著者
内田 良
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.12, pp.269-277, 2009-02

本研究の目的は,今日支持されている「虐待増加」の言説を批判的に検討し,その言説が支持される背景を明らかにすることである。虐待の「発生件数」を把握するためには,多くの困難がある。それにもかかわらず,多くの論者が容易に虐待の増加を支持している。そこで本稿では,まず今日主流となっている虐待の増加説の議論を概観し,次に,社会問題の構築主義をはじめとする減少説の見解を参照する。この作業をとおして,虐待を現代的・都市的に語る「『虐待』の現代化・都市化」と,虐待が最小限にまで抑制される時代にこそ虐待がかえって目立ってしまう「安全と危険のパラドクス」の視点を提起し,「虐待増加」の解釈が生み出される背景を説明する。
著者
廣澤 愛子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.319-327, 2004-02-27

スケープゴートとは、ある集団に属する人がその集団の正当性と力を維持するために、特定の人を悪者に仕立てあげて攻撃する現象を指す。少数民族の迫害(ホロコーストなど)はこの一例であるし、より卑近な例を挙げると、学級におけるいじめや家庭における虐待も同様であろう。従来、虐待やいじめについては「トラウマ」という視点から論じられることが多いが、本論では、「スケープゴート」という視点から論じた。そして、虐待やいじめの被害者(児)の心理療法を通して筆者が感じたことを中心にして、スケープゴートにされるという経験が当人にどのような影響を及ぼし、その中で彼らがどのように自らのアイデンティティを築いていくのかについて考察した。具体的には、スケープゴートにされるという経験が及ぼす影響について、①スケープゴートとの同一化、②実存的な孤独、③「集合的な影」を見続けること、の3点から論じた。そして、彼らが自ら築いていくアイデンティティについて、①辺縁を主体的に生きること~スケープゴートからトリックスターヘ~、②基盤のなさを受け入れること、③「影」との新しい関係、の3点から論述した。
著者
生島 博之
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.259-267, 2006-03-15

本論文は,最近5年間あまりにおける少年犯罪を教育臨床心理学の観点から研究したものである。神戸小学生殺傷事件から始まり,黒磯女教師殺害事件,豊川主婦刺殺事件,西鉄高速バス乗っ取り事件,岡山県金属バット殴打・母親殺人事件,等を取り上げ,これらの少年が,犯罪に至るまでにどのような家庭教育や学校教育を受けてきたのか,規範意識が育たなかった,あるいは,規範意識が弱過ぎたのは何故なのか等について考察した。その結果,学校が少年犯罪の『舞台』とならないようにするためには,『怨み』を聞く回路づくりができる教師の実践的指導力が不可欠であり,研修やスーパービジョン制度やスクールカウンセラー(臨床心理上)や関係機関との連携が重要であることが判明した。
著者
戸田 和幸 野崎 浩成
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.12, pp.125-130, 2009-02

ネット社会のトラブルを分析すると,『他者意識(倫理)』と『自己防衛(安全)』の欠如が浮き彫りになった。社会の対応要請に応え,学校においては,チャット・メール・掲示板等の体験を情報教育に取り入れてきている。これらの体験時には,『匿名(ハンドル)』やコンピュータ名を使用している場合が多い。本研究では,『本名』と『匿名』の立場に潜む学習者の認知に働きかける違いと,『他者意識』と『自己防衛』の間に関係があるとした研究1,2)を整理し,その結果を基に小学6年生を対象に経過観察を含めて再検証を試みた。また,学校教育という特別な環境で行う,『本名』と『匿名』の二つの立場のチャット体験が学習者の認知に影響を与え,ネット社会を「生きる力」につながる可能性を示唆していることも再確認した。
著者
生島 博之
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.7, pp.329-336, 2004-02

本論文は、盗みなどを圭訴としてプレイセラピーを受けることになった小学校3年生男児Nの治療経過を箱庭を中心として報告したものである。Nは、世の中のすべてが面白くないといったブスッとした表情で箱庭をつくり、猛獣に食い殺されるキリンや乳牛、そして、怪獣にやられるウルトラマンをロボワル兄弟と一緒になって応援する孫悟空、等を置きながら、「正義あらへん」と苦笑した。その後、Nは治療がすすむにつれて、「怪獣に奪われた母親」や「人質になった妻子のために身代わりになって悪人に撃ち殺される父親(銀行強盗)」「父母の住む動く家(タクシー)の火事」等の象徴的な遊びをおこなった。そこで、これらの象徴的な遊びの意味を掘りさげ、盗みの心理的メカニズム等について考察した。
著者
廣澤 愛子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.7, pp.319-327, 2004-02

スケープゴートとは、ある集団に属する人がその集団の正当性と力を維持するために、特定の人を悪者に仕立てあげて攻撃する現象を指す。少数民族の迫害(ホロコーストなど)はこの一例であるし、より卑近な例を挙げると、学級におけるいじめや家庭における虐待も同様であろう。従来、虐待やいじめについては「トラウマ」という視点から論じられることが多いが、本論では、「スケープゴート」という視点から論じた。そして、虐待やいじめの被害者(児)の心理療法を通して筆者が感じたことを中心にして、スケープゴートにされるという経験が当人にどのような影響を及ぼし、その中で彼らがどのように自らのアイデンティティを築いていくのかについて考察した。具体的には、スケープゴートにされるという経験が及ぼす影響について、①スケープゴートとの同一化、②実存的な孤独、③「集合的な影」を見続けること、の3点から論じた。そして、彼らが自ら築いていくアイデンティティについて、①辺縁を主体的に生きること~スケープゴートからトリックスターヘ~、②基盤のなさを受け入れること、③「影」との新しい関係、の3点から論述した。
著者
中田 敏夫 村松 基成
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.10, pp.69-78, 2007-02

本稿ではまず,外国人労働者に関する内閣府調査に準拠した項目により,教員養成大学の学生の考え方を一般世論との相違を中心に明らかにしようとした。次に外国人児童生徒教育への理解・態度をみるための項目により,教員養成大学に学ぶ学生の考え方を明らかにした。結果を概括すれば,特に外国人児童生徒理解については「共就学」経験がプラスの評価を生み,「共就学」を行うことの重要性・可能性がはっきりしてきたと考える。
著者
加藤 祥子
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.8, pp.207-211, 2005-02

生活に役立つものを短時間で仕上げ,使いやすく作りやすい事も目的として,「腕カバー」「手提げかばん」に続いて「巾着」を取り上げる。先行研究の「リバーシブル巾着」を改良してペットボトルホルダーにした。素材,サイズ,製作方法を見直し,小学校の家庭科被服教材とするために製作プリント,アイロン工程と保温性の検討を行い,簡単に製作できる実用的なリバーシブル巾着となった。
著者
岡田 之恵
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-9, 2009-02

小・中学校において,LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に特別支援教育を行うようになった。発達障害の二次的問題として不登校が考えられる。不登校の背景や要因について考え,特別支援教育を行うにあたってどのように支援したらよいか,先行研究を参考に考察した。不登校になって発達障害と気づかれた場合,小学生においては,学習や友人関係,保護者や担任との関係が影響していると思われる。また,発達障害の児童生徒が不登校となった場合,思春期やいじめの問題,家庭環境などを考慮する必要がある。障害特性に配慮した支援と登校支援が必要で,環境の変化や児童生徒自身の成長発達を考えながら,状況に応じて早めに対応すべきである。
著者
生島 博之
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.9, pp.259-267, 2006-03

本論文は,最近5年間あまりにおける少年犯罪を教育臨床心理学の観点から研究したものである。神戸小学生殺傷事件から始まり,黒磯女教師殺害事件,豊川主婦刺殺事件,西鉄高速バス乗っ取り事件,岡山県金属バット殴打・母親殺人事件,等を取り上げ,これらの少年が,犯罪に至るまでにどのような家庭教育や学校教育を受けてきたのか,規範意識が育たなかった,あるいは,規範意識が弱過ぎたのは何故なのか等について考察した。その結果,学校が少年犯罪の『舞台』とならないようにするためには,『怨み』を聞く回路づくりができる教師の実践的指導力が不可欠であり,研修やスーパービジョン制度やスクールカウンセラー(臨床心理上)や関係機関との連携が重要であることが判明した。
著者
川北 稔
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.293-300, 2009-02

格差社会などを背景として「若者の生きづらさ」を訴える声が続いている。1980年代以来,「生きづらさ」(「生きにくさ」)という言葉を用いることで,しばしば,従来の福祉や教育の枠組みに乗りづらい困難が言及されてきた。本稿では,特に精神障害を対象とする障害構造論の議論を参考に,若者の生きづらさ,特に引きこもる若者の生きづらさがどのように捉えられるのかを考える。また「ひきこもり」支援の蓄積が,幅広い若者の人間回復に寄与する可能性について検討する。
著者
寺田 安孝 山本 太郎 川上 昭吾
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.10, pp.85-90, 2007-02

子ども達の理科に関する興味関心や学習意欲の向上が求められるなか,地域のボランティアや博物館によって行われる科学イベントなどのインフォーマル・エデュケーションによる科学技術理解増進活動が重視されている。理科教育の振興におけるインフォーマル・エデュケーションの効果と課題について,地域・学校・博物館との連携による理科実験教室の実践を通じて検討した。その結果,インフォーマル・エデュケーションとしての理科実験教室は子ども達の理科に関する興味関心を高める効果があり,発展的な学習活動の場として有効であることが示された。また社会教育機関としての博物館の価値を啓発する機会にもなった。一方,実施体制の改善及び学校と博物館の負担に見合うメリットの在り方について課題があった。
著者
水田 重幸 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.11, pp.95-100, 2008-02
被引用文献数
2

人工内耳を装用している子どもの学校生活の実態について検討した。その結果,人工内耳を装用している子どもとの面接場面では人工内耳を使ってよくやりとりできるので学校生活でも問題はないと考えていたが,学校生活では聞こえない場面や聞こえにくい場面が多く,よく理解できない場面として,全校朝会や児童集会など多くの児童が集まる活動や体育や運動会など広い場所で行われる活動があり,放課や校内放送など騒がしい場面では聞きとりにくいことが示された。周りにいる先生や児童の配慮が必要になる。人工内耳を使っている子どもの学校生活や学習場面での配慮として教室環境や座席の位置,先生の話し方や授業での視覚的教材の活用など,人工内耳を使用した子どもの理解を助ける工夫が必要である。先生が板書したり,わかりやすくゆっくりと話しかけたり,わかったかどうかを確認しながら進めていくなどの配慮が必要である。今後は,特別支援教育でどのような支援をうけることができるかが課題である。
著者
平野 みどり 小川 正光
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.35-43, 2004-02-27

授業方法の変化にともない,近年,供給が増加しているオープンプラン・スクールを対象とし,愛知県内27校について,オープンスペースの類型と活用実態を調査をもとに検討した。①オープンスペースの構成は,学校規模との関係が深いこと,②オープンスペースは,多様な授業の形態に対応可能なことが評価され,音の問題などの問題指摘は少ない,などの成果が得られた。
著者
坂本 美紀
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.47-54, 1999-03-29

本研究は,割合文章題の解決場面で,小学生が構成した問題表象を調査したものである。研究の主眼は,児童が構成した問題の外的表象にあり,小学5年生が小数の割合文章題をどのように図示するか,また描かれた図のタイプと問題解決の成績は関連するかどうかについて検討した。調査の結果からは,児童が自発的に描いた図の多くが,教科書などで指導されている線分図とは異なるタイプのものであること,立式の正しさは,描いた図のタイプよりも,文章題の問題構造の違いを反映させて外的表象を構成できたか否かに大きく関連していたこととが明らかになった。
著者
山中 哲夫
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.79-83, 2007-02-28

男の子の失禁は心理的なもの。括約筋によるコントロールが性器的なものと結びついているため。「欲求」と「欲望」の混同。男の子における夜尿症の心的特殊性/核家族化が進む中での教師の役割。子どもが学業に失敗したときの対処法/兄弟姉妹は別個の存在。兄姉は弟妹の親代わりになってはいけない。近親相姦の危険な陥穿。模倣は有害。父親と母親の役目。
著者
鈴木 将史
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.167-170, 2004-02-27

2つの事象AとBの独立性については,いくつかの同値な定義が与えられるが,学校教育の現場では,事象の独立性について生徒が正確に理解することの困難さがしばしば指摘される。本報告では,2つの事象の独立性については,条件つき確率を用いた定義の方が,直観を反映していて理解しやすいと結論づける。しかし3つ以上の事象の場合へと一般化しようとすると,調べなければならない式が多くなり,確率の積で定義する方が簡潔で優れている。学校教育でもこのような観点で定義を見直すと,生徒の理解が深まるのではないだろうか。
著者
松本 昭彦
出版者
愛知教育大学教育実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.9, pp.53-60, 2006-03

本年7月,キミ子方式のペン画の描き方を岡崎市立常磐南小学校の9名の教諭たちに体験してもらった。その後の教諭たちに指導された児童らの作品や感想文から判断すると,描き方について具体的な指示のあるキミ子方式は,観察力と描写力の向上だけでなく,人間性の成長にも効果があったと思われる。教師が変われば子どもらも変わると言えよう。それゆえ教える側の教師が学ぶことは,教育を改善していくための原動力になるものと考える。