著者
窪薗 晴夫 梶 茂樹 岩田 礼 松森 晶子 新田 哲夫 李 連珠
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は世界の諸言語(とりわけ韓国語諸方言、中国語諸方言、アフリカのバンツー諸語)と比較することにより類型論的観点から日本語諸方言のアクセントを考察し、その特質を明らかにすることである。この目的を達成するために年度ごとに重点テーマ(借用語のアクセント、疑問文のプロソディー、アクセント・トーンの中和、アクセント・トーンの変化)を設定し、それぞれのテーマについて諸言語、諸方言の構造・特徴を明らかにした。これらのテーマを議論するために4回の国際シンポジウムを開催し、海外の研究者とともに日本語のアクセント構造について考察するとともに、その成果をLingua特集号を含む国内外の研究誌に発表した。
著者
松森 晶子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.67-92, 2013-11

琉球諸語の先行研究では,宮古島の与那覇方言は「ごく区別のしにくい」2つの種類の音調から成り立っており,そのためこの方言は型の「曖昧化」の一途をたどっている,と記述されてきた。これに対し本稿では,この与那覇方言の2つの種類の型は,特定の条件を満たした文節の中で非常に明瞭に区別でき,それには「3モーラがひとつの単位となってフットを形成し,H音調はそのフットに実現する」という制約が関与していることを論じる。さらに本稿では,この方言のアクセントが,これまで記述されてきたような「2型体系」なのではなく,れっきとした「3型体系」であることを,特にその「複合語のアクセント」に焦点を当てて示す。また,その3種の音調型のすべてが明らかになるためには,少なくとも「3つ」の音調領域が並ぶ必要がある,ということも提案する。さらに,このような「フットの成立が型の区別とかかわる」ことや「3つの音調領域が並んだ場合に,はじめて3つの型の区別が出現する」といった与那覇方言の特徴は,他の宮古諸島の方言にも共通して見られる特性である可能性を示唆し,このようなことを前提とした新たな観察法や着眼点によって,今後も宮古島に3型体系が発見される可能性があることも,あわせて論じる。
著者
松森 晶子
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.95, pp.120-143, 1989-03-25 (Released:2010-11-26)
参考文献数
15

According to early autosegmental treatments of pitch-accent languages, such as Goldsmith (1976), Haraguchi (1977, 1978, 1979), each pitch-accent language has a finite number of Basic Tone Melodies, and tones are mapped to tone bearing units with regard to the universal convention known as the Well Formedness Condition. Rather than the concept of Basic Tone Melody, the present paper, basically continuing on from the idea given by Pulleyblank (1983), suggests that each tone is introduced to the tonal tier, one by one, by tonal rules. The correlative assumption of this approach is that tones are not automatically associated to tone bearing units by the Well Formedness Condition, but mapped to them only if specified by a particular association rule.The ultimate purpose of this study is to develop a type of approach to Japanese pitch-accent systems that incorporates recent developments in the autosegmental theory of other tonal and pitch-accent languages. Based on the notions such as floating tone, extratonality, etc., this paper presents a theory of tonal rules, which aims to explain all the varieties of Japanese pitch-accent systems, whereby all predictable information is not included by underlying phonological entries, but rather is ultimately supplied by a finite number of parameters.
著者
松森 晶子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.93-108,158, 2000-06

琉球の多型アクセントの諸体系には,型の生産性の片寄りと体系の不均衡が観察されることを,沖永良部島と徳之島のいくつかの方言を例にして示し,この原因は,服部(1979)の仮説を一部取り入れ類別語彙2拍語に1・2/3・4・5(板)/3・4・5(息)という合流の仕方を認める松森(1998)の説により,説明できることを示す。さらに,これら琉球の多型アクセント体系全般を通じて,類別語彙3拍語が生産的な3つの型に所属し,しかもその3つの型に所属する類別語彙の種類が諸方言間で対応することを確認する。このことから,琉球祖語に存在したと推定される3音節語の3つのアクセント型の,各々に属する語彙群のリスト(試案)を提示,これらの語彙群を,各々「形」類,「鏡」類,「刀」類と呼んだ。また,本土の類別語彙3拍語に対応する語彙の,琉球における合流の仕方は,1・2/4・5(鏡)/4・5・6・7(刀)であることを論じ,このように琉球では,類別語彙の2拍語のみならず,その3拍語も,特殊な類の分裂と合流を遂げたことを論じる。