著者
廣澤 愛子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.319-327, 2004-02-27

スケープゴートとは、ある集団に属する人がその集団の正当性と力を維持するために、特定の人を悪者に仕立てあげて攻撃する現象を指す。少数民族の迫害(ホロコーストなど)はこの一例であるし、より卑近な例を挙げると、学級におけるいじめや家庭における虐待も同様であろう。従来、虐待やいじめについては「トラウマ」という視点から論じられることが多いが、本論では、「スケープゴート」という視点から論じた。そして、虐待やいじめの被害者(児)の心理療法を通して筆者が感じたことを中心にして、スケープゴートにされるという経験が当人にどのような影響を及ぼし、その中で彼らがどのように自らのアイデンティティを築いていくのかについて考察した。具体的には、スケープゴートにされるという経験が及ぼす影響について、①スケープゴートとの同一化、②実存的な孤独、③「集合的な影」を見続けること、の3点から論じた。そして、彼らが自ら築いていくアイデンティティについて、①辺縁を主体的に生きること~スケープゴートからトリックスターヘ~、②基盤のなさを受け入れること、③「影」との新しい関係、の3点から論述した。
著者
廣澤 愛子
出版者
福井大学教育地域科学部附属教育実践総合センター
雑誌
福井大学教育実践研究 (ISSN:13427261)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.217-224, 2011-02-18

本研究では、病的解離から正常解離まで、幅広く「解離」の実態について論じている。病的解離に関する先行研究は多く、それら内外の研究を概観しながら、本研究では特に「解離性同一性障害」に焦点を当て、その状態像や発症要因、治療的スタンスなどを考察した。
著者
廣澤 愛子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.7, pp.319-327, 2004-02

スケープゴートとは、ある集団に属する人がその集団の正当性と力を維持するために、特定の人を悪者に仕立てあげて攻撃する現象を指す。少数民族の迫害(ホロコーストなど)はこの一例であるし、より卑近な例を挙げると、学級におけるいじめや家庭における虐待も同様であろう。従来、虐待やいじめについては「トラウマ」という視点から論じられることが多いが、本論では、「スケープゴート」という視点から論じた。そして、虐待やいじめの被害者(児)の心理療法を通して筆者が感じたことを中心にして、スケープゴートにされるという経験が当人にどのような影響を及ぼし、その中で彼らがどのように自らのアイデンティティを築いていくのかについて考察した。具体的には、スケープゴートにされるという経験が及ぼす影響について、①スケープゴートとの同一化、②実存的な孤独、③「集合的な影」を見続けること、の3点から論じた。そして、彼らが自ら築いていくアイデンティティについて、①辺縁を主体的に生きること~スケープゴートからトリックスターヘ~、②基盤のなさを受け入れること、③「影」との新しい関係、の3点から論述した。
著者
廣澤 愛子 武澤 友広 織田 安沙美 鈴木 静香 小越 咲子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.61-73, 2019 (Released:2021-06-20)
参考文献数
16

本研究では,9歳から11歳の知的障害のない自閉スペクトラム症の児童6名,支援者6名,参与観察者3名による療育活動の参与観察分析を通して,児童の社会性の発達と,それに伴う支援者の係わりを明らかにした。児童と支援者の相互作用を量的・質的に分析した結果,どの児童に対しても支援者は,活動前半には,共感的に児童の言動に耳を傾けたり,逆に自分の意見を伝えたりしながら関係作りを行い,さらに,児童同士が係われるよう仲介していた。そして活動後半には,誤りを指摘したり,児童の思いを明確化するなどして各児童の発達課題にアプローチし,さらに,児童ら自身で協働活動が行えるよう支援していた。一方,児童の社会性については,全児童において,活動終盤には自他境界を意識した言動もしくは他児との協働活動の増加が見られ,社会性に係わる言動の増加が見られた。但し,そのプロセスについては,「自己中心から他者理解へ」「集団の辺縁から集団の中心へ」「孤立から他者との関係性の芽生えへ」の3つに類型化され,個別性が見られた。今後は,このような社会性の発達と密接に係わる自他理解の発達過程が,自閉スペクトラム症の子どもと定型発達の子どもとの間でどのように異なるのかを明らかにすることが課題である。
著者
廣澤 愛子
出版者
福井大学教育地域科学部附属教育実践総合センター
雑誌
福井大学教育実践研究 (ISSN:13427261)
巻号頁・発行日
no.35, pp.217-224, 2010

本研究では、病的解離から正常解離まで、幅広く「解離」の実態について論じている。病的解離に関する先行研究は多く、それら内外の研究を概観しながら、本研究では特に「解離性同一性障害」に焦点を当て、その状態像や発症要因、治療的スタンスなどを考察した。
著者
廣澤愛子 大西将史 岸俊行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

目 的 解離とは,苦痛をもたらすものを自己から切り離す心的作用であり(Putnum,1997),解離性同一性障害に代表されるような病的解離もあれば,単に苦痛な事柄をなかったことにしようとする非病理的な解離もある。Putnum(1997)によると,病的解離は正常な人が稀にしか体験しないものであり,病的解離と非病理的解離は異なる認知構造を有すると言う。そして両者の大きな違いは,非病理的解離が苦痛な状況を切り離したことを覚えている点である。近年,非病理的解離の増加が指摘されているが(岩宮, 2009),その研究は,病的解離と比べて極めて少ない。そこで本研究では,病的解離とは異なる認知構造を有する非病理的解離の尺度を作成する。なお,非病理的解離は自分にとって苦痛なものを意識的に切り離す行為であるため,ストレスへの対処行動と考えることができる。そこでこの尺度を解離的対処行動尺度と呼ぶ。方 法 調査協力者 大学生154名(男80名,女74名,平均年齢20.51,標準偏差1.35)を対象に質問紙調査を実施した。 調査内容 (1) 解離的対処行動尺度 いじめ体験に関する記述回答(廣澤,2008),及び回避的なストレス対処行動に関する既存の尺度を参照し,苦痛な体験を「切り捨てる」14項目,苦痛な体験と「距離を置く」12項目,辛い気持ちを「割り切る」10項目,計36項目の尺度を作成した。評定は全く当てはまらない~非常に当てはまるまでの6段階である。 (2) 解離性体験尺度 病的解離との弁別的妥当性を確認するために,Bernstein&Putnam(1986)による解離性体験尺度の日本語版28項目(田辺・小川,1992)を用いた。「0%:そういうことはない」から「100%:いつもそうだ」の11件法で回答を求めた。 (3) 対人ストレスコーピング尺度 加藤(2001)による本尺度は,ポジティブ関係コーピング16項目,ネガティブ関係コーピング10項目,解決先送りコーピング8項目から成る。評定は,当てはまらない~よくあてはまるまでの4段階である。結果と考察 解離的対処行動尺度の因子分析 尺度の候補項目について3因子を指定し,因子分析(主因子法,Promax回転)を行った。そして因子負荷量が.35未満の項目,当該因子以外への負荷量が.20以上の項目,計21項目を削除し,再度因子分析(主因子法,Promax回転)を行ったところ,想定した3因子構造(切り捨て6項目,距離を置く5項目,割り切り4項目)が得られた。3因子の累積寄与率は47.7%であった。因子負荷及び因子間相関をTable1に示す。 解離的対処行動尺度の信頼性の検討 3因子ごとのα係数は,切り捨て(α=.77),距離を置く(α=.75),割り切り(α=.68)であった。「割り切り」のα係数がやや低いが,項目数が4項目であることを考えると,許容範囲と考えられる。 解離的対処行動尺度の妥当性の検討 解離性体験尺度との相関では,「切り捨て」「距離を置く」「割り切り」のいずれも相関が見られず,病的解離との弁別的妥当性が確認された。次に対人ストレスコーピング尺度との相関では,「切り捨て」及び「距離を置く」はネガティブコーピングと(r= .31,r= .26),「割り切り」は先送りコーピングと(r= .36),弱い正の相関が見られた。対人ストレスコーピングとの関連が見られたことから,本尺度の構成概念妥当性が示された。また,抑鬱や友人関係における否定的影響との関連が指摘されているネガティブコーピングと相関が見られた「切り捨て」及び「距離を置く」は,望ましくない結果をもたらす対処行動と言える。一方,「割り切り」と相関が見られた先送りコーピングは,ストレス緩和や友人関係における満足感の向上との関連が指摘されており(今田, 2000など),肯定的結果をもたらす対処攻略と言える。このように,解離的対処行動は肯定的・否定的両面の結果をもたらす心性であることが示唆された。