著者
小川 容子 嶋田 由美
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.161, pp.87-94, 2016

本研究は,大学生を対象に,短い旋律を記憶再認する際にどのようなリズム変容がおこるのか信号検出理論に則って検討したものである。実験に用いた旋律は,リズム(等拍・ぴょんこ)×歌詞(促音,撥音,拗音を含んだもの・促音,撥音,拗音を含まないもの)×歌詞のイメージ(動的・静的)×旋律構造(順次進行・跳躍進行)に配慮して作成した6種類の新規旋律である。実験1では音楽専攻学生と非音楽専攻学生を対象とした再認実験を,実験2では音楽専攻学生を対象に直後再認と遅延再認実験を実施した。実験1の結果から音楽専攻学生の方が非音楽専攻学生に比べて強い確信度を保持し高い正答率を獲得していること,両者とも「ぴょんこ」リズムの記憶が等拍リズムよりも不安定であることが明らかにされた。実験2の結果からは,直後再認の結果が遅延再認の結果を上回ること,直後再認時の「ぴょんこ」リズムの記憶が等拍リズムよりもきわめて不安定であることが認められた。音楽専攻の有無に関わらず,等拍リズムに比べて「ぴょんこ」リズムの記憶がかなり曖昧になることから,我が国の明治後期以降の唱歌調全盛期にみられる唱歌のリズム変容との関わりが,示唆された。
著者
嶋田 由美
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-12, 2009

<p> 本稿は, 1900年前後に作られた唱歌の基本拍内同音反復のリズムを持つ特徴, いわゆる「唱歌調」の構造的特殊性と, それを生み出すに至った教育的背景について明らかにするものである。</p><p> 1882年発刊の『新体詩抄』で提唱された七五調による詩形は, その後の唱歌歌詞の基本構造となり, この七五調を唱えることから, 次第に今日「唱歌調」と言われる同音反復のリズムを持つ楽曲構造が生み出された。この背景には, 1890年の「教育勅語」渙発以降, 教育内容が徳育に特化され, 七五調の唱歌歌詞にもさまざまな徳目が詠い込まれる必要性があったこと, そして唱歌が地理や歴史等の他教科教育の補助的手段となり, 他教科の教育内容を歌詞に持つ唱歌を教授することによって, 唱歌科としての位置づけを得ようとしたことが挙げられる。即ち, この期の「唱歌調」と言われる唱歌は, 基本拍内同音反復のリズムに七五調の教科的, 或いは教訓的な歌詞内容を入れ込んで徳育に資すことを目的としたものであった。</p>
著者
小川 容子 嶋田 由美 杉江 淑子 林 睦 村尾 忠廣
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

歴史的研究, 調査研究, 実験的研究の3分野に分かれて音楽科に求められる「学力」について検討し, 音楽学力に関する幅広い議論を積み上げるための基礎づくりをおこなった。歴史的研究では,(1) 戦後の文部省研究指定校や研究実験校, 調査協力校に関する報告書・資料集の収集,(2) 調査対象地域及び対象県の選定とフィールドワークを主とした実態把握を中心に研究を進めた。調査研究では,(1) 全国の元音楽教師, 現役音楽教師を対象とした質問紙調査の実施,(2) 調査対象者並びに対象グループの選定とインタビューを主とした聞き取り調査の実施を中心に研究を進めた。実験的研究では,(1) 音楽能力調査及び学力検査の追試と分析,(2) 国際比較に基づく児童・生徒の音楽学力の実態把握,(3) 新音楽学力調査問題の開発作成をおこなった。