著者
澤邉 京子 佐々木 年則 星野 啓太 伊澤 晴彦 倉橋 弘 主藤 千枝子 棚林 清 堀田 昭豊 山田 章雄 小林 睦生
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第58回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2006 (Released:2006-06-07)

2004年京都府丹波町での鳥インフルエンザ発生時に採集されたクロバエ類の消化管から高率にH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスを検出、分離したことを昨年の本大会で報告した。その後、人為的にウイルスをクロバエに摂食させ、ハエ体内でどの程度の期間ウイルスが維持されるかを検討したので報告する。オオクロバエの羽化後14日の雌成虫に、H5N1亜型低病原性インフルエンザウイルス(A/duck/Hyogo/35/01)培養液を脱脂綿に滲み込ませ3時間摂食させた。その後、餌用寒天培地の入った三角フラスコ内に個別にクロバエを入れ一定期間維持した。経時的にクロバエを冷凍殺虫し、表面をMEM培養液で洗浄後、消化管(そ嚢、腸管)を摘出した。フラスコ内壁に付着した排泄物ならびに吐出物をMEM培養液で洗い回収し、虫体洗浄液と混和した。ウイルス液を滲み込ませた脱脂綿も同様に一定期間保管した。1 そ嚢、2 腸管、3 フラスコ内壁・虫体洗浄液、4 脱脂綿のそれぞれをMEM培養液で破砕、あるいは攪拌してウイルス乳剤を調整し、ウイルス遺伝子検出とウイルス分離に供した。ウイルス遺伝子はRT-PCRおよびnested PCRで確認し、感染性ウイルスは発育鶏卵接種後HA試験およびFluA+B(BD社)で分離の成否を判定した。同時にMDCK細胞培養を用いてウイルス力価を測定した。その結果、オオクロバエ摂食後14日までのほとんどの検体からウイルス遺伝子は検出され、感染性ウイルスはオオクロバエの体内で少なくとも24時間生存することが示唆された。オオクロバエは1日に数kmは容易に移動することから、その距離内にある近隣の鶏舎などにウイルス活性が保持された状態のウイルスがオオクロバエによって運ばれる可能性は高く、本ウイルスの伝播、拡散にオオクロバエなどのハエ類が貢献することは十分に考えられる。
著者
良永 真隆 林 睦晴 横井 博厚 藤原 稚也 吉川 大治 向出 大介 杉下 義倫 鎌田 智仁 伊藤 丈浩 多賀谷 真央 井澤 英夫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.1213-1218, 2015 (Released:2016-10-13)
参考文献数
10

ビタミンB1欠乏症, 特に衝心脚気は現代では非常に稀な病態であるが, 1990年代から食生活の変化に伴い若年者に加え, 高齢者の症例も散見されるようになった. 症例は意識障害にて救急搬送された中年男性で, 胸水・腹水含め, 全身性の著明な浮腫を伴っていた. 心臓超音波検査では重度のび漫性左室収縮低下を認めたが, 生活歴・食事歴よりビタミン欠乏を疑い, ビタミン補充治療を施行するも改善に乏しかった. ビタミン利用障害の可能性も考慮し, 大量補充療法を施行したところ, 速やかな意識状態の正常化を認め, 浮腫も改善した. 最終的には心機能も正常範囲に回復し, 社会生活への復帰が可能となった. 改善後, ビタミンB1負荷検査にて, ビタミンB1の利用障害が認められた. 本症例のような偏食を伺わせる生活歴を持った原因不明の循環不全においては, 高拍出性心不全の病態でなくても, 脚気心の可能性を念頭に置く必要がある. 通常のビタミン補充療法で改善を認めない場合でも, ビタミンB1の利用障害が存在している可能性を考慮し, 典型的なWernicke脳症の症状を呈さなくても, 心不全に意識障害を併発している場合には, 早期から高用量のビタミンB1投与も検討する必要があると考えられた.
著者
林 睦
出版者
滋賀大学教育学部
雑誌
滋賀大学教育学部紀要 (ISSN:21887691)
巻号頁・発行日
no.67, pp.199-204, 2018-03-30

「ギフテッド」とは、英語のgiftedという語に由来しており、天賦の才能を持つ人々という意味である。先天的に平均よりも顕著に高い能力を持っている人のことを指し、どの国や社会にも一定数存在すると考えられる。アメリカ連邦政府の定義では、ギフテッドの子どもとは、「知性、創造性、芸術性、リーダーシップ、または特定の学問分野で高い達成能力を持ち、その能力を発揮させるために通常の学校教育以上の活動や支援を必要とする子ども」を指す。National Center for Education Statisticsのデータによると、全米の学齢期の子どもの6.7%がギフテッドであるとされている。では、ギフテッドとは具体的にはどんな子供を指すのだろうか。まず、ギフテッドの一般的な特徴について、アメリカのギフテッドのガイドブックを参照してみることにしよう。
著者
佐藤 卓 松本 文雄 安部 隆司 二瓶 直子 小林 睦生
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.195-204, 2012-09-30 (Released:2013-07-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

It was previously reported that the northern limits of geographic distribution of Ae. albopictus in Japan are Akita and Iwate Prefectures. In this study, we carried out larval surveillance from 2009 to 2010 to clarify the present distribution of the mosquito in Iwate Prefecture and to analyze the relationship between climatic conditions and the northern distribution of Ae. albopictus by the geographic information systems (GIS). Distribution of Ae. albopictus was found in 34 collection sites from 7 cities and 2 towns in this study. Around the collection sites in Senboku 2 Chome, Morioka City where Ae. albopictus larvae were collected in 2009, an intensive investigation was carried out in 2010, and more than 20 colonies of Ae. albopictus were collected. This suggests that Ae. albopictus population has been established in Morioka City. The relationships between climatic conditions and distribution of Ae. albopictus in Iwate Prefecture were analyzed using 1 km mesh climate data from 2006 to 2010, and the following conditions were suggested for the presence of Ae. albopictus populations: >10.8°C annual mean temperature, >-1.4°C daily mean temperature in January, >185 days/year with >10.8°C mean daily temperature and >1,350 degree days of effective accumulated temperature per year.
著者
小林 睦子 内藤 和美 高橋 ゆかり
出版者
群馬パース大学
雑誌
群馬パース学園短期大学紀要 (ISSN:13477269)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.53-73, 2003-03-31

To investigate the change of social recognition to the child abuse problem we examined newspaper articles on child abuse written as incidents in our previous report. In this paper, we focused on commentaries which more clearly showed the opinion of writers. Headlines in the Asahi Shimbun from April 1994 to March 2002 were analyzed. The number of commentaries on child abuse were increased after the enforcement of the law of child abuse. The articles on child abuse gradually changed from family cases to social problems. Various gender bias was seen in articles on child abuse.
著者
小林 睦
出版者
日本現象学会
雑誌
現象学年報 (ISSN:0289825X)
巻号頁・発行日
no.23, pp.157-164, 2007
著者
田中 香織 杉木 知武 林 睦子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.82, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】今回、大腿骨頚部骨折後に人工骨頭置換術(以下BHA)を施行した患者を担当した。本症例は、生活意欲は高いが認知面低下の為、転倒・脱臼のリスクを伴い、生活への適応が困難と思われた。今回、生活機能向上を目指し、状況を変えてのADL訓練と環境面を中心に作業療法(以下OT)アプローチを行い、ADL向上が見られたので考察をふまえ報告する。【症例紹介】年齢:84歳 性別:男性 診断名:左大腿骨頚部骨折 現病歴:H17年12月24日に自宅にて転倒し27日にBHA施行。合併症:関節リウマチ(classIII)左片麻痺(Brs-stage:上肢IV・手指V・下肢IVからV)【OT評価】*術後生活状況として1.心身機能:術後左下肢ROM制限・筋機能低下あり、疼痛(左股関節動作時痛・安静時痛+・夜間時痛±)、HDS‐R(17/30点:短期長期記銘力低下あり)。2.活動:Barthel Index(以下BI。20/100点)、食事以外要介助。基本動作全介助。脱臼肢位(股関節屈曲内転内旋位)をとる。3.環境因子:本人・妻・長男夫婦の4人暮らし。週2回デイサービス利用。*術前生活状況としてBI(70点)。整容・入浴・更衣・排尿排便自制は部分介助、T字杖歩行にて転倒あり。基本動作は手すりにて自立。趣味は庭の手入れ。【OTアプローチ】1.活動性向上を目的とした訓練 2.状況を変化させての繰り返しのADL訓練:脱臼肢位の意識付け(口頭指示・視覚刺激)、身体機能向上に合わせてのADL訓練、自助具の工夫。 3.生活への定着:病棟でのADL訓練。環境調整。4.環境面の支援:家族指導、パンフレット作成。【転院時評価:H18年1月27日】BI(65点)時折、足を組む、脱臼肢位での靴着脱・更衣動作などが見られること、要時間の為見守りから軽介助。段差昇降は杖と手すりにて見守りから軽介助。移動はピックアップ型歩行器またはT字杖見守り。【考察】今回、認知症を呈し生活意欲は高いが新たな生活動作への適応困難な症例に対して、ADL向上が見られた。主な要因として、生活者としての意識の高さ・身体機能向上に伴う自助具の操作性向上・繰り返しのADL訓練により学習効果が得られたことと、生活場面での練習・周囲からの意識付けによる生活への定着への関与が考えられる。今後は、施設入所を経て自宅復帰する予定である。生活環境に近い状況・実生活での繰り返しのADL指導・環境面の支援(家族支援、物理的環境の調整)の必要性が示唆される。
著者
横山 紘子 斉藤 康秀 二瓶 直子 澤邉 京子 津田 良夫 小林 睦生
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第58回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2006 (Released:2006-06-07)

蚊の吸血嗜好性は疾病媒介能を評価する上で重要な形質である。近年、わが国へのウエストナイル(WN)ウイルスの侵入・定着が危惧される中、PCR法を中心に野外捕集蚊の吸血源動物種が推定されてきているが、実験的に吸血嗜好性を評価する試みは全く行われていない。そこで我々は、わが国においてもWNウイルスを媒介する可能性の高いと思われる、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカの3種類の蚊の吸血嗜好性を、ほ乳類と鳥類の2者選択実験により詳細に検討した。実験は、三連結した30cm立方アクリル製箱の左右それぞれにマウスとウズラを一定時間保定し、中央から放した蚊50頭がどちらに移動するかを観察、吸血蚊からはDNAを抽出し吸血源動物種の同定を行った。その結果、ヒトスジシマカはマウスを、チカイエカはウズラを多く吸血したが、アカイエカでは特定の傾向は見られなかった。次いで、麻布大学構内の動物舎で捕集した吸血蚊の吸血源動物種を、チトクロームbおよび16S領域のPCR産物から得た塩基配列をもとに推定したところ、アカイエカ(89%)とチカイエカ(71%)は鳥類を、ヒトスジシマカ(100%)はほ乳類を吸血していたことが判明した。2者選択実験と野外捕集蚊における吸血源動物種特定の結果を総合すると、ヒトスジシマカとチカイエカでは両結果はほぼ一致し、前者は「ほ乳類」を、後者は「鳥類」を好む傾向にあることが示された。一方、アカイエカでは、野外捕集蚊は鳥類を多く吸血していたが、2者選択実験では繰り返しによってよく吸血される動物種が異なった。アカイエカの吸血嗜好性は柔軟性が高く、環境条件に依存して容易に吸血源を変えることができると考えられる。実験に供した3種を比較すると、WNウイルスのヒトへの媒介種としてはアカイエカがより重要な役割を果たすであろうことが示唆された。
著者
阿部 優子 石川 雅子 会田 久仁子 小林 睦子 菊池 節子 半澤 明子 角野 猛 石村 由美子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.153, 2005

<BR>目的 福島県は地理的環境などから山間部の会津地方、平野部の中通り地方、海岸部の浜通り地方の3地域に区分される。これらの地域は気候風土が異なり、それぞれの食生活にも強い地域性が存在することが知られている。しかし、近年の高速交通網の発達、人的交流などによって、その地域性も解消しつつあることも考えられる。本調査は、近年の福島県内の食生活、食文化の地域性を魚介類の種類とその調理方法において、調査・考察することを目的として実施し、先に会津地方の魚介類調査結果について報告した。今回、いわき市での食生活の特徴、魚介類の調理・加工の特徴、更に、本地方独特の魚介類の料理・加工方法などの調査結果を報告する。<BR>方法 平成15年2_から_3月にアンケート調査及び聞き取り調査を併行して行なった。調査は福島県いわき市内に10年以上居住している18世帯で、調査対象者は各世帯の主たる調理担当者に対して行った。<BR>結果 いわき市は太平洋に面した地域で、小名浜漁港をはじめとして、多くの漁港が存在し、日々多種類の魚が水揚げされている。従って、日常食としては、多種の魚介類が刺身、煮魚、焼き魚などで食されていた。また、大量に水揚げされた魚介類は塩漬け、干物、みりん干しなどに加工して販売されており、各家庭において保存食として日常的に用いられていた。行事食としては正月・祭事時に「鮟鱇鍋」、「鯛の塩焼き」「喜知次の煮付け」などが食されていた。また、土用の丑の日に「鰻の蒲焼き」が食されていた。本地方独特の料理・加工法として、「秋刀魚のぽうぽう焼き」、「秋刀魚鍋」、「秋刀魚のみりん干し」、「秋刀魚のなめろう」、「鮟鱇鍋(鮟鱇のどぶ汁)」、「鮟鱇の供酢」、「どんこ汁」、「メヒカリの天ぷら」などが食されていることがわかった。なお、本地域では一世帯あたり年間平均42種類の魚介類を食し、平均78種類の魚介類調理法が存在した。
著者
小林 睦
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
アルテスリベラレス (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.82, pp.1-16, 2008-06

本稿の目的は,ハイデガーにおける「生命」概念を理解するために,彼の思索と生物学との関係を整理・検討してみることにある1)。これまで,ハイデガーと生の哲学との関係については多くの議論がなされてきたが,彼の哲学と生物学との関わりについては,あまり語られることがなかったように思われるからである。 そのためには,ハイデガーがその著作や講義録で行なっている,必ずしも多いとは言えない生物学への言及を手がかりに,彼が当時の生物学によって提案されていた主張をどのように評価あるいは批判していたのか,また,彼がその生物学からどのような影響を受けていたのか,を明らかにする必要がある。 哲学者としてのハイデガーは,アリストテレス研究から出発して,その思索の途を歩み始めた。このことを考慮するならば,彼の生命観を理解するためには,アリストテレスの「生(ζω´η)」概念から引き継いだものを無視することはできない。周知の通り,アリストテレスの生命論は,歴史的に見て,「生気論」の古典的かつ代表的な形態であるとみなされている。 「生気論(Vitalism)」とは,生命現象には物質には還元できない本質(生気)が伴っており,環境に適応するための合目的性は生命そのものがもつ自律性にもとづく,とする立場である。それは,「機械論(Mechanism)」のような,生命現象がそれを構成する物質的な諸要素が組み合わされることによって生じ,物理−化学的な諸要素に還元することができる,と主張する立場とは真っ向から対立する。生命の本性をめぐる解釈の歴史は,こうした生気論と機械論とが互いにその正当性を主張しあう論争の歴史であったと言うことができよう。 アリストテレスの場合,生命における可能態(δ´υναμις)としての質料を,現実態(εʼντελ´εχεια,εʼν´εργεια)へともたらすものが,形相としての「魂(ψυχη´, anima)」である。魂の定義は多義的であるが,その本義は,〈生きる〉という活動─栄養摂取,運動,感覚,思考─の原理として規定されており,植物・動物・人間などの違いに応じて,魂はその生命活動を具現化する形相にほかならない,とされる2)。 こうした思想を熟知していたハイデガーは,アリストテレスと同じく何らかの「生気論」に与するのだろうか。それとも,同時代の生物学において有力であった「機械論」的な発想に理解を示すのだろうか。あるいは,そのいずれとも異なる第三の生命観を主張するのだろうか。 以上のような問題意識にもとづいて,本稿ではまず,(1)ハイデガーによる生命への問いが何を意味するのかを整理する。次に,(2)ハイデガーが機械論的な生命観に対してどのような態度をとっていたのかを確認する。さらに,彼が「生物学における本質的な二歩」を踏み出したとみなす二人の生物学者──ハンス・ドリーシュとヤーコプ・ヨハン・フォン・ユクスキュル──について,(3)ドリーシュの新生気論に対するハイデガーの評価,および,(4)ユクスキュルの環世界論とハイデガーとの関係,をそれぞれ検討する。その上で,(5)生気論と機械論に対するハイデガーの批判を振り返りつつ,動物本性にかんするハイデガーによる意味規定を分析する。最後に,(6)ハイデガーにおける反進化論的な態度が何に由来するのかを考察し,その思想的な特徴を確認した上で,本稿を閉じることにしたい。
著者
米島 万有子 中谷 友樹 渡辺 護 二瓶 直子 津田 良夫 小林 睦生
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.138-158, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
60

本研究では,琵琶湖東沿岸地域を対象に,国内の代表的な2種類の疾病媒介蚊(成虫)の捕集調査を実施した.そこで観測された捕集個体数の空間的変動を,偏相関最小二乗法(PLS)回帰分析に基づき調査定点周辺の土地被覆の構成(種目別面積比)と関連づけて検討した.また,得られたPLS回帰モデルを利用して,当該媒介蚊の生息分布を面的に推定した.その結果,コガタアカイエカの捕集個体数は,主に水田によって土地被覆が構成されるような農村景観の卓越する地域で多く,平野部に好適な生息場所が多く認められた.シナハマダラカ群の捕集個体数は,水域とそれに付随するヨシなどの植生から構成されるような湿地景観の卓越する地域で多く,水域周辺に好適な生息場所が存在することが判明した.こうした媒介蚊の捕集データから推定した生息分布域は,媒介蚊による吸血被害を生むリスクの分布を示すものであり,蚊媒介性感染症の流行対策に有用な地理情報と考えられる.
著者
小林 睦
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.1-16, 2008-07-07

本稿の目的は,ハイデガーにおける「生命」概念を理解するために,彼の思索と生物学との関係を整理・検討してみることにある1)。これまで,ハイデガーと生の哲学との関係については多くの議論がなされてきたが,彼の哲学と生物学との関わりについては,あまり語られることがなかったように思われるからである。 そのためには,ハイデガーがその著作や講義録で行なっている,必ずしも多いとは言えない生物学への言及を手がかりに,彼が当時の生物学によって提案されていた主張をどのように評価あるいは批判していたのか,また,彼がその生物学からどのような影響を受けていたのか,を明らかにする必要がある。 哲学者としてのハイデガーは,アリストテレス研究から出発して,その思索の途を歩み始めた。このことを考慮するならば,彼の生命観を理解するためには,アリストテレスの「生(ζω´η)」概念から引き継いだものを無視することはできない。周知の通り,アリストテレスの生命論は,歴史的に見て,「生気論」の古典的かつ代表的な形態であるとみなされている。 「生気論(Vitalism)」とは,生命現象には物質には還元できない本質(生気)が伴っており,環境に適応するための合目的性は生命そのものがもつ自律性にもとづく,とする立場である。それは,「機械論(Mechanism)」のような,生命現象がそれを構成する物質的な諸要素が組み合わされることによって生じ,物理−化学的な諸要素に還元することができる,と主張する立場とは真っ向から対立する。生命の本性をめぐる解釈の歴史は,こうした生気論と機械論とが互いにその正当性を主張しあう論争の歴史であったと言うことができよう。 アリストテレスの場合,生命における可能態(δ´υναμις)としての質料を,現実態(εʼντελ´εχεια,εʼν´εργεια)へともたらすものが,形相としての「魂(ψυχη´, anima)」である。魂の定義は多義的であるが,その本義は,〈生きる〉という活動─栄養摂取,運動,感覚,思考─の原理として規定されており,植物・動物・人間などの違いに応じて,魂はその生命活動を具現化する形相にほかならない,とされる2)。 こうした思想を熟知していたハイデガーは,アリストテレスと同じく何らかの「生気論」に与するのだろうか。それとも,同時代の生物学において有力であった「機械論」的な発想に理解を示すのだろうか。あるいは,そのいずれとも異なる第三の生命観を主張するのだろうか。 以上のような問題意識にもとづいて,本稿ではまず,(1)ハイデガーによる生命への問いが何を意味するのかを整理する。次に,(2)ハイデガーが機械論的な生命観に対してどのような態度をとっていたのかを確認する。さらに,彼が「生物学における本質的な二歩」を踏み出したとみなす二人の生物学者──ハンス・ドリーシュとヤーコプ・ヨハン・フォン・ユクスキュル──について,(3)ドリーシュの新生気論に対するハイデガーの評価,および,(4)ユクスキュルの環世界論とハイデガーとの関係,をそれぞれ検討する。その上で,(5)生気論と機械論に対するハイデガーの批判を振り返りつつ,動物本性にかんするハイデガーによる意味規定を分析する。最後に,(6)ハイデガーにおける反進化論的な態度が何に由来するのかを考察し,その思想的な特徴を確認した上で,本稿を閉じることにしたい。