著者
大貫 挙学 松木 洋人
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.68-81, 2003

本稿の目的は,いわゆる「足利事件」の法廷において,事件の理解可能性がいかなる実践を通じて成立しているのかを明らかにすることにある.1990年5月,栃木県足利市で4歳の女の子が行方不明となり,扼殺死体となって発見される.この事件で逮捕・起訴されたSさんは,一審の途中までは,犯行を認めていたが,控訴審以降は,無罪を主張するようになった.だが,一審でなされた精神鑑定によって,Sさんは「代償性小児性愛者」と診断され,これが事件の動機と認定されていた.そして,そのような成員カテゴリー化実践が,控訴審以後においても,かれを犯人として事件を理解することを可能にしている.つまり,Sさんの犯行を前提に,それに適合的なものとして構成された動機が,かれが否認した後も,その属性として脱文脈化され,かれは<動機を有する真犯人>と理解されたのである.本稿では,動機の語彙論(C.W.ミルズ)と成員カテゴリー化分析(H.サックス)を架橋することによって,犯行動機の構成と行為者への成員カテゴリー化が相互反映的な関係にあることを論じるとともに,法廷場面における精神鑑定の用法が含んでいる問題とその帰結を経験的に指摘する.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.18-29, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本稿では, 子育て支援の提供者の語りを分析することによって, 彼らが自らの経験をどのように理解しているのかを考察する。子育て支援の理念は, 従来の公的領域と私的領域の区分の再編成を含意しているが, その一方では, 家族に育児責任を帰属する規範はなお根強く存在している。このような状況において, 外部の人間が子育てに対して支援を行うことは, 家族責任についての規範的理解との間でのジレンマを提供者にもたらす可能性がある。提供者がそのようなジレンマに直面することを回避するには, 提供者が自らの活動を家族関係への支援として定義することが有効であるが, 提供者が子どもの親との関係を十分に形成できない状況では, 職務の限定性が生じることは避けられない。支援の受け手の限定化を前提としつつ, 提供者がその限定対象を創出するような働きかけを子どもの親に対して行うことが, 子育て支援を家族支援として行うための一つの実践的な解決となる。
著者
松木 洋人
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.22, pp.162-173, 2009-07-25 (Released:2013-03-28)
参考文献数
23

This paper explores how the experience and the practice of providing family day care are organized by analyzing the narrative of family day care providers. Their work is made accountable through the logic of domesticity and the logic of professionalism. Although professionalism is often referred to in opposition to domesticity, redefining their own professionalism in terms of the artfulness of realizing the logic of domesticity is useful for avoiding the occupational dilemmas concerning providing family day care and experiencing their work as meaningful for themselves and their clients. Logic through which participants are making realities accountable has to be taken into account in the forthcoming reorganization of family day care system.
著者
阪井 裕一郎 本多 真隆 松木 洋人
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.28, pp.76-87, 2015-08-07 (Released:2016-10-12)
参考文献数
21

In many developed societies, there is an increase in the number of couples who are cohabiting in unregistered marriages. This trend is often used as an example to indicate changes in consciousness that are part of the transformation of a modern society. Those who have adopted the Japanese term “jijitsukon (unregistered marriage)” to refer to their cohabitation often regard themselves as “married,” yet the question of “why couples in an unregistered marriage choose that option” has received little attention to date. We conclude that the practice of “unregistered marriages” is neither a simple secession from the idea of a conventional “marriage” nor is it restricted to a “traditional” vocabulary. Instead, it should be viewed in terms of a “reinterpretation” of marriage.
著者
木戸 功 戸江 哲理 安達 正嗣 鈴木 富美子 阪井 裕一郎 松木 洋人
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

全国家族調査(NFRJ)18幹事会に代表の木戸が出席し、量的調査と連携して実査に臨むことを確認した(4/15)。その後、日本家族社会学会会員に本研究会(NFRJ18質的調査研究会)への参加を呼びかけ研究代表者と研究分担者を含む33名の研究会組織を編成し連絡用メーリングリストを作成した。本年度は3回の研究会を開催し、また小規模であるが量的調査チームと連携した予備調査も実施した。第1回研究会は学会大会終了後に大阪市立大学で開催し(9/11)、本調査の概要についてあらためて確認した上で、インタビュー調査班をサブテーマごとに4つ作り、班ごとに対象者と調査項目について検討した。フィールドワーク班についても対象選定の方法と、データ収集の方法について意見交換した。第2回および第3回研究会はそれぞれ2部構成として前半で招聘講師からのレクチャーと討論、後半で各研究班ごとの実査に向けた検討とその進捗状況の報告を実施した。第2回研究会はライフヒストリー研究およびそのアーカイヴ化についての専門家として小林多寿子氏(一橋大学大学院)を招き早稲田大学にて開催した(11/23)。第3回研究会は生活史研究の専門家として岸政彦氏(立命館大学大学院)を招き大阪市立大学にて開催した(1/27)。いずれの研究会においても専門的な知見の提供を受けるとともに本研究会が実施する調査に対しての実践的な助言をえた。並行して木戸がNFRJ 18の全体研究会に参加し(11/12)量的研究チームとの連携を保った。これらの研究会でのやりとりなどを通じて、対象選定の方針と調査項目の選定については具体的な案がそれぞれの班より示されるにいたった。また量的研究チームが実施した予備調査において、追加調査となるインタビュー調査への協力の可否をたずねる項目を追加するとともに、応諾者のうち9ケースの予備調査を実施した(3月)。
著者
岩上 真珠 渡辺 秀樹 宮本 みち子 米村 千代 大槻 奈巳 松木 洋人
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015

・アンケート調査の属性集計から、調査結果の全体的な要約の作成と、それを踏まえた研究分担者の各自のテーマの分析案を検討する作業を行ない、10月以降にとりまとめる予定であった。・アンケート調査の自由回答欄も分析するため、記入内容をテキストデータ化する作業を行なった(業者委託)。30代では結婚・育児に関する不安、60代では将来の経済的生活、子どもとの関係に関する問題などが比較的多く記述されていた。10月以降に、自由回答の分析方法の検討も行なう予定であった。・インタビュー調査については、調査会社と対象者の選定作業や個人情報保護の取り扱いの取り決めなどの準備作業を行ない、平成29年9~10月に約20人(平成28年度延期分を合わせて合計40名)に対し実施予定であった。・平成29年8月に研究代表者が死去したことにより研究事業が廃止となったため、上記9月以降の作業の実施をすべて中止せざるをえなかった。
著者
松木 洋人
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.16, pp.138-149, 2003-06-13 (Released:2010-04-21)
参考文献数
21

Although family norms have been one of the most important concepts for the sociological studies of family, it has rarely been discussed explicitly: what is it? how does it work? and how can we approach it? This paper examines the concept of family norms itself and try to present the different perspective from “the standard theory of the family” and its critics. This perspective, drawing on some ideas from ethnomethodology and conversation analysis, relocates family norms in the interaction settings and focuses on the procedure by which the participants use a variety of family norms as interpretive resources to make social reality accountable.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-63, 2013-04-30 (Released:2014-11-07)
参考文献数
38
被引用文献数
4

1980年代後半以降,主観的家族論と構築主義的家族研究は人々が使用する日常的な家族概念に注目することの重要性を論じてきた.しかし,これらの研究に対しては,専門的な家族定義の意義や可能性を否定するものであるとの批判もなされている.本稿では,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判のいずれにおいても看過されてきた日常的な家族概念の家族社会学研究にとっての含意を明らかにする.まず,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判において論点となっていたのが,専門的な家族概念と日常的な家族概念との関係であることが確認される.そのうえで,この論点を社会科学における記述の適切性についての議論と関連づけることによって,日常的な家族概念は,家族定義の間の齟齬をめぐる問題を脱問題化するものとして,そして,個別の経験的研究においては専門的な家族定義の適切性の条件となるものとして理解できることを主張する.
著者
松木 洋人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.25-37, 2017 (Released:2018-06-30)
参考文献数
51
被引用文献数
1

日本の家族社会学における構築主義的アプローチは, 近代家族をモデルとして家族を定義する核家族論的な研究枠組みの刷新が求められるという学説史的文脈のなかで受容された. その結果として, 構築主義的アプローチへの期待は, このアプローチが人々は家族をどのように定義しているのかに目を向けることによって, 「家族とは何か」を問うという点に寄せられることになった. しかし, 人々による家族の定義を分析の対象とする初期の研究例は, その文脈依存的な多様性を明らかにするものではあっても, 新たにどのような家族の定義が可能なのかを提示したり, 「家族とは何か」という問いに答えを与えたりするものにはなりえなかった. また, これらの研究が, 人々が家族を定義するために用いるレトリックに焦点を当てたことは, 多くの家族社会学者の研究関心との乖離をもたらすことになった. このため, 家族社会学においては, 構築主義的アプローチによる経験的研究の蓄積が進まず, アプローチの空疎化が生じた. このような状況から脱却するためには, 家族の定義ではなく, 人々の家族生活における経験に注目すること, そして, 家族の変動という家族社会学のいわば根本問題と結びつくことによって, 構築主義的アプローチが家族社会学的な関心を共有した研究を展開することが重要になる.
著者
松木 洋人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.25-37, 2017
被引用文献数
1

<p>日本の家族社会学における構築主義的アプローチは, 近代家族をモデルとして家族を定義する核家族論的な研究枠組みの刷新が求められるという学説史的文脈のなかで受容された. その結果として, 構築主義的アプローチへの期待は, このアプローチが人々は家族をどのように定義しているのかに目を向けることによって, 「家族とは何か」を問うという点に寄せられることになった. しかし, 人々による家族の定義を分析の対象とする初期の研究例は, その文脈依存的な多様性を明らかにするものではあっても, 新たにどのような家族の定義が可能なのかを提示したり, 「家族とは何か」という問いに答えを与えたりするものにはなりえなかった. また, これらの研究が, 人々が家族を定義するために用いるレトリックに焦点を当てたことは, 多くの家族社会学者の研究関心との乖離をもたらすことになった. このため, 家族社会学においては, 構築主義的アプローチによる経験的研究の蓄積が進まず, アプローチの空疎化が生じた. このような状況から脱却するためには, 家族の定義ではなく, 人々の家族生活における経験に注目すること, そして, 家族の変動という家族社会学のいわば根本問題と結びつくことによって, 構築主義的アプローチが家族社会学的な関心を共有した研究を展開することが重要になる.</p>
著者
大貫 挙学 松木 洋人
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.68-81, 2003-10-18 (Released:2017-03-30)

本稿の目的は,いわゆる「足利事件」の法廷において,事件の理解可能性がいかなる実践を通じて成立しているのかを明らかにすることにある.1990年5月,栃木県足利市で4歳の女の子が行方不明となり,扼殺死体となって発見される.この事件で逮捕・起訴されたSさんは,一審の途中までは,犯行を認めていたが,控訴審以降は,無罪を主張するようになった.だが,一審でなされた精神鑑定によって,Sさんは「代償性小児性愛者」と診断され,これが事件の動機と認定されていた.そして,そのような成員カテゴリー化実践が,控訴審以後においても,かれを犯人として事件を理解することを可能にしている.つまり,Sさんの犯行を前提に,それに適合的なものとして構成された動機が,かれが否認した後も,その属性として脱文脈化され,かれは<動機を有する真犯人>と理解されたのである.本稿では,動機の語彙論(C.W.ミルズ)と成員カテゴリー化分析(H.サックス)を架橋することによって,犯行動機の構成と行為者への成員カテゴリー化が相互反映的な関係にあることを論じるとともに,法廷場面における精神鑑定の用法が含んでいる問題とその帰結を経験的に指摘する.