異的な炎症が認められたのに対し,HCPモデルでは前立腺の側葉特異的な炎症が認められた.前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬であるタダラフィルが,臨床において,慢性前立腺炎患者の疼痛症状を改善することが報告されている.そこで,EAP,HCPモデルを用いて,タダラフィルの作用について検討したところ,タダラフィルの反復投与はEAPモデルの疼痛様行動の増加を有意に抑制し,前立腺腹葉の炎症も有意に抑制した.HCPモデルにおいてもタダラフィルの反復投与は,疼痛様行動の増加を有意に抑制した.以上のことから,EAP,HCPモデルは慢性前立腺炎患者の特徴である疼痛と前立腺の炎症を示すモデルであり,薬物を評価するのに有用なモデルであると考えられた.
著者
木野 孔司 杉崎 正志 羽毛田 匡 高岡 美智子 太田 武信 渋谷 寿久 佐藤 文明 儀武 啓幸 石川 高行 田辺 晴康 吉田 奈穂子 来間 恵里 成田 紀之
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
TMJ : journal of Japanese Society for Temporomandibular Joint : 日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.210-217, 2007-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
4

ここ10年ほどの間にわれわれの顎関節症への保存治療は大きく変化した。個々の患者がもつ行動学的, 精神的寄与因子の管理・是正指導と同時に, 病態への積極的訓練療法を取り入れている。その結果, 改善効果割合の増大と通院期間の短縮がみられた。この効果を確認し, 今後の治療方法改善に向けた検討を目的として, 2003年に実施した治療結果を1993年に報告した保存治療成績と比較した。対象は1993年が382例, 2003年は363例である。治療方法の比較では, 1993年はほぼ病態治療のみであり, 鎮痛薬投与, スプリント療法, 訓練療法, 関節円板徒手整復術などが行われていた。2003年では患者から抽出した個々の行動学的寄与因子の是正指導, 局麻下での徒手的可動化, 抗不安薬や抗うつ薬投与, 心療内科との対診が新たに取り入れられ, 訓練療法, 鎮痛薬投与が多くなり, 逆にスプリント療法, 関節円板徒手整復術は減少した。1993年調査で用いた効果判定基準に従うと, 1993年 (39.8%) に比べ2003年 (61.0%) の著効割合は有意に大きかった (p<0.001), 有効まで含めた改善効果も2003年が有意に大きかった (p=0.001)。逆に通院期間は中央値11.5週から8週と有意に減少した (p=0.030)。これらの結果から, 個々の寄与因子是正指導および訓練療法の効果を前向きに検討する必要性を確認した。