- 著者
-
岸元 良輔
佐藤 繁
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.48, no.1, pp.73-81, 2008 (Released:2008-07-16)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
-
6
長野県に広く生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)と人間とのあつれきが,最近になって増加している.長野県は,1995年にツキノワグマ保護管理計画を策定し,計画に基づいたツキノワグマの保護管理施策を実施してきた.保護管理計画は2002年に特定鳥獣保護管理計画に位置付けられた.長野県は,計画策定時の1995年と改訂時の2002年,及び2007年に,合計3回のツキノワグマの個体数調査を実施している.当初2回の調査では直接観察法が採用され,3回目の調査ではヘア・トラップ法が採用された.1995年,2002年,及び2007年における推定生息数は,それぞれ1,362頭,1,325~2,496頭,及び1,881~3,666頭であった.1995年と2002年の計画では,個体群サイズを1,300頭水準に維持するために年間捕獲上限数を150頭に規制していたが,生息数推定値の信頼性が低いことから,2007年の計画では,固定した捕獲上限数を設定していない.これは,様々な仮定に基づくこれらの推定結果の信頼性は疑わしいためである.正確な個体数の推定よりも,クマ個体群の動向を監視することのできるモニタリング手法を確立することが,日本のツキノワグマ個体群管理における最も重要な課題である.