- 著者
-
梅村 隆志
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.2032, 2013 (Released:2013-08-14)
「遺伝毒性発がん物質にはその作用に閾値が存在しない」という概念は,DNA塩基修飾の定量解析やin vivo変異原性試験の進歩に伴い,科学的観点からは否定的な傾向にあるものの,リスク評価の実際では,この概念に基づいた考え方から無毒性量(NOAEL)は設定できないとされている。従って,食品添加物などの意図的な食品中化学物質では,その際に使用を禁ずる処置などで対応できるが,食品製造過程で生じてくる化学物質や汚染物質などの非意図的食品中化学物質の場合,その含量をゼロにすることは困難であり,また,食品添加物においてもその製造過程等で生じる副生成物などがそれに該当する場合など,NOAELが設定できない遺伝毒性発がん物質へのリスクマネージメントが求められている。そのような背景の中で,1995年に国際保健機関(WHO)・国連食糧農業機関(FAO)合同食品添加物専門家会議(JECFA)はアクリルアミドに対して,ベンチマークドーズ(BMD)を用いた暴露マージン(MOE)アプローチを実施した。現在この方法は,他の国際機関においても追随され,我が国唯一の食品安全のリスク評価機関である食品安全委員会においてもその使用が検討されている。具体的には,実験動物を用いた発がん性試験の用量反応曲線から求められるBMD(通常は95%信頼限界からのBMDL)と当該物質の推定ばく露量との差を求めていくと言うものである。本シンポジウムでは,これまで6年間にわたり参加しているJECFA会議での実例を紹介しながら,MOEアプローチの問題点を議論したい。また,JECFAのみならず,食品安全委員会でもすでに実施しているMOEをその評価手順に組み込んだ香料の安全性評価(この場合はBMDLではなくNOAEL)について概略し,香料評価の際の遺伝毒性発がん物質への対応,また,その算出の際に最も重要な推定ばく露量の考え方等についても,併せて紹介していきたい。