- 著者
-
木原 英逸
- 出版者
- 科学技術社会論学会
- 雑誌
- 科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.47-65, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
- 参考文献数
- 48
- 被引用文献数
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科学技術論STSにとって,科学/技術の民主(政治)的統治は中心的な問いであり続けてきた.しかし,この問いをどう理解し実践するかの点で,1990 年代に立ち上がった日本のSTS「科学技術社会論」は,それまでの「科学論/技術論」との違いを強調して断絶へ向かう志向が強い.まず,「社会問題/社会運動の社会構築主義」の影響で,権力理解が「フレーミング」のような観念に偏った結果,財や力が大きく働く現実が見えにくくなった.また,マクロな社会構造に説明を求めない結果,誰もがその下に置かれている構造をともに変えるために連帯する政治が見失われている.見失ったに止まらず,代わって,ネットワーク社会の民主的自己統治である「ガバナンス」政治を,そしてそのなかで科学技術の「ガバナンス」を目指した結果,連帯する政治を切り崩してさえいる.ガバナンスの技法として考案された,影響を受ける者たちのデモクラシーである「討議民主政」に順い,すべてのステイク・ホルダー,すなわち影響を受ける者の声に応える責任として,「技術者倫理」や「科学者の社会的責任」を唱えてきたからである.「科学技術社会論」に見られる,こうした政治や民主政や倫理についての理解の偏り,狭さを指摘する.