著者
堂山 宗一郎 石川 圭介 上田 弘則 江口 祐輔
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-19, 2019 (Released:2019-03-18)
参考文献数
23

日本においてニホンジカ(Cervus nippon)による農林業被害が増加している.ニホンジカの聴覚を利用した音による防除が簡便な方法として用いられることもあるが,その効果を検証した科学的研究は少ない.本研究では,人間の可聴域を超える周波数帯の音である超音波(20kHz ≦)によるニホンジカ防除技術の効果を検証するため,継続提示した超音波に対するニホンジカの行動を調査した.飼育ニホンジカ(ホンシュウジカ)4 頭を実験に供試し,エサを設置した場所に対して,超音波である25kHz の音または人間の可聴音でもある5kHz の音を音圧90dBで提示する2 つの音提示条件と音を提示しない無音条件で実験を行なった.実験音は,実験開始から10分間継続して提示した.その結果,どちらの音条件においても無音条件と同様に全ての供試個体が音の提示中にエサの摂食を開始し完食もしたため,超音波の継続提示はニホンジカの摂食行動を抑制しなかった.摂食行動の発現時間や音を提示した場所での滞在時間は,無音条件よりも両音条件の方が短くなり,超音波や音の提示が供試個体に対して警戒や不快感を誘発させることも皆無ではなかった.しかし,音を提示した場所へ侵入するまでの時間や摂食を開始するまでの時間は,実験2 日目には短縮し,警戒行動も実験1 日目にしか見られなかったことから,音に対する速やかな馴致も確認できた.これらの結果から,超音波などの音の継続提示ではニホンジカに対して摂食行動を抑制することはできず,音刺激に対して急速に慣れてしまうため,ニホンジカによる農作物被害の対策技術として超音波の継続提示には効果がほとんどないと考えられた.
著者
江口 祐輔
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.141-143, 2013-06-30
参考文献数
9
著者
植竹 勝治 大塚 野奈 長田 佐知子 金田 京子 宮本 さとみ 堀井 隆行 福澤 めぐみ 江口 祐輔 太田 光明 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.192-198, 2007
参考文献数
20

動物介在活動(AAA)に飼い主と共に参加する飼い犬(Canis familiaris)のストレス反応を、尿中カテコールアミン濃度を測定することにより調べた。イヌの覚醒状態に影響すると考えられる次の2要因について検討した: 特別養護老人ホームでのAAAへの参加日数(現地調査1)および対面式での活動時における老人の座席配置(車座と並列)(現地調査2)。現地調査1では、新規参加犬8頭の活動前から活動後にかけた尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量が、参加日数が経過するにつれて直線的に低下した(尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量に対する参加日数(毎月1回の参加で計9日間)の回帰係数-1.213,R^2=050,P<0.05)。その一方で、活動中の各セッションにおいて、姿勢や行動を相対的に長く抑制された場合には、アドレナリン(長い抑制15.03±9.72ng/mL vs.短い抑制4.53±2.94ng/mL)とノルアドレナリン(長い抑制12.26±8.80ng/mL vs.短い抑制3.62±3.62ng/mL)の濃度上昇は、相対的に短い抑制の場合に比べていずれも有意に大きかった(共にP<0.05)。現地調査2では、尿中カテコールアミン濃度の上昇は、老人の座席配置、すなわち車座(12頭,アドレナリン10.73±9.77ng/mL;ノルアドレナリン7.13±8.01ng/mL)と並列(11頭,アドレナリン13.37±10.63ng/mL;ノルアドレナリン5.70±5.19ng/mL)間で差がみられなかった。これらの結果から、月1回の参加でも、飼い主と一緒であれば、特別養護老人ホームという新規な環境とAAAの雰囲気に、イヌは容易に順応することができ、また見知らぬ老人に囲まれたとしても、特に緊張を感じていないことが示唆された。
著者
植竹 勝治 中谷 治奈 増田 尚子 吉田 善廣 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.191-193, 2009-03-31

γ-アミノ酪酸 (GABA) の経口投与が肉用牛の長距離輸送および出荷・屠畜時のストレスを低減するかどうかを調べた。試験1では,対照区の去勢牛4頭に20mLの蒸留水を,処理区の去勢牛4頭に体重当たり10mgのGABA粉末を20mLの蒸留水に溶解した水溶液を,それぞれ130.1kmの陸路輸送直前に経口投与した。分散分析の結果,供試牛の唾液中コルチゾール濃度に対する処理と輸送経過時間との交互作用は,経過時間が60分までは有意 (P<0.05) であったが,120分以降については有意ではなくなった。試験2では,肥育牛20頭を5頭ずつ4処理区に分け,屠畜場への輸送前と翌朝の屠畜直前に,G区には13gのGABA粉末を100mLの蒸留水に溶解した水溶液を,S区には100mLの生理食塩水を,SG区には輸送前に生理食塩水と屠畜直前にGABA溶液を,それぞれ経口投与した。C区には輸送前も屠畜直前にも何も投与しなかった。多重比較検定の結果,いずれの処理区のウシの血漿コルチゾール濃度も,C区のウシよりも有意に低かった (全てP<0.01)。血漿アドレナリン濃度も,C区に比べ,S区のウシで有意に低く (P<0.05),G区のウシで低い傾向 (P<0.10) がみられた。これらの結果から,GABAの経口投与は,肉用牛の輸送および屠畜時のストレスを投与後数十分間は低減させることが確認された。We examined whether orally administered γ-aminobutyric acid (GABA) would reduce stress of applied animals such as cattle, sheep, pigs and dogs. We report here only about the results of tests of transport and handling stress in cattle. In test 1, 20 mL of GABA solution containing 10 mg of GABA powder per kg body weight was administered to a group of 4 steers. Twenty mL of deionized water was administered to another group of 4 steers. Both groups of steers were then transported together 130.1 km by road. A significant interaction between group and salivary cortisol level for transport times up to 60 min was shown in two-way repeated-measure ANOVA (P<0.05). In test 2, 100 mL of GABA solution containing 13 g of GABA powder was administered to 5 steers twice, just before transport and before slaughter (group G). One hundred mL of normal saline solution (NSS) was administered to 5 steers (group S); 100 mL of NSS and 100 mL of the GABA solution were administered to 5 steers just before transport and before slaughter, respectively (group SG). The remaining 5 steers did not receive any solutions (group C). Significantly lowered concentration of plasma cortisol in groups G, S and SG compared to group C was shown in multiple comparisons (all P<0.01). The concentration of plasma adrenaline was significantly lowered in group S (P<0.05) and tended to be lower in group G (P<0.10) compared to group C. These results indicate that orally administered GABA can be a kind of stress reliever for cattle transported and handled by human.
著者
田中 智夫 太田 光明 植竹 勝治 江口 祐輔 タナカ トシオ オオタ ミツアキ ウエタケ カツジ エグチ ユウスケ Toshio Tanaka Mitsuaki Ota Katsuji Uetake Yusuke Eguchi
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University
巻号頁・発行日
vol.11/12, pp.126-129, 2005 (Released:2012-09-12)

動物介在療法AATや動物介在活動AAAにに参加するイヌには,何らかのストレスが負荷されていることが知られていることから,本研究では,AAAにおける活動形態の違い及び活動経験に伴う慣れと,イヌのストレスとの関係について調査することを目的としたが,初年度はまず1つの施設において,慣れについて検討した。都内の特別養護老人ホームで活動するボランティア団体を調査対象とし,1年間にわたり毎月1回の活動時におけるイヌの行動と,活動前後の尿中カテコールアミン濃度を測定した。その結果,A及びNAの活動前後の濃度差は,活動回数を重ねるごとに直線的に有意に減少し,介在活動に参加するイヌは,活動への参加初期には少なからずストレスを感じていることがうかがわれた。また,介在活動に参加するイヌのストレスは,ヒトとの直接的な触れ合いというよりは,高齢者施設などの新奇刺激のほうが大きく影響しており,ハンドラーによる日常と異なる場面での行動・姿勢の制御も大きく関わってきていることが示唆された。2年目には,活動形態の異なる施設(高齢者が円状に位置し,その中を活動スペースとする「イヌが囲まれる」方法と,高齢者が向かい合って2列に並び,その間を活動スペースとする「イヌが囲まれない」方法)において,同様の活動を行うボランティア団体を調査対象として,原則として1年間毎月1回の調査を行った。いずれの施設においても,供試犬の尿中カテコールアミン濃度は,活動日の朝に比べて活動後に有意に上昇した。しかし,活動形態の違いによる差は認められず,高齢者の並び方といった要因は,「触れられる」,「行動を制御される」などの負荷がかけられる中では,大きな影響は認められなかった。各行動形の生起頻度や時間にも,活動形態による違いは認められなかった。なお,イヌの体格によって,ふれあい活動の内容や状況が異なることから,今後,犬種や活動内容とストレス強度との関係についても検討が必要であろう。 Stress states of dogs under an animal-assisted activity (AAA) in a nursing home were assessed by observing the dogs' behavior and urinary catecholamine concentration. In the first year, data collection was done every month in order to study the effects of habituation to AAA on the stress level changes of dogs. The results showed that even the dogs with AAA experience might feel some degree of psychological stress during AAA especially in the novel environment. Behavior of dogs was not affected by the AAA experience. In the second year, the similar program was conducted in the other three nursing homes, and the effects of contents of AAA were studied. In the two homes, the elder people sat in a circle around the dogs and their owners (C). In another home, the elder people sat in a double rank (R). Twenty-four dogs aged 2.3-7.7 years were used in total. Urine was gathered on the previous day of AAA (T1), in the morning of AAA (T2) and just after AAA (T3). Catecholamine concentrations of T1 and T2 urine were significantly different (p<0.01). Therefore, T2 urine was used as a baseline, and the difference of catecholamine concentrations between T2 and T3 urine was compared between C and R. Adrenaline (A) and noradrenaline (NA) concentrations of T3 urine were significantly higher than those of T2 urine in both C and R conditions (all : p<0.05). Dopamine concentrations of T3 and T2 urine were almost the same. These results showed that the dogs might feel some degree of psychological stress during AAA program. But the contents of AAA especially the position of elder people did not affect the stress level of the dogs.
著者
豊田 英人 江口 祐輔 古谷 益朗 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.57-65, 2012

本研究では、ハクビシン被害の対策を実施する上での基礎的知見として、捕獲ハクビシンを用いて、体型と繁殖状態について調査を実施し、それらに性差や季節性、地域差があるか否かについて検証した。調査は、埼玉県で捕獲された168頭(雄:74頭、雌:94頭)の成獣ハクビシンを対象として、体の各部位の計測値と、繁殖季節、受胎数、経産率を求めた。体サイズの測定では、冬期に捕獲した個体の体重、胸囲、腰囲が他の季節に捕獲した個体に比べ増加することが示された。繁殖季節は少なくとも1-9月と推定されたが、10-12月に関しては捕獲個体数自体が少なく、ハクビシンがこの時期に繁殖可能か否かは不明であった。受胎数は2.9±0.9で、経産率は57.4%であった。また、体型や受胎数、経産率に都市部と農村部で地域差は認められなかった。本研究の結果から、移入種といわれているハクビシンが、日本の気候に順応しており、高い繁殖能力を有し、都市部のような人の生活に密接した地域でも繁殖できる状態で生息していることが示唆された。このようなハクビシンの特性が、現在、我が国で増加しているハクビシン被害の一因となっている可能性が考えられた。