著者
森岡 周
出版者
畿央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、まず健常者の道具操作および観察・イメージ時の運動関連領域の脳活動をNIRS-EEGシステムを用いて検出し、それから得た脳活動を基に閾値を設定し、その閾値を超えると視覚フィードバックを与えるニューロフィードバック装置を開発した。なお全ての対象者において左運動前野の活動が明確であったため、その領域の活動に焦点を置いた。この装置を用いて、脳卒中後に上肢運動障害を呈した10名の患者に対して2週間の介入を行った。結果、道具操作観察・イメージ時に左運動前野の閾値を超える活動を認めた6名は、介入によって有意な機能改善を認めた。一方、閾値を超えなかった4名は介入によって著明な効果が見られなかった。
著者
海部 忍 森岡 周 八木 文雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.59-63, 2006 (Released:2006-05-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

今回,発症から約6ヵ月経過後も半側空間無視が残存している脳卒中片麻痺患者に対して認知運動療法の理論に基づいたリハビリテーションを実施した結果,症状にある程度の改善を認めた。リハビリテーション開始時,机上検査では☆印抹消課題にて右1/3程度のみの抹消結果であったが,6週間後には左下の一部を見落とす程度にまで改善した。それに伴い,当初見られていた車椅子駆動時における左側物体への衝突や左折の見落としがなくなるという動作場面においても改善が認められた。これらの結果から,半側空間無視に対して,認知過程(知覚-注意-記憶-判断-言語)を考慮した,体性感覚情報を中心とするリハビリテーションを遂行することにより,空間認知における「方向性注意の学習」が成立し,無視側身体に対する注意の喚起が可能となることが示唆された。
著者
森岡 周
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.947, 2012-10-15

まずこの本を見た瞬間,「同期生よ! 思い切ったことをしたな」と思い,いろいろな言葉が脳の中を駆け巡った.それだけインパクトのある表紙と内容であった.「列伝」と聞くと,ギタリスト? などと思ったりもし,果たして理学療法士という職業にそのような言葉が当てはまるかは明言できないが,いずれにしても,理学療法士は医療者でありながら,職人としての要素を含んでおり,それを意図した書であると思う. 本書は3章の構成であり,第1章は「衣鉢相伝」と題して,著者のこれまでの臨床研究をベースとした記述である.衣鉢相伝とは教法や奥義を伝え継承することの意であり,平たくいえば,広く先人の事業や業績を継ぐことに当たる.著者はこれまで主に大学病院に属しながら変形性膝関節症の臨床研究を実施してきたが,それから得た保存的治療戦略に関して,運動学的あるいは運動力学的分析から一つの方向性を打ち出し,その具体的な実践例を丁寧に臨床的に記述している.衣鉢相伝と題されるように,著者には今までの自分の思考をありのままに伝えるが,後輩たちがそれをよりよい方向性に改変し,場合によっては批判し新しいものを創造し提案してもらいたい意図があるのであろう.
著者
浅野 大喜 森岡 周
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11159, (Released:2016-06-05)
参考文献数
30

【目的】脳室周囲白質軟化症(以下,PVL)児,知的障害(以下,MR)児の行動について調査し,健常児と比較した。【方法】PVL児15名(平均月齢55.2 ヵ月;PVL 群),MR児15名(平均月齢53.3 ヵ月;MR 群),定型発達児14 名(平均月齢52.3 ヵ月;Normal 群)を対象とした。行動評価はChild Behavior Checklist(以下,CBCL)を使用し,子どもの行動を母親に評価してもらい,3 群間で比較した。また母親の養育態度についても調査し,CBCL の結果との関連を調べた。【結果】PVL 群は依存分離尺度,MR 群は引きこもり,攻撃,注意集中尺度と内向,外向尺度,総得点でNormal 群よりも有意に高い得点であった。[内向/外向]の値はPVL 群が他の2 群より有意に高い値であった。PVL 群の依存傾向は養育態度や歩行能力とは関係がなかった。【結語】PVL 児は外在化行動よりも内在化行動が高いという特徴を示した。
著者
幸田 仁志 岡田 洋平 福本 貴彦 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100012, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】 高齢者や重度障害者は,寝たきり予防のため車椅子を使用する.しかし,不良姿勢での長時間座位は,体位変換及び除圧動作を出来ない対象にとって,褥瘡発生の危険性を高める.褥瘡は治癒困難な慢性創傷の一つとして位置づけられ,理学療法士は褥瘡予防の観点から,車椅子座位に及ぼす外力に対して介入を行う必要がある.外力とは圧迫力と剪断力を示し,圧に剪断力が加わることで褥瘡発生の危険性を高めるとされている.車椅子機構が殿部圧迫力に及ぼす影響が数多く報告されてきたが,殿部剪断力に及ぼす影響を検討したものは見当たらない.我々は第47回日本理学療法学術大会においてリクライニングにおける前方への剪断力の増加,ティルトにおける後方への剪断力の増加を示した.しかし,ティルト・リクライニングの組み合わせによる外力の影響は明らかでない.本研究の目的は,ティルト・リクライニングを組み合わせた角度変化が,圧迫力および剪断力に及ぼす影響を検証することとする.【方法】 対象は神経疾患,骨関節疾患に特記すべき既往がない健常成人12名(23.9 ± 1.8歳,男性6名,女性6名)とした.対象者はティルト・リクライニング機構が備わった車椅子上で3分間の座位保持を行い,測定中に不快を感じても姿勢を変えないように指示した.アームレストは使用せず,両上肢を組んだ状態で保持するように指示した.フットレスト高は,同一検者が被験者の大腿部と座面が水平になる高さに調節した.衣服は,座面とズボンの摩擦を統一するため,全被験者が同じ素材のものを着用した. 測定は,リクライニング0°,10°,20°の3条件、ティルト0°,5°,10°,15°,20°の5条件を組み合わせた計15条件で行った.対象者の疲労の要素を考慮して,各条件はランダムな順序で実施した.殿部に生じる圧迫力および剪断力の測定は,車椅子の座面に設置した可搬型フォースプレート(アニマ株式会社,KtSmp)で行い,それぞれ3分間の床反力垂直成分および前後成分の平均値を各対象者の体重で除した値とした. 統計学的解析には,ティルトとリクライニングを2要因とした反復測定二元配置分散分析を使用した.下位検定として各要因について一元配置分散分析を行い,Bonferroni法を用いて多重比較検定を行った.有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-21)を受けて実施された.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し書面にて同意を得た.【結果】 圧迫力においては,2要因間での交互作用は認めず独立した要因であった.リクライニングの角度変化に主効果を認め,多重比較の結果は全てのリクライニング条件間において,傾斜角度の増大に伴い圧迫力の有意な低下を認めた. 剪断力においては,ティルトとリクライニングの交互作用は有意であった.単純主効果検定の結果はティルトに有意差を認め,全てのティルト条件間に有意差を認めた.多重比較の結果はティルト0°条件に対してティルト5°,10°条件は,前方剪断力の有意な低下を認めた.ティルト5°条件に対してティルト10°条件は,前方剪断力の有意な低下を認めた.ティルト10°条件に対してティルト15°,20°条件は,後方剪断力の有意な増加を認めた.【考察】 本研究の結果,リクライニング傾斜に伴う圧迫力の低下,ティルト5°,10°における前方剪断力の軽減,ティルト15°,20°における後方剪断力の増加が示された.リクライニングは,殿部へ加わる力を背面へ分散することで圧迫力を軽減したと考察する.先行研究では,リクライニングが前方剪断力の増加を示したことから,組み合わせて用いる際,後方剪断力を誘発するティルト傾斜をより必要とすると予測した.剪断力は二要因の交互作用がみられたが,結果的に全てリクライニング角度条件において,ティルト10°に剪断力軽減がみられた。ティルト10°の際は,背面から生じる前方への反力と,座面傾斜により生じる後方への滑りの力が,互いにほぼ等しい力の大きさとなり,殿部に生じる剪断力を軽減したと考察する.従って,圧迫力軽減にはリクライニング,剪断力軽減にはティルト10°の介入が推奨される.今後は,骨盤や脊柱といった体節の変化についての言及が課題である.【理学療法学研究としての意義】 本研究では,ティルト・リクライニングの組み合わせが,殿部に生じる外力に及ぼす影響を検証した.リクライニング20°ティルト10°の設定が,圧迫力および剪断力の双方の軽減を得る可能性が示唆され,褥瘡予防を介入する上で臨床的意義は大きい.
著者
越智 亮 片岡 保憲 太場岡 英利 沖田 学 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0437, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 心的な“緊張”が動作遂行能力に負の影響をもたらすことは日常生活において頻繁に見受けられる.これは,普段なら対応づけられている主観的な努力と客観的に要求された値との間の対応関係が乱れることが一つの原因として挙げられる可能性がある.本研究では,表面筋電計を用い,心的負荷を加えることにより筋活動量とその再現能力がどのように変化するかについて肘関節での等尺性収縮にて検証する. 【方法】 健常男性12名を被験者とした.平均年齢20.8±4.2歳,平均体重61.9±7.6kgであった.測定肢位は背もたれのない座位とした. BT(base task):肘関節屈曲90°,前腕回外90°位にて,重量負荷となる容器(プラスティック製バケツに各被験者の体重の5%にあたる水を入れ蓋をしたもの)を母指球と小指球の直上にくるよう置き,容器取手部分を注視させ,20秒間保持させた. BT-rep(BT-reproduce):BT後,即座に出力再現課題を試みさせた.固定された机の裏面に肘関節屈曲90°になるよう手掌面を当て,BTと同じ位の出力になるよう肘関節屈曲の等尺性収縮を行わせ,力量調節が完了した時点で被験者自身に合図させてから10秒間保持させた. MLT(mental load task):BT後10分間の休憩を与えた後,BTと同様の容器を用い上肢負荷を与え,容器取手上にガラス製のコップに水を満水にして置いた.容器の重さとコップの水の総重量はBTの負荷重量と一致するよう,容器内の水の量を調節した.コップ内の水を絶対にこぼさないように指示し,コップを注視させ20秒間保持させた. MLT-rep:BTと同様,出力再現課題を試みさせた.尚,BT,MLT共に課題間に休息を与えずに3施行ずつ行い,課題施行前後に血圧及び脈拍数を測定した. 筋活動の導出にはNoraxon社製MyoSystem1200を用い,被験筋は利き腕の上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋とした.全課題において,遂行開始時より3秒後から5秒間のEMG波形を導出し,被験者の5秒間の最大等尺性随意収縮を100%とし,正規化した.統計処理には対応のあるt-検定を用いた.再現課題は絶対値の差(BT-rep-BT,MLT-rep-MLT)を算出し,平均値と標準偏差から散布度の比較を行った.【結果】 BTとMLTの比較において,MLTでは上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋に筋活動量の有意な増加(p<0.001)が認められた.血圧及び心拍数もMLTで有意に増加(p<0.001)していた.絶対値の差の平均と標準偏差を比較した結果,MLT-repでバラツキが大きかった. 【考察】 ある動作のための筋活動量は脳・神経系によって無意識にプログラムされており,この過程に心理的修飾が加わることで適切な力量調節能力が損失させられ,筋出力の再現能力も低下することが考えられた.
著者
植松 光俊 新垣 盛宏 梶原 史恵 酒井 美園 大森 圭貢 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.201-206, 2005-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
12
被引用文献数
3

障害を持った人の運動, 動作分析や評価のプロフェッショナルである理学療法士(PT)にとって, 日常生活動作のあらゆる動作について自立度判定を的確にできる能力を有していることは必要最低限の資質というべきである。自立度判定というと「ある動作について自立, 監視, 介助レベルの動作方法を特定し, 各段階での介助度, 条件および適応環境条件(使用する介助支持用具や福祉機器等の提示)を評価する」とある。しかし, 今回のワークショップでは, 「歩行自立」に限定して明らかにするための判定要因, 基準および手順を明確にすることに拘ることにした。歩行自立度序説 1. 歩行自立度判定の必要性 1)なぜ自立判定が必要か? 自立している動作, 自立可能な方法, 自立できる生活範囲をできるだけ正確に早期に把握し, その情報を生活に密着したリハビリチームスタッフである看護, 介護職に提供し, 実際に「自立生活」を日常的に取り入れることができると, 患者さんが理学療法(以下, PT)場面だけで得られる動作量よりはるかにその動作機会は多くなり, そのことによる全身調整能力, 他の体力指標の改善効果は大きいといえる。
著者
藤本 昌央 信迫 悟志 藤田 浩之 山本 悟 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.493-498, 2009 (Released:2009-09-24)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

〔目的〕近年,運動イメージの想起課題がリハビリテーションの治療として応用されはじめている。対象者の歩行機能の回復は理学療法の代表的な目標となるが,歩行運動イメージ時において,高次運動関連領域を活性化されるかは一様の見解を得ていない。本研究の目的は,歩行運動イメージを想起させる方法として,レトリック言語を用いることで高次運動関連領域が効果的に活性化するかを脳機能イメージング手法によって明らかにした。〔対象〕健常成人12名(男性:2名,女性:10名,平均年齢±標準偏差:24.1±5.6歳)とした。〔方法〕条件A「歩いているイメージをしてください」,条件B「踵が柔らかい砂浜に沈み込むのを意識しながら歩いているイメージをしてください」とそれぞれ言語教示を与え,歩行運動イメージ中の脳血流量(酸素化ヘモグロビン値)の変化を捉えた。〔結果〕条件Bにおいて左背側運動前野,両補足運動野,左一次運動野において脳血流量の有意な増加が認められた。〔結語〕歩行運動イメージの想起にはレトリックを用いた言語教示によって,運動関連領域が活性化されたことが分かった。
著者
冷水 誠 岡田 洋平 前岡 浩 松尾 篤 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0726, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】効果的な運動学習には学習者の動機づけが重要である。この動機づけの1つとして金銭報酬が運動学習を向上させることが報告されている。しかし,金銭報酬はその報酬が取り除かれた際に動機づけが低下するアンダーマイニング効果の存在が明らかにされている。一方,ヒトでは承認や有能感という他者との関わりも動機づけを高めることが知られており,他者からの信頼評価や他者との比較による有能感が効果的な運動学習を導くと報告されている。このように,金銭報酬および他者との関わりそれぞれが運動学習に与える影響については明らかにされているものの,これらの学習効果の違いに関しては不明である。そこで本研究の目的は,他者との関わりとして他者結果との比較が,金銭報酬と比較して運動学習およびモチベーションに与える影響を検証することとした。【方法】対象は右利き健常大学生39名(男性18名,女性21名,平均年齢21.6±1.49歳)とし,13名ずつ無作為にコントロール群,金銭報酬群,他者比較群の3群に割り当てた。学習課題は非利き手でのボール回転課題とし,対象者は2個のボール(直径4.2cm,重量430g)を把持し,20秒間を1試行として可能な限り回転させるよう指示された。実施手順として,対象者はまず初期学習効果を除くために6試行×2セットの練習を実施し,その後1試行ずつ第1セッション(1st),第2セッション(2nd),第3セッション(3rd)を実施した。各セッション間には3分間の自由時間(1st-2nd間;第1自由時間,2nd-3rd間;第2自由時間)を設けた。すべての群において,対象者は1stから3rdにかけて自身の結果に関するフィードバックを受け,できるだけ回転数を増大させるよう指示された。コントロール群では自身の結果のフィードバックのみに対し,金銭報酬群では1stから2ndにかけて,回転数が増大した場合に金銭(500円)を付与することを伝えた。ただし,2nd終了後,3rdにかけて金銭付与はないと伝えた。他者比較群では,自身の結果のフィードバックに加えて,1stから2ndにかけて事前に計測した20名の結果(1stから3rd)を同年代の結果として提示した。全対象者ともに,各自由時間では休息や練習を強制せず自由とし,その様子をビデオに撮影した。評価項目はボール回転課題における回転数とし,1st・2ndおよび3rdにて計測した。また,自由時間中のビデオ映像から,自主練習量として対象者が2つのボールに触れた時間をカウントした。統計学的分析はボール回転数について,反復測定二元配置分散分析(群×セッション)にて検定した。自主練習量は各自由時間において,各群における違いを一元配置分散分析にて検定した。また,両分析ともに多重比較検定にはTukey's multiple comparisons testを用いた。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。【結果】ボール回転数は群による主効果は認められず,セッションによる主効果および交互作用が認められた(p<0.05)。多重比較の結果,コントロール群では1stと3rd間のみ有意差が認められ(p<0.05),金銭報酬群では1stと2nd・3rd間のみ有意差が認められた(p<0.05)。他者比較群では1stと2nd・3rd間および2ndと3rd間のすべてに有意差が認められた(p<0.05)。自主練習量は第1自由時間において各群の有意差は認められず(p=0.07),第2自由時間において有意差が認められ,多重比較の結果コントロール群と比較して他者比較群が有意に多かった(p<0.05)。【考察】本研究の結果,金銭報酬群では金銭報酬がなくなる2ndと3rd間のみ有意な学習が得られなかった。このことは,金銭報酬がなくなったことによるアンダーマイニング効果が生じたことによる動機づけ低下の影響と考えられる。これに対し,他者比較群では各セッションともに段階的に有意な学習効果が認められた。これは他者との結果比較によって有能感を得ようとする動機づけあるいは目標設定となることで達成への動機づけが働き,効果的な学習につながったと考えられる。自主練習量についても,金銭報酬群との間に有意差はないものの,第2自由時間においてコントロール群と比較して有意に多く,最も高値を示していることからモチベーションが維持されていたことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】健常成人を対象に,運動学習において金銭報酬と比較して他者との関わりを意識させた結果比較がモチベーションを維持し,効果的な学習をもたらすことが確認できた。臨床場面においても,課題の明確な目標設定はもちろん,他者との関わりを意識した設定とすることで効果的な学習が得られる可能性が示唆される。
著者
前岡 浩 冷水 誠 松尾 篤 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1615, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ヒトが痛みを知覚する場合,加えられた痛みの強度だけでなく,その時の状況や過去の痛み経験,さらに不快,不安の情動面など様々な影響を受ける。つまり,物理的な痛み刺激が強くない場合でも,痛みに対する不安や不快が強い時,主観的な痛みが増強する場合がある。通常,痛みは持続的または頻回に知覚されるが,頸部や肩部などの痛みの強さが軽度の場合でも,痛みが持続的であると不快感を強く感じることはしばしば経験する。先行研究では,反復した痛みには痛みの慣れが起こり,痛みの強度が減少することは報告されているが,不快や不安などの情動的要因については明らかでない。そこで我々は,反復した痛み刺激に対する情動的要因への影響を検証し,痛みの強度は減少するが不快は持続するという結果を得た。また現在,痛み軽減への介入の一つに,非侵襲性に頭皮上の電極から微弱電流を流し,電極直下領域の脳活動を調整する経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が挙げられるが,反復した痛み刺激に対する有効性は十分検討されていない。さらに,痛み関連のtDCS研究では,左背外側前頭前野(DLPFC)領域の刺激による報告が多いが,痛みの強度と不快感に共に関連するとされる右DLPFC領域に関する報告は少ない。そこで今回,反復した痛み刺激に対し右DLPFC領域にtDCSを実施し,痛みの強度,不快,不安への効果について検証したので報告する。【方法】健常大学生20名(女性:10名,男性:10名)を対象とした。反復した痛み刺激強度の決定は,事前に温熱を使用した痛覚計を使用し,左前腕内側部(上腕骨内側上顆から10cm遠位)の疼痛閾値と痛み耐性閾値を測定し,疼痛閾値に1℃加えた温度を痛み刺激強度とした。加えて,左前腕遠位部内側部(上腕骨内側上顆から20cm遠位),右前腕近位内側部も同様に各閾値を測定した。tDCSについて,被験者を陽極(anode)刺激または偽物(sham)刺激から開始する2群に無作為に割り付け,1週間以上間隔を設けた後,刺激条件を入れ替えて再度実施した。tDCSの電極は,陽極を右DLPFC領域,陰極を左眼窩上領域とし,2mAで20分間刺激した。sham条件は,anode条件と同様の電極位置で最初の30秒間のみ通電した。反復した痛み刺激は,左前腕近位内側部に1回6秒間の痛み刺激を60回実施した。評価項目は,tDCS前に痛み閾値,痛み耐性閾値,State-Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し状態不安を測定した。tDCS後の反復した痛み刺激中は,60回の痛み刺激ごとに痛み強度と不快感をVisual Analogue Scale(VAS)にて評価した。痛み刺激終了後に再び痛み閾値,痛み耐性閾値,STAIを測定した。統計学的分析は,痛み閾値,痛み耐性閾値,STAIには反復測定二元配置分散分析(tDCS条件×時間)を使用し,有意差が認められたものにはBonferroniによる多重比較検定を実施した。また,VASによる痛み強度と不快感の刺激条件間での比較にt検定を使用した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】tDCSの条件間の比較では,痛み閾値と痛み耐性閾値に有意な変化は認められなかった。痛み強度はanode条件で減少傾向(p=0.09)を示し,不快についてはanode条件で有意な低下(p<0.01)が認められた。STAI(状態不安)については,tDCS条件と時間で交互作用(p<0.05)が認められ,多重比較の結果,sham条件で有意な増加(p<0.01)が認められた。【考察】今回,反復した痛み刺激に対し,右DLPFC領域のtDCSによって不快,不安の低下と増加の抑制が認められた。DLPFCは痛みの情動的側面に深く関与する前帯状回や扁桃体と機能的結合があり,DLPFCの活動がこれらの領域に抑制性に作用した可能性が考えられる。今回,右DLPFC領域を刺激したが,tDCSの鎮痛に関する多くの先行研究は左DLPFC領域を標的部位としている。今後さらに左右DLPFCの機能の違いを含め検証することで,より有効にtDCSを実施するための情報提供が可能になると考える。【理学療法学研究としての意義】今回,健常者を対象に反復した痛み刺激における痛みの不快,不安に対し,右DLPFC領域へのtDCSの有効性が示唆された。本研究結果は,tDCSの適応と限界に関する予備的データとして有益な情報になると考える。
著者
前岡 浩 冷水 誠 松尾 篤 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0791, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】痛みは「組織の実質的または潜在的な損傷と関連したあるいはこのような傷害と関連して述べられる不快な感覚的・情動体験」と定義(国際疼痛学会)され,感覚的側面,認知的側面,情動的側面から構成される。近年,痛みに対する治療手段の一つとして,選択的に大脳皮質領域を刺激する経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)が注目されている。これは非侵襲性に頭皮上に設置した電極を介して微弱な電流を適応し,膜電位の変化や大脳皮質を興奮させ,電極直下領域の脳活動を調整するという治療である。実際に,健常者や慢性痛患者に対する鎮痛効果が報告されつつある。しかしながら,これまでの先行研究は疼痛閾値や耐性閾値を指標に一時的な痛み刺激に対する即時効果や持続効果についての報告が大部分である。本来,痛みが発生するとその痛みは持続的に知覚される。さらに,物理的な痛みだけでなく,不快感や不安感などの情動も痛みに大きく影響を与える。このような持続的に加えられた痛みに対し,tDCSの効果を検証した報告は認められない。したがって今回,反復した痛み刺激に対し,tDCSが痛みの感覚的側面および情動的側面に与える影響について検証することを目的とした。【方法】対象は健常大学生7名(女性:4名,男性:3名,平均年齢:20.6±0.5歳)とした。測定手順は,はじめに温熱を使用した痛覚計(ユニークメディカル社製)により,左前腕近位内側部,左前腕遠位内側部,右前腕近位内側部における痛み閾値および痛み耐性閾値を測定した。反復刺激する部位は左前腕近位内側部とし,痛み刺激の強度は測定した痛み閾値に1℃加えた温度とした。その後,tDCS装置(NeuroConn社製)を使用し,参加者7名を陽極刺激(anode)および偽物(sham)刺激から開始する2群に無作為に割り付け,測定2日目に各条件を入れ替えて実施した。各条件間には1週間以上の間隔を設けた。tDCSの刺激部位は国際10/20法に基づき,陽極を右背外側前頭前野領域(F4),陰極を左眼窩上領域に固定し,2mAで20分間刺激した。Sham条件は,同様の電極位置で最初の30秒間のみ通電し,その後通電を停止させ20分間実施した。tDCS実施後,1回の刺激時間が6秒間,刺激回数6回を1ブロックとする反復した痛み刺激を10ブロック連続(合計60回刺激)して実施した。皮膚の感作回避のため刺激部位に近接する3ヶ所で1ブロックごとに刺激部位を移動させた。評価項目は各刺激に対する痛み強度および不快感とし,Visual Analogue Scale(VAS)にて評価した。10ブロック終了後,痛み閾値および痛み耐性閾値を再度測定した。また,tDCS実施前および反復刺激終了後に不安感の尺度であるState-Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し,状態不安の測定もあわせて実施した。分析のため,tDCSにおける刺激条件間での痛み閾値および痛み耐性閾値,そしてVASによる痛み強度および不快感,STAIスコアの平均値を算出した。統計学的分析には,痛み閾値および痛み耐性閾値,STAIについて反復測定二元配置分散分析を使用し,有意差が認められたものにはBonferroniによる多重比較検定を実施した。また,VASによる痛み強度および不快感の刺激条件間での比較にはt検定を使用した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に本研究の目的,方法について事前に説明を行い,実験参加の同意を得た。そして,本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号H25-14)。【結果】anode条件とsham条件の比較において,痛み閾値および痛み耐性閾値,痛み強度,STAIに有意な変化は認められなかった。一方,不快感ではsham条件(58.31±11.43)と比較し,anode条件(52.98±11.99)で有意な低下(p<0.05)が認められた。【考察】反復した痛み刺激に対し,anode条件で痛みの情動的側面である不快感に有意な減少が認められた。背外側前頭前野への刺激による鎮痛メカニズムは十分解明されていないが,この領域は主に痛みの情動に関わる情報を伝える内側経路と接続し,痛みの情動的側面に関与するとされる。また背外側前頭前野は前帯状回を介し痛みの下行性疼痛抑制系とも接続する。我々もこれまでに情動喚起画像により起こる痛みに関連した不快感に対し,背外側前頭前野へのtDCSによる軽減効果を報告している。今回の結果により,反復した痛み刺激においても痛みの情動的側面へのtDCSの有効性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回,健常者を対象に反復した痛み刺激に対する背外側前頭前野へのtDCSの有効性が示唆された。本研究結果は,実際の有痛者へのtDCSの応用に向けた予備的データとして有益な情報になると考える。
著者
森岡 周 大住 倫弘 坂内 掌 石橋 凜太郎 小倉 亮 河野 正志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第52回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2017-03-24

【はじめに,目的】運動イメージの想起を求める臨床手続きはメンタルプラクティス課題を含め,脳卒中後の上肢運動障害に対して効果を示すことが数多く報告され,医学的根拠も明確になっている(Langhorne 2009)。加えて,運動イメージ時の脳活動は実運動と等価的であることが我々の研究(Nakano, Morioka 2014)他,多くの研究で明らかになっている。しかしながら,運動イメージの定量的評価が臨床場面に導入されていない背景から,運動イメージ能力が直接的に片麻痺上肢機能に関与するかは不明である。本研究では,両手協調運動課題(bimanual circle-line coordination task:BCT)を用いて,運動イメージ能力を定量的に調べ,運動イメージ能力が片麻痺上肢の運動機能や麻痺肢の使用頻度に関係するかを明らかにする。【方法】対象は認知障害のない脳卒中片麻痺患者31名である。BCTにはタブレット型PCを使用し,その課題はunimanual-line(UL):非麻痺側のみで直線を描く条件,bimanual circle-line(B-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描く条件,imagery circle-line(I-CL):非麻痺側で直線を描き麻痺側で円を描くイメージを行う3条件で行い,各々12秒間3セット,ランダムに実施した。描かれた直線を記録し,その軌跡をMatlab R2014b(MathWorks)を用いて解析した。解析は軌跡を1周期ごとに分解し,その歪みを数値化するためにovalization index(OI)を求めた。OIは[X軸データの標準偏差/Y軸データの標準偏差]×100により算出した。運動麻痺の評価にはFugl-Meyer Motor Assessment(FMA),日常生活での使用頻度にはMotor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU),動作の質にはMALのQuality of Movemen(QOM)を用いて評価した。一元配置分散分析後,多重比較検定(t-検定)を用い3条件のOI値を比較した。また,I-CLのOIとFMA,AOUおよびQOMの関係を調べるためにピアソン相関係数を求めた。有意水準は5%とした。【結果】ULに対しB-CLおよびI-CLのOIで有意な増加を認めた(p<0.00001)。I-CLのOIとFMAの間に有意な相関がみられないものの,I-CLのOIとAOM(r=0.3883,p<0.0154)およびQOM(r=0.3885,p=0.0153)に有意な相関関係を認めた。【結論】本結果から,非麻痺側で直線を描き,麻痺側で円を描くイメージを行う条件であっても有意な楕円化を認めた。すなわち,運動イメージの存在を定量的に確認することができた。一方,それは運動麻痺の程度に直接に関係しないものの,麻痺肢の使用頻度や動作の質に関係することが明らかになった。今後は,運動イメージ能力が向上することで,麻痺肢の使用頻度が増加し,それに基づき運動障害が質的に改善するか,縦断的調査を試みる必要がある。
著者
大住 倫弘 今井 亮太 森岡 周
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2014 (Released:2014-10-05)

近年,視覚的身体像を操作するリハビリテーションアプローチが慢性疼痛患者に応用されてきている.しかし,視覚的身体像を操作することによって「不快な身体情緒」が生じてしまうと鎮痛効果が得られにくいことも考えられている.そこで今回,ラバーハンド錯覚手法を応用して,健常者の視覚的身体像を操作した時に惹起される不快な身体情緒が痛みを変化させるのかについて調査した.不快な身体情緒を惹起させるような,「傷ついたラバーハンド」,「毛深いラバーハンド」,「腕がねじれているラバーハンド」を作成した.そして,各ラバーハンドに身体所有感の錯覚を生じさせた時の,不快感および痛み閾値を測定した.その結果,「傷ついたラバーハンド」と「毛深いラバーハンド」に不快感は生じたが,痛みが増悪したのは「傷ついたラバーハンド」のみであった.このことから,痛みという文脈における不快な身体情緒が痛みを変化させることが明らかとなった.
著者
平川 善之 原 道也 藤原 明 花田 弘文 森岡 周
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-32, 2013-03-10 (Released:2013-04-04)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Total knee arthroplasty (TKA) is a surgical treatment for conditions such as knee osteoarthritis; the treatment aims to relieve knee pain and improve quality of life. Treatment outcomes are stable; however, it has been reported that postoperative pain becomes chronic in 15 - 20% of cases. The aim of this study was to examine the factors involved in the chronicity of postoperative pain by investigating the effects of cognitive and psychological factors on postoperative pain at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation. Subjects were 50 patients who underwent TKA (8 men and 42 women, mean age: 74.8 ± 6.5 years). Cognitive factors in this study comprised an assessment of neglect-like symptoms; such symptoms included decreased “cognitive function regarding the existence of one's own limbs" or “cognitive function regarding the motion perception of one's own limbs." The severity of these symptoms was assessed using the method described by Galar et al. Psychological factors comprised assessments of anxiety and catastrophic thinking about pain. Anxiety was assessed using the state-trait anxiety inventory, while catastrophic thinking about pain was assessed using the pain catastrophizing scale (comprises categories of helplessness, magnification, and rumination). Postoperative pain was assessed using a visual analog scale (VAS). Multiple regression analysis by using VAS as the dependent variable and all other factors as independent variables showed the following factors to be significantly correlated with VAS: neglect-like symptoms at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation and rumination at 3 weeks and 4 months post-operation. Sensory integration becomes difficult because of decreased sensory function in neglect-like symptoms; this is thought to be caused by body image becoming inaccurate. On the basis of these findings, it is considered necessary to approach for the improvement of sensory function in postoperative rehabilitation. In addition, rumination is persistent in pain, which is believed to result in a prognosis of a psychological state of severe anxiety. Therefore, methods for dealing with postoperative pain and giving patients a prognosis that is as precise as possible are thought to be necessary. These measures are thought to be factors in relieving postoperative pain and preventing it from becoming chronic.
著者
林田 一輝 大住 倫弘 今井 亮太 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.805-810, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
25

〔目的〕今回Rubber Hand Illusionを用いてSelf-Touchによる身体所有感の脳内メカニズムを検証した.〔対象と方法〕健常者20名を対象に ①Self-Touch,②Self Rubber Hand Illusion(ラバーハンドを触れることによる錯覚),③Other-Touch(他者から触れられる),④Other Rubber Hand Illusion(ラバーハンドを触れられることによる錯覚)の4条件で機能的生体近赤外線分光装置を用いて脳活動を計測した.〔結果〕全条件で両側運動前野が,条件②のみ補足運動野が活動していた.〔結語〕Self-Touchによる身体所有感の錯覚の惹起には補足運動野の活動が関与している.
著者
松尾 篤 冷水 誠 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.138-139, 2011
参考文献数
3

我々は,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が,健常者の上肢の運動機能を向上させるかどうかを検証した。健常若年者20名(平均年齢21.5 ± 1.2歳,男性16名,女性4名)を対象者とし,研究デザインはシングルブラインドクロスオーバーコントロール研究とした。tDCS刺激条件は,陽極tDCS条件と偽性tDCS条件とし,陽極を右運動関連領域(C4)に設置し,1 mAで20分間の刺激を実施した。測定アウトカムは,左上肢での円描画課題による軌跡長とはみ出し面積,左手握力とした。陽極tDCS後に円描画課題のはみ出し面積に有意な減少効果を認めた。他の測定項目,および偽性tDCS条件においては有意な変化を認めなかった。本結果より,陽極tDCSが健常者の非利き手での運動の巧緻性を変化させることが示唆され,tDCSによる運動関連領野の興奮性増大が関係したことが推察された。
著者
今井 亮太 中野 英樹 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.401-405, 2012 (Released:2012-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
3

〔目的〕本研究の目的は,物体の視覚的提示に伴う腱振動刺激による運動錯覚時の脳活動を明らかにすることとした.〔対象〕振動刺激によって錯覚を経験した際の錯覚強度が4以上であった11名を対象者とした.〔方法〕以下の3条件にて手関節総指伸筋腱を振動刺激した.条件1:物体提示なし.条件2:手関節を掌屈すれば物体に接触する距離に物体を提示.条件3:手関節を掌屈しても物体に接触しない距離に物体を提示.脳活動は,機能的近赤外分光装置を用いて測定した.〔結果〕条件1と条件3に比べ,条件2において右運動前野,右感覚運動野,右頭頂領域にoxy-Hbの有意な増加が認められた.〔結語〕物体の提示位置が異なることにより,運動錯覚時の脳活動が変化することが示唆された.
著者
湯田 智久 大住 倫弘 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1328, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Complex regional pain syndrome(CRPS)患者や脳卒中患者の障害側上肢には浮腫が生じ,浮腫は関節可動域制限や疼痛と関連することが報告されている(Shimada 1994,Isaksson 2014)。浮腫の原因は自律神経障害や静脈欝血とされることが多いが,明確な成因や治療手段は明らかにされていない。Moseley(2008)は,身体所有感が浮腫に関連することを示唆しているが,これらの関連は調査されていない。そこで本研究では,身体所有感の生起プロセスの調査を行う実験手法とされているラバーハンド錯覚(Rubber Hand Illusion:RHI)を用いて,身体所有感の変化が手容積に与える影響について調査することを目的とした。【方法】対象はRHIが未経験の健常成人21名(男性12名,女性9名,平均年齢26±3.85歳)とした。RHIとは隠された本物の手と偽物の手(Rubber Hand:RH)が同時に刺激されると,RHが自己の手のように感じる身体所有感の錯覚現象である。今回は2分間(1Hzの速度)絵筆による触刺激を隠された本物の左手とRHに同時に与える同期条件,交互に刺激を与える非同期条件,RHのみに刺激を与える視覚条件の3条件(各7名)に振り分けた。手容積の測定は,RHI前後で手容積計を用いて行った。客観的な錯覚の評価として,Skin Conductance Response(SCR)と脳波を測定した。SCRはProcomp2(ソートテクノロジー社)を用い,右第2,3指に貼付した電極間の電位差を測定し,RHI後にRHへ針刺激を与える場面を見せ,その直後から5秒間のSCRの最大振幅とした。SCRの振幅が大きい程RHへの錯覚が強く,身体所有感が低下していることを表している(Armel 2003)。脳波は高機能デジタル脳波計Active two system(Bio semi社)を用い,拡張10-20法に準じた電極配置による64電極にて安静座位,RHI時の60秒間を測定した。解析対象chはC3,C4とし,RHI時のα帯の平均パワー値を安静時のα帯の平均パワー値で除し,そのLog値をα帯の変化量とした。なお,Log比が負の値である程身体所有感の低下を表している(Evans 2013)。また,自律神経活動の変化の指標としてRHI前後で皮膚温,情動喚起の指標としてRHI後に不快情動の測定も行った。皮膚温はProcomp2(ソートテクノロジー社)を用いて,左第2指掌側で30秒間5set計測し,その平均値とした。不快情動はNumeral Rating Scaleを用いて測定した。統計解析は,各パラメータの条件比較を一元配置分散分析(多重比較検定法Bonferroni法)を用いて行った。また,手容積変化率との関連要因を検討するために,全被験者の各項目間の相関分析をPerson積率相関係数にて求めた。その後手容積変化率を目的変数に,C4Log比,SCR,皮膚温変化量,不快情動を説明変数として重回帰分析(変数増減法)を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】手容積は条件内比較で有意差を認めなかった。手容積の変化率(%)は同期条件で0.31±1.41,非同期条件で-0.42±1.66,視覚条件で0.6±0.6であり,条件間においても有意差を認めなかった。SCR,C3Log比,C4Log比は条件間で有意な差を認めなかったが,同期条件のSCRで最も高値を示した。相関分析において,手容積変化率は皮膚温変化量(r=.44,p<.05),不快情動(r=.55,p<.01),C4Log比(r=.5,p<.05)と正の相関を認めた。また,皮膚温変化量はC4Log比と正の相関(r=-.44,p<.05),SCRと負の相関(r=-.53,p<.05)を認め,C4Log比は不快情動と正の相関(ρ=.61,p<.01),SCRと負の相関(r=-.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果では,不快情動(標準偏回帰係数:0.47,p<.05)が抽出された。【考察】SCR,脳波で条件間の差を認めなかった。Honma(2009)らは本研究の視覚条件と同様の条件にて身体所有感の錯覚が生じることを報告しており,本研究では同期条件以外の被験者でも錯覚が生じていたことが考えられる。これらは手容積変化率で条件間の差を認めなかった要因として考えられる。しかし,相関分析でC4Log比と手容積の間に関連を認めていることから,本結果はRHIの実施方法の差異ではなく,身体所有感の低下が手容積の減少に関連することを示している。また,C4Log比と不快情動に相関を認め,重回帰分析で不快情動が抽出されたことは,身体の錯覚に関連した不快情動の喚起は手容積の増大に影響することを示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,浮腫の発生要因として末梢の影響以外にも,自己の手に対する知覚的側面や情動的側面が影響することを示唆しており,浮腫に対する理学療法介入の一助になると考える。
著者
米元 佑太 信迫 悟志 兒玉 隆之 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0428, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 身体に対して加わる外乱の予測が行われている際に,外乱後の姿勢を安定させるためにそれに先行する筋活動が生じる.これを予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments:APAs)と呼び,APAs時における筋活動や重心動揺の変化についてはこれまで明らかにされている.誘発電位を用いたJacobsらの研究(2008)によると,外乱前の皮質活動がAPAsには必要であることが示されている.一方,機能的近赤外分光法を用いた研究(Mihara et al 2008)では,前頭前野,補足運動野(SMA),右後頭頂葉がAPAsに関与していると示された.しかし,これらの機器では外乱に対する脳活動の時間関係と活動部位を同時に同定することは難しい.そこで本研究は,この問題を解決できる多チャンネル脳波計を用い,身体外から加わる外乱の予測の有無が脳活動に与える影響について検討することを目的とした.【方法】 対象者は同意を得た右利き健常大学生男女10名(21.1±1.8歳).身体への外乱は,先端に1.34kgの重りを付加した振り子によって肩の高さまで挙上した手掌面に加えた(Santos et al 2010).開眼で外乱を加えた場合を視覚的予測あり条件,閉眼で外乱を加えた場合を視覚的予測なし条件とし,両条件で外乱を100回加えた.またコントロール条件として開眼,閉眼それぞれの立位も2分間設定した.高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用い課題中の脳活動を計測した.データ処理にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用し,0.1Hz-100Hzの帯域パスフィルターをかけ,瞬目によるアーチファクトを除去した.身体に外乱が加わった時点をトリガーとし,視覚的予測あり条件,視覚的予測なし条件それぞれに対し外乱前800msの範囲で加算平均を行った.その後sLORETA解析を用い,視覚的予測あり条件と開眼立位、視覚的予測なし条件と閉眼立位の脳活動の差を統計処理した.有意水準は5%未満とした.また,今回用いた外乱方法を採用している先行研究(Santos et al 2010)において,APAsによる最初の筋活動が外乱の220ms前であったことから,視覚的予測あり条件ではこの区間より以前にAPAsに関連する皮質活動があると考え解析を行った.これに加えてmicrostate segmentationとGlobal Field Powerを用いて解析区間を決定した.【説明と同意】 課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し,同意を得た.【結果】 視覚的予測あり条件では,外乱前700msec~300msecの区間に持続的な背外側前頭前野(DLPFC),右後頭頂葉,眼窩前頭皮質,前帯状回の有意な活動を認めた(p<0.01)。また,これらの区間では持続的ではないものの運動前野(PMC),一次体性感覚野,前頭眼野にも有意な活動を認めた(p<0.01).一方,視覚的予測なし条件では解析を行った全ての区間でSMA,前帯状回,一次運動野(M1)に有意な活動が認められた(p<0.01)。【考察】 視覚的予測あり条件において持続的なDLPFCの活動が認められたことは、DLPFCが注意の分配に働くこと,そしてその能力が姿勢制御に関わることが関係していると考えられる。一方,右後頭頂葉は感覚野と視覚野からの情報を統合し,自己の身体図式の生成に関与することや,視空間的注意の配分や持続に関わることが知られており,今回の活動もこれらが反映している可能性が示唆された.また,PMCは外発的な運動プログラミングに関わっており,視覚座標系での認知後,自己の身体図式を用い,運動プログラムの修正に関与したと考えられる.さらに前帯状回は課題の遂行機能制御とその注意の制御に関与し,眼窩前頭皮質は多様な入力情報と出力情報を統合する高次機能を担うことから,これら両者の関わりによって,予測的姿勢制御における注意や行動の制御に働いたと考える.一方,視覚的予測なし条件で活動したSMAは先行研究においてAPAsに重要であると述べられているが,SMAは内発的な運動プログラミングを行う領域でもある.先のPMCとの働きの違いは外乱の提示方法の変化によって生じたと考えられる.視覚的予測なし条件においても研究の性質上外乱が加わることは予測されていたため,記憶を用いて内発的に運動をプログラミングし,運動準備していたことが想定される.M1の活動増加はこの運動準備のための活動であると推察される。これらの結果からAPAsは予期的な反応だけでなく,状況に応じた注意の持続や配分,感覚情報の統合,運動プログラムの修正といった皮質機能が必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 セラピストはAPAsの異常に対し,治療的介入によって正常な活動を引き出そうとしている.本結果はAPAsには皮質機能が関与していることを明らかにしたものであり,これら領域を効果的に活性化させることが姿勢制御を向上させる手続きになることを示唆した.
著者
宮脇 裕 村井 昭彦 大谷 武史 森岡 周
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.50-55, 2022 (Released:2022-10-17)
参考文献数
25

運動主体感(Sense of agency)とは,自分が自分の運動を制御しているという感覚を指す。この感覚は,運動の感覚フィードバックに対しフィードバック制御を駆動する役割をもち,感覚入力と運動出力を紐付けるMediator の役割を担っていると考えられている。運動主体感の誘起には,運動に伴う内的予測などを含む感覚運動手がかりと,運動に直接関連しない知識や信念などの認知的手がかりが関与する。手がかり統合理論によると,状況に応じたこれら手がかりの信頼性に基づき,運動主体感への貢献度を決める重み付けが変化する。この理論に基づき,我々は運動制御時に感覚運動手がかりと認知的手がかりがどのように利用され運動主体感が導かれるのか,その重み付け変化(i.e., 手がかり統合戦略)の実態について検証を進めてきた。これらの研究成果を中心に,本稿では,運動主体感について運動制御との関係性を概観し,手がかり統合理論の観点からそのメカニズムを議論する。