著者
安藤 雄一 石田 智洋 深井 穫博 大山 篤
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.41-52, 2012-01-30
被引用文献数
3

歯科医院への定期受診の全国的実態は必ずしも明らかとはいえないため,われわれは20〜60歳代の男女から成る調査会社のモニタ計3万人に対してWeb調査を行い全国の概況把握を試みた.質問項目は定期歯科受診の有無と最後の歯科受診時期とその診療内容で,対象者の属性として性・年齢・居住地区・職業の情報を用いた.定期受診者の割合は35.7%(男性31.5%,女性39.9%)であった.過去1年間における歯科受診ありの割合は50.3%(男性45.9%,女性54.7%)であった.定期受診の有無についてクロス集計とロジスティック回帰分析を男女別に行ったところ,年齢階級,職業,居住地区,診療内容が有意性を示した.定期受診者の割合は高齢層が高く(男女共通),東北地方(男女共通)と北海道・四国・九州地方(女性のみ)で低かった.最後に受けた診療内容が「歯周疾患」・「歯ならびやかみ合わせ」・「その他」だった人は定期受診者の割合が高く,「むし歯」,「抜けた歯の治療」だった人では低かった(男女共通).職業では,男性において自営業,パート・アルバイト,学生などが低率を示した.さらに性・年齢階級で層別したロジスティック回帰分析を行ったところ,若い年齢層ほど,また女性より男性において職業による差が顕著であった.本調査結果は全国を代表するものとは言えないものの,歯科定期受診の全国的な実態を示す記述疫学情報として有用と考えた.
著者
相田 潤 深井 穫博 古田 美智子 佐藤 遊洋 嶋﨑 義浩 安藤 雄一 宮﨑 秀夫 神原 正樹
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.270-275, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15

健康格差の要因の一つに医療受診の格差がある.また歯科受診に現在歯数の関連が報告されている.日本の歯科の定期健診の格差に現在歯数を考慮し広い世代で調べた報告はみられない.そこで定期健診受診の有無について社会経済学的要因と現在歯数の点から,8020推進財団の2015年調査データによる横断研究で検討した.調査は郵送法の質問紙調査で,層化2段無作為抽出により全国の市町村から抽出された20-79歳の5,000人の内,2,465人(有効回収率49.3%)から回答が得られている.用いる変数に欠損値の存在しない2,161人のデータを用いた.性別,年齢,主観的経済状態,現在歯数と,定期健診受診の有無との関連をポアソン回帰分析で検討しprevalence ratio(PR)を算出した.回答者の平均年齢は52.4±15.5歳で性別は男性1,008人,女性1,153人であった.34.9%の者が過去に定期健診を受診した経験を有していた.経済状態が中の上以上の者で39.7%,中の者で36.4%,中の下以下の者で28.5%が定期健診の受診をしていた.多変量ポアソン回帰分析の結果,女性,高齢者(60-79歳)で受診が有意に多く,経済状態が悪い者,現在歯数が少ない者で有意に受診が少なかった.経済状態が中の上以上の者と比較した中の下以下の者の定期健診の受診のPR は0.74(95%信頼区間=0.62; 0.88)であった.定期健診の受診に健康格差が存在することが明らかになった.経済的状況に左右されずに定期健診が受けられるような施策が必要であると考えられる.
著者
深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.120-142, 1998-01-30
参考文献数
91
被引用文献数
34

わが国の歯科保健医療の実態を行動科学的に捉える1つの方法として,成人を対象とし,職域を1つに限定し,全国規模として北から南にかけて9地域を選定した。調査対象者は,人口10万人以下の9市の市役所に勤務する成人1,418名である。統計的な検定は,x^2検定と多重ロジスティック回帰分析を用いた。歯科治療に対して強い不安をもつ者の割合は,33.1〜56.6%の範囲であり,25〜34歳および55〜64歳の年齢層で,女性が有意に高い割合であった。過去1年間に歯科を「受診しなかった」者は,男性が38.9〜51.2%の範囲であり,女性では32.3〜43.9%であった。北海道,中部,関東,近畿,中国および九州の9地域を比較した結果,就寝前の歯みがき習慣のある者は63.5〜81.2%の範囲であり,かかりつけの歯科医師をもつ者は59.4〜80.7%であった。口腔保健への促進因子と阻害因子について,35〜44歳の年齢層で解析した結果,就寝前の口腔清掃行動に有意に働く因子は口腔保健に関する知識であり,かかりつけの歯科医師の有無では,(1)家族数(三世代)と(2)症状を自覚した際に歯科医院へすぐ行く態度が選択された。定期歯科健診の受診では,(1)「年収」と(2)「歯科治療への恐怖心」が関連していた。以上の結果から,成人の口腔保健に関する認知度および歯科医療の受容度には,性差,年齢が明らかに影響を及ぼしており,地域性との関連も認められた。口腔保健行動には,「知識」,「歯科医療機関へのアクセシビリティー」,「歯科治療に対する不安」,「周囲からの働きかけ」,「経済性」などが関与していることが示された。
著者
瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ ギニゲ サミタ 宮原 勇治 平田 幸夫 深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.513-523, 2008-10-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,発展途上にあって多宗教,多民族国家の一つであるスリランカにおける社会経済的要因と糖分摂取,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤および定期的歯科受診の4つの歯科保健行動との関連を分析することである.対象の西プロビンスは同国の9省(プロビンス)のうち管内の市町村間で最も社会経済的多様性がある.スリランカ国のうち最も都市化した西省の21小学校の12歳児男女949名が無作為抽出され,無記名自記式質問票を担任の監督のもと各家庭に配布し回収した.性別,地域差,民族,父母学歴,職業,収入,児童数,因子分析による社会経済的6因子,歯科保健情報源,および定期的歯科受診の10分類の要因系と前述の4種類の歯科保健行動との関連を多重ロジスティック回帰分析により分析し4つの歯科保健行動の要因系の違いを比較した.その結果,オッズ比が2.0以上を示した要因はタミール族がショ糖含有食品を制限していることが最大オッズ比(exp(-B)=5.44)を示し,次いでオッズ比が大きいものは最多民族であるシンハラ族のフッ化物歯磨剤使用(2.34)および歯科保健情報源としてのテレビ(2.32),生活必需品充足度(因子分析第1因子)と食間でのショ糖添加(2.16),シンハラ族の定期的歯科受診(2.11)であった.高有意性(p<0.001)を示す関係は6つあり,女性の歯磨き励行,生活必需品充足度と食間でのショ糖添加,ショ糖添加紅茶飲用およびフッ化物歯磨剤使用,定期的歯科受診と食事時・食間のショ糖追加摂取および歯磨き励行との関係であった.また2つ以上の歯科保健行動にかかわる指標は,民族,父親の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の4つであった.以上,本研究により性差,民族,父の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の5つが歯科保健計画策定,キャンペーンや活動に際して注目すべき要因であることが示された.
著者
河岸 重則 小川 孝雄 中村 修一 田中 敏子 安部 一紀 深井 穫博
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.258-263, 2000
参考文献数
9
被引用文献数
1

ネパール王国テチョー村における国際保健医療協力の一環として, 1997年に村人の健康に直結する生活用水の水質調査を実施した.村では水道水不足のため, 溜め池の水や湧き水も生活用水として利用されていた.このため, 水道の水源, 水道施設, 溜め池, 湧き水などから採取した試料について, 一般細菌など健康に関わる基本的な12項目について検査を実施した.この調査で明らかになった問題点の一つは, 全ての試料で砒素が検出され, 特に湧き水と溜め池の水ではかなり高い値を示したことである.しかし, この調査では簡易測定法で実施されたため正確な砒素濃度は不明であった.そこでこの度, 原子吸光法を用いて砒素の精密測定を実施した.試料は水道施設, 溜め池, 湧き水について前回と同じ場所で採取した.砒素の精密分析は現地では不可能なため, 帰国直前に採水し, 九州歯科大学で行った.その結果簡易法と異なり, 原子吸光法ではいずれの試料にも砒素は検出されなかった.砒素の簡易測定法は, 他の測定項目に比して適用範囲が狭く, 測定は慎重に行うべきことが示唆される.いずれにせよ, この結果は村の水は砒素に関しては安全であることを示す.また, 前回検査しなかった残留塩素についても, 簡易法により測定した.水道水は一応さらし粉処理されていたが, 残留塩素は検出されなかった.これはこの水には容易に細菌が繁殖しやすい可能性がある事を示し, 早急な対策が必要である.さらに, 我々は以前フッ素洗口の実施に先立ち簡易法でフッ素の測定を行っていたが, 今回精密測定を実施した.全ての試料でフッ素濃度は0.2 mg/l以下であった.これは以前の結果を確証し, フッ素洗口の意義の根拠を与えるものである.
著者
奥野 ひろみ 小山 修 安部 一紀 深井 穫博 大野 秀夫 中村 修一
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.247-256, 2008 (Released:2009-01-28)
参考文献数
24

目的 カトマンズ近郊 A村をフィールドとして、人口、経済力、情報量などの増加が母親の妊娠、出産、育児という保健行動にどのような影響を及ぼしているのか、 2001年と 2006年の実態の比較から考察を行い、都市部近郊地域の母子保健の課題を明らかにする。方法 ネパール国ラリトプール郡 A村で、0~12か月児を持つ母親へ聞き取り調査を実施した。就学歴のある母親とその児群と就学歴のない母親とその児群および全体について、 2001年と 2006年のデータを比較した。結果 2006年に少数民族の母親の増加がみられた。妊婦検診、分娩、児の罹患時に利用した施設は病院が多く、この 5年間でいずれも増加傾向がみられた。また、妊婦検診費用が約 7倍、分娩費用が約 2倍となっていた。児の発育状況では、カウプ指数が 1ポイント上昇した。児の一般的な感染症への疾患の罹患は減少した。考察 海外への出稼ぎなどにより収入の増加した中間層と、地方からの移入者で経済的な課題を持つ層の 2極化がみられた。妊婦や児が病院での健康管理を積極的に受けている理由は、病院に対する安全や安心の意識に加え、中間層の増加による消費文化の意識が考えられた。経済的な課題を持つ層は、ハイリスクグループと捉えることができ、安価で身近な場所でのサポートの必要性が示唆された。育児の課題は、「栄養改善」や「感染症対策」から「栄養のバランス」などに移行していることが示唆された。
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.129-136, 1996-04-30 (Released:2017-10-14)
参考文献数
36
被引用文献数
6

保健行動は生涯発達の中で形成・獲得されるものであるが,成人期から老人期にかけての口腔保健行動が,社会的な影響を受けてどのように修正・形成・定着していくかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究は,関東地域在住の20歳から50歳代の男女673名を対象に,成人のライフスタイルおよび健康習慣とその年齢特性について検討した。その結果,今回の調査では以下の結論を得た。25〜34歳,35〜44歳の年齢層は生活のゆとりおよびソーシャルサポートが少なく,また職場環境に関しても,「残業」および「ストレスを感じる」者が中高年層に較べて多かった。一方,「仕事の満足感がある」者では逆に中高年層ほど仕事にやりがいを感じていた。ただし主観的健康状態は,どの年齢層でも約60〜70%の者が「健康である」と回答しており,年齢層による差は見られなかった。健康習慣では「毎日の朝食摂取」および「定期健康診断受診」に関して,明らかに中高年層が若年成人に較べて高い割合であった。また,「喫煙」,「飲酒」,「運動」,「体重」,「睡眠」,「間食」,「ストレス」に関する項目では,その健康習慣を持っている者は,どの年齢層でも約10〜30%の範囲であった。これら9項目の健康習慣について各項目で「あり」と回答した場合を1点としその合計得点で評価した結果,24歳以下の群で2.1±1.9であったのに対し55〜59歳の群では3.0±2.1であり,高い年齢層ほど健康習慣得点は増加していた(p<0.05)。
著者
瀧口 徹 深井 穫博 青山 旬 安藤 雄一 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.524-536, 2005-10-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
14

わが国における戦後の歯科医師需給施策は, 1960年代後半から70年代にかけて歯科大学(歯学部)の急増策で始まったが, 1980年後半から一転して抑制策に転じた.しかし入学定員の20%削減, 国家試験の改善だけでは十分に功を奏さないことが明らかである.そこで本研究においては, 1982年から2002年までの20年間の人口10万人当たりの歯科医師数(歯科医師10万比)の都道府県較差に着目して, 増減の源である歯科大学(歯学部)の設置主体と社会経済的および地理的特性のかかわりを明らかにすることを目的とした.要因分析にはGLIM法: 一般化線形モデル法を用い, 将来予測は回帰式の外挿法によった.さらにこれらの結果に基づき, 歯科医師需給調整施策について検討した.20年間の歯科医師10万比の推移は, 全都道府県で相関係数が0.96以上で明確な直線的増加傾向を示し, かつ地域較差は縮減していない.GLIM分析で国公立大の存在がその都道府県の歯科医師10万比の急増に最も関連が強く, 国公立大は設置都道府県に対して新規参入歯科医師への強い吸引力を示した.しかし, 近隣都道府県への波及効果は予想に反して有意ではなかった.また供給過剰の閾値を歯科医師10万比80人とすると, 20年後に5割強の都道府県が供給過剰になると予測され, 需給対策には既存の全国的施策に加えて歯科医師臨床研修地の分散化が有効と考えられた.
著者
吉野 浩一 深井 穫博 松久保 隆 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.92-97, 2002-04-30 (Released:2017-12-15)
参考文献数
30

喫煙と歯周病や口腔がんとの関連はよく知られているが,生活習慣と関連が深い歯の喪失についての研究はきわめて少ない。本調査は,喫煙習慣および口腔保健行動と歯の喪失との関連について5年間のコホート調査を行うことを目的とした。対象は某銀行の従業員の男性129人とし, 1992年から5年間追跡調査した。その結果,20〜39歳群の喫煙者は一人平均0.40歯喪失歯が増加し,非喫煙者の0.13歯に比べて多い値であった(p<0.01)。40〜59歳群では,喫煙者は0.75歯,非喫煙者は0.51歯と多い傾向を示したが有意な差はみられなかった。口腔保健行動と歯の喪失との関連をみると,40〜59歳群ではかかりつけの歯科医院のある者に歯の喪失する者の割合が高かった(p<0.05)。さらに,単純ロジスティック回帰分析を行った結果,20〜39歳群では喫煙習慣が歯の喪失に有意な関連を示し(p<0.001),オッズ比は8.08(信頼区間1.83〜35.72)であった。以上の結果から,20〜39歳群の若年成人では,喫煙習慣が歯の喪失に強く関連していることおよびコホート調査の重要性が示された。
著者
瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ ギニゲ サミタ 宮原 勇治 平田 幸夫 深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.524-533, 2008-10-30
参考文献数
13
被引用文献数
2

本研究の目的はスリランカの12歳児DMFTの多寡に有意な歯科保健行動要因と社会経済的要因を確定し,重要な少数の予測要因に絞ることである.データはスリランカ国の西プロビンスの949名の学童からなる.3名の歯科医師がWHOの基準によって歯科健康診査を行った.DMFTを0と1以上の2区分にした指標を多重ロジスティック回帰分析(MLRA)の従属変数として用いた.MLRAの独立変数は4種類の歯科保健行動(4-DHBs),すなわちショ糖含有の食品もしくは飲料,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤使用,定期的歯科医療機関受診等,10種類の社会経済的要因からなっている.その結果,変数減少法によるMLRAで最終モデルと各変数のオッズ比が得られた.DMFTの分布は指数関数的な減少傾向を示した.男女間および3民族間のDMFTの違いは有意でなかった.フッ化物歯磨剤がDMFTに関連した最も影響力の強い保健行動であり,一方,最も重要な社会経済的要因は民族の違いであった.4-DHBsの組合せの違いは伝統的な宗教的な慣習や嗜好に由来するように思われ,う蝕に対して時に相加的効果,時に相殺的効果を及ぼすと考えられる.対象プロビンスとスリランカ全体の経済的発展に伴って将来のう蝕が増加する可能性は関連データの不足のため否定できない.それゆえ,今回明らかになったう蝕の要因をモニタリングし,西プロビンスの非常に低いDMFTの原因を解明するための疫学的研究が必要である.
著者
平田 幸夫 瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ 深井 穫博 山本 龍生
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.152-162, 2010-04-30

スリランカでは内戦が終わり,飛躍的な経済的発展が期待されている.しかし,この発展は歯科疾患を含む生活習慣病をもたらすかもしれない.それゆえ,ハザードの兆候をとらえ,避けるために歯科保健行動に関連した社会経済的研究が不可欠である.本研究の目的は学童の歯科保健行動の決定因子になりやすい社会経済状態および地域発展の両方を評価する単純な指標を見いだすことである.スリランカにおいて949名の12歳児学童が対象者として無作為に選ばれた.人種,父母の学歴,職業,月収が社会経済状態の指標として調査された.地域開発の指標として,主として耐久消費材からなる24項目の家庭関連項目の所持率も合わせて調査された.これらの指標と甘味食/飲料,歯磨き習慣,フッ化物含有歯磨剤,定期的歯科医療機関受診の4つの歯科保健行動指標との関係が調査された.社会経済状態と家庭関連項目は複雑に歯科保健行動に影響している.家庭関連項目は「贅沢品」,「生活必需品」,および「使用人」の3つの因子に集約された.これら3つの因子は社会経済状態と4つの歯科保健行動の指標に異なった関わりがあることが明らかになった.さらに,3つの因子の因子負荷量の2値反応の単純合計が各因子の代用指標に使うことができることが判明した.これら3つの代用指標は調査項目を限定しなければならない条件下で月収,学歴のような関連項目に対する回答拒否率が高い場合に有用と考えられる.
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.129-136, 1996-04-30
被引用文献数
12

保健行動は生涯発達の中で形成・獲得されるものであるが,成人期から老人期にかけての口腔保健行動が,社会的な影響を受けてどのように修正・形成・定着していくかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究は,関東地域在住の20歳から50歳代の男女673名を対象に,成人のライフスタイルおよび健康習慣とその年齢特性について検討した。その結果,今回の調査では以下の結論を得た。25〜34歳,35〜44歳の年齢層は生活のゆとりおよびソーシャルサポートが少なく,また職場環境に関しても,「残業」および「ストレスを感じる」者が中高年層に較べて多かった。一方,「仕事の満足感がある」者では逆に中高年層ほど仕事にやりがいを感じていた。ただし主観的健康状態は,どの年齢層でも約60〜70%の者が「健康である」と回答しており,年齢層による差は見られなかった。健康習慣では「毎日の朝食摂取」および「定期健康診断受診」に関して,明らかに中高年層が若年成人に較べて高い割合であった。また,「喫煙」,「飲酒」,「運動」,「体重」,「睡眠」,「間食」,「ストレス」に関する項目では,その健康習慣を持っている者は,どの年齢層でも約10〜30%の範囲であった。これら9項目の健康習慣について各項目で「あり」と回答した場合を1点としその合計得点で評価した結果,24歳以下の群で2.1±1.9であったのに対し55〜59歳の群では3.0±2.1であり,高い年齢層ほど健康習慣得点は増加していた(p<0.05)。
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.89-97, 1997-01-30
被引用文献数
12 2

関東近県の企業に勤務する20歳から50歳代の男性438名,女性115名の計553名を対象に質問紙調査を行い,職種と成人の口腔保健行動との関連について検討した。口腔清掃行動では昼食後と就寝前の歯みがきおよびフッ化物配合歯磨剤の使用頻度で職種間に違いがみられた。歯みがきでは,事務職の「昼食後」33.8%,「就寝前」77.9%が最も高い割合であった。フッ化物配合歯磨剤の使用では作業職および専門職がおのおの23.8%,23.3%と他の職種より高い割合であった。歯科受診・受療行動では,歯科受診頻度,かかりつけの歯科医師の有無,定期歯科健診受診の有無の3項目とも職種間に違いがみられた。過去1年間に歯科受診したことのない者の割合は販売職の61.1%が最も高く,他の職種は20〜40%であった。かかりつけの歯科医師のある者は,販売職が36.9%であったのに対し,他の職種では50%以上の割合であった。定期歯科健診の受診では販売職が最も低く2.3%に過ぎなかったのに対し,管理職では30.5%であった。また,ストレスの自覚と口腔の外観に対する満足感には有意の関連が認められた(p<0.05)が,ストレスと今回取り上げ口腔保健行動との間には,関連がみられなかった。一方,仕事の満足感と関連がみられた項目は,噛み具合および口腔の外観に対する満足感,歯間ブラシの使用頻度,過去1年間の歯科受診,定期歯科健診受診の有無であった。
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.676-682, 1996-10-30
被引用文献数
11

口腔保健行動は生涯発達のなかで獲得・修正・定着するものであるが,成人期以降の口腔保健行動については不明な点が多い。本研究では質問紙調査を行ない,成人の口腔保健行動の年齢特性について検討した。調査対象は,関東地方の7企業に勤務する20歳から50歳代の男性468名,女性205名の計673名である。調査内容は,(1)口腔保健に関する態度,(2)口腔保健用語の認知度,(3)口腔の健康に関する自己評価,(4)口腔保健行動に関するものである。「歯・口に関する会話」,「新聞の健康欄への注目度」「歯・口を鏡でみる頻度」の質問項目から,自己の口腔内への関心度は中高年層ほど高まることが示された。しかし,この関心度は知識等の情報収集行動には反映されるが,自己の口腔内を直接観察する行動には結びついていないと思われた。口腔保健用語の認知では,全年齢層にわたり50%以上の者が「知っている」と回答した用語は「歯石」,「歯垢」,「歯周病」であり,成人期によくみられる歯周病に関連したものであった。口腔の健康状態に関する自己評価では「外観や噛み具合に満足している」と回答した者が,24歳以下の年齢層で10〜20%に対し,55歳以上の年齢層では20〜30%であった。昼食後・就寝前の歯みがき習慣の有無といった口腔清掃行動では中高年層に比べて若年齢層の方が定着していた。また「かかりつけの歯科医師の有無」,「定期歯科健診の受診」についての受診・受療行動では逆に若年齢層に比べて中高年齢層が高い割合を示していた。