著者
波多野 雄治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.713-717, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
20

軽水炉,重水炉,核融合炉におけるトリチウム発生機構,トリチウム取扱量および放出量,トリチウム分離の原理や福島第一原子力発電所処理水へ適用する際の問題点について解説した。トリチウムについて考える際には定量的な議論が不可欠であることから,できるだけ具体的な数値を示した。数値を比較しながら読んでいただけると幸いである。
著者
藤原 進 波多野 雄治 中村 浩章
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.35-41, 2022-01-05 (Released:2022-01-05)
参考文献数
44

トリチウム(三重水素,3HあるいはTと表記)は,極めて低いエネルギーのβ線と反ニュートリノを放出する放射性の水素同位体である.自然界では地球に降り注ぐ宇宙線と大気との核反応により生成される.また原子炉でも生成される.生体試験用のトレーサーや蛍光物質を用いたライトなどにも利用されており,高純度のトリチウムは,核融合反応の燃料にもなる.福島第一原子力発電所の処理水中にも存在しており,社会的関心を集めている.トリチウム由来のβ線の飛程は水中や細胞中で数ミクロン程度と短い.そのため,外部被ばくが問題となることはなく,内部被ばくに対する防護が重要となる.我々は,トリチウムが生体分子へ与える影響を計算機シミュレーションで解き明かすことにより,生体分子の損傷機構を明らかにすることを目指している.そこで,計算手法およびシミュレーション精度の確認のため,単純な系で生体分子の損傷速度を定量的に評価する実験技術の開発を進めている.実験では,蛍光顕微鏡を用いたDNA一分子観察法により,トリチウム水中に浮遊するDNAの二本鎖切断メカニズムを定量的に明らかにしつつある.具体的には,滅菌環境下でトリチウム水およびトリチウムを含まない注射用水中におけるDNAの平均長さの経時変化を,蛍光顕微鏡で観察した.その結果,注射用水と比べて高濃度トリチウム水中では,DNA二本鎖切断が速やかに起こることがわかった.一方で,1 kBq/cm3程度のトリチウム濃度では有意な照射効果が見られないことを確認した.トリチウムを含む化合物が生体内に取り込まれると,化合物中のトリチウムがDNA分子中の軽水素と置き換わることがある.このことは,メダカや大腸菌を使った実験で確かめられている.トリチウムに特有の壊変効果として,DNA分子中の軽水素に置換したトリチウムが3Heにβ壊変することによる化学結合の切断が挙げられる.法令による排水中の濃度限度(60 Bq/cm3)におけるトリチウムと軽水素の比はT/H=5×10-13と極めて小さく,置換トリチウムの影響が現れるとは考えにくい.一方で,「どの程度の濃度以上であれば置換トリチウムの影響が顕著になるのか?」という問いに対して,現時点では必ずしも明確な答えはない.そこで我々はトリチウムの壊変効果に着目し,DNAから置換トリチウムが除去されることに伴うDNA部分構造の変化を,分子動力学シミュレーションにより明らかにする.我々の戦略として,まずDNAよりも分子構造の単純な高分子の計算から始め,続いてDNAの計算を行った.高分子の分子動力学シミュレーションの結果,除去される水素の割合が大きいほど,高分子の熱安定性と構造安定性が低下することがわかった.また,二重結合や共役結合の生成など,化学結合の変化を確認することもできた.さらに,テロメア二重らせんDNAの分子動力学シミュレーションの結果,グアニンのアミノ基中の水素が除去されることにより,水素結合が消失し二重らせん構造が崩れる様子を明らかにすることができた.今後は,反応力場を用いた分子動力学シミュレーションにより,β壊変によるDNA二本鎖切断のメカニズムの解明といった展開が期待される.本記事の長さは通常の「最近の研究から」欄記事の規定を超過しておりますが,編集委員会の判断によりこのまま掲載しています.
著者
大矢 恭久 増崎 貴 時谷 政行 渡辺 英雄 吉田 直亮 波多野 雄治 宮本 光貴 山内 有二 日野 友明 奥野 健二
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.319-324, 2014-06

本レビューではプラズマ対向材料として注目されているタングステンの試料を,大型ヘリカル装置(LHD)の15サイクル実験(2011年)および16サイクル実験(2012年)期間中にLHD真空容器内に設置してプラズマ環境に曝露した際の水素同位体滞留能変化を調べた.これにより磁場閉じ込め装置の実機環境下での水素同位体滞留の基礎過程を理解するとともに水素同位体滞留能の変化がLHDにおける水素同位体挙動にどの程度影響を与えるのかを評価した.タングステン試料を約5000~6000ショット程度の水素プラズマ,300~800ショット程度のヘリウムプラズマおよび壁調整のためのグロー放電洗浄に曝した後に真空容器から取り出して観察したところ,表面には炭素堆積層が形成されており,その厚さは,堆積が多い場所の試料(DP試料)で4μm程度,熱負荷の高い場所の試料(HL試料)では100nm程度であった.これらの試料に重水素イオンを照射した後,昇温脱離ガス分析を行ったところ,重水素放出特性は純タングステンとは異なり,主要な放出ピークは800K-900Kに見られた.特にDP試料では900Kに大きな脱離ピークが見られた.純タングステンでは400K-600Kに脱離ピークが存在することから,LHDでプラズマに曝されたタングステン試料の重水素捕捉は純タングステンでの重水素捕捉とは状態が異なることが示唆された.LHDプラズマに134ショットだけ曝した試料の表面を観察すると,堆積層と表面近傍に転位ループが高密度に集積していることから,曝露初期には照射損傷導入と堆積層形成がダイナミックに進行し,これらに重水素を捕捉する能力が高いことが示唆された.
著者
波多野 雄治 磯部 兼嗣 下瀬 健 杉崎 昌和
出版者
九州大学大学院総合理工学研究科
雑誌
九州大学大学院総合理工学報告 (ISSN:03881717)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.369-373, 1995-03-01

Zircaloy-2 specimens were oxidized in steam and charged with tritium by the cathodic charging method. The distribution of tritium in the oxide film and alloy was observed by microautoradiography. Although tritium was absorbed by the alloy through the oxide film, the tritium concentration in the oxide film and alloy layer beneath it was lower than the concentration in the inner region of alloy. In the oxide film and alloy layer beneath it, tritum segregated in intermetallic precipitates. In the inner region of alloy, tritium segregated in the intermetallic precipitates and the grain boundary of zirconium matrix.