- 著者
-
池上 良正
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.86, no.2, pp.193-217, 2012-09-30 (Released:2017-07-14)
日本語の「無縁供養」は、系譜上の祀り手を失った死者のほか、戦乱・事故・自然災害などの災禍によって非業の死をとげたと見なされた人々を追弔・慰撫する言葉として用いられている。広くは「苦しむ死者」を救済する代表的な言葉である。「死者供養」を東アジアで形成され民衆層に普及した、ユニークで動態的なひとつの「救済システム」として捉えるとき、そこには、(A)親孝行や先祖の孝養という側面と、(B)何らかの未練や怨念を残した死者(苦しむ死者)たちの救済という側面の二面性を指摘できるが、「無縁供養」に代表される(B)の「苦しむ死者の救済」は、このシステム全体を存続させる原動力を供給し続けてきたことが注目される。本稿ではこの「無縁供養」の構造と展開過程を考察する。そこに潜在していた「無遮」と「無主」との有機的な動態性は、救済システムとしての「死者供養」が広く民衆層に定着するさいの原動力になっていた、という見通しを示す。