著者
川島 朋也 澁澤 柊花 林 正道 池田 尊司 田中 悟志
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.91-101, 2023-02-28 (Released:2023-03-31)
参考文献数
49

電気刺激や磁気刺激などの脳刺激技術を用いて脳活動と認知機能の因果関係を調べる試みが続けられている.本稿では,さまざまな脳刺激研究を概観することで認知心理学研究の展開を考えることを試みた.池田はtDCS(経頭蓋直流電気刺激)とワーキングメモリ変調の可能性について,澁澤はtACS(経頭蓋交流電気刺激)と知覚変調の可能性について,林はTMS(経頭蓋磁気刺激)と時間知覚変調の可能性について紹介する.これらの話題提供の後,田中による指定討論を受け,脳刺激研究の新たな視点と認知心理学における今後の展開について議論する.
著者
田中 悟志
出版者
生理学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

頭蓋の外に置いた電極から電気刺激を行う経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、安全にヒトの脳活動を制御する方法として、神経障害に伴う脳機能低下の回復への応用に期待が高まりつつある。本研究では、下肢運動機能に障害を持つ皮質下梗塞患者に対して、下肢筋力トレーニング中における損傷半球側の運動野へtDCSを実施し、下肢運動機能への促進効果を検討した。その結果、8名中7名の下肢筋力を促進することができた(Tanaka et al., 2011a)。また機能的磁気共鳴画像実験により、大脳皮質運動野へ直流刺激を与えると、刺激された大脳皮質に加えて皮質下の脳活動も上昇するという予備的な知見を得た。
著者
田中 悟志
出版者
脳機能とリハビリテーション研究会
雑誌
脳科学とリハビリテーション (ISSN:13490044)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.35-41, 2016-08-29 (Released:2018-11-01)
参考文献数
36

頭蓋の外から1mA程度の微弱な直流電流を与える経頭蓋直流電気刺激法(Transcranial Direct CurrentStimulation: tDCS)は,外科手術を行わずヒトの脳活動を修飾する手法である.装置の安全性,簡便性,携帯性が高いことなどから,ここ10年ほど脳卒中リハビリテーション分野で盛んに研究が行われている.脳卒中患者の上肢運動機能に関してはtDCSの有意な促進効果がメタ分析で示されており,今後は多施設による大規模な臨床研究の成果が望まれる.一方,言語機能,下肢運動機能,体性感覚機能など上肢運動機能以外の機能に関してはデータも少なく,今後データの蓄積が必要である.近年はtDCSの効果に関してネガティブ・データも多く報告されている.また,効果の個人差も報告されている.厳密な実験で得られたデータを積み上げることで,tDCSは「何に対して効果があり,何に対して効果がないのか」,また「誰に対して効果があり,誰に対して効果がないのか」を明らかにしていく必要がある.
著者
田中 悟志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.87-92, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
34
被引用文献数
2

経頭蓋直流電気刺激法(transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)は,頭蓋の外に置いた電極から直流電流を与え,電極直下の脳活動を修飾する手法である.従来から使用されている経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)に比べ,装置が小型で扱いやすく,また重篤な副作用の報告がないことから神経・精神疾患,脳血管障害に伴う機能障害に対する新たな電気生理学的治療法として脚光を浴びている.本稿では,tDCS による手の感覚機能の向上とその臨床応用に関して,触覚,痛覚,痒みを具体例として最新の研究についてまとめた.運動機能を対象とした研究と異なり,手の感覚を対象としたtDCS 研究は報告の数もまだ少なく,萌芽的段階にある.しかし,臨床疾患を対象とした研究では,触覚弁別能力の向上や痛覚抑制などが報告されている.今後研究成果を積み上げることで,tDCS による手の感覚の制御が可能になり,手の感覚障害を改善するための新たな機能的治療法として応用できる可能性がある.
著者
數田 俊成 武田 湖太郎 田中 悟志 小田柿 誠二 大須 理英子 大高 洋平 近藤 国嗣 里宇 明元
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.18-22, 2013-02-01 (Released:2015-02-20)
参考文献数
16

経頭蓋直流電気刺激 (transcranial direct current stimulation: tDCS) は頭蓋上に配置した電極から微弱な電流を与える刺激法で, 脳機能を促進あるいは抑制すると言われている。本研究は15単語の記銘・再生を繰り返すRey’s Auditory Verbal Learning Test (RAVLT) を用い, tDCSが聴覚言語性記憶に及ぼす影響について検証した。健常者12名 (21–32歳) を対象とし, RAVLTの記銘2回目からtDCSを用いて左頭頂葉下部, 後部側頭葉を刺激した (刺激強度: 2 mA) 。陽極刺激条件では10分間, 偽刺激条件では15秒間刺激を与えた。RAVLTの2回目再生数は, 陽極刺激条件が偽刺激条件より有意に多かった。健常者においてtDCS陽極刺激により聴覚言語性記憶の有意な増強が認められた。tDCSは記憶機能賦活に役立つ可能性がある。