著者
大坂 まどか 富永 孝紀 今西 麻帆 河島 則天 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0387, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】半側空間無視(USN)の回復については,空間無視の存在を認識していない段階から,その存在を認識した上で意識的な注意の制御を行う過程,そして最終的に無意識的に制御するといった段階があるとされている(富永2006)。一方,回復段階においては,どのような視覚情報処理の変化が生じるかについて検証した報告は少ない。本報告では,USN症例における眼球運動と到達運動を行う際の視覚情報処理の変化について評価し,BIT行動性無視検査(BIT)を用いてUSN重症度との関係性を検証した。【方法】対象は,症例1:右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を呈した40歳代男性,症例2:右被殻出血の40歳代女性,症例3:右後頭-頭頂葉出血の70歳代男性,症例4:右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を呈した60歳代男性であった。4症例のBITの点数(通常検査/行動検査)は,症例1から40/7点,69/16点,77/28点,110/54点であり,USNを認めた。視空間処理の評価には,河島ら(2012)によって考案,開発されたアイトラッカー内蔵型タッチパネルPC(Tobii社製)を用いた。PC画面上には35個(縦7列,横5行)のオブジェクトが等間隔に配置され,ランダムな順序で5秒間点滅する。点滅するオブジェクトに対して手指にて接触,または0.5秒間注視することで点滅を解除することが可能であり,オブジェクトごとの点滅開始から解除までに要した時間と点滅解除の可否,課題遂行中の眼球運動の軌跡を記録することが可能である。対象者には,PCの正面に座位姿勢をとり,点滅するオブジェクトに対して,右示指にて接触(課題1)または注視(課題2)し,点滅を解除する課題を実施した。視覚情報処理の分析は,各課題中のオブジェクトの点滅解除の可否,課題2における眼球運動の軌跡を用いて検証した。【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の公認を得て十分な説明を実施し,書面にて同意を得られた症例に行った。【結果】オブジェクトの列の表記は,縦7列のうち,中央の列をS0とし,S0から右側へR1,R2,R3,左側へL1,L2,L3と表す。眼球運動の軌跡は,S0を0cmとし,L3を-13cm,R3を13cmとした範囲で表す。課題1において,症例1はL1,L2,L3に加えてS0が,症例2はL3の抹消ができず,症例3はL3まで到達可能も,L3で2個抹消不可能なオブジェクトが存在した。症例4は全てのオブジェクトの抹消が可能であった。課題2は,症例1はL1,L2,L3に加えてS0が,症例2はL1,L2,L3に加えてS0の4個が抹消不可能であった。症例3はL2,L3に加えてL1に4個抹消不可能なオブジェクトが存在した。症例4はL1,L2,L3に合計5個の抹消不可能なオブジェクトが存在するものの,L3まで到達可能であった。一方,R1,R2,R3における抹消不可能なオブジェクトは症例1,症例2,症例4は5個,症例3は3個であった。課題2遂行中の眼球運動の軌跡中心は,症例1は5.7cm,症例2は5.9cm,症例3は4.0cmと右への偏位を認め,症例4では-0.7cmと左への偏位を認めた。【考察】症例1は,BITにてUSNが重度であり,両課題においても左側への注意の解放が困難なことから,抹消不可能なオブジェクトが存在した。これは,損傷部位が広範であり,特に前頭葉皮質の損傷が左側空間に対する探索に影響した(Verdonら2010)ことが推察された。症例2,3においてもBITでUSNを認め,課題2の結果や眼球運動の軌跡から,左側への注意の解放の困難さが伺える。一方,課題1では症例2,3ともに左側空間の拡大を認めており,到達運動実施による空間性注意の活性化(Ciavarroら2010)が生じた可能性が示唆される。課題2では,注視による注意の持続や,次の点滅刺激への注意の解放が必要となることから,よりUSNや注意の障害の影響により抹消不可能なオブジェクトが存在したと示唆された。症例4はUSNが比較的軽度で,両課題において左側空間への到達が可能であり,眼球運動の軌跡中心は左への偏位を認め,左側空間への意識的な制御が生じていることが考えられた。しかし,右側の末梢不可能なオブジェクトの存在は,左側への偏った意識的な注意の制御によって右側空間に対する視空間情報処理に影響を及ぼした可能性があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今回の評価方法によって,USNの視覚情報処理を分析することが可能である。今後,多数のUSN症例での検証を行っていくことで,損傷部位と視覚情報処理の関連性を特徴づけられる可能性があり,USN改善のための課題設定の一助となるものと考えられる。
著者
大住 倫弘 草場 正彦 植田 耕造 中野 英樹 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.599-602, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

〔目的〕今回,幻肢痛患者の質的な評価を行い,皮膚受容感覚に関連する幻肢痛であると判断した2症例に対して,早期から触圧覚識別課題を実施した結果を報告する.〔対象〕2症例とも糖尿病性壊疽に陥り下腿切断を施行した後に,皮膚受容感覚に関連する幻肢痛が出現していた.〔方法〕断端部にクッションにより触圧覚が与えられる部位の識別を行った.〔結果〕課題開始当初は2症例とも触圧覚の部位を正確に識別することが困難であったが,課題を行っていくことで識別可能となっていき,幻肢痛も消失した.〔結語〕症例の幻肢痛がどのような病態なのかを質的に評価した上で,介入方法をできるだけ早期に決定していくことの重要性が示唆された.
著者
宮本 謙三 竹林 秀晃 宅間 豊 井上 佳和 宮本 祥子 岡部 孝生 坂上 昇 森岡 周 舟橋 明男
出版者
土佐リハビリテーションカレッジ
雑誌
土佐リハビリテーションジャーナル (ISSN:13479261)
巻号頁・発行日
no.1, pp.27-32, 2002-12-20

本研究の目的は一側の筋力トレーニングが対側に及ぼす筋力増強効果, すなわち筋力の両側性転移を検証することである。対象は健康な男子学生22名とし, 方法は被験者を等張性収縮によるトレーニンググループと等尺性収縮によるトレーニンググループに分け, 一側の膝伸展筋に対し,4週間(延べ16日間)の筋力トレーニングを行った。そして, トレーニング前後の対側同名筋(膝伸展筋)と対側拮抗筋(膝屈曲筋)の等尺性筋力の変化を筋力測定装置を用いて測定した。結果は, 対側拮抗筋筋に筋力増強効果を認め, 対側同名筋には認められなかった(p>0.05)。また, 等張性トレーニングと等尺性トレーニングの間に差は認められなかった。これらの変化は, 最大出力を発揮するための相反運動あるいは姿勢固定作用と思われ, 筋力トレーニングにおける両側性転移効果を確認することは出来なかった。
著者
藤本 昌央 山本 悟 森岡 周
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
2

【目的】運動イメージ時の脳活動に関連した先行研究において,運動イメージが運動実行の際と共通の神経基盤を有することが明らかにされている。運動イメージの際に活動する主たる領域は,第二次体性感覚野,頭頂間溝,補足運動野,一次運動野,背側運動前野,小脳であると報告されている(Naito 2001)。なかでも,運動前野,補足運動野,小脳,頭頂間溝はあたかも自分自身が運動をしているようにイメージする一人称的運動イメージに関連する脳領域であることが判明している(Naito 2002)。近年,歩行イメージ中において前補足運動野の活動が増加することが報告された(Malouin 2003)が,高次運動領野は活性化しないといった報告(Jahn 2004)もあることから,その根拠は依然として不十分である。その理由の一つとして,歩行イメージは空間的にも時間的にも感覚情報処理の多さから明確なイメージを生成することが難しいことが考えられる。言語が上肢の運動生成に影響することは知られている(Gentilucci 2003)が,最近になって,メタファー言語が巧緻的な上肢運動の視覚運動感覚イメージに影響するといった仮説が述べられている(McGeoch 2007)。そこで本研究は,歩行イメージを鮮明化させるためにメタファー言語が有効であるかを脳イメージング装置によって明らかにすることを目的とする。<BR><BR>【方法】20代の健常成人12名が実験に参加した。なお,すべての参加者に本研究の主旨を説明し,参加の同意を得た。椅坐位の対象者に閉眼を求めた後,条件1では「歩いているイメージをしてください」,条件2では「踵が地面に着く感触を意識しながら歩いているイメージをしてください」,条件3では「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」と言語教示を与えた。言語教示後に,安静5秒間-イメージ30秒間-安静5秒間の脳血流量を測定した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製機能的近赤外分光装置(fNIRS,FOIRE-3000)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。光ファイバフォルダは前頭葉から頭頂葉,後頭葉にかけ覆った。統計処理にはKruskal-Wallis検定およびPost hoc testとしてScheffe検定を用いた。測定後,Fusion imagingソフト(島津製作所)を用いてMRI画像への重ね合わせを行い,脳マッピングを行った。<BR><BR>【結果】条件1および2に対して,条件3において左一次運動野,左運動前野領域のoxyHBが有意に増加した(p<0.05)。<BR><BR>【考察】条件3において一次運動野および運動前野領域の有意な血流量の増加は,先行研究から,メタファー言語の教示によって,運動イメージが鮮明化されたことが考えられる。歩行といった下肢の周期運動においてもメタファー言語の付与が運動イメージ生成に有効に作用することが示唆された。<BR>
著者
藤田 浩之 中野 英樹 粕渕 賢志 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.199-204, 2012 (Released:2012-06-13)
参考文献数
27
被引用文献数
2

〔目的〕本研究は足底知覚トレーニングが後期高齢者の立位姿勢バランスの安定化に対しての有効性を検証した.〔対象〕介護老人保健施設に入所する後期高齢者19名とし,トレーニング群9名,コントロール群10名にそれぞれ無作為に振り分けた.〔方法〕トレーニング群には硬度の異なるスポンジマットを弁別させ,コントロール群には一定の硬度のスポンジマットにて立位姿勢を保持させ,10日間実施した.〔結果〕トレーニング群に立位重心動揺値の有意な減少が認められた.〔結語〕これらの結果より生理的に感覚機能が低下する後期高齢者においても,立位姿勢バランスの安定化に対して足底知覚課題が有効的に作用することが示唆された.
著者
藤田 浩之 藤本 昌央 佐藤 剛介 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1132, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】立位姿勢制御において体性感覚の影響は様々な研究で明らかにされてきたが、特に立位を保持する上で足底からの求心性感覚は重要な情報源である.先行研究において若齢成人(Morioka 2004)、脳卒中患者(Morioka 2003)を対象に足底部の知覚能力の向上が立位姿勢バランスを安定させることが報告されている.また、加齢に伴い足底部の二点識別覚が低下することも明らかにされている(森岡 2005).しかしながら、75歳の超高齢者においても足底部の知覚能力の向上が可能であること、そしてその能力の向上が立位姿勢バランスの安定化につながるかについては明らかにされていない.そこで今回は、老人保健施設に入所している後期高齢者を対象に無作為化比較試験を用いて、足底部知覚能力の向上が立位姿勢バランスを安定させるかを明らかにする.【方法】老人保健施設に入所し、意識障害、認知機能に問題がなく、静止立位が可能な75歳以上の後期高齢者17名が調査に参加した.すべての参加者に対して実験の説明後、参加の同意を得た.参加者をトレーニング群8名とコントロール群9名に振り分けた.トレーニング群に対しては足底部における硬度弁別課題を介入した.5段階の硬度の異なるスポンジマット(30×30cm)を用い、立位にて足底で硬度を弁別する課題を行った.5種類のスポンジマットをランダムに2回ずつ用いて計10回のランダム表を作成し、それに従い課題を10日間実施した.このエラー数を求めた.コントロール群は10秒間、一定の硬度のスポンジマット上に立位を保持する課題を10日間実施した.調査開始時と終了時において閉眼立位にて重心動揺測定(アニマ社G-6100)およびFunctional Reach Test(以下FRT)を実施した.重心動揺の項目値には総軌跡長を使用した.エラー数の変化の検定には反復測定一元配置分散分析を用いた.開始時と終了時の総軌跡長とFRT値の比較にはt-testを用いた.有意水準は5%未満とした.【結果】トレーニング群のエラー数は試行を重ねるごとに有意な減少を認めた(p<0.05). 開始前と終了時の総軌跡長およびFRT値は、トレーニング群において終了時の総軌跡長に有意な減少、FRT値において有意な増加が認められた(p<0.05).一方、コントロール群において有意差は認められなかった.【考察】今回の調査において後期高齢者においても足底部の知覚向上により静的な立位姿勢バランスの安定化ならびに随意的な重心移動距離の増大がみられ、本方法によるトレーニング効果が認められることが判明した.【まとめ】今回用いた足底部の知覚課題が、若齢成人や脳卒中患者だけでなく、後期高齢者に対しても有効かつ簡便な立位姿勢バランストレーニングとして用いることが可能であることを強く示唆している.