- 著者
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柴山 弓季
植田 好人
角野 康郎
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
- 巻号頁・発行日
- pp.176, 2004 (Released:2004-07-30)
自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異柴山弓季(東京大・農学生命科学研究科)・植田好人(神戸市立西高校)・角野康郎(神戸大・理) 日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほかに、ヒメシロアサザNymphoides coreana (Lev.)Haraが存在し、3種とも絶滅危惧植物に指定されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒメシロアサザは他の2種と異なり、自動自家受粉による高い自殖性を維持していることが明らかになった(植田・角野,未発表)。ヒメシロアサザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群にみられる遺伝的分化を調査した。 各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)を比較観察した。 その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(ため池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多型分析により多型が認められたPGM, MDH, TPI, ADK, SkDHを組み合わせたmultilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有なMLGが存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖という繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてきたものと推測される。 今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個体群の存続可能性を検討するためにF1, F2を作出して、近交弱勢や他殖弱勢の存在などを確認する予定である。