- 著者
-
松原 宏
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.4, pp.419-437, 2013-12-30 (Released:2017-05-19)
本稿の目的は,経済地理学の研究成果の中から方法論的な議論を抽出し,時系列的に要点を整理するとともに,全体を俯瞰することを通じて,方法論の軌跡を描き出し,あわせて,欧米での方法論的議論を参照しながら,日本における経済地理学方法論の特色と問題点,今後の課題を考えていくことにある.第2次大戦後,欧米諸国では,新古典派経済学の立地論や地域科学が発展をみせた.これに対し,日本の経済地理学は,戦前から独自の理論構築の歩みを示し,戦後には近代経済学的経済地理学とマルクス主義経済地理学とが並存してきた.後者はまた,経済地誌,地域的不均等論,法則志向の生産配置論等に分かれ,活発な議論がなされてきた.1970年代になると,国民経済の地域的分業体系を解明しようとする地域構造論が登場し,今日まで産業配置,地域経済国土利用,地域政策の4分野にわたる多くの研究成果を蓄積してきている.1990年代以降,欧米諸国では,文化論的転回や制度的転回など,方向づけが目まぐるしく変わってきたのに対し,地域構造論は,立地論や開発経済論のような多様な理論を批判的に吸収することによって理論内容を豊富にしてきた.21世紀に入り,グローバル化や情報・知識経済化の下で,日本の経済地理学は,新たな空間的視点や研究枠組みを確立するとともに,方法論的議論の希薄化を克服していく努力が必要である.