著者
門司 和彦 青柳 潔 片峰 茂 嶋田 雅曉 竹本 泰一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

アフリカにおいて近年猛威を奮うHIV/AIDS感染を小学生、中学生、高校生レベルで予防するためには、彼らの性に対する知識・態度・行動を知ると同時に、学校保健の枠組みの中で実質的・具体的な教育メッセージを送る必要がある。小学校でのドロップアウト率の高さを考えると小学校3-5年生ぐらいにエイズ教育を実施する必要がある。しかし、性に対するそれぞれの社会に扱いはデリケートであり、エイズ教育はそのままでは受け入れられない。一方、住血吸虫感染は、アフリカの農村部の多くの地域で慢性的に流行し、小学生が中心的な感染者である。特にビルハルツ住血吸虫症は血尿を主症状とするために、小学生が身近な関心を持つ疾患である。しかも、治療薬が存在し、本人が川との接触を避け、また川での排尿をしなければ、本人も感染を逃れ、また地域全体の感染も抑えることが可能である。ビルハルツ住血吸虫症は生殖器から出血するため性病と混同されることもあるが、そのサービス(治療)と健康教育は地域からも受け入れられている。本プロジェクトではこれまでのビルハルツ住血吸虫対策の健康教育とエイズ・性行動に関する知識・態度・行動研究と健康教育を連携させてその行動変容を見ようとしたものである。調査上の制約から住血吸虫症対策は主にケニアの小学生で実施し、性行動はタンザニアの高校生での調査が中心となった。いずれも知識は高いが行動変容にはなお時間がかかることがわかった。例えばコンドーム使用は増加しているが、感染危険が高いと考えられる相手の場合の方が使用頻度が低くなっていた。また、教育介入による行動変容は効果があがるまでに時間がかかり、その評価方法を明確にする必要性が浮かび上がった(715字)
著者
坂口 末廣 宮本 勉 片峰 茂
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

プリオン病の病原体は感染型プリオン蛋白からのみ構成されるというプリオン説が、広く受け入れられている。しかし、我々はプリオン病感染マウス脾臓と唾液腺において感染型プリオン蛋白と感染価に乖離が認められることを報告した。そして、プリオン蛋白欠損マウスに感染実験を行ったところ、感染後29週の欠損マウスの脳内にわずかながら感染価を検出した。これらのことはプリオン説に反し、プリオン病の病原体が感染型プリオン蛋白で構成されていない可能性を示唆した。このことをさらに確認するために、感染後50週、56週、58週、94週、100週、112週にプリオン蛋白欠損マウス脳を摘出し、それぞれの脳乳剤を正常マウス(ddY)に接種して感染性の検討を行った。50週後の脳は12匹のマウスに、56週後の脳は10匹のマウスに、58週後の脳は11匹のマウスに接種したが、すべてのマウスは発症しなかった。しかし、94週後の脳を接種した9匹のマウスのうち1匹が139日後に、100週後の脳を接種した15匹のマウスのうち13匹が182〜426日後に発症し、112週後の脳を接種した17匹のマウスのうち10匹が193〜378日後に発症した。そして、これらの発症したマウスの脳内には感染型プリオン蛋白が認められた。これらの実験結果は、プリオン病の病原体が感染型プリオン蛋白で構成されていない可能性をさらに強く示唆した。しかし、10 ^5LD_<50>くらいの感染価を含む脳乳剤を接種したにもかかわらず、94週、100週、112週後の脳内に認められた感染価は10 ^3LD_<50>以下であった。50週、56週、58週後の脳内には全く感染性が検出できなかったことは、94週、100週、112週後の脳内に認められた感染価がはじめに接種した脳乳剤からのものではないことを示している。
著者
山本 太郎 市川 辰樹 片峰 茂 矢野 公士
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、G型肝炎ウイルスの二重感染が成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の母子感染に与える影響と同時に、HTLV-1感染症の自然史を明らかにすることも同時に目指している。G型肝炎ウイルスに対し、RT-PCRでの検出系を確立した。また、日本に存在するHTLV-1には、二つのサブグループ(日本型と大陸横断型)があり、南北に行くにしたがい、日本型が優勢になること、分岐は、おそらく日本以外の場所で起こったこと、HTLV-1が日本に持ち込まれた年代が約2万年から4万年前であることなどが示唆される結果を得た。
著者
片峰 茂 堂浦 克美 金子 清俊 小野寺 節 福岡 伸一 堀内 基広
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本邦におけるプリオン研究者の情報交換の促進と将来の共同研究プロジェクト立ち上げのための準備を目的に本研究を遂行した。情報交換に関しては、平成14年10月21日に長崎において班会議を開催し、班員に加えて数名の内外のプリオン研究者による情報交換と討議の場をもった。その結果、個々の班員間の往来及び研究材料の共有などのいくつかの実が挙がっている。例えば、片峰と小野寺は各々が開発したプリオン蛋白遺伝子に関わる遺伝子改変マウスと培養細胞株を共有することにより、プリオン病神経変性の機構解明へ向けた共同研究の進展が図られた。準備研究に関しては、プリオン研究進展に極めて大きな意味をもつ種々のモデル動物、細胞株、抗体、解析システムの開発が行われ、将来の大型共同研究プロジェクトへの準備は整ったと考えられる。以下に特筆される成果を挙げる。(1)プリオン持続感染細胞株の樹立(片峰)(2)プリオン類似蛋白(Dpl)遺伝子トランスジェニックマウスの樹立(片峰)(3)プリオン蛋白(PrP)と相互作用をする分子の同定法の開発(堂浦)(4)異常プリオン蛋白(PrPSc)に特異的立体構造を認識する抗体の確立(堀内)(5)不死化によるPrP欠損神経細胞株の樹立(小野寺)(6)PrPの細胞内挙動の顕微鏡下での追跡法の確立(金子)(7)タンパク質の2次構造変換定理の発見(柳川)(8)微量核酸(RNA)同定法の開発(福岡)本年度は、他領域との重複などの問題点があり、新規特定領域への申請は見送ったが、本研究の成果を基礎に来年度以降の申請へむけ、さらなる体制整備を行う予定である。
著者
片峰 茂 伊藤 敬 西田 教行 桑田 一夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

われわれが化合物データベースより見出した新規抗プリオン物質GN8がリコンビナントプリオン蛋白に対して実際に結合するかどうかを,をBIAcoreT100を用いて調べた結果から,GN8が実際にリコンビナントプリオン蛋白に対して結合し,その解離定数は,4μM程度であることが分かった。全長のマウス・リコンビナント・プリオンのNMRスペクトル(HSQC)をGN8の存在下及び非存在下で測定した。その結果,GN8の特異的結合サイトが,N159とE196であることが明らかとなった。これらの部位は,ミリ秒からマイクロ秒の遅いタイムスケールの揺らぎを行っており,遺伝性のヤコブ病における変異部位とも関連していることが確認された。また,GN8の類縁体を複数(60種類),有機合成し,抗プリオン活性を測定した結果,そのいずれにおいても,ほぼ抗プリオン活性が認められた。このことより,GN8の基本骨格を保ちつつ,抗プリオン作用が最大になるようにその化学構造を最適化することが可能であることが分かった。プリオン感染マウスに対し,GN8を脳内投与したところ,特に副作用もなく,優位な寿命延長効果が認められたことから,GN8は,抗プリオン薬のリード化合物として非常に有望であると考えられる。GN8小分子化合物で脳血液関門を通過しやすいことが期待され,実際培養脳血液関門モデルを通過することが判明したが、マウス末梢投与においても有効であることが分かりつつある。以上により,GN8の作用メカニズムは,細胞型プリオンに結合し,その立体構造を安定化させるためであることが明らかとなった。
著者
片峰 茂
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

プリオン病病原体の実体にせまる手がかりとして多様なプリオン株(strain)の存在がある。プリオン株を遺伝的背景が同一の動物に接種した場合、それぞれの株に特異的な病態が惹起される。株の分子機構解明が病原体の実体解明に直結すると考えられる。先行するプリオン株感染が後続の異なるプリオン株感染を阻止するという現象が動物実験では報告されている。しかし免疫系の関与などその詳細は不明である。複数のプリオン株に感受性を示す培養細胞(GT1-7)を用いてプリオン株間の干渉現象を種々の株の組み合わせで検討した。とくに、感染細胞中にほとんどプロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク(PrP^<res>)の蓄積を来たさない弱毒株(SY)による強毒株(Chandler,22L, Fukuoka-1)感染阻止効果も検討したChandler感染細胞は後続のFukuoka-1感染に感受性であったが、22L感染はFukuoka-1感染を完全に阻止した。このことは、感染阻止現象が所謂ワクチン効果によるものではなく、感染細胞中での干渉機構によるものであることを強く示唆している。また、この干渉が株の組み合わせに規定されることも判明した。さらに、感染細胞中にほとんどPrP^<res>の蓄積を来たさないCJD由来弱毒株(SY)が強力にChandler,22L, Fukuoka-1など複数の強毒株(高レベルのPrP^<res>を有する)の感染を干渉することが明らかとなった。このことはPrP^<res>が干渉を規定する因子ではないことを意味している。干渉の分子機構解明を通してプリオン病原体の本体を明らかにすることが今後の課題となる。また、無毒化プリオン株を用いたBSEなどの強毒プリオン感染予防方策開発への途を開いた成果でもある。