著者
市野川 容孝
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.32-38, 2001
被引用文献数
1

不妊治療をめぐる議論は、例えば「代理母を認めるか否か」、「卵や受精卵の提供を認めるか否か」といったものに集中しがちだが、日本の不妊治療については、より根本的な問題、すなわち不妊治療にたずさわる医療者が各々、互いに大きく異なる方針の下、非常に異なる「治療」を実施しているという問題がある。本稿では、この医療における「アノミー」とでも言うべき状況を、不妊治療経験者、および不妊治療を手がける医療者、双方からのヒアリングによって具体的に明らかにする。加えて、こうした「アノミー」が日本の不妊治療において発生する社会的ないし制度的な要因を、イギリスおよびドイツとの比較を通じて明らかにする。
著者
佐原 哲也 石田 勇治 市野川 容孝 山岸 智子 薩摩 秀登 丸川 哲史 三沢 伸生 関 哲行 武内 進一 大石 高志
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、民族浄化とは民族が国家主権の基礎となるという国民国家理念に起因する近代的現象であるとの仮説の有効性を検討した。三年間の研究期間の間に、ヨーロッパ、ユーラシア、中東、アフリカ、東アジアの幾つもの事例を比較研究し、仮説の有効性は大部分証明された。住民の強制排除、大量追放は、近代初期のヨーロッパに始まり、一九世紀から二〇世紀には東欧・バルカン、中東、旧ソ連、アジア、アフリカへと広がっていったことが確認されたからである。研究の結果、更に重要な発見もなされた。それは民族浄化の発生メカニズムの具体的な解明である。この発見は、ボスニア内戦を中心に、民族浄化を生み出した政治状況、社会的条件、イデオロギー、暴力の展開過程がつぶさに解明された結果であった。ボスニア内戦はユーゴスラヴィ社会主義連邦共和国の解体に起因し、これは一九八○年代のデタントと世界的な金融危機に始まり、一九八九年の東欧革命の余波をうけていた。余波は共和国毎の複数政党選挙という形をとり、選挙後、連邦政府の統合機能が失われ、憲法秩序が崩壊した。これに続いて、独立を目指す共和国が非合法な武装を開始し暴力の独占が崩壊した。こうして、住民の間に生命と財産の不安と恐怖を広がり、従来のアイデンティティが崩壊し、ジェノサイドの「記憶」に基づく危機意識が芽生えた。そして、民族主義者はこれを利用して権力を濫用し、民族浄化を展開したのである。その際、特に民兵の役割が重要であった。民兵は主に犯罪者から組織されていたが、民族解放運動の伝統を利用して自己正当化を図り、受け入れ可能な存在となった。結論として、民族浄化の防止には秩序崩壊時の暴力の統制、特に民兵の排除が中心的課題であることが明らかとなった。
著者
市野川 容孝 金 會恩 KIM Hoi-Eun
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

2009年11月末に来日以来、金氏は、日本帝国にとって最も重要な(他者)であった朝鮮人を、植民時時代の人類学者たちがどのように位置づけたかに関する研究に力を注ぎ、その研究成果を精力的に発表してきました。金氏がドイツの歴史研究者たちと企画した討論「Asia,Germany,and Transnational Turn」は、イギリスの重要な学術誌であるGerman Historyの2010年12月号に記載されました。この論文で金氏は、ドイツ史を世界史的な視点から再評価する必要性を力説しつつ、中国にのみ関心を集中されている最近のドイツ人研究者たちが、19世紀末のドイツ-アジア関係で最も重要な位置を占めていた「ドイツ-日本」間の複雑な多面的な交流を見落としていると指摘しました。また、金氏は、さらに二つの学術論文を仕上げ、国内外の学会で発表しました。金氏が昨年10月にサンフランシスコで開催されたドイツの学会にて発表した論文「Measuring Asianncss : Erwin Baelz's Anthropological Expeditions in Fin-de-Siecle Korea」は、日本の近代医学の父といわれるE・ベルツが1899年、1902年、1903年の3回にわたっておこなった朝鮮人種研究に関する、初の本格的な学術研究です。この論文では金氏は、アジアの諸人種間の階層とその相互関連性を強調したベルツの人種研究が、その後の人種に関する言説に非常に大きな影響を与えたことを実証しています。この論文は加筆修正の上、2011年に出版予定のM.Richl&V.Fuechtner eds.German-Asian Cultural Studiesの1章として刊行される予定です(その他の研究発表については、下記「11.研究発表」を参照のこと)。
著者
廣野 喜幸 石井 則久 市野川 容孝 金森 修 森 修一 山邉 昭則 渡邊 日日 関谷 翔 高野 弘之 花岡 龍毅
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

国際比較の観点から、公衆衛生・医学研究に関する日本の医療政策の形成過程の特徴を明らかにするため、医学専門雑誌、審議会の議事録や裁判記録等の資料分析を中心に調査し、その成果を論文・口頭で発表した。また各年度、医学・医療行政の専門家に対してインタビュー形式の調査を実施した。調査を通じて積極的な意見交換を行いながら、日本の医療行政の仕組みやワクチン・インフルエンザ等の政策の歴史の把握、最新情報の収集に努めた。