著者
相良 翔
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-72, 2015-01-31 (Released:2016-07-31)
参考文献数
15

本稿の目的は、ダルク在所者が「スリップ」と呼ばれる依存薬物の再使用によってどのような影響がもたらされるのかを考察することである。本稿では調査期間中にスリップを経験したHさんのデータに着目する。本稿の結論は次のとおりである。第一に、Hさんはスリップ以前において「スリップした者から距離を置く」ことや「『クスリを使ったH』の呈示」することによってスリップを回避していた。第二に、そのような方法をとっていたがHさんはスリップをしてしまった。第三に、スリップ後においては、Hさんは「クスリを使わないH」から「クスリを使ったH」へと自己イメージを変化させた。第四に、「クスリを使ったH」を他者に呈示することにより、「愛され欲求」への対応が必要となった。その一方で「愛され欲求」の芽生えは「スリップした者から距離を置く」ことをやめたことを意味していることも重要であることが指摘できた。そして、スリップにより「仲間」との絆が形成され、改めてダルクのメンバーシップを得ていることに気付く契機になったことも考察された。
著者
岡邊 健 平井 秀幸 西本 佳代 竹中 祐二 相良 翔 藤間 公太 都島 梨紗 山口 毅 相澤 育郎 宇田川 淑恵
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、非行からの離脱の具体的態様(離脱を促したり困難にしたりする諸要因)を明らかにすることを主目的とする。第一に、批判的犯罪学と呼ばれる研究群の知見に基づいて、離脱をめぐる諸課題について、理論的・規範的な検討を行う。第二に、非行からの離脱プロセスの態様を探るために、少年院出院者、元非行少年に対する就労支援に関わる当事者へのインタビュー調査を行う。第三に、非行からの離脱における規範(望ましい離脱のあり方)の形成・発展過程を明らかにするために、新聞・雑誌記事の内容分析を行う。
著者
相良 翔 伊藤 秀樹
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.29, pp.92-103, 2016-07-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
17

This article describes the practices for eliminating “desire” in drug addicts at DARC (Drug Addiction Rehabilitation Center). Specifically, we have examined and discussed the following three points: (1) Members of DARC who engaged in a variety of practices to eliminate a “desire” that suddenly occurs every day at DARC, (2) how by being on the side of “fellow” supporting members of DARC, who are also suffering from this “desire”, a variety of practices for eliminating “desire” has been established, and (3) the conditions in which this variety and the supportive “fellowship” were established. The aim is to be able to imagine an environment in which DARC's members and “fellows” can accept members unconditionally, regardless of whether or not they have returned to a life of drugs and crime.
著者
相良 翔
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.115-131, 2017-06-01 (Released:2021-06-04)
参考文献数
16

本稿の目的は、更生保護施設在所者の「更生」について、就労を焦点にして考察することにある。本稿での「更生」とは犯罪を起こした後に犯罪をすることなく生活を続けていくプロセスを意味する。 近年、我が国において元犯罪者の「更生」が専門家によってテーマ化され議論されるようになってきた。そのような状況下において社会内処遇の専門施設である更生保護施設への着目も高まっている。更生保護施設における処遇の中心は就労支援に置かれている。また様々な先行研究においても就労が元犯罪者の「更生」において重要な要因となっていることを指摘している。 そのような前提を置き、更生保護施設Xでのフィールドワークを通じて得られたデータに基づいてX在所者の「更生」について浮き彫りにした。その結果、①X在所者が不安定就労ではあるが速やかに就労する仕組みがあったこと、②X在所者は他者から承認を得るための「就労規範」と他者から距離を置くための「就労規範」の遵守をもって、不安定就労を維持していたこと、③ある元X在所者が退所後において病気からの回復・今後の生活設計・再犯に対する不安を伴いながら、自身の「更生」について語ったことの三点を描き出した。 記述の結果から、X在所者の「更生」は「自立」と同一視されていることがうかがえた。本稿における事例では、自らの貧困状態を犯罪歴と共に「犯罪」に含めて語っていた点が特徴的である。それは「更生」に対する自己責任の内面化を強めていく可能性がある。それにより元犯罪者の「更生」という文脈において、貧困を初めとした諸問題における社会の責任が後景化する可能性を持つことを指摘した。
著者
相良 翔
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.148-170, 2013

本稿の目的は,ダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center)在所者・スタッフによって語られる薬物依存からの回復について,ダルクのスローガンとなっている「今日一日」を焦点にして考察を試みることである.ここで使用されているデータはX/Yダルクにおいてのフィールドワークによって得られたものである.Xダルクは大都市圏に位置し,比較的古くに創設されたYダルクも大都市圏に位置し,近年に創設された筆者は共同研究の一環として2011年4月からX/Yダルクにおいてフィールドワークを行っている.分析の結果「今日一日」は薬物依存からの回復を語る上で重要な「時間の感覚」 として存在していることがわかった.具体的に言えば, 1) 「今日一日」 のもとで生活することにより「過去」や「未来」に対する不安を軽減し,クスリを止めている「現在」に繋がったこと, 2) その「現在」の積み重ねにより「過去」から「現在」,「現在」から「未来」という時間の流れを取り戻したこと, 3) ダルクという空間外でも「今日一日」のもとで回復の語りを展開する可能性を持つこと,以上の3点を明らかにした.