- 著者
-
川村 知裕
原 宏
- 出版者
- 公益社団法人大気環境学会
- 雑誌
- 大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.6, pp.335-346, 2006-11-10
- 参考文献数
- 30
- 被引用文献数
-
3
2000年以降,日本での黄砂観測数が増加し,黄砂に対する関心が高まっている。日本の降水に対する黄砂の広域的・長期的影響を明らかにするため,10地点,1998年〜2002年の降水データを解析した。気象官署による黄砂観測記録に従って,降水を観測地点周辺で黄砂が観測されたときの降水(KR),観測地点周辺以外の地点で黄砂が観測されたときの降水(SR),日本で黄砂が観測されなかったときの降水(NR)の3つのタイプに分類した。KRはpHが高く,nss-Ca^<2+>濃度の増加が見られた。これは黄砂の主成分であるCaCO_3が降水中に溶解したためと考えられる。黄砂時の降水はnss-SO_4^<2->, NO_3^-, NH_4^+の濃度も高かった。これは,黄砂と共にNH_3, NH_4^+など大陸から輸送されたものが溶解したためと考えられる。黄砂時と非黄砂時の降水の沈着量の差から黄砂に起因する湿性沈着量を見積もったところ,nss-Ca^<2+>の年間沈着量の18%,春期沈着量の39%を占めた。また,年別では2000〜2002年,地点別では北日本および日本海側で,nss-Ca^<2+>湿性沈着量が増加し,黄砂の寄与が大きいことが示された。反対に,H^+では黄砂により降水中の酸の中和が進むため,沈着量は減少する。しかし,土壌での硝化を考慮すると,黄砂によるNH_4^+の沈着量も多いため,H^+の沈着減少効果は打ち消され,土壌酸性化の効果がある。降水化学の測定値から,pHや濃度だけでなく,沈着量を評価する必要が強調される。