著者
西浦 博
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:13498940)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.20-37, 2009 (Released:2017-06-27)
参考文献数
51

本稿は感染症の検疫期間の決定手法を提案するとともに,検疫による予防効果の考え方の理論的基礎を構築する.感染した可能性のある人に対して通常の生活から一定期間だけ分離あるいは生活行動制限をする検疫は,国内に常在しない感染症の侵入を防ぐボーダーコントロールに欠かせない感染症対策である.これまでに検疫時の医学的検査や法制度に関する議論が行なわれてきたが,具体的な検疫期間の決定手法や特定の検疫期間が与えられたときの流行拡大を防ぐ疫学的効果は詳しく検討されてこなかった.感染症流行の数理モデルを用いて,検疫が感染者侵入を防止する効果を理論的に明らかにする.まず,異なる疫学的指標によって様々な検疫の効果を検疫期間の関数として定義し,それぞれの効果の違いと必要な疫学的情報を明らかにする.これまでの検疫期間は潜伏期間のみを用いて議論されてきたが,感染しても症状を呈さない不顕性感染者を明示的に考慮することによって,より豊富な検疫期間の検討が可能なことを示す.また,様々な検疫の直接的効果を提示するだけでなく,感染者が検疫の網の目を潜り抜けて侵入した場合の流行動態も検疫期間の関数で考えることにより,検疫が侵入先に及ぼす疫学的効果を明らかにする.特に,侵入者によって流行が発生する確率と検疫による流行の遅れをモデル化する.具体的事例として新型インフルエンザを想定した数値計算例を提示し,本稿の手法が様々な感染症の検疫に関する意思決定に役立つことを示す.
著者
渋谷 健司 Rahman Mizanur 野村 周平 田淵 貴大 山本 依志子 坂元 晴香 齋藤 英子 米岡 大輔 井上 真奈美 永田 知映 西浦 博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

死亡・障害を含む包括的かつ比較可能な保健アウトカム(Burden of Disease:疾病負荷)の分析は、保健政策立案や研究開発の優先順位決定に必須の情報であるが、我が国では政策への活用は未だ限定的である。本研究は、研究代表者らによるこれまでの日本における全国及び都道府県レベルの疾病負荷に関する研究成果をさらに発展させ、最新の疾病負荷推計を用いて、現在懸案事項となっている主な施策(地域医療構想、医療費、健康格差、医療の質、医師の働き方改革、イノベーション戦略)に直接資する分析を行う。さらに、分析結果をより多くの政策立案者や研究者、一般の方が利用できるように分析データのビジュアル化を推進する。
著者
西浦 博
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

まず1年度目からの継続課題として、南北差を含むフライウェイでのリザーバの特定に取り組んだ。これまでに理論疫学的手法によってリザーバの定義を可能にしてきた。ただし、これまでは動物種別のみを見たものであり、例えば、インフルエンザであればマガモがmaintenance hostであることを実証する程度しかできていない。そこで、渡り鳥のアジアフライウェイに対応した観察データの系統的レビューに基づくデータ収集を実施し、また、数理モデル構築において必要とされるパラメータ(例.気温に応じた水環境でのインフルエンザウイルスの失活度に関する生存曲線)について定量化を行った。その結果、北極のマガモのほうが熱帯地域よりもインフルエンザウイルスの維持には大きな役割を果たすという空間上の異質性を特定することができた。引き続き、伝播能力が変化する宿主間の(進化)連携パスウェイの定義と分析手法の開発に取り組んだ。上記のような疫学的なリザーバの特定は系統樹を利用したウイルス学的・進化生物学的なリザーバの議論とかみ合ってこなかった。感染頻度と系統遺伝学的情報の両方が与えられた場合のリザーバの特定に関する研究の理論的実装に取り組み、疫学情報あるいは遺伝学情報の一方のみに頼った場合のリザーバ特定の精度・信頼性等について統計学的推定を通じて評価を行った。同時に、進化生物学的に意味のある組み換えについてその情報を加味した(リザーバとは異なる)宿主のグループ化に取り組んだ。H5N1型インフルエンザの分析に取り組み、現在原著論文執筆中である。
著者
西浦 博
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

隔離を含む非医学的(非薬物的)対策は病原体に非特異的なため、未だワクチンや治療法が開発されていない感染症など、幅広い対象に実施可能である。しかし、隔離による2次感染予防効果は具体的な数値として明らかにされておらず、例えば2014-16年に西アフリカで流行したエボラ出血熱に対して隔離が2次感染をどれだけ防ぎ得たかは未だ疫学的・統計学的に分析されていない。本研究の目的は、感染者の感染後経過時刻の関数として隔離実施を加味した2次感染発生の数理モデルを構築し、疫学情報およびゲノム情報の両方を含む観察データを分析することにより、隔離の効果を明示的に推定することである。3年度目は流行データを利用して感染性や相対的感染頻度を具体的に分析し、欠損情報を含むデータや様々な種類の観察情報からの推定を実現する段階に据えた。具体的には、伝播ネットワーク再構築および接触者追跡調査に基づく2次感染リスクのモデル化を行った。前者の分析では沖縄県を中心に発生した麻疹流行の伝播ネットワークの再構築のリアルタイム分析に取り組んだほか、同情報に基づくリアルタイム予測研究を発表することができた。後者の研究では、当初予定していた個体のtime useデータの活用に替えて接触ダイアリーに基づく接触者追跡調査を実施し、2次感染リスクが高くなる空間的設定(位置情報)を行動目的別で特定することに成功した。いずれの結果も原著論文として査読付きの国際誌に発表することができた。
著者
西浦 博
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.20-37, 2009
参考文献数
51

本稿は感染症の検疫期間の決定手法を提案するとともに,検疫による予防効果の考え方の理論的基礎を構築する.感染した可能性のある人に対して通常の生活から一定期間だけ分離あるいは生活行動制限をする検疫は,国内に常在しない感染症の侵入を防ぐボーダーコントロールに欠かせない感染症対策である.これまでに検疫時の医学的検査や法制度に関する議論が行なわれてきたが,具体的な検疫期間の決定手法や特定の検疫期間が与えられたときの流行拡大を防ぐ疫学的効果は詳しく検討されてこなかった.感染症流行の数理モデルを用いて,検疫が感染者侵入を防止する効果を理論的に明らかにする.まず,異なる疫学的指標によって様々な検疫の効果を検疫期間の関数として定義し,それぞれの効果の違いと必要な疫学的情報を明らかにする.これまでの検疫期間は潜伏期間のみを用いて議論されてきたが,感染しても症状を呈さない不顕性感染者を明示的に考慮することによって,より豊富な検疫期間の検討が可能なことを示す.また,様々な検疫の直接的効果を提示するだけでなく,感染者が検疫の網の目を潜り抜けて侵入した場合の流行動態も検疫期間の関数で考えることにより,検疫が侵入先に及ぼす疫学的効果を明らかにする.特に,侵入者によって流行が発生する確率と検疫による流行の遅れをモデル化する.具体的事例として新型インフルエンザを想定した数値計算例を提示し,本稿の手法が様々な感染症の検疫に関する意思決定に役立つことを示す.
著者
西浦 博
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの行動がどのように感染症流行に影響を与えるかについて、現存するデータを系統的に収集し、数理モデル及び統計モデルを利用して分析した。有用な天然痘及び肺ペストのデータについては、昨年より個別データベース構築を継続した。論文報告をした特定研究成果として、まず潜伏期間を利用した統計モデルが挙げられる。発症時刻に基づいて伝播能力や感染時刻を推定する理論疫学研究を報告した。同研究手法の発展によって、通常は発症時刻しか記録されていない観察データを分析しやすい感染時刻データに変換する方法を提案した。また、最近データ採集が実施されたブタE型肝炎の血清調査結果を対象にして、本研究計画で提案した感染力推定モデルの応用事例を報告した。感染力が高く、流行がまん延している感染症について、どのように集団レベルでの感染力を推定できるかについて、データ特性に対応した手法を提案した。インフルエンザの研究成果としては、プルシア(ドイツ)における1918年の流行データを数理モデルを用いて分析し、論文報告した。流行時刻によってインフルエンザ伝播が変化する様を検討する単純化モデルを構築し、流行途中にヒト行動がどのように変化したのかを客観的に分析・解釈する方法を提案した。スペイン風邪流行途中ではヒトの接触回避行動が伝播動態に大きく影響した可能性が高く、パンデミックインフルエンザ発生時には適切なヒトの危険回避行動が流行抑止対策になる可能性が示唆された。
著者
松下 優美 八木 実 水落 建輝 西浦 博史 牛島 高介 高木 章子 浅桐 公男 田中 芳明 鹿毛 政義 猪口 隆洋
出版者
日本門脈圧亢進症学会
雑誌
日本門脈圧亢進症学会雑誌 (ISSN:13448447)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-47, 2010-06-30 (Released:2012-12-28)
参考文献数
37
被引用文献数
1

小児の肝前性門脈圧亢進症(以下,本症)は主に肝外門脈閉塞症(EHO:extra-hepatic portal obstruction)や,肝内presinusoidal blockをきたす先天性肝線維症(CHF:congenital hepatic fibrosis)に大別される.これらは小児領域での突然の消化管出血の原因疾患として重要である.本論文では,自験例2例を紹介し,本症の原因,診断および治療,小児領域における問題点を述べる.CHFの1例は13歳男児,吐血で発症し,その後EVL, EISを繰り返したが,胃静脈瘤の発達と白血球,血小板の低下のため5年後にHassab手術を施行した.EHOの1例は8歳女児.心房中隔欠損症(ASD)を合併しており,吐血で発症.高度食道静脈瘤でありEVL, EISの適応を検討したが,ASDへの影響を考え,Hassab手術を先行して行った.その後EISにて残存する食道静脈瘤の追加治療を施行した.
著者
西浦 博
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.419-426, 2003-06-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1

適切な結核対策を進めるための一助とする目的で, われわれは社会経済因子に対する結核罹患率およびその変化率の関係について検討を行った. 東京都特別区において, 1992年統計より得た8つの社会経済因子と, 1988年から1997年の結核新登録患者数から得た標準化結核罹患率より計算した平均年齢調整結核罹患率およびその変化率との関係について後向き生態学的研究を実施した. 重回帰分析の結果, 生活扶助世帯割合 (p<0.001), 10万人当たり公衆浴場数 (p<0.001), 人口密度 (p=0.012), および最低居住水準未満の世帯割合 (P=0.024) について平均年齢調整結核罹患率と正の相関関係を認めた. また, 持ち家世帯割合 (p=0.001), 1人当たり畳数 (p=0.021), および生活扶助世帯割合 (P=0.038) と平均年齢調整結核罹患率変化率との問に負の相関関係を認めた. これらの結果より, 結核罹患に関して明らかな社会経済的要因が存在することが示された. また, 本研究手法は結核に関係していると考えられる個々の社会経済的要因ごとに罹患率の変化を検討する方法として有用であると考えられた.