著者
相馬 直子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.35-45, 2004-11-30

「子育ての社会化」とは,家庭での子育てが「外部化」「共同化」されつつ,「社会化」をになう場で再<社会化>される3つの面を有する.本稿は,東京都世田谷区の「保育ママ制度」の分析と保育者へのインタビューを基に,再<社会化>の様相とその帰結を検討した.政策上は「母親」を経験した者のみが従事できる位置づけとともに,「事業主としての仕事」との新たな位置づけもなされてきた.保育者も,「子育ての先輩」「母親代わり」と自分を位置づけつつ,「ボランティアではない」「専門性をもつべき」との認識も発見された.このようにして政策上・保育者の認識上とも「揺れ」ているなか,「保育ママ制度」が子どもや親の育ちに必要な「保育資源」であるとの視点から,その専門性やジェンダー中立的な労働条件・資格要件の見直しが求められる.さもなければ,「地域で・女性が・子どもを育てる」構造(ジェンダー化)の再編の進行が続いていくであろう.
著者
相馬 直子 山下 順子 陳 國康 王 永慈 栄 多永
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、晩産化・超少子化・高齢化が同時進行する東アジア社会において、介護と育児のダブルケア分担という新たな社会的リスクにいかに対応しているのか、あるいは対応できずにいるのか、その対応の仕方の共通点と差異は何かを、ミクロな家族の実態分析と制度分析を通じて、日本・韓国・中国・台湾・香港とのケアレジーム比較研究から明らかにした。晩産化、超少子化、高齢化の同時進行は、現存の介護サービス、育児サービスを使いこなしながら親の介護と子育てという「ダブルケア負担」に対応しなければならない世帯が増加することが推察され、包摂的なケア政策の構想が東アジア全体で求められる。
著者
魚住 明代 廣瀬 真理子 相馬 直子 舩橋 恵子
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

戦後に発展をみた欧州の福祉国家は、近年の少子・高齢化や経済のグローバル化によって、抜本的な改革を迫られている。他方で、家族の多様化や家族機能の衰退は、社会的支援策へのニーズをますます高めている。本研究は、多様化する家族のなかでも、とくにひとり親(母子)世帯に焦点を当てて、その支援策のあり方について、家族主義の伝統が比較的強く残る西欧の大陸諸国(ドイツ、フランス、オランダ)と、韓国を取り上げて、文献・実証研究の両面を通して比較研究を行った。対象国の事例から、所得保障と母親の労働環境の向上と福祉・教育サービスを軸にして、それらを横につなぐ視点に立った支援策が必要であることが明らかにされた。
著者
相馬 直子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、ケアをめぐる負の世代間連鎖に関する実証研究を通じて、ジェンダー・世代・障がいの交差する暴力(虐待)の連鎖に関する構造的把握と、包摂的権利保障システムの構想を行うことを目的とする。日本よりも発展してきた韓国との比較から、ジェンダー・世代・障がいをめぐる権利擁護・保障に関する実態分析と政策課題の明確化を行い、女性・子ども・高齢者の権利がともに擁護・保障される、包摂的権利保障システムを構想していく。また、理論的・実証的検討から、ケアをめぐる制度的不正義にどう対峙するか、ケア民主主義の視点から、ケアをめぐる全世代型の包摂的権利保障システム構想へとつなげていく。
著者
相馬 直子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

第一に、調査結果を国際学会で発信し、ダブルケアの国際比較研究を発展させるための重要なインプットを得ることができた。具体的には、国際的なケア政策研究者が集まった、”Transforming Care Conference:INNOVATION AND SUSTAINABILITY”(伊)と、ヨーロッパ社会政策学会の”50th Anniversary Conference of the Social Policy Association Social Inequalities: Research, Theory, and Policy”(英)である。特に、前者では、サンドウィッチ世代の国際比較研究をしてきた北欧の研究者や、家族ケアの実態分析をしてきたイタリアの研究者から大変有益なコメントを得て、その後の論文や発表にも活かされている。後者は、ヨーロッパの文脈でのケアの複合化に関する貴重なコメントを得た。第二に、学術雑誌(医療と社会、都市計画)への論文掲載とともに、日本大百科全書といったデジタルソースで調査研究の発信を行った。日本大百科全書でダブルケアという概念が掲載されるようになった。本研究で山下順子氏と開発した、狭義・広義のダブルケア概念が社会的に幅広く認知され、その実態がより明らかにされるようになっている。第三に、ダブルケア関連のシンポジウムや研究会を通じて、調査結果を幅広く社会へ発信し、当事者や支援者のネットワーキングを行った。本研究プロジェクトでは、深刻な財政難・少子高齢化に対応した、多主体連携の「自治型・包摂型の地域ケアシステム」を提示することを目指しており、シンポジウムや研究会を通じても大変貴重なインプットを得る機会となった。第四に、ダブルケアと仕事の両立に関する追加調査を、横浜市の地域ケアプラザや地域子育て支援拠点の協力を得て2018年3月から実施した。