- 著者
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上野 吉一
- 出版者
- 日本味と匂学会
- 雑誌
- 日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.2, pp.11-19, 1996-08
- 被引用文献数
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最近、日本において"フェロモン"という言葉が非常に一般的になり、広く使用されるようになってきている。しかし、そうした場合の多くで、"フェロモン"を「性に関連した匂い」ひいては「性的魅力」を意味する言葉として用いている。フェロモンを性と強く結び付けて捉えるというこの傾向は、通俗的な使用のみならず学術的な使用においても少なくない。そのため、その意味するところが非常に偏って認識され、かつ"匂い"との区別が曖昧になっているように思われた。そこで本研究では、従来フェロモンの概念がどのように規定されてきたのかを検討し、その基準の再確認を試みた。この結果、ある匂いをフェロモンとするための基準として、次の5つを挙げることができた。1)同種ないし近縁種のみで作用。2)送り手・受け手にとり互恵的な特異的反応(リリーサー効果もしくはプライマー効果)の解発。3)生得的要因への高い依存。4)特定の匂い刺激のみに起因する反応。5)1つないし少数の物質の情報伝達への寄与。これをもとに哺乳類での"フェロモン"の使用を鑑みると、これまでにも指摘されてきたように、フェロモンと表現することが必ずしも妥当ではない場合が多いと考えられた。また、中にはフェロモンの概念の基準を考え合わせることなく使用している場合すらあった。このような"フェロモン"の使用は、匂いに対する過剰ないし誤った評価・認識を引き起こし、哺乳類における嗅覚コミュニケーションの適切な理解を妨げる。そこで本論文では、哺乳類の匂い情報を考えていく上で、上記の基準を満足することが明らかな場合を除き、学術用語として"フェロモン"の使用を避けるようにすべきだと考える。