著者
岡田 清一
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-18, 2021-03-18

筆者は、かつて中近世移行期の相馬義胤発給文書を検討するなかで、相馬盛胤・義胤父子連署書状から、家督の段階的移譲を前提とする二頭政治が行われていたこと、しかも二人は異なる城館を本拠としていることを指摘し、「二屋形」制と仮称した。本稿では、相馬氏の受給文書を検討し、「相馬西殿」宛の文書は、家督相続前の義胤宛のものであることが確認できた。 一方、南奥領主の受給文書を検討すると、宛所に「〜西殿」と記載されるものが散見し、それらもまた次期家督予定者に対して用いられている。したがって、「二屋形」制は、父子が異なる城館に居住しながら(あるいは一つの城内に異なる居住空間をそれぞれ持つ場合も含めて)、連署書状を発給すること、時として「〜西殿」と称されたことなどが、その実態となることを確認した。ただし、全ての南奧領主で確認されるわけではないし、なぜ「〜西殿」と称されたのか、「西」にどのような意味があるのかなどについては今後の課題である。
著者
岡田 清一
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.45, pp.1-18, 2021-03-18

筆者は、かつて中近世移行期の相馬義胤発給文書を検討するなかで、相馬盛胤・義胤父子連署書状から、家督の段階的移譲を前提とする二頭政治が行われていたこと、しかも二人は異なる城館を本拠としていることを指摘し、「二屋形」制と仮称した。本稿では、相馬氏の受給文書を検討し、「相馬西殿」宛の文書は、家督相続前の義胤宛のものであることが確認できた。 一方、南奥領主の受給文書を検討すると、宛所に「〜西殿」と記載されるものが散見し、それらもまた次期家督予定者に対して用いられている。したがって、「二屋形」制は、父子が異なる城館に居住しながら(あるいは一つの城内に異なる居住空間をそれぞれ持つ場合も含めて)、連署書状を発給すること、時として「〜西殿」と称されたことなどが、その実態となることを確認した。ただし、全ての南奧領主で確認されるわけではないし、なぜ「〜西殿」と称されたのか、「西」にどのような意味があるのかなどについては今後の課題である。
著者
小野 芳秀
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku fukushi university (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.35-60, 2017-03-17

本研究の目的は,希死念慮のある思春期児童を対象としたスクールソーシャルワークにおいて,支援を目的とした "かかわり" の手段として,近年 10 代の若年層にもユーザーが増大している SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた事例について考察し,そのメリット(有効性)とデメリット(限界・注意点)を整理することである。SNS を用いたスクールソーシャルワークの実践事例を分析した結果,SNS 活用のメリットとして,既読表示や交信履歴の縦覧機能等を活用でき,自殺防止を目的とするゲートキーパーとしてのモニタリング効果が期待されることが明らかとなった。一方,デメリットとして,SNS を支援ツールとして用いる場合は,予め時限的活用やバウンダリーの配慮が成されないと,被支援者の転移の把握とコントロールが困難であり,頻回相談により支援者の負担が大きくなること,特に対象者が危険因子として精神疾患を有する場合は,精神症状を刺激する可能性もあり,医療と福祉的支援の連携による家族を含めた生活環境への現実的かつ具体的介入が同時に必要であることが判った。この結果により,実効性のあるソーシャルワーク実践,とりわけスクールソーシャルワークにおける "生命の危険を伴う"緊急度の高いケースや当事者達に "困り感" が欠如しているような支援困難ケースにおいては,子どもや保護者に接触できる専門的スキルを持った支援者が,関係機関の連携による支援体制のもと,本人主体を原則としながらも,当事者たちの問題解決のための方法を選択するための改善策の提示や,主体的に問題解決に取り組むための意識変容を目的に誘導的に介入する意識的 "かかわり" による積極的支援が必要であり,これらの支援ツールとして適切に用いれば SNS は有効であると結論づけた。
著者
庭野 賀津子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.221-231, 2014-03-20

1999 年に発表されたLorberbaum の研究以降,ヒトの母親の子に対する反応の神経基盤を,fMRI を用いて脳を非侵襲的に計測することによって調べる研究が進められている。本研究では,乳児の泣き声,あるいは乳児の表情などの,乳児刺激に対してヒトが示す脳反応を,fMRI によって検討している研究の動向を調査するとともに,今後の課題について検討した。対象とした資料は,1999 年から2013 年までの間に海外で発表された,乳児の泣き声に対する反応を検討した論文12 件と乳児の表情への反応を検討した論文10件であった。各資料より,乳児刺激に対する脳の賦活部位として,扁桃体,帯状回,視床下部,視床,前頭葉眼窩皮質,島,側頭極,腹側前頭前野等が示された。これらの部位は,感情,感情統制,共感,ワーキングメモリー,報酬系等にかかわることが知られており,動物実験で養育行動を引き起こす部位として示された領域と共通していた。親の養育行動の解明には,脳機能計測の他に,内分泌や心理特性,親自身の生育環境など,他の要因も併せて検討していく必要があるが,脳内の神経基盤を明らかにするためには,fMRI による脳機能イメージングは有効な手段の一つであるといえる。
著者
相場 恵
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-12, 2020-03-19

障害基礎年金の受給者が増加している現状の中で,障害基礎年金が本来は必要な人に支給されない現状があるのではないかと考えた。障害基礎年金の申請にあたって当事者や家族がどのようなプロセスを経たのかを把握したところ,当事者の年金についての認識の低さ,ひとり暮らしを可能にする収入が得られない就労の現状,家族の意向,診断書を作成してもらうことの困難,専門職としての繋がりの必要性が課題として明らかになった。
著者
門脇 佳代子 渡邊 泰伸
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.93-107, 2016-03-18

船形山神社は宮城県北部南端の大和町に位置する。この地域は,古代において色麻柵を中心とした色麻郡の領域に含まれる。船形山神社に御神体として伝わる金銅仏「菩薩立像」は,久野健氏,松山鉄夫氏の紹介によって韓半島由来のものであることが指摘され,多くの識者の検討により百済仏とされてきた。本稿では従来までの美術史的な見方に,考古学的な知見を加味して,本像をこの地にもたらした人々の存在に迫った。古墳の変遷,官衙の成立,生産遺跡の操業などを視座にみると,渡来系の移民の姿が垣間見られる。中でも色麻古墳群より出土する須恵器は湖西窯跡品と考えられ,多数の移民の存在を推定できる。また色麻町土器坂瓦窯跡から出土した雷文縁4葉複弁蓮華文軒瓦によって7世紀末~8世紀初頭に紀寺系の軒瓦を使用した官衙と寺院が成立したことがわかる。古代色麻郡は多賀城以前の7世紀後半代には北進・西進の拠点となり,活発な動きのあった地域でもある。よって,従来まで8世紀~9世紀と考えれていた「菩薩立像」の当地への伝来の時期を見直し,渡来系移民による7世紀後半に位置付けたい。
著者
塩村 公子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.45, pp.51-68, 2021-03-18

ソーシャルワーカーがその「実践を書く」ことの意味・必要性について,ソーシャルワークやその近接領域の文献から整理した。具体的には,Ⅰ. 業務として「書く」ことについて整理し,次に,Ⅱ. 業務以外に「実践を書く」ことについて,1「書く」場面,2「書く」行為,3「書く」意味に分けて論じた。「書く」ことは,業務上必要であるという以上に,専門家としての省察が深まる;専門家としての実践知が伝達される;利用者サービス・利用者との関係性を変える;専門家コミュニティや教育を変えていくなど,重層的で複雑な影響をソーシャルワークにもたらすものであることが理解された。また,それらが,ポストモダンの価値観をベースにした,科学やソーシャルワークの実践モデルとも密接に関係している事を見出した。
著者
相場 恵
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.45, pp.111-114, 2021-03-18

障害のある人たちの多くが経済的に厳しい状況に置かれている現在,障害基礎年金の必要性は増している。しかしその申請手続きは,非常に煩雑である。手続きは,本人や家族による「本人請求」が可能ではあるが,とても一般の人が自力で行えるようなものではない。 本研究では、年金の手続きの専門家でもある社会保険労務士のアンケート調査から,障害基礎年金の申請にあたっては「本人・家族と専門職協働での申請手続きの必要性」「医療機関との継続的なつながりの必要性」「障害基礎年金システムの啓発の必要性」「今後必要とする制度・システムの改善」の4つの課題が明らかになった。 年金手続きの専門家への相談にたどり着くまでの仕組み,行政機関,病院などと連携するシステムの開発が必要である。さらに,20歳前傷病での障害基礎年金の手続きを要する場合を考えると,子どものころからの受診記録,特に初診日の認定がわかる書類の保管などが必要になってくる。このような情報の周知や,医療や福祉のサービスに関わる情報の共有とそれを一元的に管理することのできる仕組みが必要であると結論した。
著者
真嶋 智彦
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University
巻号頁・発行日
no.45, pp.69-85, 2021-03-18

昨今,医療環境の変化に伴い,医療ソーシャルワーク業務は多様化し,医療ソーシャルワーカーの配属部門が,従来の医療福祉部門から地域医療連携部門へと変化してきているとされる。本研究では,病院の地域医療連携部門の業務と医療ソーシャルワーク業務の関係について,先行研究をもとに検討を行った。その結果,以下のことが明らかとなった。地域医療連携業務はその成立過程で,医療ソーシャルワーク業務と共通部門が複数あったため,医療ソーシャルワークの一部は地域医療連携業務に統合された。その後,医療状況の変化や地域医療連携業務多様化の影響を受け,医療ソーシャルワーカー業務内の比重に変化が窺われる。また,医療ソーシャルワーカーに対する,間接援助及びメゾレベル以上での活躍に社会的期待が高まっている。
著者
都築 光一
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.43, pp.1-18, 2019-03-20

地域福祉の推進に当たっては, 住民主体が基本ということは,自明のこととされている。にもかかわらず行政の施策や社会福祉関係機関の取り組みの基本姿勢として,あらためて住民主体の必要性をとなえる文書が見受けられる。しかしそこで言われている住民主体については内実が不明な内容が少なくない。そこで関係資料等を基に住民主体の構成要素を操作的に定義し,「明確な地域福祉活動に関する推進意識を共有できている地域ほど,地域福祉活動が活発である」という仮説を設定し,これを検証するために質的調査を実施した。 各地区でのインタビューを行い仮説を検証したところ,一部支持された。その結果①活動を実践する組織の単位 ②活動を展開するうえで,実践目標を共有できる単位 ③活動を展開する住民の「自分たちの地域」を共有できる単位 ④活動や行事等について協議決定できる単位 の4条件について,地域を構成する要素として,明確に圏域を区分する要素となっていたことが確認された。今回の調査で確認するまでも無く,地域という場合には,居住している住民にとって意味を共有できる範域において初めて言えることである。したがって地域福祉を考え実践する場合においては,地域住民にとって意味を共有することができ,住民主体で実践できることを前提とするものでなければならないと言えよう。
著者
舩渡 忠男 高野 拓哉
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.193-206, 2020-03-19

学校保健の現状を明らかにした上で,今回大学生を対象とした学校保健の抱える取り込むべき今日的課題について抽出した。大学生は身体とこころの大事な成長期にあるといえる。ここでは最初に日本における学校保健の歴史と変遷に遡り,学校保健の意義とそのあり方について考察した。そして,健康診断のあり方,健康管理上の問題,感染予防の対策,学生への禁煙指導,保健室・学校医の役割,ならびに学校保健安全について焦点を充てる。これらの中で,日常業務において,就学時および定期健康診断の果たす役割が大きいと考える。とくに,健康診断後の結果についてはその事後措置が重要であると考える。したがって,多面的な課題を抱えていることが大学における学校保健の特徴といえるが,学校医,保健室,教職員ならびに大学各部門と連携を密にし,学校保健体制を構築して課題を解決することが必要である。大学生活における健康上の問題では,健康状態および精神状態を把握していくことが喫緊の課題であることが示唆された。
著者
二渡 努
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.45, pp.161-178, 2021-03-18

2025 年度末までに年間6 万人程度の介護人材を確保する必要性が指摘され,介護人材の確保と定着は喫緊の課題となっている。本研究は,介護人材の確保と定着の促進に資する取組を明らかにすることを目的に,介護職員にインタビュー調査を実施し,設定した基本仮説,作業仮説に対して仮説検証を行った。 基本仮説は「介護業務と接する機会を有することが,介護分野に参入する職業選択要因となり,職場からのサポートを受け,勤続年数の上昇によって変化するやりがいを獲得することで,介護職員は就労を継続することができる」と設定し,作業仮説1 を「介護業務と接する機会を有することが介護分野での職業選択の要因となる」,作業仮説2 を「職場からのサポートが新人介護職員の就労継続要因となる」,作業仮説3 を「勤続年数の上昇によって,就労継続に必要となるやりがいは変化する」と設定した。作業仮説1, 2 は一部支持,作業仮説3 は棄却されたため,基本仮説は一部支持となった。 仮説検証を行う過程で,介護業務等に接する機会が少ないと思われる若年層には介護等体験により介護業務に対する理解を深める機会を提供することが介護分野への参入を促進する可能性があること,新人介護職員の一定期間の就労継続要因として,奨学金の返済免除などがあること,就労継続要因となるやりがいは,職位の向上,異動による施設種別や対象利用者の変更によって,変化することが示唆された。
著者
相場 恵
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.111-114, 2021-03-18

障害のある人たちの多くが経済的に厳しい状況に置かれている現在,障害基礎年金の必要性は増している。しかしその申請手続きは,非常に煩雑である。手続きは,本人や家族による「本人請求」が可能ではあるが,とても一般の人が自力で行えるようなものではない。 本研究では、年金の手続きの専門家でもある社会保険労務士のアンケート調査から,障害基礎年金の申請にあたっては「本人・家族と専門職協働での申請手続きの必要性」「医療機関との継続的なつながりの必要性」「障害基礎年金システムの啓発の必要性」「今後必要とする制度・システムの改善」の4つの課題が明らかになった。 年金手続きの専門家への相談にたどり着くまでの仕組み,行政機関,病院などと連携するシステムの開発が必要である。さらに,20歳前傷病での障害基礎年金の手続きを要する場合を考えると,子どものころからの受診記録,特に初診日の認定がわかる書類の保管などが必要になってくる。このような情報の周知や,医療や福祉のサービスに関わる情報の共有とそれを一元的に管理することのできる仕組みが必要であると結論した。
著者
清水 めぐみ
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.44, pp.37-56, 2020-03-19

2019年3月のベルリン・リサーチ・プロジェクトを通じて行われたホロコーストに関する論考である。ホロコーストについては,こわいこととして遠ざけられがちなことや,悲惨な出来事でそれが二度と起こらないようにともっぱら声高に宣伝されることが多い。しかし,本稿ではそれに関わっていくことの重要性を述べるとともに,そのためのひとつの心理学的な切り口として,よいものであろうとする人間の心のありようを概説する。悪を自分のものとして体験できずに投影し,また,よい/悪いに分裂してものごとをとらえて自らの安定のために理想化や否認といった原始的で未熟な防衛機制を用いてふるまうことがホロコーストにおいても,その後のホロコーストのとらえ方においても生じていることを例証した。特に,加害者とされる人々の叙述からうかがわれる否認と,現代にいたるまでの救助者に対する理想化について詳述し,自らの暴力性に無自覚になること,また生きのびていくことが重視されること,ひいては道徳的な善悪について考察した。
著者
舩度 忠男
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.45, pp.203-211, 2021-03-18

新型コロナウイルス(SARS-CoV)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19,本症)は,半年以上も世界中で感染が拡大しバンデミックを来たし,当初の予想に反し蔓延が続き長期化している。今回,これまで大規模感染を呈した同じコロナウイルスであるMERS-CoV やSARS-CoV との異同を比較検討し,その中で本症感染が長期化に至っている要因について,文献におけるエビデンスを抽出し分析した。その結果,一定の結論は得られなかったが,ウイルス自体の感染様式および宿主における免疫能など複雑な要素がその要因であることが示唆された。
著者
赤塚 俊治
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku fukushi university (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.17-34, 2017-03-17

本研究ではカンボジア王国(Kingdom of Cambodia ; 以下カンボジアと略す)の都市部と農村部で生活している高齢者を研究調査対象者として,アンケート調査を実施した。調査では,高齢者の生活実態調査結果の分析から,高齢者が抱えている生活に関する問題点や課題を明らかにした。しかし,カンボジアでは社会福祉分野が未開発であるために,高齢者福祉に関する法整備は皆無状態にある。高齢者の生活に関する問題点や課題を解決する方策としては,社会福祉システムを確立させ,社会福祉制度の整備や専門機関の設立に伴う専門職の人材育成・養成は不可欠であることが調査結果から示唆された。今後,カンボジアの高齢化率は,年々,上昇することが統計分析から推測される。それゆえにカンボジア政府は中長期的国家戦略として,高齢者福祉はもとより社会福祉分野の開発に取り組み,社会福祉分野の法整備を推進することが急務である。カンボジアはポル・ポト政権(1975-1979)の崩壊から約 40 年の歳月が経過したが,高齢者にとっては「暗黒の時代」を経験したことで,現在でも社会的・経済的・心身機能面において高齢者の生活に大きな影響を与えていることが調査結果から示唆された。カンボジアは国家再建の途上にあるが,国家再建の課題の一つとして,高齢者の生活環境を安定させ,積極的な社会福祉施策を展開することが求められる。そのことは高齢者のみならず国民生活の安定化を図る社会的機能を果たすことにもなる。なお,本研究は,科学研究費補助金を受け,研究課題である「カンボジアの社会福祉システムの現状と課題-高齢者の生活実態調査からの一考察-」の研究を実施している。
著者
小野 芳秀
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku fukushi university (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.35-60, 2017-03-17

本研究の目的は,希死念慮のある思春期児童を対象としたスクールソーシャルワークにおいて,支援を目的とした “かかわり” の手段として,近年 10 代の若年層にもユーザーが増大している SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を用いた事例について考察し,そのメリット(有効性)とデメリット(限界・注意点)を整理することである。SNS を用いたスクールソーシャルワークの実践事例を分析した結果,SNS 活用のメリットとして,既読表示や交信履歴の縦覧機能等を活用でき,自殺防止を目的とするゲートキーパーとしてのモニタリング効果が期待されることが明らかとなった。一方,デメリットとして,SNS を支援ツールとして用いる場合は,予め時限的活用やバウンダリーの配慮が成されないと,被支援者の転移の把握とコントロールが困難であり,頻回相談により支援者の負担が大きくなること,特に対象者が危険因子として精神疾患を有する場合は,精神症状を刺激する可能性もあり,医療と福祉的支援の連携による家族を含めた生活環境への現実的かつ具体的介入が同時に必要であることが判った。この結果により,実効性のあるソーシャルワーク実践,とりわけスクールソーシャルワークにおける “生命の危険を伴う”緊急度の高いケースや当事者達に “困り感” が欠如しているような支援困難ケースにおいては,子どもや保護者に接触できる専門的スキルを持った支援者が,関係機関の連携による支援体制のもと,本人主体を原則としながらも,当事者たちの問題解決のための方法を選択するための改善策の提示や,主体的に問題解決に取り組むための意識変容を目的に誘導的に介入する意識的 “かかわり” による積極的支援が必要であり,これらの支援ツールとして適切に用いれば SNS は有効であると結論づけた。
著者
花井 滋春
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-20, 2020-03-19

これまで、橘長盛、直幹、忠幹等の生没年については、忠幹の没年を除いては長い間、未詳とされてきた。しかし、本稿では、兄直幹の申文から、父・長盛の没年を延喜十六(九一六)年、兄・直幹の誕年を昌泰元(八九八)年に特定することでき、そこから拾遺集忠幹歌の詠歌時期が延喜十六年頃もしくは天暦九年頃の二期、つまり忠幹の十代後半もしくは五十代半ばである可能性を指摘することができた。 この所詠時期に年齢を当て込み、且つ拾遺抄・集の詞書を検討する時、当該歌が巷間に歌語りされて伊勢物語に取り込まれたとする従来の考えが必ずしも妥当性を持たないことが明らかになる。かくして、拾遺抄・集から伊勢物語へ、あるいは忠幹周辺の限られた情報源から伊勢物語へという経路を再考する必要が生まれることとなる。