著者
引地 博之 青木 俊明 大渕 憲一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.101-110, 2009 (Released:2009-04-20)
参考文献数
40
被引用文献数
4 4

本研究では,地域に対する愛着の形成過程を検討するため,地域環境に対する評価が高い住民ほど,地域への愛着が強いという仮説を措定し,社会調査によりその妥当性を検証した.共分散構造分析などの分析の結果,以下の知見を得た.1)地域の物理的環境に対する評価が高い人ほど,地域に対する愛着が強い,2)地域の社会的環境に対する評価が高い人ほど,地域に対する愛着が強い,3)社会的環境に対する評価は,物理的環境に対する評価に比べて,より愛着を高めうる,4)地域環境に対するこれらの評価は,居住年数以上に愛着形成を促す,すなわち,地域への愛着は,単なる居住年数の長さ以上に,地域での経験の質によって強く規定されることが示唆された.
著者
大渕 憲一 川嶋 伸佳 青木 俊明
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.325-339, 2008

1902名の市民に対する2度の社会調査によって社会資本整備に対する公共評価の構造を探り,意思決定領域で行政優先,住民優先,手続き的公正,結果領域で事業利益,住民弊害,広域弊害,分配的公正の計7次元を抽出した.現在の政策に対して回答者は全般的に批判的だが,行政優先と事業利益の2次元は満足度と正の関係を,手続き的公正と広域弊害の2次元は負の関係を示した.自民党支持者は事業利益と行政優先の2次元を重視し,弊害,公正さ,住民意思などの次元は軽視した.野党支持者や支持政党なしの回答者はこれと正反対だった.高所得者の評価は自民党支持者と類似していたが,行政に対する信頼は低かった.高学歴者は手続き的公正や弊害を重視する反面,事業利益に注目するなど多面的な評価を示した.
著者
青木 俊明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.22-00037, 2023 (Released:2023-03-20)
参考文献数
28

本研究は,社会基盤整備の住民説明会における住民側発言の一般的傾向を把握することを目的とし,NIMBY性を持つ14事業の議事録を用いて,住民側参加者の発言内容を分析した.分析の結果,NIMBY性の高い事業では,住民側の発言が多様であり,発言数も多くなる傾向がうかがえた.決定手続き,リスク管理,決定への疑義,誹謗中傷に関する住民発言が増えることも示唆された.特に,NIMBY性の高い事業では,誹謗中傷や各種の疑義といった攻撃的な発言が参加者から多く発されていた.これらを踏まえ,厳しい質疑が予想される場合には,説明者側は心理面も含めた準備を行い,誠実で分かりやすい説明を行うことや,平素から信頼醸成に努めることにより,協議の厳しさが軽減される可能性が考察された.
著者
青木 俊明 鈴木 温
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.42-54, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
32
被引用文献数
6 5

本研究では,自己関連性と情報提示に着目し,社会資本整備に対する市民の態度形成のメカニズムを検討した。その際,ヒューリスティック・システマティック・モデルおよび精緻化見込モデルに基づいてモデル構造を検討した。インターネットを用いてシナリオ実験を行った結果,情報開示が不十分な状況では,自己関連性の高さに関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と信頼感などの周辺情報に基づいて賛否態度が形成されることが示された。その際,どちらの場合であっても周辺情報以上に事業情報の方が賛否態度に強い影響力を持つことが示唆された。一方,十分な情報が開示されている状況では,自己関連性の高低に関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と手続き的公正によって賛否態度が形成されることが示唆された。さらに,態度変容モデルに基づいて考察した結果,自己関連性が高い場合には手続き的公正の中身が重要であり,自己関連性が低い場合には手続き的公正が認識させる行為自体が重要であることが示唆された。これらのことから,自己関連性の高さによって手続き的公正の役割や態度形成のメカニズムが異なることが示唆された。
著者
野波 寛 坂本 剛 大友 章司 田代 豊 青木 俊明
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2103, (Released:2021-11-11)
参考文献数
35
被引用文献数
4

当事者の優位的正当化とは,NIMBY問題の構造を持つ公共施設の立地に関する決定権をめぐって,人々が当事者(地元住民など)に他のアクター(行政など)よりも優位的な決定権を承認する傾向と定義される。これは,当該施設に対する当事者の拒否の連鎖を生むことで,社会の共貧化をもたらす。優位的正当化の背景には,マキシミン原理と道徳判断の影響が考えられる。地層処分場を例として,集団(内集団ないし外集団)と当事者(統計的人数ないし特定個人)による2×2の実験を行った。内集団のみならずマキシミン原理が作動しない外集団でも,当事者の優位的正当化が示された。この傾向は,内集団において当事者が特定個人として呈示された場合に,より顕著であった。また,個人志向の道徳判断から当事者の正当性に対するパスは内集団で顕著であった。NIMBY問題に対する道徳研究からのアプローチには,今後の理論的な展開可能性が期待できる。
著者
青木 俊明 稲村 肇 中川 隆
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.231-238, 1999-09-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
16

本研究は産業構造と人口移動との関連と人口増加に大きな影響を及ぼす産業構造を明らかにすることを目的としている. FSM法という構造化手法を用いて, 人口成長状態の異なる地域毎に産業の構造化を行った. その結果を地域間・時系列比較を行うことにより, 人口増加に影響を及ぼす産業構造について検討した. 産業構造の分析において, 商業・サービス業及び産業構造の複雑さといった点に注目した. その結果, 1) 商業またはその他サービス中心の産業構造, 及び, 2) 一定以上の規模と複雑なネットワークを有する産業構造であること, が社会増加を促す産業構造であったことが分かった.
著者
大渕 憲一 川嶋 伸佳 青木 俊明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.325-339, 2008 (Released:2008-07-22)
参考文献数
23

1902名の市民に対する2度の社会調査によって社会資本整備に対する公共評価の構造を探り,意思決定領域で行政優先,住民優先,手続き的公正,結果領域で事業利益,住民弊害,広域弊害,分配的公正の計7次元を抽出した.現在の政策に対して回答者は全般的に批判的だが,行政優先と事業利益の2次元は満足度と正の関係を,手続き的公正と広域弊害の2次元は負の関係を示した.自民党支持者は事業利益と行政優先の2次元を重視し,弊害,公正さ,住民意思などの次元は軽視した.野党支持者や支持政党なしの回答者はこれと正反対だった.高所得者の評価は自民党支持者と類似していたが,行政に対する信頼は低かった.高学歴者は手続き的公正や弊害を重視する反面,事業利益に注目するなど多面的な評価を示した.
著者
青木 俊明 中居 良行
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
建設マネジメント研究論文集 (ISSN:18848311)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.427-432, 2004

本稿は、合意形成の効率化という観点から、社会資本整備に関する市民講座の必要性を提案するものである。まず、合意形成の現状を把握する題材の一つとして、仙台市営地下鉄東西線の市民説明会における市民発言について内容分析を行った。分析の結果、市民発言には、1) 説明責任の果たし方、2) 事業コスト、3) 行政に対する不信感の表明、が多いことが分かった。同時に、市民発言の中には社会資本整備に関する初歩的知識を有していれば回避される質問が約2割含まれていることも分かった。これを踏まえ、効率的な合意形成を図るための方策を検討した。その結果、多くの市民が社会資本整備に関する基礎知識を得ることで合意形成に要する時間コストが節約されるとともに、建設的な市民発言が増加する可能性が挙げられた。これより、社会資本整備に関する市民講座を積極的に開設すべきであることが提案された。
著者
青木 俊明 星 光平 佐藤 崇
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.43-53, 2006

本研究では集団状況における協力意向の形成機構を検討した.私的利益,手続き的公正,同調圧力を操作した心理実験の結果,以下の知見および示唆を得た.1)集団状況では,私的利益感,同調圧力感が重要な態度形成要因であること.2)同調圧力を作用させた実験参加者の約1割が公的受容を伴う同調で態度を形成していた.3)私的受容による同調と合わせると,4割強の実験参加者が同調圧力の影響を受けて態度を形成していた.4)私的受容と公的受容の分岐要因は,同調圧力感,私的利益感,手続き的公正感と推察される.5)同調を示す場合,私的利益感と手続き的公正感が低く,同調圧力感が高い場合には公的受容が促され,私的利益感と手続き的公正感が高く,同調圧力感がさほど高くない場合には私的受容が促されることが示唆された.
著者
青木 俊明 荒砥 真也 塩野 政徳
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
建設マネジメント研究論文集 (ISSN:18848311)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.55-64, 2007

公共事業の合意形成では、周囲の他者の意向が自己の態度形成に強く関わることがある。特に、地方部では、強いコミュニティーが残っている地域も多く、この傾向は強まると思われる。一般に、交渉においては、その過程の公正さが重要であることが報告されているが、他者の意向の影響を取り込んだ検討は十分には行われていない。そこで、本稿では、不利益を想起させる同調圧力が、行政担当者から示される場合を想定し、市民の態度形成の仕組みについて検討を行った。東北工業大学の学生を対象にシナリオを用いた心理実験を行ったところ、次のような知見を得た。すなわち、1) 周囲の人の反対を相千に伝えた場合には、同調圧力が生じる一方で手続き的公正さの評価が高まる。2) 周囲の反対とそれによる不利益受忍の可能性が知覚された場合には、自己利益保護の観点から賛否態度が形成される傾向が示唆された。このとき、手続きの公正さは重要な態度形成要因ではないことも示唆された。3) 周囲の人の反対が知覚されない場合には、自己利益感と手続きの公正さに基づいて態度が形成されることが改めて確認された。