著者
谷口 敏代 高木 二郎 原野 かおり 廣川 空美 高橋 和巳 福岡 悦子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-1, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
37
被引用文献数
4 6

介護老人福祉施設に勤務する介護職員のいじめ,ハラスメントとストレス反応:谷口敏代ほか.岡山県立大学保健福祉学部保健福祉学科―目的:本研究は地方都市にある介護老人福祉施設に勤務する介護職員について,いじめ,ハラスメントの実態を明らかにし,それらが心身の不調(ストレス反応)を起こすという仮説を検証することを目的とした.方法:A県のB地区にある介護老人福祉35施設の医師を除く全従業員を対象とし,2009年8–9月,自己記入式質問紙による横断調査を行った.調査内容は,職業性ストレス簡易調査票のストレス反応29項目,個人的ないじめ,仕事上でのいじめ,性的ハラスメントで構成される日本語版Negative Acts Questionnaire(NAQ)12項目であった.調査項目のストレス反応・NAQに欠損値のない1,233名(有効回答率63.9%)のうち,介護職員897名を分析対象とした.心理的ストレス反応(活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)と身体的ストレス反応(身体愁訴)が,いじめの体験の有無によって異なるかをt検定や分散分析を用いて検定した.結果:男女ともに半数以上が仕事上のいじめを構成する「必要な情報を与えない人がいて仕事が困難になる」を体験していた.また,男女とも4割程度が個人的ないじめを構成している「あなたについての陰口,または,うわさ」を体験していた.女性介護職員においては,個人的ないじめを受けた体験のある人で,有意に(p<0.05)活気が低く,疲労が高かった.また,仕事上のいじめを体験した人の方がそうでない人に比べ有意に(p<0.05)うつ気分が高く,性的ハラスメントを体験した人の方がそうでない人に比べ有意に(p<0.05)不安感が高かった.一方,男性介護職員ではいじめを体験している人がそうでない人に比べ有意に(p<0.05)活気が高かった.結論:女性介護職員において,職場のいじめ,ハラスメントは精神的ストレス反応の一部と正の関連を示し,仮説と矛盾しなかった.一方,男性介護職員ではいじめと活気との正の関連がみられた.職場のメンタルヘルス対策においては性差に考慮する必要性が示唆された.
著者
廣川 空美 森口 次郎 脊尾 大雅 野村 洋子 野村 恭子 大平 哲也 伊藤 弘人 井上 彰臣 堤 明純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.311-319, 2021-05-15 (Released:2021-06-03)
参考文献数
17

メンタルヘルス不調者のサポートのために,地域職域連携が謳われているが,実行性のある取り組みは少ない。とくに小規模事業場は課題が多く,地域と職域との密接な連携による対策が求められる。地域で実践されている好事例や認識されている課題を挙げ,メンタルヘルス対策の連携の阻害要因を整理し,実行性のある連携方法を提案することを目指したシンポジウムを開催した。 産業保健総合支援センターを核にした地域専門医療機関との連携による事例では,地域の専門医療機関の情報提供とその有効活用の工夫が示された。地域における産業保健を支援する医療リソースの把握と事業場への情報提供は産業保健総合支援センターが貢献できる領域である。 京都府では,医師会や行政が,地域の産業医,精神科医,人事労務担当者等関係者間で,連携目的に応じた定期的な会合や研究会を開催しており,多様な「顔の見える」多職種連携が展開され,関係者間で発生する課題や不満も含めて議論されている。 社会保険労務士として企業のネットワークを,障害者雇用に活用している事例では,地元の事業活動の核となる金融機関や就労移行支援事業所等と連携して,有病者や障害者のインターンを中小企業で受け入れるプロジェクトが展開されている。フルタイムの雇用にこだわらず,事業場のニーズと有病者の就業可能性をすり合わせる仕組みは,メンタルヘルス不調者の復職などに応用できる可能性がある。 相模原市では,評価指標を設定しPDCAを回しながら零細企業を対象とする支援を行っている。具体的には,市の地域・職域連携推進連絡会において,中小事業所のメンタルヘルス対策を含めた健康づくりの推進を目的に,事業所を訪問し,健康経営グッドプラクティスを収集して,他の中小事業所の事業主へ周知する取り組みを行っている。 連携の阻害要因には,職場から労働者の家族等に連絡が取りにくい点,メンタルヘルス不調者が産業保健のケアの対象から漏れたときの支援の維持方法,保健師等専門職がいない職場でメンタルヘルスを進める工夫,サービスを展開するマンパワーの不足が挙げられた。職域と地域の連携のギャップを埋めるためには,保健師や臨床医を含む関係者による,それぞれのメリットを求めた連絡会や勉強会等の顔の見える関係づくりは有用で,小規模事業場へのアプローチは健康問題全般の支援にメンタルヘルスを組み込む形で行うことが受け入れやすいと考えられた。
著者
大森 慈子 廣川 空美 千秋 紀子 立平 起子
出版者
仁愛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、泣くことや涙に対する一般的な認識を捉えた上で、泣きと涙の定量化を試み、涙を流すことによる心身状態の変動を明らかにするものである。研究の結果、感動映画に対する泣きの程度に、内容の知識や以前に視聴した経験は大きく影響しなかった。また、他者の涙を見た際、笑顔や他の表情とは異なる感情反応が示された。綿糸、濾紙、綿球を使うことによって涙液量測定の可能性が得られた。さらに、泣くことに伴う唾液中コルチゾール値や心拍、瞬目といった生理的反応の変化が明らかになった。
著者
田多 英興 大森 慈子 廣川 空美 大平 英樹 友永 雅己
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.57, 2004

ヒトにおける瞬目の行動研究はある程度知見が蓄積されており、発達的変化や、認知情報処理過程、さらにはストレスとの関連なども検討されている轣Aヒト以外の霊長類ではその知見は極めて限られている。そこで本研究では、瞬目行動の諸側面の比較研究の端緒として、まずヒト以外の霊長類における自発性瞬目の諸指標の系統比較を行なった。日本モンキーセンターで、ケージの中で自由に行動している個体を外からデジタルカメラ(30フレーム/秒)で撮影した。ビデオ記録をおこなった種は計84種であった。個体を特定できる種もあったが、集団で行動する小型の種では個体識別が困難であった。このような場合は複数の個体からのデータをプールした。瞬目が計数できる総観察時間が最低5分間になるように記録した。本発表では、予備的解析の終了した54種について報告する。瞬目率の平均については、最大でボンネットモンキーの20回/分であった。この値はヒトとほぼ同じであった。ついでトクモンキー(17.0)、ニホンザル(15.1)と続いた齦似宗5分間一度も瞬目をしなかったポト(0)、ついでレッサースローロリス(0.2)、オオギャラゴ(0.3)、ショウギャラゴ(0.3)、ワオキツネザル(0.4)と続いた。これらの種では数分間に1回という極めて少ない瞬目頻度を示した。興味深いことに、ヒト以外の霊長類では、瞬目が眼球運動または頭部運動と連動して生じることが非常に多く、54種の平均でみると、眼球/頭部運動なしで生起した瞬目はわずかに27.1%で、残りの多くは水平または垂直の頭部運動と連動して生じた。特に水平の運動と連動する瞬目は全体の50%に達した。さらに、眼瞼の運動速度もまたヒトと比べて非常に速いことが明らかとなった。平均すると194.2ms±44.6となり、ヒトの約半分の時間で眼瞼の開閉が行われている。最長でも323.4ms(エリマキキツネザル)で、ヒト (約400ms) に比べても速いことがわかる。最短は138.6ms(トクモンキー)で、これはヒトの閉瞼の時間に相当する。今後は、種間比較をさらに進めるとともに、上記の結果の成立要因について検討していく予定である。