著者
岡部 光明

近年、価値観が多様化するなかで、良い人生を生きるために自己啓発への関心が高まっており、それに関する書籍の出版も盛況を呈している。本稿では、多様な自己啓発書(邦訳書を含む)の中から比較的高い評価を得ている5件を選び、それぞれの概要を整理して紹介した。そして、そこに現れている人間観や社会像から何が読み取れるかを考察した。主な論点は次の通り。(1)いずれの書物においても良い人生を送るためには人間の性格(人格、パーソナリティ、character)の改善が不可欠だとされている。(2)このため人格がどう形成され、どう変革可能かの議論に多くの紙幅が割かれている(但し提案されている人格変革の方法は様々である)。(3)人は単独で生きているのではなく多様な共同体(コミュニティ、つながり)の中で生きている(このため仕事は自分と社会をつないで生きがいをもたらすという重要な機能を持つ)という理解が共通の認識となっている。(4)人間のこうした理解は主流派経済学で前提される人間像(消費最大化のため利己的・合理的に行動する原子論的な主体)よりも的確だと思われるので、経済学は今後そうした側面も取り入れた展開をする必要がある。
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.81-113, 2015-03-31

2012年12月,3年ぶりに政権に復帰した自由民主党は,日本経済の再生を最優先課題に掲げ,「強い経済」を取り戻すための経済政策パッケージ「アベノミクス」を更年後1月初めに打ち出した。それは「3本の矢」によって政策目標を達成しようとするものであり,第1の矢(金融政策),第2の矢(財政政策)は2013年前半に順次発射され,第3の矢(多様な側面を含む成長戦略)はその後1年半のうちに徐々に取り組みが進められてきている。本稿は,この政策パッケージの内容と特徴を整理するとともに,その評価を2年弱経過した時点(2014年秋)において試みたものである。その結果(1)この政策パッケージの発表と取り組みに伴って円高の修正(円安化)が進む一方,株価が急上昇するなど市場は政策を当初高く評価した,(2)それに伴い景気回復,企業の業績改善,雇用情勢の改善などがみられ日本経済におよそ6年ぶりに明るさが戻っている,一方(3)金融面で超緩和を継続してもそれが今後大きな追加的効果を持つかどうかは疑問が多い,(4)財政面での支出拡大(大幅な補正予算)の効果は専ら短期的なものであり経済の構造変化に結びつく項目は多くない,(5)政策パッケージにおいては短期的視点と長期的視点が混在し十分に整理されていない面がある,(6)最初の2本の矢(金融政策と財政政策)はいわば時を買うための手段にとどまるので,日本経済の長期安定成長にとっては,第3の矢をはじめ未着手の大きな課題である財政収支改善の道筋確定(いわば第4の矢),そして日本経済の構造変革の実現に結びつく大きな視点からの対応(生産性向上,強い円の指向など)が残された課題である,などを主張した。
著者
岡部 光明

コーポレート・ガバナンスとは、企業がその「本来的な機能」を十分に果たすために「関係者」相互の関係を規定する「仕組み」が構築され、それが機能している状態を指す。しかし、この場合、企業の本来的な機能、関係者、仕組みをそれぞれどう考えるかによって多様な見方がある。本稿では、コーポレート・ガバナンスのあり方(手法)に関する従来の考え方を示すとともに、それらとは全く異なる一つの新しい視点からのアプローチとその可能性、必要性、そのための課題、を提示することを意図している。その結果、(1)従来の視点とは経済学(ファイナンス論)アプローチ、法学(法令コンプライアンス)アプローチの二つである、(2)これに対して倫理学アプローチという発想もありうる、(3)その場合の中心的な概念はインテグリティ(integrity)でありそれは一貫性、道徳性(誠実)、説明責任によって構成される、(4)企業関係者がその意義と価値を体得するとともに組織としてもそれを重視するようになればコーポレート・ガバナンスの手法として新しい次元(法律ベースのハード統治に加えてソフト統治)を追加する意味を持つ、(5)これは理論的にも妥当性を持つ(シェリングの自己管理モデルで説明可能である)、(6)日本社会では今後インテグリティという概念の理解とその普及が課題であり、それは教育(特に大学教育)の大きな役割の一つでもある、などを主張した。
著者
岡部 光明

大学は、先端研究を担うほか、将来における一国の中核的人材を養成する社会的組織である。そのあり方を考える場合には、学生が大学で学び身に付けるべきことは究極的に何なのか、そしてそれをどのようにして学生に身に付けさせるべきか、という二つの原点に立ち返って考えることが大切である。本稿は、筆者の国内外で大学教育に関わった体験、ならびに関連する学問領域(教育学、心理学、人格形成論、経済学など)の動向を踏まえて大学教育のあり方を考察したものである。その結果、(1)大学教育の目標は三つ(日本語力、インテグリティ、向上心)に集約できる、(2)そうした整理の仕方は関連する学問分野の最近の研究動向(批判的思考力や非認知能力の育成重視)に照らしても整合的といえる、そして(3)そうした視点とその実践結果は筆者が接してきた学生諸君の声からも支持されている、などを主張した。
著者
岡部 光明

大学教育の目標は、日本語力、インテグリティ、向上心の三点に集約できることを別稿(岡部:2018)で指摘した。本稿は、リベラルアーツ教育という観点からその発想を評価するとともに、そうした目標を達成するにはどのような学習方法と制度的な仕組みが相応しいかにつき、国内外の3つの大学における教育のあり方に照らして考察した。その結果、(1)上記3 目標はリベラルアーツ教育という観点にも合致している、(2)その教育効果を挙げるには「講義+少人数クラス(ゼミや研究会)」という制度がふさわしく、この点を含めて米プリンストン大学の学部教育に学ぶべきことが多い、(3)大学教育においては仲間と共に学ぶという環境(人間的きずなの形成)が在学時だけでなく卒業後の人生にとっても大切である、(4)日本の大学生の学習時間はアメリカ等の大学生に比べて著しく少ないが、その理由は大学教育が本来どうあるべきかが日本では正面から問われることがなかったことを反映しているので、いまその根本的な議論が必要である、などを主張した。
著者
阿部 フミ子 長尾 常敦 岡部 光 山内 辰郎 丸林 信洋 上田 幾彦
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.2127-2129, 1990-08-25 (Released:2008-03-31)
参考文献数
5
被引用文献数
7 10

Parsonsianine, a 14-membered macrocyclic pyrrolizidine alkaloid, composed of retronecine, (2S, 3R)-2, 3-dihydroxy-2-ethylbutanoic acid and (2R, 3S)-2, 3-dihydroxy-2-isopropylbutanedioic acid, was isolated from the leaves of Parsonsia laevigata and the structure was determined by means of nuclear magnetic resonance and X-ray analysis.
著者
岡部 光明
巻号頁・発行日
(Released:2018-07-10)

主流派経済学において前提される人間は、利己主義的かつ合理的に行動するという単純な人間像であるが、人間の本性はもっと多面的である。このため、人間の一面だけに焦点を当てつつ社会を理解しようとする主流派経済学は、社会科学として本質的な問題を抱えている。経済学のこうした状況を手厳しく批判するとともに、新しい研究方向を提示したのが経済学者・哲学者アマルティア・センである(1998 年にノーベル経済学賞を受賞)。本稿では、人間の幸福と社会のあり方を理解するために彼が提示した潜在能力論(capabilities approach)という枠組みを概観した。次いで、その人間観を発展的に応用したものとして位置づけることが可能な一つの人間論ないし実践哲学を紹介するとともに、それが持つ社会的含意を論じた。主な論点は次のとおり:(1)人間の幸福あるいは善い生活(well-being)を捉える方法として従来、効用(utility)を基礎とする主観的アプローチ、財産(resource)を基礎とする客観的アプローチが標準的なものとして存在した、(2)それらの欠陥を補正するためにセンが開発したのが潜在能力アプローチでありそれは主観的要素と客観的要素の両方を含む、(3)人間の潜在能力の開放を重視するその思想は自己実現を重視する現代の一つの実践哲学と重なる面がある、(4)その実践哲学は、普遍性、現代性、社会性、そして実証性を備えているので今後の展開が注目される。
著者
藤岡 稔大 岩元 雅代 岩瀬 由紀子 八山 しづ子 岡部 光 三橋 國英 山内 辰郎
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, pp.165-172, 1988

Dammarane-type triterpene glycosides, named actinostemmoside A, B, C, D, G and H, baccharane-type triterpene glycosides, actinostemmoside E and F, and oleanane-type triterpene glycosides, lobatoside A, B, C, D, E, F, G and H were isolated from the herb of Actinostemma lobatum MAXIM. (Cucurbitaceae). Their structures were elucidated on the basis of the spectral and chemical evidences as shown in the text. The structure of actinostemmoside F was elucidated mainly on the basis of two dimensional-incredible natural abundance double quantum transfer experiment (2D-INADEQUATE) spectrum. Among dammarane-type actinostemmosides, D is the glycoside of the first naturally occurring dammarane having the (20R)-configuration, and actinostemmosides E and F are the second baccharane-type triterpene glycosides isolated from the natural source. Lobatoside B, C, D, E, F and G are cyclic bisdesmosides similar to tubeimoside I isolated from the tuber of Bolbostemma paniculatum (MAXIM.) FRANQUET. (Cucurbitaceae), and this is the second instance of the isolation of cyclic bisdesmoside from the plant kingdom.
著者
岡部 光 宮原 由美 山内 辰郎
出版者
天然有機化合物討論会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
no.24, pp.95-102, 1981-09-10

An extensive survey for the triterpenoid constituents of Momordica charantia L. has been carried out in this laboratory, and so far, five glycosides (momordicosides A-E) of cucurbit-5-ene derivatives were isolated from the seeds, and their structures were determined. They are unique cucurbitacins being highly oxygenated only in the side chain and having no oxygen function at C_<11>. This study concerns the structure elucidation of two bitter glycosides, momordicosides K and L, and four non-bitter glycosides, momordicosides F_1, F_2, G and I isolated from the fruits. The structure of F_1 was proposed as 3-O-β-D-glucopyranoside of 5,19-epoxy-25-methoxy-5β-cucurbita-6,23-dien-3β-ol on the basis of PMR, CMR and CD spectral data and chemical conversion into a cucurbit-5-ene derivative. G is the corresponding β-D-allopyranoside. F_2 and I are the C_<25>-OH derivatives corresponding to G and F_1, respectively. K and L were determined as 7-O-β-D-glucopyranosides of 19-oxo-25-methoxy-cucurbita-5,23-diene-3β, 7β-diol and its C_<25>-OH derivative, respectively, on the basis of spectral data and chemical correlation with F_1-aglycone. F_1, F_2, G and I are the first cucurbitacins having 5β-cucurbitane nucleus found in nature, and K and L are noted as the new cucurbitacins having C_9-aldehyde and 7-O-β-D-glucopyranosyl groups. Among momordicosides, G and F_2 are the first triterpenoid glycosides having D-allose as a component sugar.
著者
岡部 光伸
出版者
智山勧学会
雑誌
智山学報 (ISSN:02865661)
巻号頁・発行日
no.43, pp.p185-196, 1994-03

室町時代に日光山寂光寺の僧、覚源によって「釘抜念仏」が始められ寂光寺が念仏道場として発展すると共に日光修驗者によって「釘念仏」が諸国に伝えられた。釘念仏とは死者は生前の業により地獄に落ちると、体に四十九本の釘を打ちこまれ、その打たれる時の苦るしみからのがれる為に釘を抜くのであるが、釘一本抜くのに念仏一万遍を唱え、合計四十九万遍念仏を唱えるのである。この様な釘念仏は日光より全国各地に相承され上総の国にも今現在釘念仏として二つの地域で葬儀終了後、初七日の行事として行なわれており、日光寂光寺と上総の二地域の三地点に伝えられておる念仏について比較してみようとするものである。

1 0 0 0 IR 古代歌謡と宴

著者
岡部 光恵
出版者
立正大学文学部
雑誌
立正大学文学部論叢 (ISSN:0485215X)
巻号頁・発行日
no.25, pp.59-83, 1966-09-15