- 著者
-
廣畑 俊成
- 出版者
- 一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
- 雑誌
- 臨床リウマチ (ISSN:09148760)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.3, pp.224-230, 2018-09-30 (Released:2019-06-01)
- 参考文献数
- 11
全身性エリテマトーデス(SLE)における中枢神経病変(いわゆる中枢神経ループス)の中でも精神症状(ループス精神病)は診断に苦慮することが少なくない.ループス精神病については,その病態形成に髄液中に存在する神経細胞に対する自己抗体が深く関与することが近年とくに注目されている.すなわち,NMDA受容体のNR2AとNR2Bに共通する部分と反応する抗体(抗NR2抗体)は,ループス精神病の髄液で有意に上昇し,その中でも特にacute confusional state(ACS)の患者で著明な高値を示すことが明らかになった.最近我々は,髄液中の抗Sm抗体がやはりACSの患者で上昇していること,さらに抗Sm抗体が神経細胞とも結合し,抗神経細胞抗体として直接ニューロンに障害を及ぼす可能性があることを明らかにした.したがって,抗Sm抗体や抗NR2抗体は,ループス精神病の重症度を反映するsurrogate markerであると考えられる.これらの抗体が髄液中で上昇する機序としては,中枢神経内での産生よりもQ albuminの上昇に反映される脳血液関門の破壊による流入が重要であることが証明されている.今後は,この脳血液関門の異常が惹起される機序について解明してゆくことが重要である. 一方,髄液中のIL-6は,ループス精神病でもneurologic syndromesのいずれでも上昇するが,前者の方が高い傾向を示す.さらにループス精神病の中でも,ACSの患者ではそれ以外の精神症状の患者に比して,髄液中のIL-6は有意に高く,前述した抗NR2抗体と同様にループス精神病の重症度のsurrogate markersとなると考えられる.