著者
渕上 健 松尾 篤 越本 浩章 河口 紗織 北裏 真己 松井 有史 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.251-256, 2015 (Released:2015-06-24)
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

〔目的〕慢性期脳卒中片麻痺患者の下肢機能に対する運動観察治療の効果を検証すること.〔対象〕慢性期脳卒中片麻痺患者21名とした.〔方法〕参加者を運動観察治療群と対照群に分けた.運動観察治療群は他者が前方またぎおよび側方またぎ動作を施行している映像を各5分間観察した後,同様の身体練習を各5分間実施した.対照群はまたぎ動作の身体練習のみを行った.アウトカムは前方および側方またぎ動作の成功回数,functional reach test,four square step testとし,介入前後および介入1ヵ月後に抽出した.〔結果〕群間比較において,functional reach testに交互作用が認められた.また,運動観察治療群において,前方またぎ動作の成功回数,functional reach test,four square step testが有意に向上し,介入1ヵ月後まで持続した.また,効果量についてすべての項目で運動観察治療群が対照群を上回っていた.〔結語〕慢性期脳卒中片麻痺患者に対する運動観察治療は,身体練習のみに比較して下肢パフォーマンスを有意に改善させる.
著者
山田 実 樋口 貴広 森岡 周
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C1O2012-C1O2012, 2009

【目的】<BR> 肩関節周囲炎のような運動器疾患患者の多くは、疼痛や関節可動行制限によって、自ら患側肢の能動的な運動を制限してしまう(学習された不使用).このことが、関節可動域改善の妨害因子となることは明らかであり、何らかの対応が求められる.一方、運動イメージを簡便に想起させる手段の一つに、身体部位のメンタルローテーションを用いる方法があり、CRPSのような難知性疼痛患者に対する介入としても臨床応用されている.学習された不使用は、皮質レベルでの機能変化であるため、CRPS患者と同様に、その他の運動器疾患患者においても、メンタルローテーションを用いた介入が有用である可能性がある.そこで本研究では、学習された不使用状態にある肩関節周囲炎患者に対するアプローチとして、簡易型メンタルローテーション課題(簡便に運動イメージ想起を行う手段)を考案し、その有用性を検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は、片側罹患の肩関節周囲炎患者40名(年齢; 54.8±10.5歳、日整会肩基準; 64.1±6.3点)であった.なお、明らかな石灰沈着や腱板損傷を認めた場合は除外した.対象者には紙面および口頭にて、研究の説明を行い署名にて同意を得た.対象者は、無作為に介入群20名と対照群20名に分けられた.介入期間は1ヶ月であり、両群ともに、標準的リハビリテーションを週に2~3回の頻度で行った.加えて介入群には、簡易型メンタルローテーション課題が課された.この課題は、回転(0°、90°、-90°、180°)してある左右側それぞれの上肢および手の写真をみて、それが右手なのか左手なのかを回答するものである.120枚の写真(上肢、手)を入れた、はがき用のクリアファイルを用いて、毎日15分程度、1ヶ月間行うよう指導した.1ヶ月間の介入前後には、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度を測定し、アウトカムとした.統計解析には、二元配置分散分析およびpost hoc testを用い、介入効果の検証を行った.<BR>【結果および考察】<BR> 介入前のベースラインの比較では、年齢、発症より介入開始までに要した期間、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度の全てで有意な群間差を認めなかった(p>0.05).二元配置分散分析の結果、日整会肩基準、屈曲角度、外転角度、1st外旋角度の全てで交互作用を認め、介入群で有意な改善を認めた(p<0.05).なお両群ともに、すべての指標の介入前後で有意な改善を示していた(p<0.05).これらのことより、標準的リハビリテーションだけでも肩関節機能の改善は期待できるが、加えて、簡易型メンタルローテーション課題を用いたトレーニングを行うことで、より機能改善に有用であることが示唆された.<BR>【結語】<BR> 肩関節周囲炎患者において、簡易型メンタルローテーション介入を行うことは、機能改善に有用である.
著者
森岡 周
出版者
日本認知運動療法研究会
雑誌
認知運動療法研究 (ISSN:13473433)
巻号頁・発行日
no.1, pp.83-97, 2001
著者
岡本 茉莉 大住 倫弘 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0220, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに・目的】理学療法およびその教育を成功に導くためには,対象者間での信頼関係の構築が重要である。この信頼関係には非言語コミュニケーションが重要と報告されている(Scharlemann 2001)。一方,表情と言語に矛盾が生じた場合,信頼を失うことが報告されている(大薗2010)。このような言語と表情に矛盾が生じた場合の脳活動の変化について未だ明らかにされていない。そこで本研究は,言語と表情に矛盾が生じた時の他者信頼度ならびに脳活動変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常大学生14名(21.7±0.8歳)とした。課題には8名の大学生(男性4名,女性4名)の笑顔(以下,笑),嫌悪(以下,嫌)の表情の写真を使用した。言語については,50種類の文章からVAS(Visual Analogue Scale)にて正,負が上位の各2つを予備実験から選択し使用した。具体的には「火事から子供を救う」「友人との約束を守る」を正,「友人を車でひき殺す」「友人をいじめる」を負とした。一試行は[言語:正/負]×[表情:笑/嫌]を組み合わせ,4種類の呈示画像を作成し,ランダムに計80回PCディスプレイ上に呈示した。先に言語のみ5秒間,その後言語と写真を同時に2秒間呈示した。信頼度指標には寄付行為における意思決定項目を設定した。これは手元に1万円あると仮定し,呈示された写真の人物が金銭的に困っている場合,いくら提供できるか回答させる課題である(以下,提供額)。また,事後質問紙として呈示された者の印象を快・不快,信頼度をVASにて被験者に回答させた。脳活動測定には脳波計(Biosemi社)を用いた。写真提示後から170~240ms間に出現する波形成分を加算平均し事象関連電位を得た。この事象関連電位データを用いた三次元画像表示法(LORETA)解析により賦活領域の同定を行った。VAS(快・不快,信頼度)および提供額の分析には,一元配置分散分析,多重比較試験(Tukey)を用いた。快・不快-信頼度,信頼度-提供額の相関は,ピアソン相関係数を用いて解析した。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学研究倫理委員会の許可を得たうえで実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し同意を得た。【結果】VASの結果において,快・不快,信頼度のどちらにおいても,[正×笑]に比べ,その他の組み合わせで有意な低値を示した。また全てにおいて快・不快と信頼度の間に有意な正の相関がみられた。提供額の結果は,[正×笑]に比べ,言語と表情が不一致のものが有意に低値を示した。また信頼度と提供額において,[正×笑]のみ有意な正の相関がみられた。脳活動の結果では,[負×嫌]と比較し,[負×笑]と[正×嫌]において前頭前野,頭頂葉の有意な賦活がみられた。また,[正×笑]に対し,[負×笑]で前頭前野に有意な賦活を認めた。矛盾条件同士においては,[正×嫌]に対して[負×笑]では左内側前頭前野の有意な賦活を認めた。【考察】言語と表情に矛盾がある場合,頭頂葉の有意な活動がみられた。これは頭頂葉が感覚情報の不一致に対して働くという報告や,メンタライジング機能に関与するという報告から,言語と表情の不一致情報に対する活動,他者の心を読み取るネットワークとして働いた結果と考えられた。[負×笑]は快・不快,信頼度,提供額で最も低値を示し,脳活動においても前頭前野に有意な活動を認めた。[負×笑]は,言語が負にも関わらず表情が正のため矛盾が生じる。したがって,「反省」の意思がないと判断し,それに対して道徳的判断に関わる内側前頭前野の活動がみられたと考えられた。言語と表情に矛盾がある[正×嫌]と[負×笑]について,どちらも快・不快,信頼度,提供額の全項目で低値を示したが,[負×笑]は[正×嫌]よりも低値を示す結果となった。また,[正×嫌]に比べ[負×笑]では左内側前頭前野に有意な活動を認めた。以上の結果から,[負×笑]は[正×嫌]と異なり,同じ矛盾であっても負の言語後に正の表情が付与される特徴をもった脳活動と考えられる。左内側前頭前野は負に思考すると賦活するとの見解から,[負×笑]における不快感を示す脳活動と考える。【理学療法における意義】本研究では,相手から表出される言語と表情の矛盾が引き起こす心理的変化および脳活動の変化を明らかにした。これは理学療法やその教育を実践する中でのコミュニケーションのあり方を示唆するものである。
著者
大住 倫弘 信迫 悟志 嶋田 総太郎 森岡 周
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.30-39, 2019-03-01 (Released:2019-09-01)
参考文献数
31

Severe pain/pain-related fear prevent improvement of motor function, hence rehabilitation for pain is one of most important matter in clinical practice. Recent studies revealed that pain perception was modulated with multi-modality (e.g. visual information, auditory information). Seeing own body which projected on the mirror or virtual space reportedly attenuate pain perception, such attenuate effect was called “Visually induced analgesia”. Additionally, seeing size/color manipulated own body reportedly attenuated pain perception much further. However, we reported seeing rubber hand which appearance was manipulated to elicit participants negative emotion. We conducted such rubber hand illusion paradigm using “injured rubber hand” to evoke unpleasantness associated with pain, a “hairy rubber hand” to evoke unpleasantness associated with embarrassment, and a “twisted rubber hand” to evoke unpleasantness associated with deviation from the concept of normality. The pain threshold was lower under the “injured rubber hand” condition than with the other condition. Such modulation of pain perception could not be adequately interpreted as cross-modal shaping pain. Therefore, we thought again about “cross-modal shaping pain” in the perspective from projection science, hence then proposed new pain rehabilitation model in the review article. We particularly focused on the process of back-projection which has potential to improve pain-related negative emotion and distorted body image. The proposed rehabilitation model would be an opportunity for future interdisciplinary approaches.
著者
浅野 大喜 福澤 友輝 此上 剛健 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1002, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】何らかの障がいを抱える子どもの親は,育児に対するストレスが高く,それが養育態度に影響することが知られている(眞野ら,2007)。また親の養育態度は子どもの行動にも影響を与える(Williams, et al., 2009;Rinaldi, et al., 2012)。本研究の目的は,身体および知的障がい児の母親の養育態度について調査し,定型発達児の母親の養育態度と比較すること,また母親の養育態度と障がいをもつ子どもの問題行動との関係について調べることである。【方法】対象は,身体障がい児や知的障がい児をもつ母親32名(以下,障がい群)と定型発達児の母親48名(以下,定型発達群)の計80名である。除外基準は子どもが3歳未満の場合,子どもの移動能力が屋内自力移動困難な場合とした。養育態度の評価は,Robinsonら(1995)の養育スタイル尺度をもとに中道・中澤(2003)によって作成された16項目(“応答性”の養育態度8項目,“統制”の養育態度8項目)を使用し,5段階のリッカート尺度で母親に回答を求めた。得られた結果に対して確証的因子分析を行い,“応答性”4項目,“統制”4項目が抽出されたため,それらの平均値をそれぞれの養育態度の指標とし,2群間で比較した。また,障がい児の問題行動を調べるために,子どもの行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)を用いて母親に評価の遂行を要求し,得られたものから内向尺度(内在化行動),外向尺度(外在化行動),総合点のT得点を算出した。そして,子どもの問題行動と母親の養育態度,子どもの年齢との関係について調べるため,問題行動を目的変数,子どもの年齢と母親の応答性,統制の各養育態度を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】両群の子どもの年齢,男女比,第一子の割合に有意な違いはなかった。母親の養育態度の比較では,応答性の養育態度に2群間で違いはなかったが,統制の養育態度は障がい群が定型発達群よりも有意に低かった(p<0.01)。重回帰分析の結果,子どもの問題行動全体と有意に関連する因子として統制の養育態度が抽出された(β=-0.40)。また内在化問題行動については,年齢のみが有意な説明変数として抽出された(β=0.37)。【結論】障がい児の母親は統制の養育態度が定型発達児の母親よりも低かった。子どもの問題行動については,年齢とともに内在化問題行動が高くなる傾向があったが,問題行動全体としては母親の統制の養育態度が高いほど子どもの問題行動が少ない傾向が明らかとなった。
著者
大植 賢治 富永 孝紀 市村 幸盛 河野 正志 谷口 博 森岡 周 村田 高穂
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.109-114, 2010 (Released:2010-03-26)
参考文献数
19

〔目的〕本研究では,言語教示によって対象者の能動的注意を自己の身体内部および外部に向けさせて,運動を認識している際の脳活動の違いを明らかにすることを目的とした。〔対象〕右利き健常成人8名とした。〔方法〕機能的近赤外分光装置(fNIRS)を用いて検証した。〔結果〕能動的注意を右手で自己の身体内部へ向けた場合では,右半球前頭前野と右頭頂領域で,左手で身体外部へ向けた場合では,左半球前頭前野と左頭頂領域で酸素化ヘモグロビンの有意な増加を認めた。〔結語〕今回の結果から,運動を認識する際の運動と同側大脳半球の左右大脳半球の機能分化として,能動的注意が右手で身体内部に向かう場合は右半球前頭-頭頂領域が,左手で身体外部に向かう場合は左半球前頭-頭頂領域が担うといった側性化が存在することが示唆された。
著者
冷水 誠 笠原 伸幸 中原 栄二 中谷 仁美 西田 真美 望月 弘己 松尾 篤 森岡 周 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0075, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】脳卒中片麻痺患者(CVA患者)の転倒要因は様々であるが、その一つに注意能力が挙げられる。その中でも、歩行中出現する課題への注意分配能力の影響が報告されている(Hyndmann.2003)。この注意分配能力による転倒予測法として、Olssonら(1997)による“Stops Walking When Talking test”(SWWT test)がある。これは、歩行中会話などの認知課題により、歩行を中止するかを評価するものである。このSWWT testはバランス機能と関連があると報告されているが、注意能力とは不明である。CVA患者では、動作時と机上テストでの注意能力の違いをよく経験するため、SWWT testによる注意分配能力と机上テストでの注意分配能力の違いが予想される。この違いを捉えることは、SWWT testの適応患者を明確にできると考えられる。そこで本研究は,CVA患者を対象として、SWWT testの結果が、注意分配能力の机上テストであるTrail Making Test part B(TMT-B)の成績に差があるかを検証することを目的とした。【方法】対象は高次脳機能障害を有しない独歩可能なCVA患者20名(男12名、女8名、平均年齢63.8歳、右麻痺11名、左麻痺9名、平均発症期間3年3ヶ月)とした。SWWT testは、対象者に自由速度にて歩行してもらい、歩行開始から約5m付近にて同伴した検者が認知課題として年齢を尋ねた。この時、対象者が歩行を中止するかを記録した。なお、測定前に、対象者には歩行および質問への返答に対する指示は行わなかった。机上での注意能力の評価には、用紙上にある数字と平仮名を交互に結ぶテストであるTMT-Bを使用した。TMT-Bは5分を最大とした実施時間とエラー数を記録した。SWWT testにて歩行を中止した群(中止群)と継続した群(継続群)、TMT-B実施時間が5分以内と5分以上に分類し、2×2のクロス表を作成した。統計学的分析にはFisherの直接確率法を用い、TMT-B実施時間5分以内と5分以上によって中止群と継続群に差があるかを検証した。なお、有意水準は5%未満とした。【結果】SWWT testにて中止群は3名であり、うち2名がTMT-B実施時間5分以上、1名が5分以内であった。継続群は17名であり、うち6名がTMT-B実施時間5分以上、11名が5分以内であった。Fisherの直接確率法の結果、TMT-B実施時間5分以内と5分以上によって中止群と継続群間に有意差が認められなかった(p=0.536)。TMT-Bエラー数は中止群と継続群にて明確な違いは見られなかった。【考察】慢性期CVA患者において、SWWT test陽性には、机上での注意分配能力の評価であるTMT-Bの実施時間の延長およびエラー数の増大が影響していないことが明らかになった。このことから、SWWT test はTMT-Bの机上評価成績に関わらず、多くの慢性期CVA患者を対象とすべきテストであることが示唆された。しかし今回は、SWWT testの課題が年齢を問う容易な課題であったことが影響した可能性があり、今後は課題の特異性等を検証する必要がある。
著者
楠元 史 今井 亮太 兒玉 隆之 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.479-483, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

〔目的〕本研究は,メンタルローテーション課題時における脳神経活動領域の経時的変化を脳波解析により明らかにし,反応時間との関連性を検討した.〔対象〕右利き健常大学生15名.〔方法〕課題として,1試行計48枚の手画像をランダムに呈示した.脳活動は高機能デジタル脳波計を用いて記録計測した.対象者を反応時間の速い群,中間群,遅い群に分け,そのうち,速い群と遅い群の比較を行った.〔結果〕反応時間の速い群では後頭葉・側頭葉・前頭葉の順で,遅い群では後頭葉・頭頂葉・前頭葉の順に脳活動が認められた.〔結語〕メンタルローテーション課題において,運動学習に関与する脳領域を活性化させるためには,対象者に心的回転を行う時間的余裕を与え,呈示された画像を自己の身体として捉えることが大切ではないかと示唆された.
著者
米元 佑太 信迫 悟志 兒玉 隆之 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0428, 2012

【目的】 身体に対して加わる外乱の予測が行われている際に,外乱後の姿勢を安定させるためにそれに先行する筋活動が生じる.これを予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments:APAs)と呼び,APAs時における筋活動や重心動揺の変化についてはこれまで明らかにされている.誘発電位を用いたJacobsらの研究(2008)によると,外乱前の皮質活動がAPAsには必要であることが示されている.一方,機能的近赤外分光法を用いた研究(Mihara et al 2008)では,前頭前野,補足運動野(SMA),右後頭頂葉がAPAsに関与していると示された.しかし,これらの機器では外乱に対する脳活動の時間関係と活動部位を同時に同定することは難しい.そこで本研究は,この問題を解決できる多チャンネル脳波計を用い,身体外から加わる外乱の予測の有無が脳活動に与える影響について検討することを目的とした.【方法】 対象者は同意を得た右利き健常大学生男女10名(21.1±1.8歳).身体への外乱は,先端に1.34kgの重りを付加した振り子によって肩の高さまで挙上した手掌面に加えた(Santos et al 2010).開眼で外乱を加えた場合を視覚的予測あり条件,閉眼で外乱を加えた場合を視覚的予測なし条件とし,両条件で外乱を100回加えた.またコントロール条件として開眼,閉眼それぞれの立位も2分間設定した.高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用い課題中の脳活動を計測した.データ処理にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用し,0.1Hz-100Hzの帯域パスフィルターをかけ,瞬目によるアーチファクトを除去した.身体に外乱が加わった時点をトリガーとし,視覚的予測あり条件,視覚的予測なし条件それぞれに対し外乱前800msの範囲で加算平均を行った.その後sLORETA解析を用い,視覚的予測あり条件と開眼立位、視覚的予測なし条件と閉眼立位の脳活動の差を統計処理した.有意水準は5%未満とした.また,今回用いた外乱方法を採用している先行研究(Santos et al 2010)において,APAsによる最初の筋活動が外乱の220ms前であったことから,視覚的予測あり条件ではこの区間より以前にAPAsに関連する皮質活動があると考え解析を行った.これに加えてmicrostate segmentationとGlobal Field Powerを用いて解析区間を決定した.【説明と同意】 課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し,同意を得た.【結果】 視覚的予測あり条件では,外乱前700msec~300msecの区間に持続的な背外側前頭前野(DLPFC),右後頭頂葉,眼窩前頭皮質,前帯状回の有意な活動を認めた(p<0.01)。また,これらの区間では持続的ではないものの運動前野(PMC),一次体性感覚野,前頭眼野にも有意な活動を認めた(p<0.01).一方,視覚的予測なし条件では解析を行った全ての区間でSMA,前帯状回,一次運動野(M1)に有意な活動が認められた(p<0.01)。【考察】 視覚的予測あり条件において持続的なDLPFCの活動が認められたことは、DLPFCが注意の分配に働くこと,そしてその能力が姿勢制御に関わることが関係していると考えられる。一方,右後頭頂葉は感覚野と視覚野からの情報を統合し,自己の身体図式の生成に関与することや,視空間的注意の配分や持続に関わることが知られており,今回の活動もこれらが反映している可能性が示唆された.また,PMCは外発的な運動プログラミングに関わっており,視覚座標系での認知後,自己の身体図式を用い,運動プログラムの修正に関与したと考えられる.さらに前帯状回は課題の遂行機能制御とその注意の制御に関与し,眼窩前頭皮質は多様な入力情報と出力情報を統合する高次機能を担うことから,これら両者の関わりによって,予測的姿勢制御における注意や行動の制御に働いたと考える.一方,視覚的予測なし条件で活動したSMAは先行研究においてAPAsに重要であると述べられているが,SMAは内発的な運動プログラミングを行う領域でもある.先のPMCとの働きの違いは外乱の提示方法の変化によって生じたと考えられる.視覚的予測なし条件においても研究の性質上外乱が加わることは予測されていたため,記憶を用いて内発的に運動をプログラミングし,運動準備していたことが想定される.M1の活動増加はこの運動準備のための活動であると推察される。これらの結果からAPAsは予期的な反応だけでなく,状況に応じた注意の持続や配分,感覚情報の統合,運動プログラムの修正といった皮質機能が必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 セラピストはAPAsの異常に対し,治療的介入によって正常な活動を引き出そうとしている.本結果はAPAsには皮質機能が関与していることを明らかにしたものであり,これら領域を効果的に活性化させることが姿勢制御を向上させる手続きになることを示唆した.
著者
赤口 諒 川崎 有可 大住 倫弘 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0348, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】近年,慢性痛患者の中で痛みが強い者は,不公平をより強く感じている報告されており,その不公平感は痛みの破局的思考,抑うつの程度とも関連があるとされている(Scott, 2012)。不公平感は社会において自己が他者と公平でない場合に抱く感情である。このことから痛みを有する患者は他者と比較することで不安が高まる場合,痛みの感受性に影響を与えると考えられる。一方で,他者との比較で起こる情動には妬みがある。妬みとは他者が自己よりも優れた物や特性を有する場合に起こる情動であり,それが自己に焦点されると劣等感,他者に焦点されると敵対心を伴うとされている(Smith, 2007)。そこで,本研究は妬みの情動経験が痛みの主観的強度に与える影響を明らかにすることに加え,妬み情動の中の劣等感と敵対心のうちのどちらが痛みに影響を与えるかを明らかにする。【方法】対象は健常大学生20名(Affect群14名,Control群6名)とした。心理学的評価としてState-Trait Anxiety Inventory(以下STAI)を用いて状態・特性不安の評価を行った。実験は,①痛み刺激,②課題(Affect群:情動刺激,Control群:シャム刺激),③痛み刺激の手順で行った。痛み刺激には熱刺激装置PAIN THERMOMETER(ユニークメディカル社制)を用いた。刺激部位は非利き手の前腕とした。また,実験中の痛みの慣れの要素を除外するため,実験前に47-49℃の刺激をランダムに10施行(60秒インターバル)行った。痛み刺激の評価はVisual Analog Scale(以下VAS)を用いて行った。情動刺激には被験者本人が主人公となるように設定されているシナリオ課題を作成した。これは会社員の主人公が重大な企画を任されることとなっていたが,不運にも交通事故に遭い,ライバルに手柄をすべて奪われることで妬み情動を抱かせる内容となっている(スライド枚数約130枚,所要時間約7分)。情動刺激の評価には妬みだけでなく,妬みの要因である劣等感,敵対心の情動喚起量をVASにより行った。シャム刺激には世界格国の国旗を説明したスライドを作成した(スライド枚数約20枚,所要時間約7分)。統計解析は課題前後の痛みの主観的強度の比較において対応のあるt検定を用いた。情動喚起量と痛みの主観的強度の相関関係にはピアソンの相関係数を用いた。また,劣等感が高い群(評価結果が中央値以上の者)におけるSTAIと課題後の痛み増加量の相関関係にはピアソンの相関係数を用いた。なお,有意水準は5%とした。【結果】課題前後の痛み主観的強度の比較において,Affect群において有意な痛みの増加を認めた(p<0.01)がControl群では認められなかった。情動喚起量(妬み,劣等感,敵対心)と痛み主観的強度の相関関係は,敵対心のみ課題前の痛み主観的強度(r=0.543,p<0.05),課題後の痛み主観的強度(r=0.594,p<0.05)と正の相関関係が認められた。また,劣等感が高い群において,STAI1(状態不安)と痛みの増加量の間にのみ正の相関関係が認められた(r=0.829,p<0.05)。【考察】課題前後の痛みの比較では,Affect群にのみ有意な痛みの増加が認められたことから,妬みが痛みの主観的強度に影響を与えることが示唆された。一方で,情動評価における敵対心が課題前後それぞれの痛み評価と正の相関関係が認められた。つまり,自分よりも優れた他者と比較した際,敵対心を抱きやすい個人特性が痛みの感受性に影響を与えていると考えられる。また,劣等感が高い群において,STAI1と痛みの増加量に正の相関を認めた。これは自分よりも優れた他者と比較した際,劣等感を抱いた場合は,不安の程度に伴って痛みの増加量が変化することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】理学療法における痛みの評価は感覚的側面のものだけでなく,情動的側面,認知的側面も一般化され始めている。本研究の結果から妬みの情動経験が痛みの主観的強度を増強させることが示唆され,劣等感を抱いた場合,不安の程度に応じて痛みの感受性が変化することが示唆された。さらに先行研究から痛みが原因で不公平感を強く訴える者程,痛みの破局的思考に陥りやすく,抑うつ傾向になるという報告がある(Scott, 2012)。このことも踏まえると,痛みを有する患者の評価には他者との関わり方のパーソナリティを評価する必要がある。つまり,患者特有のパーソナリティを多面的に評価し,理解することが適切な心理的アプローチを可能にし,痛みの慢性化を未然に防ぐことにつながる可能性を本実験で示すこととなった。
著者
前岡 浩 松尾 篤 冷水 誠 岡田 洋平 大住 倫弘 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0395, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】痛みは不快を伴う情動体験であり,感覚的,認知的,情動的側面から構成される。したがって,知覚される痛みは刺激強度だけでなく,不快感などの心理的状態にも大きく影響を受ける。特に,慢性痛では認知的および情動的側面が大きく影響することが報告され(Apkarian, 2011),運動イメージ,ミラーセラピー,バーチャルリアリティなどの治療法が提案されている(Simons 2014, Kortekass 2013)。しかしながら,これらの治療は主に痛みの認知的側面の改善に焦点を当てており,情動的側面からのアプローチは検討が遅れている。そこで今回,痛みの情動的側面からのアプローチを目的に,情動喚起画像を利用した対象者へのアプローチの違いが痛み知覚に与える影響について検証した。【方法】健常大学生30名を対象とし,無作為に10名ずつ3群に割り付けた。痛み刺激部位は左前腕内側部とし,痛み閾値と耐性を熱刺激による痛覚計にて測定し,同部位への痛み刺激強度を痛み閾値に1℃加えた温度とした。情動喚起画像は,痛み刺激部位に近い左前腕で傷口を縫合した画像10枚を使用し,痛み刺激と同時に情動喚起画像を1枚に付き10秒間提示した。その際のアプローチは,加工のない画像観察群(コントロール群),縫合部などの痛み部位が自動的に消去される画像観察群(自動消去群),対象者の右示指で画像内の痛み部位を擦り消去する群(自己消去群)の3条件とした。画像提示中はコントロール群および自動消去群ともに自己消去群と類似の右示指の運動を実施させた。評価項目は,課題実施前後の刺激部位の痛み閾値と耐性を測定し,Visual Analogue Scaleにより情動喚起画像および痛み刺激の強度と不快感,画像提示中の痛み刺激部位の強度と不快感について評価した。統計学的分析は,全ての評価項目について課題前後および課題中の変化率を算出した。そして,課題間での各変化率を一元配置分散分析にて比較し,有意差が認められた場合,Tukey法による多重比較を実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】痛み閾値は,自己消去群が他の2群と比較し有意な増加を示し(p<0.01),痛み耐性は,自己消去群がコントロール群と比較し有意な増加を示した(p<0.05)。また,課題実施前後の痛み刺激に対する不快感では,自己消去群がコントロール群と比較し有意な減少を示した(p<0.05)。【結論】痛み治療の大半は投薬や物理療法など受動的治療である。最近になり,認知行動療法など対象者が能動的に痛み治療に参加する方法が提案されている。本アプローチにおいても,自身の手で「痛み場面」を消去するという積極的行為を実施しており,痛みの情動的側面を操作する治療としての可能性が示唆された。
著者
西 勇樹 大住 倫弘 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0391, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】慢性疼痛患者では交感神経活動の変調が生じやすいことが報告されている。さらに,交感神経活動の変調が生じやすい者は内受容感覚の感受性(以下,IS)が高いことが健常成人を対象にした研究で明らかにされている(Pollatos 2012)。我々も健常成人におけるISと交感神経変動の関係性を追試実験し,先行研究と同様にISが高い者は交感神経変動が生じやすいことを確認した(第51回日本理学療法学術大会)。本研究では,研究対象を慢性疼痛患者とし,慢性疼痛患者における交感神経変動の時間的変化とISの関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は介護老人保健施設利用中の高齢者35名(男性7名,女性28名,平均年齢85.4±6.6歳)である。全被験者を疼痛罹患期間が6ヵ月以上の者を慢性疼痛群(n=21),それ以外の者をコントロール群(n=14)に分けた。ISを定量化するための心拍追跡課題では,一定時間(30,35,40,45s)手がかりなしで自分の心拍数を数える課題を各時間条件1試行ずつ実施した。痛み刺激は圧痛計(デジタルフォースゲージ)を用い,圧痛閾値までの刺激を与え,安静時及び圧痛時の自律神経活動を記録し,ローレンツプロット解析を行い(Toichi 1997),交感神経系指標(以下,CSI)を算出し,安静時・圧痛刺激時・圧痛刺激から1分後のCSI値を記録した。各時間条件におけるCSIを2群間で比較することに加え,各群におけるCSIを各時間条件間で比較した。また,各群におけるCSIの安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関関係を分析した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】2群間比較の結果では,CSI(安静時,圧痛刺激時,一定時間経過後)に群間差を認めなかった。また,コントロール群におけるCSIの時間的変化において,安静時と圧痛刺激時に有意差を認めたが(p<.01),1分後のCSI値には有意差を認めなかった(p=.07)。一方,慢性疼痛群では安静時と比べ,圧痛刺激時のみならず1分後のCSI値にも有意差を認めた(p<.01)。安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関分析では,コントロール群においては有意な相関を認めなかったが(r=.23,p=.42),慢性疼痛群では負の相関が認められた(r=-.46 p<.05)。【結論】慢性疼痛患者において,疼痛刺激による交感神経反応が大きく,その反応が一定時間経過後まで持続することが明らかとなった。さらに,疼痛刺激によって交感神経反応が生じやすい者ほどISが低いことが明らかとなった。これは健常成人における相関関係とは解離する結果であり,疼痛の慢性化に伴ったISの変容が,交感神経反応を生じやすくさせる要因となると示唆された。つまり,内受容感覚は自身の自律神経反応を的確に捉えて,それを制御するプロセスで重要な感覚であることが示唆された。
著者
松尾 篤 吉川 歩実 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】医療者と患者間のコミュニケーションの成功は,最良の理学療法を提供する上で重要な要素であることは言うまでもない。また,チーム医療の実践においても患者やスタッフ間での有機的なコミュニケーションは欠かすことができない。コミュニケーションにおける非言語的要素の例としては表情が挙げられ,臨床場面においても患者の表情から感情を読み取り,他者の心的状態を理解しようとする行為とともに理学療法が実践されている(Roberts L, 2007)。しかしこれまでの研究では,他者の表情から感情理解を行う際の自身の表情について十分に議論されていない。対人コミュニケーションという双方向性の社会的行動という観点から考えると,表情を読み取る側の表情変化にも注目すべきであると考える。また,他者の感情理解の性差に関する報告は存在するが,一定の見解は得られていない。そこで本研究では,理学療法における情意領域の教育にとっても重要な他者の感情を理解する際の自己の表情変化の影響と性差を検討し,また他者意識の高さと感情理解の関係性を検証することを目的とする。【方法】研究参加者は健常大学生99名(男性45名,女性54名,平均年齢21.08±1.1歳)とし,全参加者がアジア版Reading the Mind in the Eyes Test(野村・吉川:2008,以下,RMET)を実施した。RMETでは,ノート型PC画面上に男女様々な目の写真を2秒間提示し,その後画面上に目の写真が表す感情を含んだ4種類のテキストが提示された。参加者は,可能な限り速く,写真が表す感情を示す正解テキストに対応したボタンを押すことで回答した。練習セッションを10画像実施し,その後に36画像の実験セッションを行った。RMETの実施条件として,参加者を以下の3群に割り付けた。模倣群では,提示された目の画像を自身で模倣するよう指示し,模倣しながらRMETを実施した。パック群では,参加者の顔にフェイスパックを設置し,表情を固定した状態でRMETを実施した。コントロール群では,特に事前処置,口答指示を与えずにRMETを実施した。表情筋の活動を捉えるため,筋電図にて皺眉筋の活動をモニターした。アウトカムは,RMET正答率,他者に対する内的・外的意識を質問紙で回答する他者意識尺度とした。統計分析は,RMET正答率の群間・男女比較にMann Whitney test,Kruskal-Wallis testを使用し,RMET正答率と他者意識尺度の関係性にはSpearmanの順位相関係数を使用して分析を実施した。【結果】RMET正答率の群間比較において,男性では模倣群がパック群と比較して有意に高い正答率(P<0.05)であったが,女性では3群間に有意な差を認めなかった。RMET正答率の男女比較では,男性に比べて女性の正答率が有意に高く(P<0.05),また女性は提示画像の性差に関わらず同様の正答率であるのに対して,男性では女性画像提示時よりも男性画像提示時のRMET正答率が有意に高かった(P<0.05)。RMET正答率と他者意識尺度の相関分析では,男性においてのみ有意な正の相関関係を認めた(r=0.3,P<0.05)。【考察】女性は男性よりも他者の感情理解に優れており,男性においてのみ他者の表情を模倣することによって感情理解が促進された。これには脳の機能的性差と性役割や環境要因が関係していると考えられる。女性では,共感に関与する言語関連領域が男性よりも広範囲に存在しており,また子育てなどの共同体中心的な性役割を有していることからも他者理解に優れていると考えられる。一方,男性では狩猟採集民としての男性社会での競争,権力,社会的地位などの性意識や環境要因が強く,他者との共存,あるいは他者,特に女性を理解することに困難を経験すると言われている(Schiffer B, 2013)。しかしながら,他者の表情を模倣することで,他者理解が促進されることから,模倣による脳内の言語関連領域や共感システムの活性化が関与していることが示唆される。理学療法教育の現状では情意面に対する具体的な教育実践が不十分である。今後は,言語・非言語情報を含めた医療コミュニケーションを主軸とした,医療者として患者を理解するという共感的行動を育むような実践的教育が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,他者の感情理解と自己の表情表出の関係性および性差を扱った研究である。理学療法学との関連性は,医療コミュニケーションは理学療法の根幹に位置する重要な要素であり,チーム医療の推進にとっても大切な要因である。本研究の結果が,理学療法の成果を支える対人行動時の共感メカニズム解明の一助を果たした意義は大きいと考える。
著者
山田 実 河内 崇 森岡 周
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.5, 2008

【目的】特定高齢者は、要支援・要介護高齢者の予備群と位置づけされており、これら高齢者の転倒を予防することは介護予防や医療・介護費用の削減に直結する重要な取り組みである。自験例において、特定高齢者の転倒には、探索的行為や注意機能、それに幾多の方向転換などの要素が関与していることを報告した。本研究では、日常生活で不可欠となる極短期的な作業記憶(ワーキングメモリ)の要素を組み入れた複合機能評価によって、特定高齢者における転倒の特性について検討した。<BR>【方法】対象は特定高齢者30名(79.5±6.2歳)とした。対象者が立っている位置より後方2mにホワイトボードを設置し、側方から前方2mにかけて扇状に高さ70cm、幅200cm、奥行き40cmのテーブルを2台設置した。テーブル上には、裏面に磁石のついた15cm×15cmの厚紙に『あ』から『ん』までの平仮名が一文字ずつ書かれた46枚の仮名カードがランダムに配置された。ホワイトボードには3文字(例:らはそ)か4文字(例:こるそや)、もしくは5文字(例:かふろんほ)の意味をなさない文字が書かれてあり、対象者はスタートの合図でホワイトボードの文字を見て、テーブル上にある仮名カードを探索し、拾い集めてホワイトボードに貼り付けることが求められた。検者はスタートの合図より全ての仮名カードを貼り付け終えるまでの時間を計測した。なお、3文字、4文字、5文字は対象者によってくじ引きによってランダムな順序で実施し、1週間の間隔を挟みながら3通りの測定を行った。また、過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群12名、非転倒群18名に分けて統計解析を行った。<BR>【結果】3文字の際には、転倒群32.6±10.7秒、非転倒群29.9±8.5秒で有意な差は認められなかった(p=0.607)。同様に4文字の際にも、転倒群43.7±8.1秒、非転倒群39.8±9.3秒で有意な差は認められなかった(p=282)。しかし5文字の際には、転倒群75.5±12.1秒、非転倒群57.3±11.9秒で有意な差が認められた(p=0.012)。<BR>【考察】3文字及び4文字の場合には群間差は認められなかったが、5文字になると転倒群で有意に時間的延長を認めた。本研究で用いたテストは、仮名カードを探す探索的行為や注意機能、仮名カードを探す為に繰り返し行う方向転換、手を伸ばして仮名カードを採るリーチ動作、そして文字を極短期的に記憶しておくワーキングメモリなど日常生活で欠かすことのできない要素が組み込まれている。5文字の場合でのみ転倒群で有意に延長していたということから、探索的行為や方向転換、リーチ動作などの機能に群間差があるとは考えにくく、ワーキングメモリが転倒に関与していたものと考えられた。<BR>【まとめ】特定高齢者の転倒には、ワーキングメモリ機能低下が関係している可能性が示唆された。
著者
松尾 篤 草場 正彦 進戸 健太郎 冷水 誠 岡田 洋平 森岡 周 関 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3295, 2009

【目的】脳卒中後の運動障害治療として,ミラーセラピーが臨床応用されつつある.この治療は,上下肢の鏡映像錯覚を利用して,運動前野領域を活動させ,患肢の運動イメージ生成を補助する有効な手段とされている(Yavuzer, 2008).我々もミラーセラピーの臨床応用を試み,幾つかの有効性に関する知見を報告してきた.また,最近では運動観察治療も運動障害治療の手段として報告されている.運動観察治療は,他者の意図的行為を観察した後に,自身で身体練習を反復実施する治療であり,脳卒中患者での有効性も報告されている(Ertelt, 2007).今回は,健常者における複雑で精緻な手の運動学習課題を使用して,ミラーセラピーと運動観察治療の効果を明らかにすることを目的とする.<BR>【方法】研究内容を説明し同意を得た右利き健常大学生30名(平均年齢22.5±2.8歳)を対象とし,参加条件としては右手でペン回しが可能なこととした.ペン回しとは,母指,示指と中指を巧緻に操作ながら,把持したペンの重心を弾いて母指を中心に回転させる課題である.本研究では左手でのペン回し課題を運動学習課題とした.30名をランダムに3つのグループに各10名ずつ割り付けた.グループは,ミラーセラピー(MT)群,運動観察(OB)群,身体練習のみ(PP)群とし,MT群とOB群は5分間の身体練習に加えて各介入を実施した.MT群では,作成したミラーボックス内の正中矢状面に鏡を設置し,右手でのペン回し鏡映像が,左手でペン回しを実施しているかのような錯覚を惹起するように設定し,5分間ミラーセラピーを実施した.OB群では,あらかじめ撮影したペン回し映像をPC上で表示し,対象者は安静座位の肢位でこの映像を5分間観察した.PP群では,5分間の左手でのペン回し練習のみとした.介入期間は10分間/日で5日間とし,測定は介入前と介入期間中の計6回実施した.測定アウトカムは,左手でのペン回し成功回数,3軸平均加速度とした.分析には二元配置分散分析を実施し,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】ペン回し成功回数は,介入前と比較して介入1日目から順に5日目まで増加し(P<0.001),グループ間にも主効果を確認した(P<0.001).特に,MT群においてはOB群,PP群に比較して介入1日目の変化率が大きいことが観察された.3軸平均加速度にはグループ間で有意差を認めなかった.<BR>【考察】本研究の結果から,健常者における新規で巧緻な手の運動学習では,ミラーセラピーを身体練習に組み合わせることが,運動観察や身体練習のみの場合よりも効果的な方法であることが示唆された.また,介入直後の変化がMT群で大きなことから,ミラーセラピーは運動学習初期の段階で,新規運動課題の運動イメージ生成をより効率的に促進させる効果がある可能性が示唆された.今後の臨床においても,より効果的なミラーセラピーの適応を検討していく必要がある.
著者
今井 亮太 大住 倫弘 平川 善之 中野 英樹 福本 貴彦 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 2015-02-20 (Released:2017-06-09)

【目的】術後急性期の痛みおよび運動に対する不安や破局的思考は,その後の痛みの慢性化や機能障害に負の影響を及ぼす。本研究は,術後急性期からの腱振動刺激による運動錯覚の惹起を起こす臨床介入が痛みの感覚的および情動的側面,ならびに関節可動域の改善に効果を示すか検証することを目的とした。【方法】対象は,橈骨遠位端骨折術後患者14名とし,腱振動刺激による運動錯覚群(7名)とコントロール群(7名)に割りつけて準ランダム化比較試験を実施した。課題前後に,安静時痛,運動時痛,Pain Catastrophizing Scale, Hospital Anxiety and Depression Scale,関節可動域を評価した。介入期間は,術後翌日より7日間,評価期間は,術後1日目,7日目,1ヵ月後,2ヵ月後とした。【結果】反復測定2元配置分散分析の結果,VAS(安静時痛,運動時痛),関節可動域(掌屈,背屈,回外,回内),PCS(反芻),HADS(不安)の項目で期間要因の主効果および交互作用を認めた(p<0.05)。期間要因では,両群ともに術後1日目と比較し,7日目,1ヵ月後,2ヵ月後に有意差を認めた(p<0.05)。【結論】術後翌日から,腱振動刺激を用いて運動錯覚を惹起させることで,痛みの程度,関節可動域,痛みの情動的側面の改善につながることが明らかにされた。また,痛みの慢性化を防ぐことができる可能性を示唆した。
著者
信迫 悟志 坂井 理美 辻本 多恵子 首藤 隆志 西 勇樹 浅野 大喜 古川 恵美 大住 倫弘 嶋田 総太郎 森岡 周 中井 昭夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)は,注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)の約50%に併存し(McLeod, 2016),自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)にも合併することが報告されている(Sumner, 2016)。一方,DCDの病態として,内部モデル障害(Adams, 2014)やmirror neuron systemの機能不全(Reynolds, 2015)が示唆されているが,それらを示す直接的な証拠は乏しい。そこで本研究では,視覚フィードバック遅延検出課題(Shimada, 2010)を用いた内部モデルの定量的評価と運動観察干渉課題(Kilner, 2003)を用いた自動模倣機能の定量的評価を横断的に実施し,DCDに関わる因子を分析した。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は公立保育所・小・中学校で募集された神経筋障害のない4歳から15歳までの64名(男児52名,平均年齢±標準偏差:9.7歳±2.7)であった。測定項目として,Movement-ABC2(M-ABC2)のManual dexterity,視覚フィードバック遅延検出課題,運動観察干渉課題,バールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)を実施し,保護者に対するアンケート調査として,Social Communication Questionnaire(SCQ),ADHD-Rating Scale-IV(ADHD-RS-IV),DCD Questionaire(DCDQ)を実施した。MATLAB R2014b(MathWorks)を用いて,内部モデルにおける多感覚統合機能の定量的指標として,視覚フィードバック遅延検出課題の結果から遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT)と遅延検出確率曲線の勾配を算出し,自動模倣機能の定量的指標として,運動観察干渉課題の結果から干渉効果(Interference Effect:IE)を算出した。M-ABC2の結果より,16 percentile未満をDCD群(26名),以上を定型発達(Typical Development:TD)群(38名)に分類し,統計学的に各測定項目での群間比較,相関分析,重回帰分析を実施した。全ての統計学的検討は,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて実施し,有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】DCD群とTD群の比較において,年齢(p=0.418),性別(p=0.061),利き手(p=0.511),IE(p=0.637)に有意差は認めなかった。一方で,DCD群ではTD群と比較して,有意にSCQ(p=0.004),ADHD-RS-IV(p=0.001),DSRS-C(p=0.018)が高く,DCDQが低く(p=0.006),DDTの延長(p=0.000)と勾配の低下(p=0.003)を認めた。またM-ABC2のpercentileとSCQ(r=-0.361,p=0.007),ADHD-RS-IV(r=-0.364,p=0.006),DCDQ(r=0.415,p=0.002),DDT(r=-0.614,p=0.000),勾配(r=0.403,p=0.001)との間には,それぞれ有意な相関関係を認めた。そこで,percentileを従属変数,これらの変数を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した結果,DDTが最も重要な独立変数であった(β=-0.491,p=0.002)。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究では,内部モデルにおける運動の予測情報(運動の意図,遠心性コピー)も含めた多感覚統合機能不全(DDTの延長)が,DCDに最も重要な因子の一つであることが示された。</p>
著者
越智 亮 坂野 裕洋 金井 章 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.427-432, 2006 (Released:2007-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

立位で頚部に振動刺激を与えると,頚部固有受容器からの感覚変化が生じることで頭部位置の混乱を引き起こし,自己中心参照枠が変更され,姿勢変化が生じるとされている。本研究の目的は,健常者を対象に頚部振動刺激の介入を行い,その残存効果によって起立動作の身体重心変位が生じるかどうか,被験者の内省報告と三次元動作解析装置,および床反力計を用いて検証することである。計測は,座位で頚部後方へ振動刺激を1分間与え,被験者に頚部前屈の運動錯覚を生じさせた後,起立動作とそれに伴う重心変位を記録した。その結果,起立動作における重心位置の前方変位が生じ,さらに6分後までその重心前方変位が確認された。振動刺激によって誘発される,頚部固有受容器からの継続された感覚変化が起立動作後の重心位置に影響を及ぼすと結論した。